国債購入プレイヤーおよび購入額の減少で新発10年もの以上の国債金利が上昇

今後、住宅ローン金利は上がり続けるのだろうか今後、住宅ローン金利は上がり続けるのだろうか

ロシアのウクライナ侵攻および円安の発生によって、輸入資材・エネルギー価格、食料価格などが上昇を続けている。特に原油やレアメタルなどは価格が急上昇しており、消費者物価指数も上昇傾向が顕著だ。資材・エネルギー価格が上昇すれば、その多くを輸入に頼る住宅産業も建設費が確実にアップするから、将来的な物件価格に反映せざるを得なくなるだろう。

また、それに輪をかけて住宅購入予定者の不安の種となるのが、住宅ローン金利の上昇傾向だ。新型コロナ禍前の2019年後半には35年固定金利(実質適用金利)は1.1%前後、10年固定0.6%前後、5年固定0.8%前後だった住宅ローン金利も、2022年7月上旬現在35年固定で1.5%前後、10年固定1.1%前後、5年固定1.0%前後へと、この2年半で大幅な上昇を記録している。

この金利上昇の要因は、固定金利がその基準としている長期金利(代表的なものとして新発10年もの国債が挙げられる)が上昇基調にあるからだが、ではなぜ長期金利が上昇基調にあるのか。長期金利は基本的に名目GDPの成長率に収れんするから、それは経済活動が活性化したか物価上昇したかのどちらか、もしくはその両方ということになるが、今回の場合は輸入資材価格の上昇と円安による物価上昇が長期金利上昇の要因だ。しかも現在の日本では、輸出を主力とする産業の多くがすでに海外に生産拠点を置いていて、円安が進行しても直ちに企業業績の悪化にはつながらないため、円安を避けるためのドル売り円買いを行わないことも金利上昇の遠因といえる。

指し値オペを実施して国債を買い支えるのはほぼ日銀だけ(1日に1.5兆円買い入れる巨大なプレイヤーではあるが)という状況では、長期金利の上昇は避けられない。日銀が新発10年物国債の金利上限としている0.25%を6月上旬に突破して以降は、指し値オペを実施しても0.25%以下にはなかなか下げられておらず(7月上旬に0.229%まで下げたが再び上昇)、各国債償還期限の金利を結んだイールドカーブも10年もののみ極端に低いといういびつな曲線を描いている(下図参照)。

このような状況で、市中銀行が貸し出す住宅ローンの固定金利も今後は上昇する可能性が高いが、一方で変動金利は短期金利に連動しているため、皮肉なことに変動金利は極めて変動しにくく、固定金利は変動しやすい環境にあることも住宅ローン利用者は認識しておく必要があるだろう。

住宅価格の上昇だけでなく住宅ローン金利も上昇すれば、住宅市場の縮小は避けられないが、果たしてこの物価上昇はいつ頃落ち着きを取り戻すのか。今後の住宅ローン金利、固定金利と変動金利はどのように推移する可能性が高いのか、住宅ローン市場に詳しい有識者の見解を聞いた。

今後、住宅ローン金利は上がり続けるのだろうか国債償還期限の金利を結んだイールドカーブも10年もののみ極端に低いという歪な曲線を描いている

今回の時事解説論旨まとめ

論旨:ウクライナ侵攻や円安を契機に長期金利が明らかに上昇し、長期金利に連動する住宅ローン固定金利も上昇傾向にある。今後、金利動向や住宅市場はどうなるのだろうか?

岡本氏:家計の金融資産が投資へ向かえば、資金需要が高まり金利を押し上げる

北川氏:賃金の上昇が伴わない金利上昇は、実需の住宅購入を直撃する

吉田氏:家計や住宅事業への影響が懸念され、上昇局面に備えた準備が喫緊の課題に

以下、各氏のコメントを見ていきたい。

家計の金融資産が投資へ向かえば、資金需要が高まり金利を押し上げる ~岡本 郁雄氏

<b>岡本 郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本 郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3,000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

総務省が発表した2022年7月度の消費者物価指数(総合指数)は、前年同月比2.6%の102.3(2020年を100とする)。前月比では、0.4%の上昇となった。一方、日本銀行発表の2022年7月度の国内企業物価指数は、前年同月比8.6%上昇の高い伸びとなっている。輸入物価指数は円ベースで、前年比+48%となっており円安の影響を大きく受けている。品目によっても異なるが商品への価格転嫁が進めば秋以降さらに物価が上昇する可能性は高い。

しかし、アメリカやヨーロッパと比べると日本の物価上昇率は低い。日本の物価上昇の多くは、前年同月比で19.6%上昇している電気代や24.3%上昇している都市ガス代などエネルギー価格の上昇によるもので(いずれも2022年7月)、欧米のように賃金上昇を伴っていない。インフレを抑えるためには、消費を冷やすことが重要だが日本においては当てはまらない。よって、今の段階で欧米のようにインフレを抑えるために政策金利を上げることは考えにくいだろう。

一般的に、短期金利よりも長期金利のほうがリスク・プレミアムによって金利が高くなる傾向にある。固定金利期間が10年以下の金利が抑えられているのは、日本銀行の金融政策によって恣意的に抑えられているから。それ以上の期間の金利が上昇しているのはリスクを織り込んでいるからだ。

IMFが発表した2022年7月時点の世界経済見通しによれば、2023年実質GDP増減率は、アメリカが1.0%、ユーロ圏が1.2%となっており日本の1.7%を下回っている。欧米の政策金利の引き上げは今後も続くが、景気が悪化しインフレが終息すれば政策金利の引き上げも止まる。アメリカの政策金利は2006年に5%を超えているが、どこまで金利の引き上げが続くか注視が必要だ(2022年7月時点で2.5%)。

建築費は、マンション、一戸建てともに上昇しており、価格転嫁が本格的に始まるのはこれから。ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギーや資源価格の上昇、急激な円安などが要因だが、戦争が長期化しており終わりが見えない。2022年7月度の首都圏新築一戸建ての新規登録価格は大きく上昇している。工期の長いマンション価格が上がるのは2023年度以降だろう。新築一戸建ての7月の首都圏在庫件数は、対前年同月比+56.4%と増加傾向にある。今後在庫が増え続ければ、一戸建ての市場価格はいったん落ち着くかもしれない。

2023年4月に、日本銀行の黒田総裁が任期を迎える。極端な円安など外部環境に変化がなければ、任期までは日本銀行の金融政策が維持され低金利が続く可能性が高い。次の総裁の下、現在の金融緩和路線が引き継がれるのかどうか。岸田政権は資産所得倍増を掲げているが未来への投資なくして資産が増えることはない。現金・預貯金が多くを占める家計の金融資産が投資へ向かえば、資金需要が高まり金利を押し上げる可能性が高い。変動・固定どちらの金利を選ぶにしても借りすぎには注意したほうがいいだろう。

賃金の上昇が伴わない金利上昇は、実需の住宅購入を直撃する ~北川 友理氏

金利上昇の可能性が高まっている。住宅・不動産企業の間では、「日銀総裁が変わる来年度早々に最初の上昇があり、だんだんと高めていくのではないか」と予想されており、各社は金利が上がる前提で今後の用地仕入れの規模や供給戸数の調整を検討している。実際に金利が上がった場合、実需での住宅購入にどのような影響があるかを想定しながら事業を進めているのが現状だ。

今後の金利動向の影響については、現時点で記録的な金利上昇が続いている米国の一戸建て住宅市場が参考になる。
米連邦住宅貸付抵当公社の調査によると、米国の30年固定住宅ローン金利は3%台だった年初から、8月は5%超に上昇した。住宅ローンの申請件数は減り、22 年ぶりの低水準にある。テレワークに象徴される新生活様式の普及が追い風となり、ウッドショックなどがもたらす販売価格の上昇に見舞われても住宅は売れ続けてきたが、金利上昇で市場は一気に冷え込んだ。

一方、こうした逆風下にある米国の市況で好調な業績を挙げている日系の大手ハウスメーカーは現地企業をM&Aで傘下に加え、一戸建て住宅事業を展開している。上期の業績が好調で今年度通期の販売予想金額は前期比1割強の増加を見込んでいる。販売棟数は約3%減るが、販売単価は4割近く上がる見通しで、単価の上昇が業績を牽引している。

同社の強みは経済成長と人口増加が著しい都市部に厳選して進出していることだ。そうした地域は住宅販売価格と金利上昇を、賃金上昇による世帯年収の増加がある程度相殺している。住宅販売価格は世帯年収倍率が約6倍と例年並みで推移し、住宅ローン市場は無理な貸し付けや破産件数の目立った増加もない。販売価格が1年間で4割近く上がり、金利が5%を超えても世帯年収の上昇が伴えば市場は維持される。

しかし、日本国内は世帯年収の頭打ちが続いている。購入者は現在の超低金利を前提に変動金利で長期のダブルローンを組むのが一般的だが、金利が上昇した場合はより慎重な購入計画が必要になる。多くの事業者は開発と供給の規模を縮小し、一方で販売物件の高付加価値・高価格化を進めて利益を確保する方向に進むだろう。米国の事例を見ても、金利の上昇は賃金の上昇と両輪であるべきだ。賃金上昇が伴わない金利上昇が続けば、平均的な一次取得層が住宅を購入するのは困難になる。好調な住宅市場が縮小し、購買力の高い限られた層を奪い合う展開になりそうだ。


北川友理:不動産業界専門紙「日刊不動産経済通信」記者。京都市出身。1987年10月生。地方新聞記者を経て、2018年に不動産経済研究所入社。以降ハウスメーカー担当

家計や住宅事業への影響が懸念され、上昇局面に備えた準備が喫緊の課題に ~吉田 資氏

<b>吉田 資</b>:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など吉田 資:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 主任研究員。三井住友トラスト基礎研究所を経て、2018年よりニッセイ基礎研究所で調査・研究業務に従事。専門分野は、不動産市場、投資分析など

住宅金融支援機構「2021年度 住宅ローン貸出動向調査」によれば、「住宅ローンの金利設定に考慮する要因」に関して、固定金利、変動金利ともに、「競合する他機関の金利」との回答が最も多く、次いで「スワップ金利」「長期国債流通利回り」が多かった。住宅ローン金利は、固定金利は融資時の長期プライムレート、変動金利は短期プライムレートに一定幅を上乗せして決定すると説明されることが多いが、実務上は上記の市場金利や他社の動向を考慮し決まっている。足元の長期国債利回りやスワップレートの上昇は、住宅ローン金利の押し上げ要因となろう。

日銀の黒田総裁の任期満了(2023 年4月)を控えて、金融政策の行方に注目が集まっているが、仮にすべての金融政策が解除された場合、ニッセイ基礎研究所の推計によれば、長期金利は1.1%程度上昇する可能性がある。今後、金融政策の変更(正常化)が行われた際には、住宅ローン金利は現在の水準から大幅に上昇すると見込まれる。

ところで、日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(2022年6月調査)によれば、金利水準について、「金利が低すぎる」との回答が49%と約半数を占めている。また、住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」(2022年4月)によれば、「今後1年後の住宅ローン金利見通し」について、「現状よりも上昇する」との回答が39%を占め、「現状よりも低下する」との回答を大幅に上回った。一般消費者は現在の金利水準は低いとの認識があり、住宅ローン金利も遠くない将来に上昇すると考えていることがうかがえる。

一方、住宅金融支援機構の調査によれば、「金利上昇に伴う(住宅ローン)返済額増加への対応」に関して、「見当がつかない、分からない」との回答が約2割を占めている。住宅ローンの上昇を懸念しつつも、その対応策・準備が十分ではない世帯も多いようだ。三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2022年)によれば、住宅購入時の頭金比率に関して、44%の世帯は「頭金ゼロ、もしくは1割程度」と回答しており、30歳台に限定すると66%に達している。加えて、住宅ローン利用の約7割が変動金利であることを鑑みると、住宅ローン上昇局面における家計への影響が懸念される。

また、野村不動産ソリューションズの調査によれば、住宅が今、買い時かどうかを判断する材料として、住宅ローンの水準を挙げる人は多い。米国では、住宅ローン金利の大幅な上昇が住宅需要の足かせとなり、住宅販売件数は減少した。日本においても、住宅ローン金利の上昇に伴う購入マインドの低下等が懸念される。
住宅ローン金利の上昇がにわかに現実味を帯びてきているなか、住宅事業者、家計ともに上昇局面に備えた準備・対応策の策定が喫緊の課題となるだろう。

公開日: