住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅の供給促進のため、家賃債務保証業者の認定制度を創設

住宅確保要配慮者向けの賃貸住宅の供給促進のため、家賃債務保証業者の認定制度を創設

2024年6月「改正住宅セーフティネット法」が公布された(施行は2025年秋予定)。
同法は、住宅弱者(住宅確保要配慮者)と言われる高齢者、低額所得者、障害者などが安心して暮らせる住宅を提供するという側面が強調されているが、賃貸住宅を提供する側への配慮やビジネスモデルとして成立させるための具体策に乏しかった。改正法にはそれらの視座が加えられたことで、供給サイドにより貸し易くするためのスキームを用意するものとなっている。

具体的には、市場環境の整備に対して、賃借人が死亡するまで賃貸借の更新がない終身建物賃貸借の利用促進および事業者の認可、居住支援法人による残置物処理の推進、家賃債務保証業者の認定制度の創設。
また、入居中サポートについては、安否確認、見守り、適切な福祉サービスへのつなぎなどに対応する居住サポート住宅(居住安定援助賃貸住宅)認定制度の創設、生活保護受給者の生活扶助費(賃料)の代理納付。
さらに、地域の支援体制の強化についても、市区町村での居住支援協議会の設置(努力義務化)による体制の整備推進、などが掲げられていることから、要配慮者のうち特に単身の高齢者を意図してセーフティネットを強化し、さらには家賃債務保証業者を置くことで、供給サイドの賃料回収への不安を軽減する仕組みを策定している。

このように、各自治体が組成する居住支援協議会の包括的なサポートの下で、認定された居住支援法人および家賃債務保証業者が、高齢者などの要配慮者に対して物理的・精神的&経済的にサポートすることで、安心して物件を要配慮者に貸すことができるようにする、というのが国交省の示した方向性となる。

法改正によって最大のポイントとなるのは、要配慮者に貸してもよいという“協力者”を増やすことができるか、ということだろう。例えば、身寄りのない独居高齢者が終身建物賃貸借を利用して居住する場合、形式は賃貸借ではあるものの、サポート体制も含めて介護施設に近い居住形態になることが想定されるから、厚労省と国交省の行政分掌が重なる可能性もあり、反対にその狭間でいずれの制度でもサポートできない事例が発生することも懸念される。

近年、経済弱者が比較的容易に買ったり借りたりできる“アフォーダブル住宅”の概念を導入し対応を進める動きが散見される。
高齢者など要配慮者への介護にしても居住促進にしても、サポート体制をさらに充実させることは歓迎すべきでも、それが住宅政策としてのアプローチなのか、福祉政策としてのものなのか、また高齢化が進む日本全体の文脈として語られているのか、その実態が必ずしも明確ではないことで、現場対応が影響を受けることが憂慮される。

今回の改正法によって、要配慮者向けの賃貸住宅は増えるのか、制度として改善すべき点はあるのか、日頃から住宅弱者対策に目を向ける有識者の見解を聞く。

居住支援の福祉的アプローチへの理解を ~ 菊池 馨実氏

<b>菊池馨実</b>:早稲田大学理事・法学学術院教授。
1962年生まれ。北海道大学大学院法学研究科博士課程修了。大阪大学法学部助教授を経て、現職(2022年9月より理事)。社会保障審議会会長代理(障害者部会・生活困窮者支援及び生活保護部会・介護保険部会・年金部会 各部会長、医療保険部会 部会長代理)、成年後見制度利用促進専門家会議(厚生労働省)座長、孤独・孤立対策に関する有識者会議(内閣府)座長、全世代型社会保障構築会議(内閣官房)構成員。主著(単著)として、『社会保障法制の将来構想』(有斐閣、2010年)、『社会保障再考ー〈地域〉で支える』(岩波書店、2019年)、『社会保障法(第3版)』(有斐閣、2022年)など。菊池馨実:早稲田大学理事・法学学術院教授。 1962年生まれ。北海道大学大学院法学研究科博士課程修了。大阪大学法学部助教授を経て、現職(2022年9月より理事)。社会保障審議会会長代理(障害者部会・生活困窮者支援及び生活保護部会・介護保険部会・年金部会 各部会長、医療保険部会 部会長代理)、成年後見制度利用促進専門家会議(厚生労働省)座長、孤独・孤立対策に関する有識者会議(内閣府)座長、全世代型社会保障構築会議(内閣官房)構成員。主著(単著)として、『社会保障法制の将来構想』(有斐閣、2010年)、『社会保障再考ー〈地域〉で支える』(岩波書店、2019年)、『社会保障法(第3版)』(有斐閣、2022年)など。

2024年6月「住宅セーフティネット法改正法」が成立した。法案提出に至る前の「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」が、厚生労働省・国土交通省・法務省合同で設置されたことに象徴されるように、住宅政策に福祉の視点を組み込み、居住支援を強化することが今回改正の一つのねらいである。これまで国土交通大臣が作成してきた基本方針は、厚生労働大臣と共同で策定するものと改められ(同法2条)、同法は国土交通省と厚生労働省の共同所管となった。当然、住宅確保要配慮者への住宅施策は今まで以上に福祉施策の視点も併せ持って行われることが期待される。

居住支援の強化との関係では、同年4月「生活困窮者自立支援法等改正法」が成立し、①生活困窮者自立相談支援事業において居住に関する相談支援等を行うことを明確化し(同法3条2項)、②生活困窮者一時生活支援事業を生活困窮者居住支援事業と改め、見守り等の支援の実施を自治体の努力義務とする(同3条6項・7条1項)等の改正も行われた。これらの法改正が一体となって地域の居住支援体制整備を図ることが目指されている。さらに現在、厚生労働省で「地域共生社会の在り方検討会議」が開催され、身寄りのない高齢者等が抱える生活上の課題(身元保証、日常生活支援、死後事務の処理等)への支援の在り方についても検討が行われ、2026年社会福祉法改正が予定されている。身元保証や死後事務の処理といえば、当然、大家(賃貸人)側の関心事でもあろう。

このように、福祉の視点でみた場合、居住支援の充実は主要な論点であり、住宅セーフティネット法まで含む大きな政策展開がなされている分野である。ただし、おそらく賃貸業者側の関心度はまだ低いのではないだろうか。筆者は、厚生労働省補助金「居住支援の効果的な実施に向けた調査研究事業」に関わっているが、福祉関係者と民間住宅関連事業者との温度差が大きいというのが実情だと感じている。

「住まい支援システム」の全国的構築を目指したモデル自治体への参加がわずか12自治体に過ぎないことがその一つの証左である。

とはいえ、単身世帯が2025年現在40%を超え、高齢者単身世帯も14%を超える一方、空き家問題が顕在化し、生産年齢人口を中心に大幅な人口減少が進むことが確実視される中にあって(2025年から2040年にかけて大都市部で11.9%減、地方都市で19.1%減)、多くの事業者は早晩こうした福祉の視点に無関心ではいられなくなるのではないか。状況は各地域で大きく異なるものの、居住支援法人や居住支援協議会といったツールを媒介にして、行政、福祉事業者、不動産業者などの情報共有、連携が進むことを期待したい。

高齢者向け賃貸住宅市場における法改正の期待と課題 〜 山本 遼氏

<b>山本遼</b>1990年生まれ、広島県出身。2012年愛媛大学卒業後、同年愛媛県内の不動産会社に就職。前職にて全社トップの営業成績を残し、東京拠点の立ち上げに参画。その後、2016年に株式会社R65(R65不動産)を設立。65歳以上のお部屋探し専門の不動産会社として、年間300件以上の物件仲介を支援。『ガイアの夜明け』ほか多数のメディアに出演。山本遼1990年生まれ、広島県出身。2012年愛媛大学卒業後、同年愛媛県内の不動産会社に就職。前職にて全社トップの営業成績を残し、東京拠点の立ち上げに参画。その後、2016年に株式会社R65(R65不動産)を設立。65歳以上のお部屋探し専門の不動産会社として、年間300件以上の物件仲介を支援。『ガイアの夜明け』ほか多数のメディアに出演。

弊社は、自社で不動産仲介を行い、不動産会社や大家が高齢者に安心して物件を貸せるようサポートしている。その観点から、今回の法改正に期待する点は以下の3つである。

1. 終身建物賃貸借契約の事業者登録
2. 生活保護受給者の家賃の代理納付の原則化
3. 法改正を通じた世の中の認識拡大

一方で、懸念される点としては、居住支援法人および入居者の負担増がある。
この3点について解説する。

1. 終身建物賃貸借契約の事業者登録
現状、賃貸借契約を結ぶ際、室内の残置物や賃貸借契約そのものが相続の対象となるため、身寄りのない方が契約を結ぶのが非常に難しい状況にある。しかし、今回の法改正によりモデル条項が使用されることで、残置物の処理や契約の解約がスムーズに行えるようになる。また、これまでは建物ごとに登録が必要だった終身建物賃貸借契約が、事業者単位で登録できるようになることで、利用のハードルが下がり、より使いやすくなると予想される。これにより、身寄りのない方でも契約が容易になり、また、既に入居している方が保証人を失った場合でも継続契約が可能となるため、大きな改善が期待できる。
2. 生活保護受給者の家賃の代理納付の原則化
弊社でも仲介・管理を行う中で、仲介したお客様が支給された家賃を他の用途に使い込んでしまうケースを経験している。家賃が入居者の口座に振り込まれるのではなく、行政から大家の口座へ直接入金されることで、家賃滞納のリスクを減らせると考えている。
3. 法改正を通じた世の中の認識拡大
現在、「高齢になると賃貸住宅が借りにくくなる」という認識は、社会に徐々に広がりつつある。しかし、弊社が起業した2016年当時は、この問題について認識している人は非常に少なく、高齢者向けの賃貸住宅の仕組みも整っていなかった。その後、セーフティネット法の制定を経て認識が広がりつつあるが、今回の法改正を契機として、さらに社会全体の理解が深まり、新たなソリューションや事業者間の連携が生まれることに期待している。

懸念点: 居住支援法人および入居者の負担増
今回のセーフティネット法改正により、見守りや残置物の処分が居住支援法人の業務として明記される可能性がある。これらの業務には一定の費用がかかる一方で、入居者が十分に負担できるとは限らず、居住支援法人にとっても大きな負担となる可能性がある。例えば、居住サポート住宅では、居住支援法人が大家から物件を借り上げ、見守りや保険を付けて入居者に貸し出すサブリース方式が採用されることがある。
しかし、この仕組みが成り立つには、生活保護費と家賃の差額が小さい必要がある。また、居住サポート住宅には一定の補助金が出るものの、旧耐震基準の建物など古い物件は補助の対象外となるため、都市部や人口過密地域では物件が不足する可能性が高い。仮に、都市部で居住サポート住宅を確保できたとしても、居住支援法人や入居者の費用負担が大きくなるため、実際に利用しやすい家賃で提供することが難しくなるかもしれない。
今回の法改正によって、高齢者が賃貸住宅を借りやすくなることは非常に良い変化だが、その一方で、事業者や居住支援法人が持続可能な形で運営できる仕組みを整えることも必要だと考えている。

セーフティネット法改正による単身高齢者支援の展望と課題 〜 龔 軼群氏

<b>龔 軼群(キョウ イグン)</b>2010年新卒で株式会社LIFULLに入社。賃貸事業部で新規サービスの開発を担う。2018年に新規事業提案制度「SWITCH」で優秀賞を獲得し、2019年11月、社会的弱者に対して包括的に住まい支援を行う「FRIENDLY DOOR」をサービスローンチし、事業責任者を務める。LIFULLの社会貢献活動委員。社外活動では、世界の貧困削減に取り組む認定NPO法人Living in Peaceの代表理事を務める。龔 軼群(キョウ イグン)2010年新卒で株式会社LIFULLに入社。賃貸事業部で新規サービスの開発を担う。2018年に新規事業提案制度「SWITCH」で優秀賞を獲得し、2019年11月、社会的弱者に対して包括的に住まい支援を行う「FRIENDLY DOOR」をサービスローンチし、事業責任者を務める。LIFULLの社会貢献活動委員。社外活動では、世界の貧困削減に取り組む認定NPO法人Living in Peaceの代表理事を務める。

今秋のセーフティネット法改正に伴い、住宅確保要配慮者の住まい確保にどのようなプラス影響があるかを考察した場合、今回の主眼である「単身高齢者」の入居受け入れについて大きく前進する内容になっていると考えられる。

現在、単身高齢者の入居が拒まれる理由として「孤独死後の賃貸借契約解約と残置物処理問題」「入居中のトラブル対応」が主立ったオーナーリスクとして存在している。

入居者に家族がいれば、入居中の見守りや介護、死後の対応は家族が担うが、いない場合に“誰が対応をするのか”ということが大きな問題であり、そのようなケースが発生した場合に、これまで相続人の調査や残置物処理などは不動産管理会社やオーナーが負担して行ってきた。

今回の改正では、
1. 亡くなられた時に賃貸借契約が終了できる終身建物賃貸借の利用促進(認可手続の簡素化)
2. 居住支援法人による残置物処理の対応
3. 居住支援法人による見守り

といった内容が組み込まれ、「賃貸借契約が相続されない仕組みづくり」「居住支援法人による見守り・死後の対応」が明文化されることで、オーナーや管理会社の負担・リスクが明らかに軽減される打ち手になっていることに大きな期待が持てる。

また、単身高齢者以外の要配慮者にも有効だと捉えているのが「家賃債務保証業者の認定制度の新設」である。
FRIENDLY DOORサポートデスクでは、全国から多くの住宅確保要配慮者の住まい相談に対応しているが、ご相談の中でも「保証会社の審査が通らない」という内容は非常に多い。

昨今、賃貸業界では保証人不要の保証会社利用が増えているなかで、経済困窮されている方々への保証リスクは高く、そのような被保証人が増えるほど、保証会社がリスクを背負い切れない状況になっている。

今回の改正では、認定した保証業者に対して独立行政法人住宅金融支援機構による保険適用を行って保証リスクを低減させる仕組みになっており、この座組は審査緩和に直結すると考えられる。
一方、現時点でセーフティネット法改正の詳細がまだ明らかになっていない中、
「居住サポート住宅の要件が賃貸市場の実態にどれくらい則しているのか」
「オーナーと居住支援法人が連携する上での不動産管理会社の役割と負担はどうなるのか」
「居住支援法人への期待や負荷が大きくなる仕組みにおいて、居住支援法人の人手不足はどう解消するのか」
といった解決すべき論点も挙げられる。

単身高齢者世帯数が5年後には約800万世帯になる見通しのなか、今回の法改正を皮切りに、オーナーや不動産会社、居住支援法人、保証会社、福祉法人などの様々なステークホルダーで議論を進めながら、住宅と福祉が連携した居住支援体制が構築されていくことを期待している。

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