2025年は“住宅性能元年” 4月から省エネ性能適合義務化スタート
住宅価格の高騰と円安&株高が進んだ2024年は、自民党と公明党の衆院総選挙敗北による少数与党化で幕を閉じた。政権が不安定になることで野党の政策も実現可能性が高まり、2024年末に公表された2025年の税制改正大綱でも“103万円の壁”が20万円引き上げられたことは記憶に新しい。
また、住宅ローン減税についても子育て世帯(19歳未満の子どもを有する家計)および若者世帯(夫婦のいずれかが40歳未満の家計)については元本上限の引き上げ優遇措置が2025年末まで延長されることになったから、2026年末までの住宅購入目的の贈与税非課税枠(最大1,000万円※)と併せて、住宅購入に向けての制度的なバックアップは2025年も2024年同様に整っていると言えるだろう。
ただし、税制以外の住宅市場を取り巻く環境は徐々に厳しさを増し続けている。すなわち、止まらない円安による住宅資材価格の上昇、2024年に法改正によって顕在化した建設業・運輸業の人手不足による人件費の上昇、さらには安定的な地価の上昇、というトリプル・コストプッシュで、新築住宅の価格高騰には歯止めが全くかかっていない状況であり、長年の低金利誘導によって旺盛な住宅需要を支え続けてきた住宅ローンの金利も2024年以降極めて緩やかながら上昇する傾向を示している。
コロナ禍を経てある程度定着したと見ることができるテレワークを背景に、住宅購入を希望するユーザーは市街地中心部・近郊から準近郊・郊外、圏域以遠の準郊外へと転居することで住宅価格および消費者物価の高騰に対応しようとしているが、交通の利便性や教育・医療環境などについて不安視する声もあり、メガトレンドとしては継続しているものの、郊外化にも自ずと限界はあるものと考えられる。
したがって、高い購入ニーズがある新築住宅から、中古住宅へのニーズシフトが本格化する可能性もあり、住宅性能への関心が新築建築物への省エネ適合義務化によって高まることも考え併せると“中古住宅購入+補助金を活用した省エネ・断熱改修”に注目が集まることも考慮しておくべきだろう。
東京都では4月からの太陽光パネル設置義務化条例(年間2万平米以上の住宅供給事業者に課される)の施行に合わせて“災害にも強く健康にも資する断熱・太陽光住宅普及拡大事業”に2024年度分だけで683億円もの補助金を交付する用意があるから、2025年は住宅性能の向上(を踏まえた地球温暖化防止への貢献)が強く意識される年になることにも期待したい。
2025年の住宅・不動産市場についてどのような事象が発生する可能性があるのか、また住宅価格の高騰には歯止めがかかるのか、住宅ローン金利はどのように変化するのか、それぞれの可能性についてマーケット動向に詳しい専門家の予測を聞いた。
※1,000万円の非課税枠を活用するための対象物件が、新築住宅について「省エネ性能適合基準住宅」から「ZEH水準以上の住宅」へと引き上げられたことに留意されたい。
中古住宅は、断熱・エネルギー消費量等級がともに4以上であれば1,000万円まで非課税。
それ以外の住宅は、新築・中古共に500万円が上限となる。
25年10月、住宅セーフティネット法が改正 促進される賃貸住宅の高齢入居者の受け入れ ~ 永井ゆかり氏
永井ゆかり:東京都生まれ。日本女子大学卒業後、闘う編集集団「亀岡大郎取材班グループ」に入社。住宅リフォーム業界向け新聞、リサイクル業界向け新聞、ベンチャー企業向け雑誌などの記者を経て、平成15年1月「週刊全国賃貸住宅新聞」の編集デスクに就任。翌年9月に編集長に就任。現在、「地主と家主」編集長を務める。全国の不動産会社、家主を中心に、建設会社、建築家、弁護士、税理士などを対象に取材活動を展開。新聞、雑誌の編集発行のかたわら、家主・地主や不動産業者向けのセミナーで多数講演。2児の母三つの柱を軸に体制構築
2025年に大きく変わることの一つに、10月1日に施行される住宅確保要配慮者(以下、要配慮者)の住まいの確保を目的とした住宅セーフティネットの改正法がある。要配慮者の中でも、特に増加が著しい単身高齢者世帯の受け入れ体制の構築が急務となっている。改正住宅セーフティネット法(以下、改正法)では、①オーナーの不安軽減策②見守り機能付き住宅の供給③地域と福祉との連携強化、の三つの柱を整備し、要配慮者の受け入れ促進を図る。
改正法ではまず①として、オーナーの不安要素の一つであった入居者死亡時の残置物処理を、居住支援法人の業務に追加。居住支援法人とは、行政が指定する居住支援を行う法人を指す。
また、①と②の視点から、入居中の見守りサービス付き住宅「居住サポート住宅」の供給を開始する。居住支援法人などが、日々の見守りや福祉サービスへのつなぎ役を担うことで、オーナーと入居者双方にとっての安心を確保する。同住宅については、認定制度を創設し、改正法施行後10年間で、10万戸の供給を目標に掲げる。
③は、全国の市町村による居住支援協議会の設置を努力義務化する。居住支援協議会とは、居住支援法人のほか、不動産や福祉の関係団体、自治体の住宅部局や福祉部局などを構成員とした組織だ。
同協議会が住まいに関する相談窓口を担うが、福祉関係者との連携を強化することで、包括的な居住支援の体制を構築するのが狙いだという。
単身高齢者世帯738万世帯
今回の法改正の背景には、増加する単身高齢者世帯による賃貸住宅ニーズの高まりがある。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計」によると、全国の単身高齢者世帯数は、2020年時点で738万世帯。50年には1084万世帯まで増加すると想定され、全世帯の半数に迫る勢いだ。
賃貸住宅の入居者に限って見ると、調査年が少しずれるが総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」で、245万世帯に上る。
高齢者の賃貸の住み替えにはいろいろな理由があるだろう。実家に一人で住む親を子どもが自宅近くに呼び寄せるケースや住んでいた賃貸住宅の建て替えによる退去などが挙げられる。
そんな状況がある一方で、国交省では単身高齢者の受け入れが進まない原因の一つとして、単身高齢者が抱える孤独死や死亡後の残置物処理などの入居後のリスクが考えられると推察したことから、今回の法改正に至った。
今後、より具体的な改正法の内容が明らかになるが、重要なのはこの改正法についてオーナーに広く周知していくことだろう。現行の住宅セーフティネット法の課題は、使い勝手の悪さや今回の改正に盛り込まれたオーナーの受け入れに対する不安という部分もあるが、やはり制度について知らない人が多いことが大きい。物件登録の要件を緩和した自治体もあったが、そのことについても知らない人は多いのではないか。
超高齢社会において住まいという基盤を提供する賃貸住宅業界は、もっと情報を共有していくことが重要だろう。そのためにも私たちメディアが発信し続けていきたいと思う。
市場環境等に注視し、綿密な計画に基づく家選びが求められる一年に ~ 吉田資氏
不動産経済研究所によれば、東京23区の新築マンション平均価格(2024年上半期)は1億1,051万円に達し、高い水準で推移している。総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」によると、東京23区の転入超過数(日本人)は、2021年を底に回復が続いている。一方、新規供給戸数(2024年上半期)は前年同期比▲43%の約3.2千戸と、限定的な供給が続いている。今後も、人手不足等に伴う建築コストの高騰や開発用地の不足が下押し要因となり、新規供給が大幅に増加する可能性は低いと見込まれる。
以上を鑑みると、当面の間、需給環境が悪化し、東京23区のマンション価格が大きく下落する懸念は小さいといえよう。
ところで、ニッセイ基礎研究所が新築マンション価格の決定構造を分析した結果、①コロナ禍以降、「駅近」志向が強まっていること、テレワークの普及等の影響を受けて、②「広さ」のプライオリティ低下と③「中心部へのアクセス」の評価の高まりに揺り戻しの動きがみられることが、確認できた。
「駅近」の価格評価が高まった要因として、共働き世帯の増加が挙げられる。東京都福祉保健基礎調査「東京の子供と家庭」(令和4年度)によれば、共働き世帯の割合は67%に達した。共働き世帯は、①通勤時間の短縮、②生活利便性(仕事帰りの食事や買い物)、③保育園等の送迎などを勘案して、「駅近」物件を志向する傾向があるとされる。また、購入が増加しているシニア層も通院や買い物などの生活利便性向上を目的として、「駅近」物件を志向している模様だ。
アベノミクス以降、マンション価格が高騰するなか、広さの優先順位を下げて購入金額を抑える傾向がみられた。しかし、コロナ禍を経て、在宅勤務が定着したことで、住居に「広さ」を求める動きも見えはじめている。auじぶん銀行「ビジネスパーソンの住宅事情に関するアンケート」によれば、リモートワークを経験した後、住宅選びの際に意識する項目を尋ねたところ、「広さ・間取り」(52.0%)との回答が最多となった。
また、アルヒ「コロナ禍を経た街選びと家選びの実態調査」によれば、住宅購入を検討している有職者に「検討している物件から職場までの通勤時間」を尋ねたところ、「30 分未満」との回答が3割であった一方、「1 時間以上」との回答も3 割強を占めた。東京では在宅勤務を取り入れたワークスタイルが定着しつつあるなか、通勤時間に対する考え方も多様化しつつあるようだ。こうしたなか「中心部へのアクセス」に対する評価についても、変化が生じている。
コロナ禍を契機に、在宅勤務を取り入れた働き方が定着したことで、新築マンションに求める機能や評価目線に変化が生じているようだ。
新築マンションを購入する際に、資産性を重視する傾向は年々強まっている。しかし、前述のように、住居に求める機能や評価目線に変化に生じるなかで、長期的に資産価値を維持できる物件を選別することは、一層難しくなっているといえよう。加えて、金融政策正常化に伴い、これまで低水準で推移していた住宅ローン金利は上昇し始めている。
住宅を購入する際には、市場環境や消費者ニーズの変化等に注視し、これまで以上に綿密なライフプランシミュレーション等を行い、慎重な判断が求められることになりそうだ
動かしにくくなった不動産を”動かす”時代へ ~ 矢部 智仁氏
矢部 智仁:合同会社RRP(RRP LLC)代表社員。東洋大学 大学院 公民連携専攻 客員教授。クラフトバンク総研フェロー。エンジョイワークス新しい不動産業研究所所長。リクルート住宅総研 所長、建設・不動産業向け経営コンサルタント企業 役員を経て現職。地域密着型の建設業・不動産業の活性化、業界と行政・地域をPPP的取り組みで結び付け地域活性化に貢献するパートナーとして活動中大きな流れとして今は不動産(土地)を「動かしにくくなっている」状況になっているのではないか、2025年を考えるというお題に対して筆者はそこに着目して書くことにした。
政府統計ポータルe-Statを使って調べると1997年以降の「売買による土地登記件数の推移」は2011年頃まで一貫して減り続け、その後若干の戻りがあったものの2013年以降はリーマンショック前の水準を超えることなくほぼ横ばい状況が続いている。一方で「相続その他一般承継による所有権の移転による土地登記件数の推移」では2013年を境に毎年10万件以上の増加傾向が続いている。
利活用の意図を持った投資(売買)による所有権移転が停滞し、きっかけとして利活用の意図を持たない相続という所有権移転が増加する状況は、不動産を有効活用する動機が低下した市場になっているという見方もできそうだ。
また、経済動向に目を向ければ物価上昇が個人消費の伸びる力を削ぐ状況が続くが、不動産への投資(自己所有のための住宅取得を含め)についても価格高騰が市場の停滞感をもたらす状況から脱出する出口が見えない状況が続きそうだ。
そうした状況で、需給両サイドから不動産を「動かす」ためのさまざまな取り組みが顕在化することが期待されるのではないか。
例えば住宅分野では、仕入れや資材価格高騰で思うような事業スピードを発揮できない新築住宅市場に変わって、リノベーション商品やサービスの「進化」が期待される。新たな資材を投入してアップデートするだけではなく、今そこにある資材を有効に活かすような「本物の」エコロジカルな発想などが進化の一例だ(もちろん将来の暮らしに必要な省エネや耐震などの性能更新を施した上での話である)。
またバブル期以降、収益還元による価値の可視化をもとに不動産を「動かす」ための手法の一つでもある不動産特定共同事業を使い、「動かなくなった」不動産を動かす取り組みが地方で小規模な単位から顕在化することも期待されるのではないか。
こうした潮流は公的不動産においても同じだろう。2024年末に設立されたスモールコンセッションプラットフォームでは、従来、公的不動産の新設(投資)や利活用、維持管理は行政が主導してきた分野だが、社会構造の変化による低利用や未利用な公的不動産の増加や維持管理更新の困難化を脱するために、公的不動産をPPP的な手法を用いて使いこなし、地域に新たな付加価値をもたらす機運をまずは高めようと呼びかけられた。
バブル期の不動産、不動産市場の停滞は金融環境の変化によるものだったが、現在(あるいは将来)に停滞が起こるとすれば需要構造の変化によるものだ。とすれば需要構造の変化を読み取り、例えば所有と利用の分離や用途・機能・役割の刷新など大胆な発想で不動産を「動かす」着想と行動が求められる、2025年がそのような動きの顕在化が鮮明になる年となるのではないだろうか。
「金利引き上げ」と「外部要因」を注視 ~ 高橋正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など2024年の不動産市場にとって最も影響があったニュースは、間違いなく7月31日の日銀の政策金利の引き上げだった。政策金利を0.25%にするということは、0.15%の利上げであり上げ幅としてはそう大きくなく、日銀内でも「景気や消費に大きな影響は生じない」との見方だった。
しかし、住宅ローンの8割ほどを占める変動金利の上昇につながることから、不動産購入者への影響が心配され、8月1日の株式市場では不動産関連会社の株価下落も起きた。
実際に、僅かではあるが変動金利を上げた金融機関も多く、不動産市場にどのような影響を与えたのかについて考察してみたい。
この原稿を書いているのが12月下旬なので、11月までのデータになるが、8月の首都圏中古マンションの成約件数は、対前年比-28.0%と年間最大の減少となり、同月の成約単価も-5.3%と対前年比で年間最大の下落となった。これは、中古戸建市場においても同様で、成約件数が対前年比-23.7%と年間最大だった。
これらの結果を、すべて金利上昇だけと決めつけることはできないものの、さらなる政策金利引き上げが無さそうだと報道され始めた11月の市場の好転を見る限り、影響はあったと見るべきだろう。
さて、結果的に2024年はこれらの金利上昇懸念を乗り越え、都市部を筆頭にさらなる不動産価格が上昇、かつ成約件数も堅調だったが、2025年はどうなるのだろうか?
まず、都市5区をはじめとする都市部は外国人投資家や富裕層の動きによって新築マンション価格を先頭に上昇傾向が止まる気配はない。しかし、7,000万円を超える中古マンションの在庫数が過去最高を更新していること、また不動産会社が買い取ってから再販売する「買取再販物件」の売れ残り在庫も依然として多く、一般的な世帯年収で購入できる価格からはかけ離れている実態も見えている。
そういう点において、都市部から離れれば離れるほど価格調整局面は起こりうるだろう。
そして、2025年は米国大統領が変わることから外部要因による影響も懸念される。
現在、これだけ高騰した不動産市場を支える主な住宅購入者は、大企業勤務者を中心とした共働き世代であるが、2025年は米国大統領が変わることから、例えば円高が進むなどの企業業績への悪化などによる需要減退や、国内金利の上昇も引き続き目が離せない状況である。
また、2024年は賃貸住宅の家賃上昇が著しく起きた1年でもあった。あらゆるモノの価格が上昇している状況で、家賃上昇も当分続くだろう。そして、建築資材や人件費についても今後引き続き上昇していくことから、不動産価格の大きな下落を期待できる状況にはないことを踏まえ、然るべき判断をしていくべき一年と言えるだろう。
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