村の資産である東濃ひのきを有効活用し、木材出荷量や建築業の売上増加につなげる

四季折々の季節の移ろいを楽しむことができる、自然豊かな東白川村四季折々の季節の移ろいを楽しむことができる、自然豊かな東白川村

岐阜県の中東部、木曽川の上流域に位置する東白川村。総面積8,709ヘクタールの約90%が森林という、お茶(美濃白川茶)とひのき(東濃ひのき)と清流(白川)が有名な、人口2,057人(2024年4月1日現在)の自然が美しい村。
なかでも高級ブランド材として人気の「東濃ひのき」は、原木の年輪が均一で美しい木目が特徴。耐久性が高く住宅建材に好適な木材であることに加え、使い込むほどに風合いと愛着が増す、経年変化を楽しめる木材であるのも魅力だ。

そのブランド材として名高い東濃ひのきを使い、自治体が中心となって安定した雇用の創出や、林業・建築業の収入増加に結び付ける「村おこし」に成功しているのが東白川村だ。どのような取り組みを行っているのか、また東濃ひのきを使った家の魅力、今後の課題などを、東白川村役場 フォレスタイル事務局の古田千也さんにお聞きした。

東濃ひのきを使った家づくりを東白川村役場がサポートする「フォレスタイル」

地元の優良な木材を産直価格で提供。建築費を抑えて家づくりができるのも魅力地元の優良な木材を産直価格で提供。建築費を抑えて家づくりができるのも魅力

フォレスタイルは、「東白川村の木を使って、東白川村の工務店が建てる産直住宅」を届ける東白川村の事業。ホームページを通して全国の木の家を建てたい人とつながり、シミュレーターを使って間取りや住宅設備など家のイメージづくりができるほか、工務店や建築士選びの無料サポート、さらに施工中はもちろん入居後も東白川村の職員がずっと寄り添ってくれる、「自治体がサポートする」安心の家づくりができるのが特徴だ。

自治体が運営するというこの上ない安心感のほか、優良な木材の産直価格での提供、「東濃ひのき」の柱のプレゼントなど、林業が盛んな東白川村ならではの多彩なメリットも見逃せない。木のぬくもりに満ちた理想の家を、卸売り会社や小売会社を省くことで流通コストを削減し、リーズナブルな価格で建築できることも多くの施主に喜ばれているという。

建築業界の活力低下と税収減の解決を目指してフォレスタイルを開始

フォレスタイルが始まったのが2010年(平成22年)。そのいきさつを古田さんにお聞きした。

「東白川村にはひのきの木がたくさんあり、森林組合や製材協同組合、プレカット協同組合、工務店など林業に関わる方が数多くいます。2010年当時、インターネットの普及によりハウスメーカーなどの家づくりの情報収集が容易になったこと、コストを抑えた家づくりを行うハウスメーカーの台頭により昔ながらのフルオーダーメイド住宅の需要が低下、また耐震偽装の問題が発生するなど、村の建築業界全体が下がり基調の時期で、村全体の平均所得も急激に下がっていました。村としても数々の事業者の救済、また平均所得が下がるということは税収減にも直結するため、税収の確保も急務となっていたのです。

そこで商工会と連携して村の産業構成を調べたところ、建築関連の事業が57%という調査結果が出ました。家を建てることができれば林業に需要が発生し、家を建てる工務店はもちろん、基礎工事や配線工事などの関連事業も潤うとの考えから、フォレスタイルが始まりました」と古田さん。

村の事業者を救うこと、そして村民の生活に必要な税収の確保のために始まったのが、東白川村名産の東濃ひのきを有効活用するフォレスタイルだった。

目の詰まった東白川村名産の良質な東濃ひのき。住宅建築が増えれば林業など関連産業も潤う目の詰まった東白川村名産の良質な東濃ひのき。住宅建築が増えれば林業など関連産業も潤う

素材のよさのほか、インターネットを利用した「自分で考える間取り」、求めやすい価格などが好評

東白川村の事業となるフォレスタイルは、「設計は建築士、施工は東白川村の工務店」「設計も施工も東白川村の工務店」の2種類のパターンから選ぶことができ、フォレスタイル(役場)が代理人となり、家づくりをしたい人と建築士、そして村内の工務店選びのサポートを行う。ホームページなどで気になる建築士や工務店をリストアップすると、フォレスタイルのスタッフが訪問・面談をすべて段取りし、当日はお客さま同行してフォローをしてくれる。

「家づくりの流れはさまざまです。何もわからない状態でお問い合わせをいただきご説明をすることもありますし、愛知県など都会のほうにお住まいの方は『設計は建築士に依頼したい』と具体的な話をいただくこともあります。時にはフォレスタイルの『木の家シミュレーター』を使って間取りを作成し、すぐに面談させてほしいという方もいらっしゃいますね。価格やプラン、担当者との相性などもありますし、相談に来られた方には、3社ぐらいの工務店を比較していただくようにおすすめしています」

フォレスタイルの家づくりの特徴のひとつが、ホームページ上で基本仕様や間取り、住宅設備などを自分好みに作成し、同時に概算費用を算出できるオリジナルの「木の家シミュレーター」だ。

「小さな村ですし、従来はリアルな接点というのでしょうか、身内や知人の紹介で家を建築するという工務店さまがほとんどでした。インターネットが普及した頃でしたのでそのような営業方法を見直し、インターネットを活用してもっと違う営業の仕方を模索して生まれたのが木の家シミュレーターです。

手で描くのが難しい間取りを自分で作成することができたら、より具体的に自分の頭でどんな家で暮らしたいかを考えられるほか、価格も概算で算出できるので、例えばA社、B社、C社の3社で同じ間取りで見積もりを出してもらい、価格やデザイン、断熱や耐震などの住宅性能、アフターサービスの充実さなどを比較検討できるなど、複数の工務店をさまざまな面から検討できるメリットもあります。
自分で間取りを作成したら、家づくりがより楽しくなると思いますし、最初は遊び感覚で間取りを作成していただき、何度も修正を加えて具体的になってきた段階で家を建てたいと考えていただけるのではないかと、ちょっぴり遊び心がある仕様になっています」

フォレスタイルのwebサイト内にある木の家シミュレーターで、楽しみながら間取りを作成できる。</br>概算費用が算出されるのも木の家シミュレーターの大きな特徴フォレスタイルのwebサイト内にある木の家シミュレーターで、楽しみながら間取りを作成できる。
概算費用が算出されるのも木の家シミュレーターの大きな特徴

フォレスタイルの効果などで、約10年間で平均所得が倍増。全国上位の伸び率を達成

2010年のフォレスタイル開始当初、14社あった工務店のうち会議などに参加したのは2社ほどだったという。
「『今までのやり方を変えたくない。今まで人付き合いで家を建ててもらっているので、その信頼関係を確立できないと家を建てたいと思えないし、トラブルにもなることが心配』などという理由から、尻込みをする工務店さまが多かったと聞いています。現在は10社ある村内のすべての工務店さまがフォレスタイルに参加してくださっています」と古田さん。

近年のウッドショックや物価上昇以前は村内の工務店で年間約20棟の受注があり、そのほとんどがフォレスタイル経由だったという。近年では2022年度は9棟中7棟、2023年度は12棟すべてがフォレスタイルでの家づくりだった。
「フォレスタイルを選択するかしないかで、お客さまから受注できる確率が変わると思います。お客さまはそれこそ1万円でも安く家を建てたいと建築費を気にされますので、木の魅力に加え、東濃ひのきの柱のプレゼントなどで建築価格を抑えられることなどから、フォレスタイルを使わない選択肢はほとんどないのではないかと工務店の方から聞いています」

平均所得の推移で見ると、2003年(平成15年)に400万円強あったものが、耐震偽装やハウスメーカーの台頭などもあり、フォレスタイルを開始した2010年(平成22年)は200万円強まで低下。その後フォレスタイルの効果などにより、2022年(令和4年)には平均所得が400万円ほどまで回復している。

「以前、総務省から連絡をいただき、全国にある自治体のなかで、過去10年で平均所得が増えている自治体の上位に東白川村が入っているとのことでした。フォレスタイル開始前の景気が落ち込んだ時期には、仕事が減ったことから廃業を考えた建築関係の方も多かったようですが、近年、受注が増えてきたことで『もう少し続けてみよう』という考え方に変わってきていると聞いています」

次回は東濃ひのきを使った木の家の魅力、フォレスタイルで家を建てた人への村からのプレゼント、今後の課題などについて紹介する。

東白川村内にある事業者の営業所得の推移。落ち込んだ所得が、近年、急回復している(資料を元に筆者作成)東白川村内にある事業者の営業所得の推移。落ち込んだ所得が、近年、急回復している(資料を元に筆者作成)

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