「不動産情報ライブラリ」を住まい探しに活用

「不動産情報ライブラリ」とは、不動産の取引価格や地価公示等の価格情報、防災情報など不動産取引に関する情報を地図上から閲覧できるサイトで、国土交通省が運営を行っている。

公開から3ヶ月が経過し、徐々に認知度も向上し、利用者も増えてきていると考えられる一方で、建築・不動産業界以外の方にとってはどのように活用したらよいのか分からないという方もいるのではないだろうか。

この記事では、「不動産情報ライブラリ」で得られる情報と、その情報をどのように住まい探しに活用できるのか分かりやすく解説していく。なお、「不動産情報ライブラリ」の全体概要は前回の記事(こちら)から確認できるので、公表に至った背景や経緯などを知りたい方はぜひ読んでほしい。

取引予定価格の妥当性が気になる

土地や建物の購入や売却の際に、不動産取引業者から示された価格が周辺の取引事例に照らして妥当な額なのか気になって自分で調べたという経験はないだろうか。従来であれば、地価公示や過去の取引価格情報を一括して閲覧できるサイトはなかったため、自分自身でコツコツと調べた経験がある方は手間だなと思ったことがあるのではないだろうか。

このような不動産取引の際に物件価格が妥当なのかはライブラリを使うと素早く調べられる。ライブラリで得られる価格情報は次のとおりとなっている。

☑︎ 国土交通省地価公示(毎年1月1日時点の情報で3月公表)
☑︎ 都道府県地価調査(毎年7月1日時点の情報で9月公表)
☑︎ 不動産取引価格情報(国がアンケート調査し加工した上で4半期ごと公表)
☑︎ 成約価格情報(指定流通機構保有の情報を国が加工し4半期ごと公表)

「地価公示」は、毎年3月に発表されニュースにもなるため知っているという人が多いとは思うが、地価公示から半年後には都道府県から公表されている「地価調査」もあり、前者は地価公示法、後者は国土利用計画法に基づき公表されている。

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「価格情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「価格情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

次に、取引価格情報は2種類を確認できる。

2種類とは、「不動産取引価格情報」と「成約価格情報」である。いずれも3ケ月ごとに公表されるデータとなっている。不動産取引価格情報は、国が不動産取引当事者へアンケート調査を実施しているもので、「町・大字レベル」で、取引価格や土地の面積・形状、建築年、前面道路や最寄駅などの情報を閲覧することが可能だ。

取引価格情報の公開制度は、2006年からスタートしたもので、現在までに累計で約517万件(2024年3月末時点)が掲載されている。同様に成約価格情報は、レインズ(国が指定した不動産流通機構が運営している情報システム)に登録された取引された情報を閲覧することができる。

調べ方は、「不動産情報ライブラリ」から「価格情報」(下図参照)をクリックし、地図上からそのエリアを選択すればよい。

なお、取引価格は取引が行われた場所が特定できないように匿秘処理されている情報となっており、物件を特定することはできない。また、注意してほしいのは、実務上の土地の価格は、さまざまな要因によって決まるため、地価公示や地価調査、取引価格情報などは参考値として妥当性を知る手段として使うことが望ましい。

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「価格情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「取引価格情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

居住予定地の災害リスクが気になる

ここ数年の住まい探しの特徴の一つとして、近年、急増している自然災害を受け「災害リスク」に対して意識している方が増えている。国でも相次ぐ洪水被害を受け、不動産の売買・賃貸時にハザードマップを用いて「洪水浸水想定」などの説明を購入者等に義務づける改正を2020年8月に実施している。

このような経緯もあり、物件を調べる際に、「どのような災害リスクの種類」があり、「発生頻度」、「被害の程度」を知りたいという方もいるのではないだろうか。ところが、重要事項説明時に説明を受ける災害リスクは数ある災害リスクの一部のみとなっており、災害リスクをすべて知りたいと考えている方のニーズを満たしているとは言い難い。

そこで活用できるのが「不動産情報ライブラリ」である。

なお、すでにハザード情報を取りまとめたサイトとして国が運営している「わがまちハザードマップ」や「重ねるハザードマップ」などある。これらの情報とライブラリの異なる点としては、災害リスク以外の取引価格や人口メッシュなどの情報と重ねて表示することができるのがライブラリの魅力となっている。

閲覧可能な情報は次のとおりとなっている。
☑︎ 洪水浸水想定区域(想定最大規模 1000年確率)
☑︎ 土砂災害警戒区域(特別警戒区域を含む)
☑︎ 津波浸水想定
☑︎ 高潮浸水想定区域
☑︎ 避難施設 (←各災害リスクに対応した避難先が分かる)
☑︎ 災害危険区域
☑︎ 急傾斜地崩壊危険区域
☑︎ 地すべり防止区域

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「防災情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「防災情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

住まい探しの際には、災害の種類、発生頻度、および被害の大きさを踏まえて、自身が「どの程度のリスクを受け入れるのか」によって、災害リスク情報の活用方法が異なる。例えば、建物被害の軽減や土地の資産価値に重点を置くのであればあらゆる災害リスクを避ける必要がある。一方で、建物に被害を受けても生命が守られればよいという考えであれば、避難を前提として避難先までの距離等を踏まえ、洪水浸水が想定されるエリアでも建築する考え方もできる。

いずれにしてもまずは災害リスクを理解することから始まる。

不動産情報ライブラリでは、不動産取引において最低限知っておいた方がよいと思われる情報はすべて網羅されている。なお、ライブラリには掲載されていないより詳細な災害リスクやリスクに対応した建物をつくりたいと考えている方は、建築士へ相談してほしい。

地域が将来的にどうなるのか気になる

将来、不動産の価格がどのように変化するのか、地価は高くなっていくのか、低くなっていくのか、周辺人口は減っていくのか、増加していくのか。または、周辺に大きな工場や物流倉庫が建築される可能性はあるのか。

どの部分の変化に重きを置くのかは人によるが客観的にみた場合、どのような情報が将来性を判断する場合の参考となり得るのかライブラリから得られる情報から3つほど簡単に紹介したい。

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「都市計画情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「都市計画情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

☑︎将来推計人口500mメッシュ
将来推計人口では、500m四方の人口が分かる。2050年までの5年ごとの人口と年齢別として、0~14歳(年少人口)、15~64歳(生産年齢人口)、65歳以上(高齢人口)のそれぞれの人口が分かる。このため、例えば、子どもが少ない地域や多い地域、高齢者が多い地域などが一目で分かることから、学区と重複して閲覧することで、将来的に学校が統廃合されて通学に伴う保護者の負担増となる可能性の予測を立てることができる。

一般に市街地といわれる地域は、1ヘクタールあたり40人以上とされており、人口メッシュでいえば、橙色の1000人~の地域となる。将来的に利便性が高く地価も著しく低下しない地域を選びたいと考えている方は将来人口メッシュで人口を確認してみることも考えられる。

☑︎立地適正化計画
自治体が作成する行政計画で、人口減少や超高齢社会を見据えて一定の人口密度を維持していく「居住誘導区域」や、日常生活に必要な医療や福祉、商業等の施設を誘導していく「都市機能区域」を定めている。これら区域では少なくとも行政サービス水準(道路や公園、上下水道の他、公共交通、医療、福祉など)の維持が行われるため、将来人口が減少する地域であっても一定の利便性のある日常生活を送ることができる可能性が高い。なお、この計画は行財政の効率化の観点から市街地での施策に重点が置かれているため、郊外で悠々自適な暮らしやオフグリッドな生活と考えている方には参考にはならないので注意してほしい。

☑︎用途地域
用途地域とは、市街地において建物の立地をコントロールする手法で住宅地・工業地・商業地を適切に配分することで住みよい都市環境をつくる役割がある。一般的に良好な居住環境が確保されている地域とされるのは、低層住居専用地域や中高層住居専用地域となる。

昨今、迷惑施設として現代の社会にとって不可欠な物流施設に焦点があてられるケースが増えている。これに加えて工場や廃棄物処分場などは立地する可能性があるとしたら避けたいと考えている方も多いはずだ。

住宅地として住宅系の用途地域が指定されていても、近接した地域に工場や物流施設の立地が可能な工業地域や工業専用地域、準工業地域などが指定されていることもある。また、近年では、大規模土地を市街地に確保することが困難なことから、市街化を抑制する区域であっても地区計画という制度を使って物流施設や工場を誘導する自治体も増えている。こうした地域が周辺にあるかどうかは、「都市計画情報」から用途地域及び地区計画を選択することで閲覧することが可能となっている。

注意点として、これら情報は将来性を担保するものではない。あくまでも現時点での都市計画の情報であり、社会情勢を踏まえた予測であることに留意した上で判断してほしい。また、都市計画は専門性が高い分野のため将来性を詳しく知りたい方は技術士や建築士に相談することをおすすめしたい。

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「都市計画情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「立地適正化計画と将来推計人口500mメッシュ」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

生活環境が気になる

ライブラリの大きな特徴の一つといっていいのは小中学校の学区情報と言っていい。

「周辺施設情報」から小学校の学区並びに中学校の学区を閲覧することが可能となっている。加えて、保育園や幼稚園、学校、図書館などの情報を地図上から確認することができる。また、背景に表示する地図をゼンリン地図にすることで店舗や飲食店の情報も確認することも可能だ。

子育て世代の方々やこれから結婚して子育てする際に学区を参考にしている方は意外にも多く、そうした生活環境をライブラリでも閲覧できるのは住まい探しの候補地を選ぶ場面で多用できるはず。

前述したが、将来人口メッシュと重複して確認することで、エリアごとに将来人口がどの程度減少するのか、それに伴い学校が統廃合される可能性や飲食店や店舗、医療などの施設が撤退する可能性なども探ることができる。

不動産情報ライブラリの使用例。画面は「周辺施設情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)不動産情報ライブラリの使用例。画面は「周辺施設情報」を閲覧している状況(*出典:不動産情報ライブラリ)

ライブラリは今後も情報が更新される

今年の6月3日に国から、ライブラリの基盤情報となっている国土数値情報に、人口集中地区や砂防指定地、多段階浸水想定図などを加えるとする発表があった。

今後、順次、ライブラリについても更新を反映するとしている(「国土数値情報の公開・整備予定のお知らせ(2024年6月3日)」)。こうした情報が追加されることで、住まい探しの際に自分のライフスタイルに適したより良い選択ができるようになるはず。

従来の電子地図といえば、Google地図が一般的といえるかもしれないが、「不動産情報ライブラリ」もサクサク動くので、まずは自分が住んでいる地域の探索を行って新たな発見を得てみるのも楽しいと思うのでぜひ試してみてほしい。

公開日: