「麻布台ヒルズ」「トーチタワー」後も再開発が目白押し 都心一等地にも高級タワーマンション登場
“東京五輪後”を見据え、投資家から世界的に注目が集まるタイミングを見越して都内各地での大規模再開発が継続している。2023年11月にはビルとして330mという日本一の高さを誇る「麻布台ヒルズ・森JPタワー」がオープンしたが、2028年にはそれを早くも上回って385mの高さとなる「トーチタワー」が東京駅近くの“トウキョウトーチ”に開業する予定だ。2021年の「常盤橋タワー」開業時にはコロナ禍ということもあってオフィス床を10%程度残しての船出となり、東京オフィス市況が憂慮されるきっかけとなったが、それも短期間で払拭する勢いとなっている。
また、2014年から開発が継続し拡大し続けてきた虎ノ門エリアでも2023年10月に「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」が開業し、総面積約7.5ha、総延べ床面積約79.2万m2を誇る“虎ノ門ヒルズ”の全体像がほぼ完成した。
さらに、2023年10月には羽田空港隣接地約16.5ha(うち開業面積は5.9ha)、約13万m2の規模で先端医療や研究開発拠点として機能する「羽田イノベーションシティ」が開業し、2024年春には1998年から四半世紀の開発期間を経て、渋谷駅周辺再開発の掉尾(とうび)となる「渋谷サクラステージ」が全面開業することになっている。
ほかにも品川、六本木、青海、中野、新宿、秋葉原などで続々と大規模再開発の計画が実施もしくは具体的に構想されており、まさに東京は超高層タワーオフィスとタワーマンションがこれからも林立することがほぼ確実視される。
大規模再開発が都内各地で進み、交通利便性の向上や職住近接の実現、世界水準の開発拠点の設立やオフィス機能集約による生産性の向上ほか、再開発によって新たに生まれる“効果”には大いに期待が集まり、また世界規模での都市機能の集積は経済力の向上にも資することが期待されるため、まさに良いこと尽くめのようにも感じられるが、一方で、年々東京都内で分譲される新築マンションの価格が上昇し続け、2023年には遂に(一時期)平均価格が1億円を突破するという状況に至ったことも記憶に新しい。
開発が進むにつれてエリアの機能が向上&高度化し、同時に付加価値、所有価値が高まることは一義的には歓迎すべきことだが、住宅価格が手の届く金額ではなくなってしまうことは、都市の多様性を担保する上で、また適正な労働力を確保する上でも大きな障害となる可能性がある。
以上のように、東京都内では注目すべき再開発案件が控えている。東京都内の住宅価格は大規模再開発の継続によって今後どのような影響を受けるのか、都内のマンション市場および住宅事情に詳しい有識者に注目の再開発とその魅力について取り上げ、解説いただく。
市場動向を占う注目物件は城東や城北エリアで供給される駅前再開発のタワーマンション ~ 菅田修氏
菅田 修:(株)三井住友トラスト基礎研究所 上席主任研究員。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院ファイナンス研究科修了。主に、賃貸マンションの賃料予測を中心とした住宅市場全般や、各プロパティタイプの期待利回り予測等の不動産投資市場に加え、「不動産としてのデータセンター」をキーワードにニューアセットへの投資動向についても精力的に調査・分析を行っている2020年4月に緊急事態が宣言されて以降、2023年5月に新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行するまでの約3年間、日常生活に制約を受けていた方も多くいるだろう。統計指標の中にもコロナ禍の影響が表面化しているものがいくつもある。その一つに、婚姻件数の減少が挙げられる。
東京都の婚姻件数は、2001~2019年は概ね8~9万件/年の間で推移してきた。しかし、コロナ禍期間中は、2020年=73,931件、2021年=69,813件、2022年=75,179件と減少している。このことは、今後の出生数や新規のDINKS世帯の減少につながりかねず、今後の分譲マンション市場に少なからず影響を与える可能性が高い。
それでも、足元(2023年)の分譲マンション市場は好況に推移している。
首都圏の分譲マンション平均価格(2023年)は8,101万円となり、前年比で28.8%の大幅上昇となったのに対し、分譲マンションの在庫を示す期末残戸数は2023年末で6,287戸と、2022年末の5,919戸からは増加したものの、コロナ禍前の2019年末(=9,095戸)と比べると低い水準となっている。
前年と比べて、平均価格が大幅上昇だったのに対し、期末残戸数は微増にとどまっていることが、2023年も分譲マンション市況が好調であったと言われる一因である。
では、なぜ分譲マンション市況は好調であったのか?その理由を考察するためには、価格帯別供給戸数の動向を把握することが有用である。首都圏の分譲マンション市場は、ターゲットとする需要層によって、価格帯で以下の4つに分類される。
①実需向け価格帯(5,000万円以下)
②実需向け高価格帯(5,000万円超~7,000万円以下)
③パワーカップル向け価格帯(7,000万円超~1億円以下)
④富裕層向け価格帯(1億円超)
発売総戸数に占める各カテゴリーの比率をコロナ禍前の2019年と足元の2023年を比較すると、大幅に上昇しているのは④富裕層向け価格帯(4.8%→15.5%)で、大幅に減少しているのが①実需向け価格帯(47.1%→30.8%)であり、このことが平均価格の大幅な上昇につながっている。(基調記事にある)麻布台ヒルズなど都心好立地の再開発などの高級物件が売れていることは、東京が海外のラグジュアリー都市に並び評されていると捉えることもでき、日本経済全体からしても好ましいと言える。ホテルライクのサービスを提供するようなオペレーショナル面でも高級感のある分譲マンションが増えてくると、エリア価値がより一層、高まることも期待される。
ただし、高級物件は目を引く上に平均価格を押し上げているのは事実だが、2023年に発売された分譲マンションの60%以上が7,000万円以下の実需層向け(①+②)であり、2023年の平均値である約8,000万円が首都圏で発売された分譲マンションの平均像というわけではない。
実需層向けの物件が想定通りに売れるかどうかは、立地と価格のバランスが取れていることが重要であり、この点について今後も大きな変化は生じないだろう。
その半面、これまで低金利環境であることが後押ししてきた③パワーカップル向け価格帯は、建築費や用地価格の高騰の影響を強く受けて、他のカテゴリーよりも割高に感じる物件が出てきやすい。
分譲されている戸数全体に占める③パワーカップル向け価格帯の割合は2023年で20%程度だが、購入できる世帯は首都圏全域でも限定的で需要に厚みがあるわけではないため、他のカテゴリーよりも売れ行きが変化しやすい。
足元では、これまでタワーマンションの供給がほとんどなかった小岩駅や十条駅の駅前再開発において、この価格帯での供給が想定されており、その売れ行きが今後の分譲マンション市況を見極めるポイントとなるだろう。そこには、住宅ローン金利の動向が大きく影響するため、金融政策の変化には例年以上に留意が必要である。
東京都内の住宅価格は大規模再開発の継続によって今後も上昇傾向に ~ 榊原渉氏
榊原 渉:
1998年3月早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻 修了。1998年4月株式会社野村総合研究所 入社。2017年4月グローバルインフラコンサルティング部長。2020年4月コンサルティング人材開発室長。現在 コンサルティング事業本部 統括部長 兼 サステナビリティ事業コンサルティング部長 兼 コンサルティング事業本部 DX事業推進部長、北海道大学客員教授。専門は建設・不動産・住宅関連業界の事業戦略立案・実行支援
東京都内の住宅価格は、大規模再開発の継続によって今後も上昇傾向にあると考えられる。交通利便性の向上や職住近接の実現、世界水準の開発拠点の設立などにより、都市機能の高度化や地域価値の向上が進み、付加価値や所有価値が高まることが予想されるためである。特に、超高層タワーの建設や開業によって、都市のシンボルとしての価値が高まれば、高級住宅地としての需要も高まる可能性があり、こうした需要増による供給不足も、更なる価格上昇の一因となり得る。
注目すべき再開発案件としては、東京駅近くに開業予定の「トーチタワー」と、羽田空港隣接地に開業する「羽田イノベーションシティ」が挙げられる。これらの案件は、いずれも交通アクセスが良く、国際的なビジネス拠点としての機能を持つことから、より一層の都市機能の高度化や地域価値の向上が見込まれ、大きな影響を与えると考えられる。国内外の投資家からの注目も高いようだ。
住宅価格が上昇し続けることは都市の持続的な発展にとって重要な課題に
しかし、新築マンションをはじめとした住宅価格が上昇し続けることは、都市の多様性を担保するうえで、また適正な労働力を確保するうえでも大きな障害となる可能性がある。特に、若い世代や低・中所得者層が住宅を購入することが難しくなり、東京都内の社会的構成や経済的バランスが崩れることが懸念される。これは都市の持続的な発展にとって重要な課題となりうる。
再開発と住宅価格の上昇をどうバランスさせていくかの視点が一層重要に
大規模再開発の継続による住宅価格の上昇は、都市の均衡ある発展の阻害要因になると考えられるため、政府や東京都などの地方自治体、加えて不動産業界等の関係者には、再開発と住宅価格の上昇をどうバランスさせていくかの視点が求められる。大規模再開発が継続する都心部だけでなく、公共交通の利便性向上などによって、郊外部の住宅市場にも需要を波及させることで、バランスの取れた都市発展を目指す必要もある。
今後はますます、住宅価格の上昇という社会課題解決に資する政策や制度の導入、民間企業のリーダーシップや創意工夫も求められるだろう。また、生活者一人一人も、地域経済発展と生活環境保持の両面から、積極的に情報を得て理解し、自己の生活設計を進めていくことが求められる。継続的な都市計画と様々なステークホルダーの協力によって、持続可能な都市発展を実現することが重要だろう。
コロナ禍を経て、自然環境や地域のにぎわいが選ばれるまちのポイントに ~ 吉田資氏
人手不足に伴う建築コストの上昇やマンション用地価格の高止まりを背景に、マンションデベロッパーが慎重な供給姿勢を維持するなか、東京の新築マンションの新規供給は長期的に減少傾向にある。
一方、マンション居住の意向が高まり、主なマンション購入層である「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる世帯」の増加が続くなか、低金利環境がマンション購入を後押してきた。この結果、東京の新築マンション市場は良好な需給環境が継続しており、リーマンショック後の価格下落局面(2009 年~2012 年)を除いて、長期にわたり価格上昇が続いている。ニッセイ基礎研究所の調査によれば、新築マンションの価格上昇率は、「都心」エリアが最も高く、次いで「南西部」、「東部」、「北部」の順に高かった。通勤利便性等に優れた都心ほど価格は高騰している
不動産経済研究所によれば、東京23区の新築マンション平均価格(2023年)は1億1,483万円に達した。2024年の新規供給戸数は約1.3万戸と、限定的な新規供給が続く見通しであることから、マンション価格は引き続き高水準を維持する可能性が高い。
ところで、新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「テレワーク」が急速に普及した。東京都の調査によれば、都内企業のテレワーク実施率は、2022 年までは緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間は60%台、それ以外の期間は50%台で推移していた。2023 年に入り、40%台で推移するなか2023 年12 月は46%となった。テレワーク実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している。ザイマックス不動産総合研究所が首都圏のオフィスワーカーを対象に行った調査によれば、「テレワークとオフィス出社を使い分けている」との回答が47%、「完全テレワーク」との回答が4%を占めた。東京では「テレワーク」を取り入れた働き方が定着しつつある。
こうしたなか、住居選びにおいて、「都心に近い」など通勤利便性を重視する傾向が弱まり、多様な価値基準による選択が進んでいる模様だ。品川区が行ったアンケート調査によれば、重視する住環境について、コロナ禍前後を比較すると、「通勤に要する時間の短さ」との回答が減少した一方で、「広い公園や豊かな自然環境への近さ」や「買い物などの日常的な生活のしやすさ」、「住宅・敷地の広さや間取り」との回答が増加した。
上記の住居選択基準の変化や価格水準等を鑑みると、今後、東京の「東部」や「北部」エリアの再開発に注目が集まるのではないだろうか。例えば、葛飾区の「東金町一丁目西地区」や北区の「十条駅西口地区」における再開発などが挙げられる。これらの再開発は、都市機能の更新とともに、「みどり」の整備や地域のにぎわい・活性化等に力点が置かれている。
コロナ禍を経て、自然環境や地域のにぎわい等が再重視され、価値基準が多様化するなか、再開発事業者は変化に即したまちづくりが求められるだろう。
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