(仮称)千代田区一番町計画の概要と立地
皇居に面する千代田区一番町。その中にあって150年以上の歴史を有する駐日英国大使館があることをご存知だろうか。
現在、この英国大使館に隣接する約0.9ヘクタールの土地においてマンションの建築工事が進められている。建築工事が進められているエリアは、英国大使館の所有地であった場所であり、英国政府によれば、以前の大使館の総敷地面積は約3.5ヘクタールであったとしている。この面積は、東京ドームの約7割に及ぶ広さとなる。
この英国大使館敷地のうち、利活用の程度が低かったエリアとされた約0.9ヘクタールが2022年に国内の民間企業(不動産ディベロッパー)へ売却が行われ、その後、売却先である不動産ディベロッパーにおいて再開発計画が立てられた。当該地では、2024年に開発行為(都市計画法に基づく造成宅地の行為)が行われたが、現地からは遺構が見つかり、弥生時代後期のものとみられる竪穴建物跡が40基以上確認されたほか、江戸時代の大名屋敷の基礎跡や麹室跡などが見つかっている。
考古学上、貴重な遺跡として約1年間に及ぶ現地調査が行われたことで、建築は2025年1月からの着手となった。
建築工事が進められているエリアは、千代田区一番町に位置している。東京メトロ半蔵門駅に近接し、北側は、英国大使館、南側は皇居外苑半蔵門園地に接している。東側は内堀通りに面しており、当該通りを挟んで皇居、千鳥ヶ淵公園や半蔵濠が位置している。企業のオフィスをはじめ官庁系の公的な施設、住宅、国道20号線沿いには中小の商業施設が立地している。
現時点における開発地での建築計画の概要は次のとおりとなっている。
<建築計画の概要>
・建築物の名称:(仮称)千代田区一番町計画
・用 途:共同住宅
・敷地面積: 9,259.31m2
・建築面積: 4,354.08m2
・延べ面積:83,127.89m2
・構 造:鉄筋コンクリート造
・規 模:地下4階、地上14階、高さ59m
・建築主 :三菱地所レジデンス株式会社、東急不動産株式会社、東急株式会社
・設計者 :三菱地所設計・鹿島建設 設計共同企業体
・施工者 :鹿島建設株式会社東京建築支店
・完了予定:2030年6月30日
※出典:東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例第5条第1項による標識看板(2025年11月3日時点)
なお、現時点において販売事業者による戸数や間取り等に関しての公式プレスリリースは行われていない。このため、今後、公式リリースにより販売開始時期や戸数、間取りなどが明らかになると想定される。
駐日英国大使館敷地の一部が売却された背景
2023年、英国政府は駐日英国大使館敷地の一部を三菱地所を主幹事とする民間企業への売却を2022年に完了したことを明らかにしている。この取引の背景には、2015年に行われた日本政府との土地交換契約がある。
大使館の土地は、1872年に英国大使館が当該地に立地(当時は英国公使館)して以来、日本から英国へ貸与された「借地権」の状態であった。しかし、英国によるグローバル資産の管理計画に基づき、日英間での土地の整理に関する協議が行われ、2013年には日英間で等価交換に関する基本合意がなされ、2015年には日本政府が土地の一部の返還を受け、残りの土地を英国政府が所有権を得ることとなった。この英国政府による所有権の取得が、のちの民間企業への売却につながっている。なお、この際に日本政府が取得した土地は全敷地の5分の1にあたる約7,000m2となっている。
英国政府は、所有権の取得後、大使館敷地7エーカー(約2.8ヘクタール)のうち、主に職員宿舎として利用されていた2.3エーカー(約0.9ヘクタール)の売却手続きを進めた。その後、法手続きにより交渉権を獲得した三菱地所を主幹事とする民間企業に売却することが決定された。英国政府によれば、2022年4月までに当該企業への売却を終えたとしている。また、英国では、売却により得られた資金の一部は、大使公邸や大使館本館の改修、外交政策等に充てる予定としている。
したがって、今回のマンション開発の背景には、土地の権利関係の整理として2015年の日本政府との土地交換契約による所有権としての資産整理が第一歩としてある。次にグローバル資産管理計画に基づき、あまり活用されていなかった敷地の一部を売却して資金を確保することで、更新が必要となっていた自国の駐日英国大使館の維持修繕や機能更新、外交政策に使うことが背景にある。ちなみに、英国政府では世界でも同様に資産整理を進めており、近年では2018年にタイの大使館敷地でも実施され、約4.8億ポンド(約650億円)の資金を獲得している。
開発エリア周辺を含めた歴史
マンション開発地である英国大使館敷地の歴史は古く、江戸時代は旗本・大名屋敷が立地していたエリアである。最寄り駅である半蔵門駅は、旧甲州街道に面する半蔵門があったことがその名に由来する。現在、皇居警備上、半蔵門へ立ち入ることはできないが、近い位置から望むことができる。
この皇居の西側エリアである麹町・一番町周辺は、江戸時代には旗本屋敷や大名屋敷が多く立地していた。開発地であるエリアには江戸時代末期に、大和新庄藩永井家(現在の奈良県)や七戸藩南部家(現在の青森県)の屋敷が建てられていた。
明治に時代が変わってからは、1872年に当該地に英国公使館の立地以来、150年以上にわたり都心一等地の中において約3.5ヘクタールという広大な敷地を有していた。現在は、2015年の日本政府との等価交換、2022年の三菱地所等への売却により敷地面積は、約1.9ヘクタールとなっている。
なお、2015年に日本政府との等価交換により返還された約7,000m2の土地は2023年3月にイングリッシュデザインを取り入れた国民公園(正式名称:皇居外苑半蔵門園地)として開園(日中のみ一般開放)した。園内では、2015 年2月に当時のケンブリッジ公爵ウイリアム王子が旧英国大使館敷地内に手植えした桜「太白」をみることができる。
開発エリア周辺の人口・周辺環境・防災
マンション開発地である千代田区一番町周辺は、民間企業や公共施設、共同住宅などが混在立地しているエリアとなっている。千代田区の総人口は2025年10月時点で約6.9万人であるが、町丁別でみると最も人口が多いのがこの一番町であり、約4,000人が居住している。また、一番町の北側に位置する三番町でも約3,900人が居住している。このように開発地エリア周辺では約1万近い人口を抱えており、千代田区内でも最も人口が多いエリアとなっている。
平日は、オフィスワーカーが多いが、土日祝は、比較的人通りは少なく中高層の建築物が立ち並ぶ閑静な住宅街に変わる。特に、休日は、ウォーキングや愛犬を連れての散歩、公園で遊ぶ親子の姿を目にすることができる。また、周辺住民以外にも皇居ランナーや千鳥ヶ淵公園の散策、英国大使館前の緑道を散歩する訪日客を目にする。
防災・治安面でみると、高台に位置しているため水害の恐れも少ない上に、麹町警察署が近接しており治安が安定している。歴史的に見ても、江戸時代より番町(旗本のうち、将軍警護に従事する役職の番方(武官)の屋敷)として発展してきた風格を残している街としての印象を受けるとともに、皇居や霞ヶ関に近接してきた経緯から高級住宅地として発展してきた様子も垣間見える。加えて、国道20号線沿いには中小の商業施設が数多く立地しており、日用品の購入や外食にこと欠くことはない状況にあり、都心の一等地にありながらも利便性や自然環境の両方を享受できる市街地空間が広がっているのは希少性が高い。
交通利便性
今回のマンション開発地の最寄駅は、東京メトロ半蔵門線の半蔵門駅となる。半蔵門駅の最寄出口からは徒歩約3分の距離に位置している。
また、半蔵門線は、渋谷駅や大手町駅、押上駅などの主要駅を結んでおり都内の移動は容易である。さらに、エリアから少し離れた位置には東京メトロ有楽町線の麹町駅やJR総武線各駅停車・東京メトロ南北線・都営新宿線が乗り入れている市ヶ谷駅が位置している。
仮称)千代田区一番町マンション計画概要まとめ
高級マンションとして計画されている「(仮称)千代田区一番町計画」は、2022年に英国政府によって売却された駐日英国大使館の跡地の一部(約0.9ヘクタール)で進められている規模の大きい再開発事業である。
英国が公表した会計官報告によれば、今回の売却は数百億円規模の資金をFCDO(英国外務・英連邦・開発省)にもたらし、その資金の一部は大使公邸や大使館本館の改修に充てられる予定だ。開発における事業主は三菱地所レジデンス、東急不動産、東急の3社で構成される共同事業体であり、設計は三菱地所設計と鹿島建設、施工は鹿島建設が担当する 。
計画されている建物は、地上14階、地下4階建て、高さは59.0m、延床面積は約83,000m2に及ぶ 。2025年1月末に着工しており、2030年6月末の竣工が予定されている。
今回の計画に注目できる最大の理由は、その立地にある。敷地は東側で皇居の半蔵濠に面し、北側は現在も外交活動の拠点である英国大使館に、南側は2015年に返還された大使館跡地を整備して開園した「皇居外苑半蔵門園地」に隣接している。
都心の一等地でありながらも皇居の豊富な緑と歴史的な水辺に近く、英国の歴史を継承するこの場所は、都心において他に類を見ない条件を備えている。加えて、半蔵門駅までは徒歩約3分の距離に位置しており交通利便性も高い。
このような背景から、開発されるマンションは都内でも最高水準の物件になると見込まれ、これまで歩んできた歴史や文化、恵まれた周辺環境の状況を踏まえ、都内でも比類のない特別な価値を持つ住宅になるといえる。
なお、開発に先立って行われた遺跡の発掘調査は、千代田区による区内の発掘調査としては過去最大規模であったとしている。また、当該調査により弥生時代後期の集落跡が発見されるなど土地が持つ歴史の深さも明らかになっている。なお、千代田区では2027年3月末までに遺跡の発掘調査の結果をまとめるとしており、報告書作成後は、展示等が実施されると期待される。
【出典】
・駐日英国大使館(2015年8月)「Land handover ceremony at British Embassy Tokyo」
・英国外務・英連邦・開発省(2021年10月)「FCDO agrees partial sale of British Embassy Tokyo estate」
・英国外務・英連邦・開発省(2023年9月)「British Embassy and Residence Tokyo compound refurbishment: accounting officer assessment (September 2023)」
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