マンション管理の3つの格付け評価制度

『マンションは管理を買え』と言われて久しいが、マンション管理組合の管理の良し悪しを客観的に示して「格付け」の結果が外からみてわからなければ"他より高く買う"ことはできない。組合の共用部保険料が安くなることや、中古購入者のフラット35Sの金利優遇などのインセンティブの得られる制度と組で普及することが望ましく、最近になって、下記の3つの「格付け」制度が順次スタートした。

① 管理士会の「診断サービス」
② 管理業協会の「評価制度」
③ 国・自治体の「認定制度」

マンションを購入する人や、努力している理事会役員を含むマンション住人については画期的な制度で、客観的・定量的な格付け制度の普及は強く望まれるが3種類もあり、特に②や③は自力・管理会社サポート・管理士サポートなど獲得経路が複数あるため、「どの評価をどの経路で」受ければいいのかが混乱しやすく難しい。各々目的やインセンティブが異なることから、必要なものを選んで格付け評価を獲得していくことになる。各々の概要について下の表にまとめた。筆者の組合ではすべての格付け評価を受けている。

マンション管理の3つの格付け評価制度

このうち①「診断サービス」では、高評価だと経年したマンションの共用部の保険料で大きな割引が得られることから普及は最も先行していて、診断を受けて評価を得たマンションはすでに2万棟を超えた。明確なインセンティブがあれば、個々の組合が自ら進んで評価を受けることを実証した点ではその貢献度は大きい。

一方で保険料率の割引算定のための評価制度であるため、保険金支払いのリスク評価に特化しているほかに、特定の保険会社の利用に事実上メリットが特化しているために、例えば国や地方公共団体が、固定資産税や、フラット35S利率など優遇制度としてそのまま利用することは困難だった。

新設された2つの格付け制度

国や自治体による③「認定制度」の狙いは、高経年マンション激増していく中での"スラム化防止"に主眼があり、法令準拠や規約整備など組合のガバナンス整備のほか、漏れ落ちのない修繕計画の標準化と30年・2回以上の大規模修繕を含んだ超長期の計画策定と、その全期間での積立不足問題の解消にある。

認定を受ければ、購入者は中古フラット35Sの金利優遇、オーナーは条件は厳しいが固定資産税の減額措置、組合は積立金運用によく利用さえる「すまい・る債」の利率優遇が得れるなど、直接・金銭的な組合へのインセンティブがある。

個別の自治体での条例整備を待ちながら法整備から1年ほど遅れて「認定制度」が五月雨式にスタートしていく中、管理会社の業界団体が全国的に先行させたのが②「評価制度」である。評価項目を表にまとめたが、②と③は全く独立ではなく、「認定制度」の16の評価項目は、「評価制度」の30項目との間で完全な包含関係がある。

「認定制度」は”16全て”の項目で規準を満たさないと認定を獲得できないから、スラム化防止を目的としてスタートしたものの実際には取得はかなり至難であり、現時点で認定を獲得したマンションは全マンションの1%に満たない。

一方で②の「評価制度」は単純な合否判定ではなく、管理状況が点数で示され毎年上げていくことができる。一方で、評価で5★を獲得してもすぐに目に見える金銭的メリットがあるわけではなく、ネット検索などの場で「管理評価が高得点であること」を、購入検討者が知ることができるのがメリットとなる。5★(90点以上)といった高評価は、築年によらず、30年間の基準にそった修繕計画と、その間に必要な積立金を徴収する計画をもつことを保証するから、30年はスラム化しないだろうと、国・自治体や会社などの"債券格付け"と似た効果を期待できる。

「マンション管理適正評価制度」と「認定制度」の配点規準比較「マンション管理適正評価制度」と「認定制度」の配点規準比較

「評価制度」の目ざすもの

国交省のマンション総合調査によれば、何も手を打っていなかった組合が積立金徴収を均等割りに移行して、積立金問題を解消する確率は年に1-2%に過ぎない。格付け制度という飴と鞭も併用して、移行の加速が必須である。

このためには、数万棟級の組合で評価が獲得され、その評価が大手の物件ポータルサイトに物件情報の一部として掲載される必要がある。それらが実現されれば、例えば「不動産会社のフラッグシップ的マンションなのに評価や認定はとっていないのか?」という観点で評価されることとなり、インパクトもでてくると思われる。

積立金の徴収額は中古の仲介情報では、管理費同様に必ず表記されているが、積立金は現在の徴収金額ではなく、ストックの多寡が重要である。積立金徴収額だけを見ても、借金して工事を済ませてその返済のために徴収しているのか、超長期の計画に合わせ計画的に徴収して貯金しているのかを区別できない。一般の購入検討者が、組合の総会資料の決算報告から財政状況を読み解くのは困難だから、組合の財政状況が良好であれば星の数も多いといったわかりやすい可視化の意義は大きい。

「評価制度」と「認定制度」の現状と展望

2024年7月現在で「評価制度」を受けた組合の数は4800ほどで、1年少しで4倍に増えている。全マンションの4-5%程で、管理業協会が2年で1万棟(10%)とした目標をおおむね達成するペースで急増している。

一方で16項目の全数クリアが最低条件となる「認定」マンションは全数900棟の2/3程度が「評価制度」の評点も得ている。1年前には半数だったから、「評価制度」を経由してのワンストップ認定の割合が増え、典型的な取得例が自主管理マンションの腕試しから、大手管理会社推薦・お任せでの5★評価⇒認定の同時取得へと移行している。

評価制度の評価点は年次更新になるが、次年度には修繕計画や組合収支の部門で10-20点と大きく点を伸ばして星の数をアップしている組合も多く、評価結果が4★以上のマンションの割合は1年少しで53%から68%にまで増加した。「評価制度」を利用する組合の管理の底上げが急速に進んでいるということになる。

「評価」も受けた「認定」獲得組合の5/6が5★を得ていて、その平均点は95点に達する。法定点検の実施記録までの保管、認定基準準拠の修繕計画の作成、滞納などの対応など、評価・認定制度の項目は"守り"に強い(大手の)管理会社が本来得意としているところである。すご腕理事長が一度5★評価をとっても、それをあと何十年か維持するという仕事は個人技では無理(この点で管理士に任せても困難)だから、評価の維持は組織として継続できる管理会社に任せるのが適当に思える。

「評価」の点数を毎年見ながら、「認定」の16の評価項目全てクリアできたら、「認定」にも申請を出すのが効果的で、管理会社に委託契約で管理を任せている組合では、理事会が管理会社に任せての評価制度獲得からワンストップ認定取得が普通の筋道になっていくことになるだろうと考える。

認定評価制度現況まとめー1認定評価制度現況まとめー1

管理会社ごとの大きな偏り(課題)

評価数や、高評価(5★)を獲得した組合数を、管理会社別に見ていくと管理会社の偏りも大きいことがわかる。受託戸数上位10社は協会の総管理戸数の5割ほどの組合の管理を受託しているが、評価獲得マンションの7割を占めていて、大規模管理会社が優位な傾向にある。

また、会社ごとに方針の差が激しいのも特徴である。
A とにかく数重視で進める会社(料金も高めの設定が多い)
B 認定獲得を目標とする組合のみをサポートなど評価の平均点を重視する会社
C 管理会社としてはほぼサポートを行っていない会社
上記のように、はっきりと熱心さの濃淡が分かれていることが見てとれる。

また、この統計からは、管理会社による「評価」⇒「認定」のワンストップ申請の積極的なサポートがなければ、理事会側が独力でいずれかの格付けを獲得するのは至難だということもわかる。

保険会社1社の利用を前提とした評価制度に、すべての組合がのっかっていけないのと同様に、管理会社によって極端に評価取得の困難さが変るのであれば、規模・地区・築年・管理会社で優劣のつかない頑張りではどの組合にも公平な”誰もが”参加可能な格付け制度であるとは言い難くなる。

とにかくまず「評価制度」をとった上で、年々点数を上げていくのがもともとの制度の趣旨だと考えるなら、とにかくまずは評価を受ける組合数を増やす対応(A)が望ましい。

認定評価制度現況まとめー2認定評価制度現況まとめー2

今後への提言

1.マンション格付けは、マンションの戸数や地域などの属性で有利不利がでるのは望ましくない。「認定制度」では自治体独自の17個目の基準を設定する自治体があるが、全国で困難さを同じにするためには17項目目はないことが望ましく、とくに"自治会的な活動”の有無を評価基準とするのは望ましくない。
大規模マンションでは、マンションだけの自治会を"組合の外”に作って、独自に防災やコミュニティ形成は自治体が主管して実施している例も多い。すべてのマンションに公平な評価基準とするためには、マンションによっては組合が関与しない"行事やってますか?”や”自治会ありますが?”(小規模マンションは通常地区の自治会へ個人加入)いった項目を格付けの評価基準に入れることがあってはならない。

2.満点でスタートしてずっとそれを維持することは、理事会制度による経年したマンションが点数をあげていくのに比較して容易である。"なにがよい管理か”の基準が定められたことで、令和の時代には主流になることが確実な外部管理者管理の(理事会のない)組合の管理状況のクリアすべき基準となることも期待できる。 すなわち理事会の有無で優劣がでてはならない。

3.「認定制度」のインセンティブの実現には、税金が使われているので、経年した段階で積立不足を起こさないように積立金徴収を築浅の段階で早くにアップするという政策の目的に沿った制度設計に国は舵取りをしていくべきである。
認定制度には既存の組合は1%(900棟)しか達成していない(特に高経年のマンションの取得率は低い)のに、新築のデベロッパーによる予備認定はまだ誰も住んでいないマンションが多い。
実にここ2年で計画時の予備認定を取得したマンションは1500棟近くに達する。予備認定のマンションの積立金徴収の設定は、そのほぼ全数で初回大規模修繕の後で大きく値上げを行う漸増式のままで、修繕計画側が基準を満たしていても、積立金徴収のほうは6年ごとに大きな値上げを総会決議で通さないといけないのでは30年大丈夫ですとはとても言えない。

出典:国土交通省HP『管理計画認定制度のあり方について』出典:国土交通省HP『管理計画認定制度のあり方について』

6月に国交省が改定・発表した「積立金に対するガイドライン」(認定制度の評価基準の基となっている)の「段階増額積立方式」では超長期に必要になる積立金徴収額を月割りした金額の0.6倍を超える徴収でスタートし、もっとも高くなる年度でも基準額の1.1倍を超えてはならないとし、早期に均等割徴収への移行を促す条件が追加になっている。
この条件は、早期に「認定制度」や「評価制度」の評価基準にも取り込むべきで、とくに条件の変化で不利のない事前認定制度では早期に準拠すべきであろう。
そうしないと、令和のマンションだけ、なぜか均等割で徴収しているわけでもないのにみな認定をもっていますということになってしまうのを危惧するものである。

管理組合の汗を流している理事会役員の立場としては、2つのマンション格付け制度が、上級マンションの「殿堂入り」でもダメマンションを「晒す」ものでもなく、
-管理の差がマンション価値の差になる
-努力すれば報われる“
そういった、志の高い” システムとなることを望みたい

告知【セミナー】「理事会から見た」マンション管理運営のトレンドを語るセミナーを開催

LIFULL HOME’S PRESSでは、取材記事と取材先の取り組みから、住まいや暮らしをテーマにオンラインセミナーを開催しています。
今回のセミナーでは、「管理組合を“格付け”する制度」をテーマにお伝えします。

名称  :マンション管理「格付け」制度の現状・課題・展望
開催日 :2024年7月18日 (木)18:00~19:00
開催場所:オンライン配信
配信形式:ZOOM(ウェビナー)
配信方法:生配信(参加申込者には後日アーカイブ動画のURLをお送りします)
参加費 :無料(入退場自由)
申込定員:500名
主催  :LIFULL HOME'S PRESS

セミナー参加申込フォームはこちら(参加費無料)
https://zoom.us/webinar/register/WN_a8w_DLFjRP20aK4Mj3Whmw

詳細はこちら
https://www.homes.co.jp/cont/press/info/info_00035/

管理組合を“格付け”する制度は①管理士会②管理会社の業界団体③国・自治体による3つがあり各種不動産サイトで紹介されるなど、各組合の管理の良しあしが確認できるようになってきました。

今回のセミナーでは、足立区の500戸超えのマンションの理事会役員を1期から16年間務め、国内最大の理事長集団RJC48(マンション管理組合理事長勉強会)の代表として250人の理事長をまとめる“はるぶー”こと應田治彦氏を講師にお招きし②管理会社の業界団体③国・自治体の制度開始から2年が経過した今、3つの「格付け」制度についての現状と、理事会や購入検討者はどう対応すべきなのかをお伝えします。

マンション管理組合理事の方やマンション管理に興味をお持ちの方などお気軽にご参加ください。

告知【セミナー】「理事会から見た」マンション管理運営のトレンドを語るセミナーを開催

公開日: