工業都市から若者が選ぶ街へ。60年続いた人口減少からの歴史的転換
北九州市は1963年に門司市、小倉市、若松市、八幡市、戸畑市の5市が合併して誕生した。合併時の人口は103万人で、「九州初の100万都市」であり、1979年に福岡市に抜かれるまで九州最大の都市であった。
しかしながら、八幡製鉄を基幹産業として栄えた街は、製造業の衰退とともに長い人口減少の時代を経験してきた。市誕生から3年目以降、実に59年間にわたって転出者が転入者を上回る「社会減」が続き、2003年からは出生数が死亡数を下回る「自然減」も加わり、人口減少に歯止めがかからない状況が続いていた。
しかし2024年、この流れに大きな転機が訪れた。市が発表した最新の人口統計で、市内への転入者数が市外への転出者数を492人上回り、1964年以来実に60年ぶりに社会増(転入者が転出者を上回る状態)を実現したのだ。この歴史的な変化について、北九州市政策課の泊圭子課長と藪幸佑係長に詳しく話を聞いた。
20代・30代と子育て世代が牽引、データが語る人口動態の好転
2024年の人口動態を世代別に見ると、最も改善したのは20代だ。加えて0〜14歳の子ども世代と30代の親世代も大きく改善している。これらの世代は前年の2023年から状況が好転し、特に30代は過去10年間で最も良い数値を示した。地域別に見ると、九州各県からの転入超過に加え、東京都や福岡市などへ転出も減少している。
市政策課では特徴的な動きとして、子育て世帯(0〜14歳の子どもがいる世帯)の動向も分析。全体として転入超過となっており、子育て世帯の流入が目立っていることがわかった。
「加えて、20代、30代の転出数がかなり減りました。遠方からの転入者や、若い転入者が多く、就職、転職、転勤など、仕事と一緒に移動してくる方が多い年でした」と泊課長は説明する。コロナ禍で一時停滞していた人の動きが回復し、さらにコロナ前よりも良い水準になっているのが今回の特徴だ。
ITで変わる雇用環境、「何十年ぶり」の都心オフィスビル建設
「北九州市には、事務系の仕事を望む若者が多いんです。有効求人倍率を見ても、建設業や製造業は人手不足ですが、事務職は十分に足りていました。その状況で、IT企業を誘致して雇用を増やしたことが、転入者の増加に寄与しているのではないでしょうか」と藪係長は分析する。
都心部でのオフィス環境の改善も特筆すべき点だ。 2024年にはセキュリティ設備のある新しいオフィスビルが市中心部に建設された。工場や製造業でも、本部機能や企画・総務部門が、若い人材の採用・定着のために都心に出てきている傾向があるという。
また、北九州市は企業誘致において、アジア市場への近さと地震リスクの低さ、陸海空とも充実した交通インフラという強みを持つ。こうした強みを生かして誘致活動を加速させている。
また、北九州市は企業誘致において、アジア市場への近さと地震リスクの低さ、陸海空とも充実した交通インフラという強みを持つ。こうした強みを生かして誘致活動を加速させている。
「車で少し走れば平尾台」。子育て環境と住みやすさが生む移住の決め手
転勤や移住で北九州市に来た人からは「北九州市は住みやすい」という声がよく聞かれるという。「住みやすさ」も人口流入の重要な要因だ。
充実した交通インフラは大きな強みだ。市の中心駅である小倉駅からは、東西にJRと路線バスが、南北にモノレールが走る。通勤時間が短く、生活にゆとりが生まれるのだ。
子育て環境の充実も見逃せない。「第二子以降の保育料無償化」など子育て支援策に積極的に取り組んでいる。また、市内には1,720(2022度末時点)の都市公園があり、市民一人あたりの面積は12.9m2で、全国平均の10.8m2、政令指定都市等平均の6.9m2を上回る。 自然環境の豊かさも魅力で、車を30分ほど走らせると、国定公園の平尾台へとアクセスできる。
生活コストと利便性のバランスの良さも評価されている。東京や福岡市と比べて住宅費が安いにもかかわらず、必要な都市機能が揃っており、特に医療機関が充実している。人口10万人あたりの病床数は、政令指定都市のうち、病院が第2位、一般診療所が第3位となっている(2022年10月時点) 。
Z世代が発信する新しい街のイメージ。地元愛とシビックプライドの高まり
人口動態を左右する要素として見逃せないのが、街のイメージ改善だ。インターネット上で「修羅の国」などと揶揄されることもあった北九州市だが、ここ数年で明るいニュースが増えたことが住民意識にも影響を与えている。
例として、小倉城の石垣を活用したゲーム大会など、Z世代向けのイベントや取り組みが功を奏している。これは小倉北区役所のZ世代の職員の発案によるものだという。泊課長は「若い人が持つ、北九州市には何もなくて寂しい、面白くない、という印象が変わり始めています」と手応えを語る。
こうした変化は市民意識にも表れている。アンケートによると、「北九州市に住み続けたいと思う」と答えた市民の割合は84%と過去最高を記録。以前は「好きだけど誇りを持てない」と自虐的な表現をする市民も多かったが、そうした傾向が薄れ、シビックプライド(市民の地域への誇り)が高まっているという。
60年ぶりの社会増はスタートライン。女性と若者に選ばれるまちづくりの次なる挑戦
北九州市はこの60年ぶりの社会増を一過性のものにしないため、さらなる人口戦略に取り組む考えだ。
特に注力するのが「女性の流出対策」だという。男性に比べて女性は市外流出の傾向が強く、改善はしているものの依然課題が残るため、「女性に選ばれる街に」との観点から、当事者の声をすくい上げてピンポイントで政策に反映させる取り組みを始めている。
また、若い起業家を呼び込むスタートアップ支援にも力を入れる。他都市より制約の少ない支援体制で起業家を応援し、市内の九州工業大学などの学術機関とタッグを組んだ取り組みにも可能性を見いだしている。
これらの取り組みに加え、北九州市ならではの強みの再発見と発信も重要だ。若者向け雇用の創出、子育て環境の充実、街のにぎわい創出など、これまでの施策が実を結び始め、60年ぶりの社会増という歴史的な転換点を迎えた北九州市は、今後も持続可能な人口増加に向けた取り組みを進めていく。
「若い人が集まる街には、新しいことに挑戦できる雰囲気が必要です。鉄鋼業の中心地として発展した北九州市にはもともと全国から人が集まり、他者を受け入れる風土があります。60年ぶりの社会増はゴールではなくスタートライン。この強みを生かして若者と子育て世代の好循環をつくっていきたいですね」と泊課長は力強く語った。
公開日:
LIFULL HOME'Sで
住まいの情報を探す
北九州市の賃貸物件を探す
北九州市のマンションを探す
北九州市の一戸建てを探す
売却査定を依頼する
【無料】住まいの窓口に相談









