「野村の仲介+」を展開する野村不動産ソリューションズ株式会社

常に世の中のニーズに対応しながら、昭和、平成、令和へと、進化と変化を続けてきた日本の住宅不動産業界。一方で、少子高齢化による人口減少、空き家の増加、人手不足、コロナ禍による価値観の多様化など、近年の変化のスピードは極めて早く、今後さらにさまざまな課題に直面すると考えられる。
これらの解決策として、DX(デジタルトランスフォーメーション)は有効な手段であるとされるが、住宅不動産業界は長年にわたりアナログな手法や商習慣が根強く、また知見やノウハウの不足もあり、DXが遅れている現状がある。

今回の企画は、このような現状を打破すべく、常に日本の住まいを進化させてきた住宅不動産業界のリーディングカンパニーのトップの皆さまにお話を伺い、「住宅不動産業界におけるDXの展望」をともに考えていくものである。インタビュアーは、住宅不動産ポータルサイトLIFULL HOME'Sを運営する株式会社LIFULL 代表取締役社長 伊東 祐司氏が務める。

お話を聞くのは「選ばれ続けるナンバーワンブランド」を掲げ、首都圏・関西を中心に「野村の仲介+」を展開する野村不動産ソリューションズ株式会社。専務取締役の福地 亨氏に、業界に先駆けて不動産DXに取り組んできた背景や顧客体験の変化、今後の展望を聞いた。

(写真左) 株式会社LIFULL 代表取締役社長 伊東 祐司氏。(写真右)野村不動産ソリューションズ株式会社 専務取締役 福地 亨氏(写真左) 株式会社LIFULL 代表取締役社長 伊東 祐司氏。(写真右)野村不動産ソリューションズ株式会社 専務取締役 福地 亨氏

「ノムコム」をはじめ、25年前からデジタル技術の活用を戦略の一つに

伊東氏:まず、御社の不動産DXの取り組みの背景について伺います。野村不動産グループの中で中核事業の一つである「仲介・CRE」領域を担う御社は、成長戦略の両輪として「顧客満足度の向上」と「デジタル戦略」を据えられています。どちらも今回のテーマに密接に関わりますが、御社が不動産DXを推進するに至った背景を教えていただけますか。

福地氏:当社は2000年11月に野村不動産アーバンネット株式会社としてグループから分社化しましたが(2021年4月より現社名)、当時はまだまだ規模が小さく、拠点数も店舗数も少ない状況でした。いかにお客様との接点を増やしていけるかが鍵となる中で、重視したのが「CS(顧客満足度)の向上」と、業界でまだ珍しかった自社ポータルサイトの「ノムコム」です。20年以上前ですから、「CS」を掲げて一生懸命取り組んでいる同業他社は少なかったですし、紙での集客が主流な中で、インターネットに価値を見い出し、ノムコムでの集客に注力したのは先行事例といえると思います。おかげさまで、ノムコムは現在もポータルサイトとして一定の認知度がある状態です。

<b>福地 亨氏:</b>野村不動産ソリューションズ株式会社 取締役専務執行役員。1987年野村不動産株式会社に入社。リテール仲介営業に従事し、流通事業本部営業推進部長、渋谷青山営業部長、人事部長などを経て、2013年に野村不動産アーバンネット株式会(現:野村不動産ソリューションズ株式会社)執行役員に就任。2017年に常務執行役員、2021年に取締役専務執行役員流通事業本部長に就任福地 亨氏:野村不動産ソリューションズ株式会社 取締役専務執行役員。1987年野村不動産株式会社に入社。リテール仲介営業に従事し、流通事業本部営業推進部長、渋谷青山営業部長、人事部長などを経て、2013年に野村不動産アーバンネット株式会(現:野村不動産ソリューションズ株式会社)執行役員に就任。2017年に常務執行役員、2021年に取締役専務執行役員流通事業本部長に就任

伊東氏:その先見性は今に通じる御社の強み、競争力となっていますね。御社は業界に先んじてデジタル技術を活用したさまざまな取り組みを進めてこられましたが、挑戦を重視する社内のカルチャーから生まれてくるのでしょうか。

福地氏:そうですね。当時はもちろん「DX」という言葉もなかったですし、お客様に満足度の高い住み替え体験を提供するための戦略の一つが、結果的に、今でいう不動産DXだったという形です。最初は小さなスタートだったからこそ、大手の競合他社さんと同じことをしていても勝てないだろうと、常に新しい取り組みに積極的な風土はありますね。現在は組織横断型のDXを推進するプロジェクトチーム「デジタル戦略デザインラボ」もあり、お客様とのデジタル接点の強化に重きをおいた取り組みを進めています。

<b>福地 亨氏:</b>野村不動産ソリューションズ株式会社 取締役専務執行役員。1987年野村不動産株式会社に入社。リテール仲介営業に従事し、流通事業本部営業推進部長、渋谷青山営業部長、人事部長などを経て、2013年に野村不動産アーバンネット株式会(現:野村不動産ソリューションズ株式会社)執行役員に就任。2017年に常務執行役員、2021年に取締役専務執行役員流通事業本部長に就任伊東 祐司氏:株式会社LIFULL 代表取締役社長執行役員。2006年株式会社ネクスト(現LIFULL)に新卒入社。HOME'S(現LIFULL HOME'S)の営業職、賃貸・流通領域の営業部長を経て、2015年に最年少の32歳で執行役員に就任。新UX開発部を立ち上げ、オムニチャネル戦略を推進。事業成長を促進し、2019年にLIFULL HOME'S事業本部長、2020年には取締役執行役員、2023年12月21日をもって、代表取締役社長執行役員に就任

「成果を出す社員ほど、デジタルとリアルの融合に長けている」

伊東氏:不動産DXといっても、集客、顧客管理、業務効率化など、さまざまな観点があります。御社の具体的な取り組みをお聞かせください。

福地氏:ここ10年ほどで、お客様に情報をお届けする方法は多様化した一方、お客様にとって本当に価値のある情報を提供する1to1のコミュニケーションが課題となっています。その中で、一つの起点となっているのがノムコムです。物件検索だけでなく、「レコメンド物件メール配信サービス」や、「3Dウォークスルー動画機能」の実装、AIを活用した「ハッシュタグ・間取り図検索」機能、2023年11月には、不動産売買に関する疑問や希望条件を入力すると24時間回答するチャット型サービス「住み替えアシスタント AI ANSWER Plus(ベータ版)」をリリースしました。一人ひとりのお客様のニーズに応えられるサイトとして、次々とアップデートしています。

野村不動産ソリューションズとLIFULLが共同開発した、生成AI技術を活用した自然言語でのチャット型コミュニケーションの相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」。ユーザーの希望や悩みを、ノムコムが持つ豊富な不動産知識を学習したAIがヒアリングし、24時間チャット上でやりとりすることができる。購入、売却にも対応しており、利用数は増加傾向だという野村不動産ソリューションズとLIFULLが共同開発した、生成AI技術を活用した自然言語でのチャット型コミュニケーションの相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」。ユーザーの希望や悩みを、ノムコムが持つ豊富な不動産知識を学習したAIがヒアリングし、24時間チャット上でやりとりすることができる。購入、売却にも対応しており、利用数は増加傾向だという
野村不動産ソリューションズとLIFULLが共同開発した、生成AI技術を活用した自然言語でのチャット型コミュニケーションの相談AIサービス「AI ANSWER Plus(ベータ版)」。ユーザーの希望や悩みを、ノムコムが持つ豊富な不動産知識を学習したAIがヒアリングし、24時間チャット上でやりとりすることができる。購入、売却にも対応しており、利用数は増加傾向だという「AI ANSWER Plus は野村不動産グループ内でも初の生成AIを活用したお客様向けサービスであり、現代の顧客ニーズに寄り添った画期的なサービス」と語る福地氏。利用ユーザー数が増えることで、さらなる回答精度の向上が見込める

福地氏:営業効率化の観点では、不動産コミュニケーションクラウドの活用は社内で徐々に進んでいます。お客様とのやりとりを円滑にする機能と、従業員の業務効率化を支援する機能を合わせ持ったクラウドですが、特に当社は若い社員が多いので、若い方はそういったツールに慣れるのが早いですよね。上手にツールを活用して、効率的にお客様との時間を確保していこうとする意識は社員の動きからも感じます。
また、不動産非対面決済サービスも取引件数が増えています。従来の不動産売買では、決済時に売主、買主、司法書士、仲介事業者が一堂に会し、代金の支払いや物件の引渡しに関するタスクをまとめて行うことが一般的ですが、このサービスを利用すれば、不動産決済までの進捗管理から、事前の決済完了までを非対面で行うことができます。

伊東氏:確かに、従来は決済に費やしていた数時間を次の案件に使えるのは利点ですよね。ただ、非対面決済はお客様との接点が減ることでもあります。CSの観点ではどうなのでしょうか。

福地氏:仰るとおり、非対面ということに最初は多くの担当者が抵抗を感じました。決済の場でお客様と会わないと、CSが下がるんじゃないかと。昔ながらの担当者は、決済が一つの儀式のような感覚を持つ人もいますからね。私も実際そうでした。ただ、心配したようなCSの結果にはなりませんでした。むしろ非対面決済サービスを利用した方が、お客様にとっても時間拘束がなく、満足度が高い傾向がありました。
「タイパ」という言葉が注目されるように、今のお客様は仕事に家事にとお忙しいですから、関係者全員で日程調整をして、仕事を休んで、銀行での決済に2時間も3時間もかけてという従来のやり方は、お客様にとっても負担が大きいことがよくわかりました。また、成果を出している社員ほど、これらの業務効率化サービスの活用頻度が高い傾向があります。

伊東氏:若手社員が積極的に新しいツールや技術を活用し、営業効率化を図り、実績にも結びついているんですね。

DXで目指すのは「お客様満足度」の向上

DXで目指すのは「お客様満足度」の向上

伊東氏:成果のお話が出ましたが、不動産DXを進めるうえで、成果指標の設定が難しいとよく言われます。何がどうなればDXで成功したと言えるのか、という観点ですね。御社ではどのように考えていらっしゃいますか。

福地氏:さまざまなサービスやツールを導入すれば、もちろんそれだけ費用がかかります。新しいものを入れる以上、多少生産性が上がってもプラスマイナスゼロではあまり意味がありません。かけたコストの数倍の成果を求めるのが、基本的な考え方です。とはいえ、導入の際には社内で相応の審査を行うものの、膨らむ費用に対し、一つの施策でどれだけの成果を上げられたのか、個別の費用対効果を明確に出すのは難しいのが正直なところです。
そのため当社では、DXの成果を測る指標として、売上に加え、CSを見ています。満足度の高い住み替え体験をお客様に提供するために、当社社長の前田がよく口にするのが「高効率、高生産、高品質」です。これらの要素を高める手段として、さまざまなデジタル技術の活用があります。昔のような長時間労働を是とはせず、デジタル技術を活用して効率性を高め、空いた時間をお客様フォローの時間に費やす、DXによりポイントを押さえた質の高い接客を実現することで、CSが上がっていく、という考え方です。

伊東氏:単に業務が効率化されたから御の字ではなく、捻出できた時間をいかにお客様のために使えたのか、それを測るということですね。各担当者が自分の業務工数を把握し、お客様対応のうち、どこを削ってどこを手厚くするか、見極めをしっかり行うことがとても大切なのでしょうね。結果として顧客満足度の向上につながり、DXがますます推進されると。CSはどのように計測しているのでしょうか。

DXで目指すのは「お客様満足度」の向上

福地氏:顧客ロイヤルティを測るNPS®調査の結果と、取引後のお客様アンケートで見ています。CSは、担当者の目標数字にも含まれている指標です。当社では、毎月の営業実績に加え、アンケート返信率が高く、お客様から素晴らしいコメントをいただいた社員を表彰する「DS(ディライト&サティスファクション)賞」を設けています。営業の中でたった一人が選ばれる栄誉ある賞なので、「DS賞を取りたい」とモチベーションの高い社員は大変多いです。契約しないとアンケートもいただけないですから、営業実績をしっかり挙げて、かつお客様からのうれしいお声も増えてという両輪で、好循環につながっています。3回受賞すると殿堂入りになるので、若手の社員が表彰されやすいですね。

伊東氏:担当者のやる気につながるいい仕組みですね。入社の動機にもなりそうです。

福地氏:営業実績が最も重視されやすい業界にあって、社長の前田は「DS賞は実績トップより価値がある」と明言しています。そうした顧客ファーストの経営方針ですとか、不動産業界でイメージされる「紙文化」「長時間労働」をDXによって脱却していこうとする働き方は、採用にも生きていますね。ありがたいことに、当社のこうした強みを理解したうえで、一緒に働きたいと応募してくれる新卒の方は多いです。

DXでユーザーの不動産取引はどう変わるのか

伊東氏:不動産DXというと、不動産会社の業務効率化にフォーカスが当たりやすいですが、ユーザー側の不動産売買の体験はどのように変わるでしょうか。

福地氏:不動産DXが進むことで、不動産売買にかかるお客様の手間や時間は軽減されていき、住み替え満足度の向上につながると考えています。
インターネット上での物件データの取り扱いが増え、情報の透明性は年々上がりつつあります。ノムコムの「マンションデータPlus」では、所有するマンションのオーナー会員として登録いただくと、リアルタイムに現在の相場価格を見ることができます。物件情報は最大42枚の写真を掲載しているだけでなく、パノラマ、VRなど、現地に足を運ばなくても、物件の状況や雰囲気はオンライン上でかなりの情報が収集できるようになっています。
また、2022年5月には宅地建物取引業法が改正され、不動産取引における電子契約が全面解禁されました。煩雑な不動産取引の手続きや情報が電子化され、デジタルツールで一元化できることは、社内の業務効率化だけでなく、お客様側から見ても利便性の向上につながります。海外のお客様や海外赴任から帰国するケースなど、オンラインで物件情報を確認し、最終確認として現地をご覧いただくなど、不動産売買のプロセスは格段に利便性が向上しているといえます。

首都圏・関西を中心に「野村の仲介+」を展開する野村不動産ソリューションズ株式会社。専務取締役の福地 亨氏に、業界に先駆けて不動産DXに取り組んできた背景や顧客体験の変化、今後の展望を聞いた。「新築分譲の分野では、いずれ完全オンラインで契約完結まで完了する世界がやってくるかもしれないが、中古物件を扱う仲介事業は、まだまだ人の手を介する必要がある」と語る福地氏

伊東氏:契約完結まではいきませんが、その一歩手前まではインターネット上でたどり着けるようになっていますね。

福地氏:ええ。仲介の現場では、やはり最後は人の力がまだまだ必要です。ただ実際に、お客様のご検討からご契約に至るまでの時間は、非常に短くなっています。以前は1回のご案内で4~5物件ほどを回るのが当たり前でしたが、最近は1~2件で意思決定されるお客様も多いです。インターネット上で物件情報をほとんど入手できますし、担当者とのやりとりもデジタルツールにより従来よりスムーズになっているので、お客様にとって負担の少ない不動産取引になりつつあると思います。

伊東氏:マイホームの購入に対する考え方も不動産DXの広がりにより、その感覚も変わっていきそうですね。

福地氏:そうですね。多くの不動産会社で電子契約や非対面決済が普及することで、お客様の利便性はますます向上していくでしょう。不動産売買がより身近なものになり、海外のように、ライフステージや住まいに対する価値観の変化に応じて、今よりもっと気軽に住み替える方が増えるのではないかと思います。

首都圏・関西を中心に「野村の仲介+」を展開する野村不動産ソリューションズ株式会社。専務取締役の福地 亨氏に、業界に先駆けて不動産DXに取り組んできた背景や顧客体験の変化、今後の展望を聞いた。日本の平均引越し回数は4回とされているが、海外ではライフステージに合わせて頻繁に住み替えることが一般的な国もある。DXの推進により、不動産取引のハードルが下がれば、日本での引越しに対する概念も変わっていくかもしれない

ノムコム、AIチャット、バーチャル店舗、さらなる不動産DXの推進へ

伊東氏:業界の変革期ということで、2024年2月に弊社と「不動産DXパートナーシップ基本協定」を結ばせていただきました。協定締結にいたった背景や、不動産DXの広がりによって目指す将来像についてお聞かせください。

福地氏:DXの推進は、不動産実務の中で生まれた課題に対し、どのようなデジタル技術を用いて解決に導いていくかが最も重要かつ難しいポイントです。御社との「不動産DXパートナーシップ基本協定」では、LIFULL HOME'Sで培われてきた知見と、最先端のデジタルを顧客サービスへ落とし込む業界トップクラスの技術力で、不動産業界のDXをけん引するような取り組みを行っていきたいと考えています。さらなる業務効率化や、AIチャットサービスの精度向上、また、今後の新規出店は、どこからでも不動産についての相談ができるバーチャル店舗を増やすことも構想しています。
そうした取り組みを進めるうえでも、私たちのような一企業では提供できる価値は限られます。専門的な知識や経験が求められますから、御社のような他業種との協業は必須だと考えています。今回の協定を機に、5年先、10年先を想定した、業界全体の成長を視野に入れて一緒に取り組ませていただきたいですね。
また、御社には、ポータルサイトとしての情報量やユーザーの幅広さ、客観性を生かして、住み替えのハードルを下げ、住まい探しや住み替えがワクワクするものだという情報発信を期待しています。

伊東氏:御社の先駆的な取り組みを伺い、不動産業界に大きな変化の波がきていることを改めて実感いたしました。弊社で蓄積されたノウハウを提供・活用し、業界全体のDX推進を支援していければと考えています。本日は、ありがとうございました。

野村不動産ソリューションズ株式会社(東京:新宿)にて(2024年5月17日 撮影)野村不動産ソリューションズ株式会社(東京:新宿)にて(2024年5月17日 撮影)