2024年は子育て世帯&若者世帯のみ2023年までの新築住宅の元本上限を維持
住宅ローン減税の制度は1972年に実施された住宅取得控除がその始まりで、住宅購入後3年間は取得金額の1%に相当する税金を控除するというものだった。1978年からは住宅ローン自体が控除の対象となり、過去には最大控除額が約600万円まで達したこともあった。
近年では金融緩和政策の継続によって住宅ローンの金利自体が極めて低利に誘導されていること、また住宅購入が可能な家計には恩恵があるのに賃貸にはほぼ優遇措置がないのは不公平感を助長するとの主張も根強いことから、住宅ローン減税の制度自体を見直し、徐々に縮小する方向で変更される傾向にある。
最新の2024年の適用条件では、先ず新築住宅を購入した場合の住宅性能の段階別に各々年末の住宅ローン元本の残高上限が500~1,000万円引き下げられ、例えばZEH基準で建設された住宅の元本上限は2023年までの4,500万円から3,500万円へと1,000万円減額されたから、現状の控除率0.7%、13年間の最大控除額も409.5万円から318.5万円へと引き下げられている。
ただし、住宅購入時点で19歳未満の子どもがいる世帯および夫婦のいずれかが40歳未満の世帯である場合は、2023年までの元本上限が適用される。また、2024年以降に建築確認を受けた新築住宅で省エネ基準を満たしていない物件は住宅ローン減税の対象外となるので、これから購入しても住宅ローン控除を受けられなくなることにも留意すべきだろう。
一方で、2021年から開始された新築の対象住宅の面積要件を50m2以上から40m2以上へと緩和する措置は2024年末まで延長されているから、コンパクトマンションや狭小戸建てでも省エネ基準に適合していれば、住宅ローン減税を受けることができる(世帯所得1,000万円以下が対象)。
このように、住宅ローン減税制度自体は段階的に縮小される傾向にあり、同時にすまい給付金(終了)や住宅購入目的での贈与税非課税枠(2026年まで延長、非課税枠1,000万円はZEH基準に引き上げ)、子育てエコホーム支援事業(新設)などについても議論されているから、年々住宅、特に新築住宅を“よりお得に”購入することは難しくなってきている。ただし、同時に子育て世帯や若年層世帯については、優遇措置を時限的に拡大する方針を盛り込んでおり、住宅ローン減税制度自体は複雑化しているとも言える。
住宅性能によって減税の対象となる元本の上限に差を設けたり、子育て支援&少子化対策の材料として活用されたりするなど、国の施策も時々の政権の方針によって振れ幅が比較的大きい。それだけ住宅ローン減税は住宅購入予定者にとって魅力的に映る政策とも言えるのだが、2024年の住宅ローン減税制度は、購入のハードルを下げる実質的効果があるのか、またコストも価格も高くなる省エネ基準適合住宅の普及に繋がるのか、購入予定者に与える影響について専門家の意見を聞く。
減税制度は役割を変える過渡期 ~ 高橋正典氏
高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など住宅ローン減税の制度変更や縮小が購入者に与える影響を考えるとき、「注文建築」と「不動産売買」とを分けて考える必要がある。それは、関わる専門家がそれぞれ違うからだ。
前者では建設業者が窓口となり、後者は不動産業者が窓口となる。当然に専門分野が違うため知識レベルも変わってくる。多様化する住宅ローン減税制度にあって、利用者である消費者にとってもややこしい状況の中ではあるが、ここでは不動産業の視点でこの度の制度変更による影響を解説していきたい。
まず、そもそも住宅ローン減税の優遇は何のためにあるのだろうか?
「税制優遇が拡充したから家を購入する」そのような人は現実として少ない。2023年10月に住宅金融支援機構が調査した「住宅ローン利用者の実態調査」(以下「実態調査)という)によれば、「住宅取得の動機」はライフステージに起因するものが圧倒的に多い。具体的には「結婚、出産を機に」や「子どもや家族のため」というものだ。そこに近年急激に増えているのが「老後の安心のため」という将来への備えである。
それに対して「住宅取得関連の税制が有利だから」という動機は、先のライフステージによるものと比較して1/10程度しかない。他方、別の設問において、今が「住宅の買い時」だと答えた人の25%が「税制のメリットが大きいから」と答えており、住宅ローン減税は購入を前向きに検討している人の背中を押す制度ではあるものの、住宅を購入するべきか否かを判断する材料にはなっていない。
この点が、住宅購入者だけが優遇される不公平感への指摘でもあり、減税制度の縮小へ向かうのは当然のことだとも言える。
そうした中、この住宅ローン制度の目的も変化を遂げていくことになる。それが「住宅性能」による減税額の差別化、そして引き続き「若年夫婦」及び「子育て世帯」への優遇である。これらはともに国策と連動したもので価値のある制度であるが、特に「住宅性能」に関しては、建物知識の不足する不動産業者が多く、あまり熱心に制度を解説されていないようだ。先の「実態調査」によると、「住宅取得時に特に重視するもの」としてダントツで多い回答が「価格・費用」であり実に7割の人が重視している。
その次に「間取り」そして「立地」と続き、「耐震性能」は約20%、「省エネ」は約15%という実態もそれらを加速させる。本来、「住宅性能」の違いが「住宅ローン減税額」の差にもなるという事実が、住宅購入者の「住宅性能」に対する意識向上へ向かうべきところ、思惑通りにはいっていない。
それに対して「若年夫婦」及び「子育て世帯」への優遇、中でも「子育て世帯」への優遇は、共働き世帯の増加に伴う夫婦それぞれの年収に応じて各々が住宅ローンを組む「ペアローン」が大半を占める現状において、夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けるメリットがわかりやすく不動産業者の実務でもかなり活用されている。
こうした状況から、不動産業の視点で見ると、制度変更や縮小が購入者の意向にそう大きな影響は与えていないと思われる。しかし1970年代から始まった住宅ローン減税という制度が「取得」を目的とした制度から「生活」を支える制度へとその役割を変えていく過渡期に入っていることは間違いないと言えるだろう。
マンション市場の影響は限定的。「量」から「質」への転換を促す ~ 岡本郁雄氏
岡本 郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ首都圏のマンション市場は、既に年間の流通件数は中古が新築を上回っている。新築住宅と中古住宅では住宅ローン減税の優遇幅で差がある。中古住宅では長期優良住宅や省エネ基準適合住宅などがローン残高の限度額3000万円、その他の住宅については、2000万円になっているが、中古マンションの売れ行きは好調だ。2024年4月度の首都圏中古マンション成約件数は、前年同月比10.1%のプラス(東日本不動産流通機構の調べ)となっており新築マンションの供給減で、中古マンションを選ぶ人も多い。
また、首都圏の新築マンション市場においては、将来の住み替えを視野に購入する人が多く、住宅ローン控除よりもマンションの資産性に重きを置く人が多い。都心部では、買い替えで新築マンションを購入する人も多く、売却益に対し居住用財産の3000万円控除を使うと一定期間、住宅ローン控除の対象外となる。住宅ローン控除縮減の影響よりも価格動向や需給バランスの影響のほうが大きい。
子育て層が購入層の中心となる郊外エリアのマンションや新築戸建については、子育て世帯・若者世帯に対するサポートは、購入の後押しとなっている。令和6(2024)年限りの措置として、子育て世帯等に対し借入限度額が上乗せされる効果はあるだろう。子育て世帯などが住宅を取得する場合に補助金がもらえる「こどもエコすまい支援事業」では、長期優良住宅で1戸あたり100万円、ZEH住宅で80万円と支援額が大きく利用者のメリットが大きい。ZEH住宅は、新築マンションでも増えてきており、2024年の住宅購入の後押しになるはずだ。
令和5年住宅・土地統計調査(速報集計)によれば、全国の空き家は900万戸と過去最多を更新。この30年で2倍となっている。空き家の活用が求められるところだが、耐震性や断熱性など住宅性能の低い住宅は、修繕費用が高く活用しにくいのが実情だ。住宅ストックの量から質への転換は、地球温暖化に加え少子高齢化が進む日本において、大切なことだ。
2022年、断熱等級について従前の等級4を超える等級5~7が新たに設けられた。2030年には、義務化される水準を引き上げ、等級5以上となる予定だ。野村不動産は、それを上回る断熱等級6の物件供給を推進していくことを発表した。こうした動きが、ディベロッパー間に広まれば、省エネ性能の高い住宅の普及につながるだろう。住宅の量に関しては、今の供給ベースで足りているのが実情だ。これからは、質を高める住宅施策を期待したい。
面積要件緩和措置の延長に期待感も、全国的な給与ベースアップの成否こそ焦点 ~ 北川友理氏
住宅ローン減税制度は段階的に縮小され複雑化する傾向にあるが、本年度の新たな補助として子育てエコホーム支援事業があり、国とは別に東京都も独自の基準を満たした住宅に対する補助を運用するなどしているため、各種政策による住宅購入の下支え効果はこれまで同様ある程度担保される。
住宅ローン減税の中で期待感が高いのは、新築の対象住宅の面積要件緩和措置の延長だ。新規事業と比べ注目度は低いが、全国住宅産業協会などの業界団体が延長を強く要望していた案件でもある。
最大の理由は住宅・不動産市場の実情に合致しているからだ。建築費の高騰により、ファミリーマンションはこれまで一般的だった間取り3LDK・専有面積70m2ほどの新築住戸は平均的な一次取得層にとって購入が難しくなった。ある首都圏の中堅デベロッパーの事例では、RC造ファミリーマンション住戸1戸当たりの最新の建築費は3000万円ほどに達したとのこと。
首都圏郊外ではコロナ前との比較で坪単価の相場が100万円以上上がった地域が多くある。神奈川県藤沢市などだ。東京都の過去1年ほどの実績を見ると、おおむね世帯年収800万円ほどで無理なく購入できる価格帯の物件の供給は、平均坪単価250万円強の昭島市の大規模物件など23区外の数件しかない。今後の開発は住戸をダウンサイズして総額を抑える方向に向かっている。
Dinks・プレファミリー向け住戸が専有面積40m2台、ファミリー向けは50~60m2台と現在より一回りかそれ以上小さいサイズが中心となり、そこにパワーカップルら高所得層から需要が高い4LDK・専有面積80m2以上のプレミアム住戸を少数加える企画が増えつつある。これまでファミリーマンションは70m2ほどの住戸で統一するのが一般的だったが、社会情勢に伴い住戸の内容が二極化している。こうした情勢下で、住宅ローン減税の要件が50m2以上から40m2以上に緩和されることは多くの一次取得層にとって大きな支援となる。この動きは今後加速するため、来年度以降も継続が望まれる。
一方で、住宅ローン減税や補助金は購入意欲と購買力の下支えにはなるものの担保できるわけではない。総額100万円超の各種補助金や住宅ローン減税があったところで販売価格の上昇分を補填し、購買意欲を支えることは不可能だ。一連の問題の今後は、物価や不動産価格のインフレに見合う給与所得の上昇が全国に波及するかにかかっている。上場企業を中心に初任給のベースアップが進み、首都圏では都心から郊外に波及する形で賃貸住宅の賃料が上昇するなど良い傾向もみられるが、地方まで浸透するかどうかとなると極めて厳しい。予断を許さない状況だ。
北川友理:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。京都市出身。1987年10月生。地方新聞記者を経て、2018年に不動産経済研究所入社。以降ハウスメーカー担当
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