2024年4月からの省エネ住宅性能の程度がわかる“省エネ住宅性能表示制度”が開始
2025年4月に建築物省エネ法が改正され、原則として全ての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化される。それに先立ち2024年4月から、主に新築住宅(2024年4月以降に建築確認申請を行なった物件/買取再販含む)を対象として、事業者向けに“省エネ住宅性能表示制度”がスタートする(2024年3月以前に建築確認が下りている物件は対象外で表示も任意)。
国のガイドラインによれば、この表示制度は“努力義務”として開始されるものとしている。しかし、国土交通大臣が販売・賃貸事業者が告示に従って省エネ性能を表示していないと認めた場合、勧告・公表・命令をすることができるとされ、努力義務以上に高いハードルだと認識すべきだろう。
また、アパートやマンションの所有者が賃貸事業を行っている場合は、個人であってもこの表示制度の対象となる。サブリース事業者も対象となるから、住宅売買・賃貸に従事する大半の事業者が、この表示制度について理解しておく必要がある。
実際の表示には、省エネ性能ラベルおよびエネルギー消費性能評価書がある。
省エネ性能ラベルはウェブサイトやチラシほか広告で使用し(画像参照)、エネルギー消費性能評価書は建築物の概要と省エネ性能評価の詳細を記した保管用の証明書として、これを一組として発行する。発行方法は、販売・賃貸事業者が住宅性能評価・表示協会のサイトから自ら発行する自己評価と、専門の評価機関に申請し交付を受ける第三者評価(BELS)のどちらかを選択する必要がある。
住宅では住戸と住棟で表示が異なり、オフィスやテナントビルなどの非住宅でも異なるため、様式の違いに留意しなければならない。
ラベルおよび評価書には建物名称や評価日など基本事項に加え、エネルギー消費性能、断熱性能、住戸の場合は目安となる光熱費の金額、自己評価もしくは第三者評価の別、太陽光パネルなど再エネ設備の有無、ZEH水準を満たしているか否か、などが網羅的に記載される。ユーザーが当該物件・建物の省エネ性能が高いのかどうか目視で確認できるメリットがある。エネルギー消費性能と断熱性能は星の数および数値で示されるので、この表示制度が開始されると、その違いがわかりやすくなり、住宅性能についてユーザーの関心が高まることも予想される。
このように、全ての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化され、その性能の違いが一目でわかることは誰にとっても便利なことだ。しかし、かつての東京都マンション環境性能表示のように基準の異なるラベルが混在し、三段階評価で星3つが圧倒的多数を占めるなど表示が形骸化したケースもあることから、今回の表示制度がどの程度機能するのか、現時点では不明な点もある。
今回の省エネ住宅表示制度の開始は、果たして省エネ住宅の普及に資するのか。また省エネ基準が今後改定されても機能するのかなど、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授で住宅の省エネルギーを研究する前真之氏に表示制度の将来展望と課題を聞いた。
建築物の省エネ性能表示制度への期待 ~ 前真之氏
前 真之:東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授。専門分野は建築環境工学、研究テーマは住宅のエネルギー消費全般。 学生時代より25年間以上、住宅の省エネルギーを研究。健康・快適で電気代の心配がない生活を太陽エネルギーで実現するエコハウスの実現と普及のための要素技術と設計手法の開発に取り組んでいる日本では性能で家を選べない
生活のために、誰もが住まいを必要とする。電気代が高騰する中、居住時の電気代節約へのニーズは高まっており、脱炭素化のためにも建売や賃貸も含めたあらゆる種類の住宅の省エネ性能向上が不可欠となっている。住宅の省エネ化に必要な断熱・設備・太陽光発電といった要素技術は完成しており、後は普及のために「初期コスト負担の低減」と「買い手・借り手の需要喚起」が強く求められている。日本では後者の需要喚起の取組みが特に遅れており、そもそも住宅に「性能」があるという概念自体が一般に理解されていないのが現実である。
実際、住宅検索サイトで選択できる「物件の情報」のうち、建物の性能に関係しそうなのは「築年数」と「建物構造」の2つ程度。「こだわり条件」でも設備の有無しか追加できない。誰にとっても極めて身近で切実な「家選び」において、快適・省エネ・耐震といった「性能」が、まるでないことのように無視されてきたのだから恐ろしい。
ヨーロッパ各国においては、省エネ性能の表示は2000年代から導入され、すでに表示義務化が完了している。エネルギー消費性能がA+~Fと統一して示されており、消費者にとって単なる省エネ性能というだけでなく、物件の質全般を判断する適切な指標として活用されている。
性能表示の開始まで14年
東京都の「マンション環境性能表示」のように独自の表示を行っている自治体もあるが、ごく一部にとどまる。広告で省エネ性能が特にアピールされるのはゼロエネルギー住宅(ZEH)の場合であるが、集合住宅のZEH率はわずか2.1%(着工面積ベース 2021年度)にすぎない。性能表示がごく一部の物件にとどまる限りメディア側が積極的に取り上げることは困難であり、多くの住宅で共通に表示でき、かつ一般消費者に分かりやすい形態が求められていた。
マンション・オフィスビルにおける「省エネ性能表示」の現状・事例について
性能表示の重要性は早くから指摘されており、2010年07月の「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」の中間とりまとめにおいて「2020年までに標準的な新築住宅でZEHの実現」とともに「住宅・建築物等の省エネルギー性能の表示」が挙げられていた。そこから今回の2024年度からの表示開始まで、実に14年もかかったのだから、あまりにスローペースとの批判は免れまい。
「低炭素社会に向けた住まいと住まい方」の推進方策について中間とりまとめ
等級7までの断熱性能表示が建売・賃貸を革新
慰めがあるとすれば、開始が遅れた分だけ直近までの断熱性能や省エネ性能の追加等級を反映できたこと。とりわけ2022年10月に追加された、究極の断熱ともいえる「断熱等級7」までが表示される意義は大きい。
一般消費者向けに期待が大きいとされるのは、推定される消費エネルギー量を電気・ガス代に換算した「目安光熱費」。家賃のとなりに目安光熱費が表示されることで、両者の合計が最も安くなる高性能物件に購入者を誘導できる可能性がある。ただし、その金額は設備や燃料単価によって大きく変化し、そもそも表示が任意である。「エネルギー消費性能」は表示が必須であるが、最上位の★6つでも再エネの自家消費分込みで基準値から50%減どまり。すでにZEHが100%減を達成している現状で、大きなインパクトは期待できない。
一方、「断熱性能」は表示が必須であり、かつ建物の構造や建材・施工品質と強い関係がある。等級6・7といった高断熱の物件は、単に熱が逃げにくいだけでなく、防音を含めた快適性全般に優れた品質の高さが期待できる。なにより、最上級のごとく宣伝されていたZEHが、断熱では等級5にすぎないことが広く知られるきっかけとなる。「ZEH水準は上から3つ目に過ぎない」という不都合な話が、白日の下にさらされる意義は大きい。当面は本ラベルの表示は建売・賃貸の新築物件の一部にとどまるにしても、断熱等級7の存在が、一般消費者と業界に大きなインパクトをもたらすと期待している。
率直なところ、既存物件のほとんどがバッドストック化する不動産業界、ZEHを最上位と謳えなくなるハウスメーカーの猛反対を押し切って、よくぞ国交省が実現までこぎ着けたと感じている。パブリックコメントにおける意見にあるように、細かいところでは色々課題があるにしても、まずは住宅の性能が国民みんなに広く知られる制度ができたことを、素直に祝福したい。
なお残念なのは、2023年01月20日から2月6日まで行われた本件のパブリックコメントが、ほとんど報道されなかったこと。一般消費者に直接大きな影響がある制度なのだから、様々なメディアが取り上げて、広く議論されるべきだったと感じている。住宅の質の向上には、まず住宅への関心を高める必要がある。寒さ暑さや電気代といった苦しみは、適切な家選びで解決できる事実が、広く常識となることを期待したい。
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