これまで相続した土地の登記は義務付けられていなかった

相続時の登記義務化開始による影響とは? 有識者に見解を聞いた相続時の登記義務化開始による影響とは? 有識者に見解を聞いた

2021年4月に「所有者不明土地法」関連法が成立し、相続人が土地や建物の相続を知った日から3年以内(実際に相続が発生した日ではないことに注意)にその相続した不動産の登記を義務付けることとなった。同法が施行される2024年4月以降、相続された土地および建物などすべての不動産登記が義務付けられることになり、所有者が不明の土地が徐々に、そして確実に減少していくことが期待されている。併せて遺産分割協議の成立によって不動産を取得した相続人も、遺産分割協議が成立した日から同じく3年以内に、その内容を踏まえた登記の申請が義務付けられた。

なお同法には、正当な理由がないにもかかわらず登記申請をしなかった場合には、10万円以下の過料(行政処分)が科されることがあると規定された。

正当な理由とは
①相続登記を放置したために相続人が多数となり、戸籍謄本など資料の収集や相続人全員の把握に多くの時間を要する場合 
②遺言の有効性や遺産の範囲などが裁判などで争われている場合 
③申請義務がある相続人自身に重病など義務を遂行できない事情がある場合、
とされており、基本的にわずかな例外を除いて相続、遺言、財産分割協議などによって不動産を取得したら、必ず登記しなければならない。

また、相続物件の管理が難しいケースについては国庫に納められる制度:相続土地国庫帰属制度も2023年4月27日から相続登記義務化に先駆けて適用される(審査手数料のほか10年分の土地管理費に相当する費用を納める必要がある)。関連して、名義人が複数存在する土地や建物の管理制度も新設され、土地を共有する一部の所有者が不明でも、裁判所の決定を得るなど一定の条件下で用途変更や売却が可能とされた。さらに、これまで相続登記には相続人全員の戸籍謄本などを集めて以前の所有者から変更登記をする必要があったが、相続人が複数存在していてもそのうち1人が申し出れば、比較的簡易に手続きできる制度:相続人申告登記制度も新設される。

国交省「土地白書」によれば、相続時に不動産登記手続きを怠り、登記簿上で所有者が不明の土地面積は全体の20.1%に達する。現状では少子化・高齢化によって特に地方圏での土地利用ニーズが低下し、土地の所有意識の希薄化が進んでいるとの指摘もあり、今回の相続登記義務化を契機として、所有権および所有形態の確認および明確化が、不動産取引および土地活用の第一歩であることが再認識されることになる。

今回の法整備によって、実際に土地と建物の利活用を促進することが可能になるのか、登記の義務化が進んでも依然として所有者が不明のままの土地はどのように扱うことになるのか、所有権問題に詳しい有識者の見解を聞く。

相談が増えている相続未登記不動産 ~ 西生 建氏

<b>西生 建</b>:明治大学法学部卒業。住宅情報情報誌、建設会社を経て、1996年エイム株式会社設立に携わり、2008年5月代表取締役。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の設立に携わり、事務局長、理事を歴任。2012年11月にリニュアル仲介株式会社を設立。同社代表取締役。首都圏既存住宅流通推進協議会代表西生 建:明治大学法学部卒業。住宅情報情報誌、建設会社を経て、1996年エイム株式会社設立に携わり、2008年5月代表取締役。日本木造住宅耐震補強事業者協同組合の設立に携わり、事務局長、理事を歴任。2012年11月にリニュアル仲介株式会社を設立。同社代表取締役。首都圏既存住宅流通推進協議会代表

そもそも相続の事実を「知っていて放置している場合」と「知らずに放置状態になっている場合」、知っていても「資産価値のある不動産」と「資産価値のない不動産」では、状況が全く異なると思う。今回の「所有者不明土地法」関連法の成立によって動く不動産は「資産価値がある不動産」に限定されるのではないだろうか?

実際に土地と建物の利活用を促進することが可能になるのだろうか

私の知り合いの司法書士が定期開催している相続相談会来場者などの反応を聞くと、相続登記義務化は相続不動産への関心を高める大きなきっかけになっているとのこと。相談・質問も多く、「放置」⇒「処分・活用」の方向へ動いていく雰囲気が非常に大きく、何十年も放置していた土地を処分したい、子どもから今のうちに整理しておいてくれと言われた、といった相談が増えている状況らしい。知らずに放置状態になっている土地は、利活用まで少し時間がかかりそうだが、相続の事実を認識しながら所有権移転登記を行わず、しかし手放すのも忍びない実家等が先行して動き出すと思われる。

所有者不明のままの土地は、どのように扱うことになるのか

所有者不明のままの土地も、過料制度が本格的に稼働すれば、行政が相続人を割り出し、過料の請求をすることになると思われる。相続の事実を知らない人が相続を認識した結果、特定された相続人が動かざるを得ない、ということになり、その不動産が処分可能性のある不動産であれば、名義変更⇒売却処分という流れになると思われる。

一方で、資産価値のない不動産については、やはり解決には直結しないと思われる。国庫帰属制度の概要も発表されたが、
・申出に必要な負担金の最低額が約20万円(過料の方が安い)
・土地の広さによっては、負担金が100万円を軽く超える
・国庫帰属の前提としての調査が大変(境界の写真の準備など)
固定資産税が1万円にも満たない土地の場合、結局放置した方が得という結論になるケースも多いと思われる。

私の知り合いの司法書士が受ける不動産相続相談の多くは、地方の山林や田畑だそうだ。
「売れる土地であればとっくに売っているけど、売れないから放置してきた」
「やっと捨てられると思ったら、そんなに費用かかるのか」
「過料10万円納めて、引き続き放置しかない」
といった結論になる人も多いとのこと。
実際に動いている人がいることを考えれば、本法律の成立が空き地・空き家問題の解決の一助になっていることは間違いないが、それでも動かない不動産も多くあるという印象である。

「親世代」と「子世代」の問題意識共有化へ  ~高橋正典氏

<b>高橋 正典</b>:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など高橋 正典:不動産コンサルタント、価値住宅株式会社 代表取締役。業界初、全取扱い物件に「住宅履歴書」を導入、顧客の物件の資産価値の維持・向上に取り組む。また、一つひとつの中古住宅(建物)を正しく評価し流通させる不動産会社のVC「売却の窓口®」を運営。各種メディア等への寄稿多数。著書に『実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと』(かんき出版)など

2024年4月から施行される相続登記の義務化による影響には、直接的なものと間接的なものとが考えられるが、直接的な効果としては、当然相続登記が今後放置されることが少なくなるという効果だろう。中には、正当な理由もなく登記申請をしなかった場合に科される「過料」が10万円以下であることから、相続登記に要する費用に比べて安い地域では義務化の効果が少ないという声もあるが、それでもこれまでと比べれば未登記の数は少なくなると思われる。さらに、この義務化施行の重要なポイントは、施行は2024年4月ではあるものの「遡及適用がある」ということである。「遡及適用」つまり、過去に相続した不動産にも適用され、施行前に相続した不動産はすべて2027年4月1日までには相続登記を行わなければならなくなる。

これらの直接的な効果を通じて、今後あらゆる家庭において「相続問題」に関する話し合いが良い意味で行われるきっかけになるのではないか。これまで、筆者の元に寄せられる相続相談のほとんどは相続人側、つまり「子世代」からのものである。50代から60代というさまざまな情報にアンテナの立つ「子世代」にとって、「親の相続問題」は「親の介護問題」とも相まって、とても重要な心配事なのだ。そして、その「子世代」の悩みの最たるものが、高齢の親の「財産の状況」がわからない、あるいは聞きづらいというものだ。

僭越ながら筆者は拙著「実家の処分で困らないために今すぐ知っておきたいこと(かんき出版)」の中で、そうした乗り気にならない「親世代」に対して、「子世代」がどうやって話を切り出し、円満に話し合いを進めるかについて書かせていただいたが、今回の「相続登記義務化」は、その「親世代」自らが当事者になる問題だ。ややもすると相続問題は、親の財産をあてにするのか?といういさかいを生む可能性もあり、話し合いを躊躇する場合もあったであろうが、今回の問題は「親世代」の状況を共に考えることで、結果的に「子世代」と状況を共有する良い機会となるだろう。これが、筆者が考える間接的な効果である。

2023年4月からは、「贈与税」と「相続税」に関する税制も改正された。先日の本時事解説「住宅に関わる税制改正は2023年以降の住宅市場にどのような影響を与えるか」においても指摘したが、「暦年贈与」や「相続時精算課税制度」の改正により、より「親世代」の相続対策の動きが早期化され、活用も進んでいくようになると思われる。

これまで先行していた「子世代」に偏っていた問題意識が、ようやく「親世代」と共有化しやすくなることで、不動産に関する「放置」「放棄」という問題の未然解決が進む。そんな効果を期待している。

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