交通アクセスと生活利便が両立する京都・伏見稲荷エリア
京都市伏見区の京都市立伏見工業高等学校の跡地で、京都市が推進する「脱炭素先行地域計画」に基づく、多世代共生型の新たな街づくりプロジェクトが進んでいる。
京都市伏見区は京都市の南東部に位置する行政区で、京都市11区の中でも面積・人口ともに最大級を誇るエリアである。伏見エリアの地下には良質な伏流水が豊富に流れており、「伏見の名水」を活用した日本有数の日本酒の産地として発展してきた。安土桃山時代に豊臣秀吉が伏見城を築き、城下町や港町として大きく発展した歴史も知られている。
そのなかでも、伏見稲荷エリアといえば、多くの人が「伏見稲荷大社」の観光イメージを思い浮かべるだろう。しかしこのエリアは観光だけでなく、交通と生活インフラが整う、暮らしやすさが魅力の街でもある。
まず注目したいのは、京都駅や大阪方面へのアクセスの良さである。エリア内のJR奈良線稲荷駅を利用すれば、京都のターミナルである京都駅まで約5分で到着する。さらに、京阪本線伏見稲荷駅や龍谷大前深草駅を利用した場合、祇園四条や三条といった市内の繁華街へ直行でき、特急の乗り継ぎで大阪方面にもアクセスできる。
生活環境に目を向けると、観光地の賑わいとは異なる落ち着いた住宅街の一面が見えてくる。周辺には大型スーパーやコンビニ、ドラッグストアが揃うため、日々の買い物で困る場面は少ない。さらに龍谷大学のキャンパスが近くにあるため、学生向けの飲食店や店舗も多く、街全体に活気がある。古くからの団地も残り、長年住む高齢者から学生までが暮らす下町的な温かさも感じられる。
鴨川や琵琶湖疏水といった水辺の自然も近く、休日には散策を楽しむ人の姿も見られる。都心に近い立地でありながら自然や歴史の背景を感じられる点は、住宅地としてのポテンシャルを押し上げる要素と言えるだろう。
今回紹介する計画地は、こうした「観光と生活のハイブリッドゾーン」に位置している。
【LIFULL HOME'S】伏見稲荷駅の不動産・住宅を探す
【LIFULL HOME'S】伏見稲荷駅の投資用不動産を探す
新しい暮らしの舞台となる伏見工業高校跡地
かつてこの地にあった京都市立伏見工業高等学校は、1920年の創立以来、長きにわたり多くの技術者を世に送り出してきた名門校である。また、ラグビー部の活躍は全国的に有名で、テレビドラマ「スクール ウォーズ」のモデル校として広く知られてきた。情熱的な指導と生徒たちの成長を描いた物語は、多くの人々の記憶にも残っているはずだ。
しかし少子化や教育ニーズの変化に伴う学校再編により、2016年に京都市立洛陽工業高等学校と統合され、新たに京都市立京都工学院高等学校が開校した。これに伴い、伏見工業高校としての歴史は、定時制が閉校した2024年3月末をもって完全に幕を下ろすこととなった。
そこで京都市は、伏見工業高校の跡地に加え、隣接する元南部配水管理課用地を含めた約4万m2の土地を、地域の活性化や社会課題の解決に役立てる形で活用する方針を固めたのである。京都市が「若者・子育て世代の定住促進」や「脱炭素社会の実現」などのテーマでプロジェクトを公募した結果、阪急阪神不動産株式会社・京阪電鉄不動産株式会社・積水ハウス株式会社を主体としたまちづくり計画が動き出した。
学生からシニアまで同じ街に暮らす次世代脱炭素街区の全体像
新しいまちづくりは、全549世帯・約1,600人が暮らす街を舞台に、多世代が同じエリアで生活する将来像を見据えた官民連携の大規模プロジェクトだ。
敷地内には、ファミリー向けの分譲マンションや一戸建て住宅に加え、少人数世帯向けのコンパクト分譲マンション、学生・社会人寮なども計画されている。さらに地域貢献施設や公園も組み合わせ、住まい・交流・日常の場がそろう「一つの小さな街」を形づくるイメージである。
想定する居住者も幅広い。近隣の大学に通う学生から都心勤務の単身者、子育て世代、シニア世代までが同じ街に暮らす前提で設計されている。世代やライフステージが異なる人々が近い距離で暮らすことで、自然な交流が生まれる環境を目指す姿勢が読み取れる。
ハード面の整備に加え、地域や大学などと共創する「開かれたタウンマネジメント」の仕組みも特徴的だ。龍谷大学や京都信用金庫、地域団体などが参画する「タウンプラットフォーム(仮称)」の設立が予定されていて、自治会や管理組合とも連携しながら、地域の交流・支え合い・魅力づくりなどを促進する活動が行われる。住民だけで課題を抱え込まず、外部の知見も取り込みながら街を育てる取り組みは、従来の住宅開発とは異なるポイントとなるだろう。
京都市は、若者・子育て世代の市外流出を課題として挙げており、子育て世代が暮らし続けやすい環境づくりを政策的に進めている。伏見稲荷エリアが観光地としてだけでなく、暮らす場所として再評価される流れが生まれれば、地域の活性化にもつながる可能性がある。
住宅だけでなく街全体で省エネを進める脱炭素の具体策
「次世代脱炭素街区の創出」と銘打ったこのプロジェクトの特徴は、省エネと創エネを街区全体で組み合わせ、エネルギーの地産地消を目標に据える点にある。
建物単体ではなく、住宅・施設を含めた街として高い環境性能を目指す構えだ。住宅の性能面では、分譲マンションに「ZEH-M」、一戸建て住宅には「次世代ZEH+」など、高い省エネ性能を前提とした仕様が掲げられている。
ZEHは、断熱性を高めて冷暖房のロスを抑え、高効率な設備を組み合わせ、年間のエネルギー収支を限りなくゼロへ近づける考え方である。地域貢献施設や学生寮などでも「ZEB-Ready」や「ZEH-M Oriented」といった基準を採用し、用途が異なる建物も含めて街区全体の省エネを底上げする方針だ。
加えて、つくった電気を無駄なく回す仕組みにも注目したい。
各建物に太陽光発電を導入し、発電した電力を家庭内で使うだけでなく、蓄電池や電気自動車にも活用する構想が示されている。平常時は再エネの自家消費を高めて購入電力を抑え、災害などで停電が発生したときは、溜めた電力を非常用電源として使えるようにする。発生するCO2を減らすだけでなく、災害に強く、経済的で快適な暮らしを提供する点こそ、この街の真価と言えるだろう。
脱炭素✕多世代共生は京都の暮らしをどう変えるのか
今回のような大規模なまちづくりでは、計画そのものの魅力に加えて、周辺地域とのすり合わせが重要になる。なかでも焦点になりやすいのが交通面である。
計画地周辺は伏見稲荷大社の玄関口にあたり、観光客の往来が多いエリアだ。そこに全549世帯規模の新たな住民の暮らしが加われば、車の出入りや人の流れが変わるのは避けられない。実際、地域側からは渋滞への懸念や生活道路の安全確保を求める声が出ている。
公園や地域貢献施設も「作って終わり」ではなく、既存住民と新しい住民が自然に交わる、真に開かれた空間となるかが問われるだろう。事業者には、住民の不安を小さくする説明と、具体策の積み上げが求められる。
まちびらきは2028年3月頃が見込まれている。数年後には、かつて伏見工業高校があった広い敷地に、新しい日常の風景が立ち上がっているはずだ。
スクール・ウォーズの舞台として記憶された場所は、環境先進都市・京都のシンボルへと姿を変えていく。脱炭素と多世代共生を掲げた街が形になれば、伏見稲荷エリアの「住む価値」はどう変わるだろうか。観光地の近くで暮らす形が、これからの京都の暮らし方の一つとして定着するのか。街の完成後の姿を見届けたい。
公開日:














