住宅の省エネ化への支援強化の背景
2023年11月10日に、国土交通省と経済産業省、環境省の3省は共同で住宅の省エネ化の支援強化に関する予算案を閣議決定したことを公表している。あくまでも閣議決定の段階なので、これから国会を通さなければいけないが、国会を通過すれば正式に制度化する見込みだ。3省合同の予算案とは、「省エネ住宅の新築」と「省エネリフォーム」に対する補助金を拠出するための予算案である。
予算の額としては、以下のようになっている。
これらは住宅省エネ2024キャンペーンとして実施される。
【国交省】子育てエコホーム支援事業:2,100億円
【環境省】断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省CO2加速化支援事業:1,350億円
【経産省】高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業費補助金支援事業:580億円
【経産省】既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業:185億円
各補助金事業内容に関してはLIFULL HOME'S PRESS別記事にて取り上げられている。
詳細は以下の記事を参照いただきたい。
■「子育てエコホーム支援事業」とは? 条件や補助額を解説
■「給湯省エネ2024事業」と「賃貸集合給湯省エネ2024事業」が開始。高効率給湯器の補助金制度と給湯器の選び方
予算額としては、国土交通省が2,100億円、環境省が1,350億円、経済産業省が765億円となっており、国土交通省が中心となって住宅の省エネ化に取り組んでいることがわかる。近年、国が大幅な予算を投じて積極的に住宅の省エネ化を推進しているのは、2050年カーボンニュートラルを目標にしていることが背景にある。2050年カーボンニュートラルとは、2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにするという目標だ。
2050年カーボンニュートラルを達成するには、2030年度にはCO2の排出量を2013年度から46%削減する必要があり、現在は目標達成に向けて削減を加速化していく時期に相当している。2030年は間近に迫っており、近年は住宅の省エネ化の補助金制度が継続して予算化されるようになっている。
住宅業界の省エネルギー対策への課題
2050年カーボンニュートラルは、国全体で達成する目標であり、決して住宅だけに限った話ではない。
環境省の「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」※1によると、電気・熱配分後のCO2の部門別排出量は、1位の産業部門が34.0%、2位の運輸部門が17.7%、3位の業務その他部門が17.4%、4位の家庭部門が15.9%となっている。
※1環境省:「2020年度温室効果ガス排出量(確報値)概要」
家庭部門は全体の中では4位ではあるが、なかなか削減が進まない部門であることが知られている。
同資料によると、部門別の前年度の排出量は、産業部門が▲8.1%、運輸部門が▲10.2%、業務その他部門が▲4.7%、家庭部門が+4.5%である。家庭部門以外の部門は排出割合こそ大きいものの、規制を行いやすいため、削減が比較的スムーズに進んでいる状況にある。一方で、個人が対象となる家庭部門は厳しい規制を課すことが難しく、なかなか削減が進んでいない。
家庭部門で電力消費を減らすには、住宅を省エネ化し、冷暖房の電力使用量を下げることが効果的であると考えられている。そこで、国土交通省では、住宅の省エネ化を図る施策を推進してきた。建築物省エネ法や各種税制、補助金等の複合的な施策を展開してきた結果、特に新築に関しては目覚ましい成果を上げてきている。2020年時点において延べ面積が300平米未満の新築住宅における省エネ基準適合住宅の割合は、90.7%※2だ。
※2:国土交通省「住宅ローン減税省エネ要件化等についての説明会資料」
新築住宅を省エネ基準に適合させることは、建築物省エネ法によって2025年4月からすべての建物に義務化される。今の進捗状況を踏まえると、新築住宅に関してはCO2削減の対策はほぼ目途が立ちつつあるといえる。それに対して、住宅業界の省エネルギー対策に関して大きな課題となっているのが、既存住宅(中古住宅)の存在である。
国土交通省によると、既存住宅に関しては空き家を除く住宅ストック約5,000万戸のうち、外皮性能に係る省エネ基準を満たしていないストックは87%※3を占めている。
※3:国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次答申)」
つまり、これから日本が解決しなければいけない課題としては、既存住宅の省エネ化ということになる。今回の住宅省エネ化の支援の予算案は、合計で4,215億円であるが、そのうち環境省と経済産業省の合計額である2,115億円は明確にリフォームへと割り振られている。(国土交通省の2,100億円は新築とリフォームの合計となっている。)環境省と経済産業省の予算だけでもリフォームの予算は過半を超えており、国も本格的に既存住宅の省エネ化に取り組む姿勢を打ち出してきたといえる。
各補助金の概要と各省庁の狙い
今回予算計上された各補助金の概要は以下の通りだ。
【新築住宅の補助】
長期優良住宅:100万円/戸
ZEH住宅:80万円/戸
【リフォーム】
高断熱窓の設置:補助率1/2相当、1戸あたり最大200万円
高効率給湯器の設置:機器・性能ごとに設けられた定額を支援
既存賃貸集合住宅向けエコジョーズ等取替:5~7万円/台
開口部・躯体等の省エネ改修工事:
(1)子育て世帯又は若者夫婦世帯の場合
・既存住宅の購入を伴う場合は最大60万円/戸
・長期優良リフォームの場合は最大45万円/戸
・上記以外のリフォームを行う場合は最大30万円/戸
(2)その他の世帯の場合
・長期優良リフォームの場合は最大30万円/戸
・上記以外のリフォームを行う場合は最大20万円/戸
その他のリフォーム工事:住宅の子育て対応改修、バリアフリー改修、空気清浄機能・換気機能付きエアコン設置工事等を行う場合に工事内容に応じた定額を支援
今回の予算案の閣議決定は、国土交通省と経済産業省、環境省の3省が合同で行った点が注目されている。
国土交通省は、以前より新築とリフォームの双方で補助金制度を展開してきており、その路線が継続されている。環境省は、住宅だけに限らず、広い視野で国全体のCO2削減を推進してきた。
今回、環境省は住宅業界で課題となっているリフォームに予算を付けてきており、国土交通省の施策をバックアップする形となっている。
環境省は今回の予算案の枠を「断熱窓への改修促進等による住宅の省エネ・省 CO2 加速化支援事業」と称しており、事業名の中にも「加速化」という用語を用いている。
環境省では、国土交通省が積み上げてきた実績をさらに加速化するのが狙いだ。
経済産業省は予算枠こそ少ないものの、内容が給湯器の取り替えに特化している点が特徴である。
給湯器は家庭のエネルギーの消費量の約3割を占め、最大のエネルギー消費量となっており、給湯器を省エネ機器に変更することはCO2削減にかなり効果的だ。
経済産業省は国土交通省にない独自の視点を持っており、CO2削減に最も効果の高い給湯器に狙い撃ちして予算を付けている。
なお、経済産業省の補助金の中には、水素で発電を行うエネファームの導入に関する補助制度もある。
経済産業省としては、補助金をきっかけにエネファームを普及させ、国内の水素産業を活性化していく狙いもあると思われる。
過去の補助金との違い
住宅の省エネ化に対する補助で、過去の補助金と際立って異なる点としては、経済産業省の「既存賃貸集合住宅の省エネ化支援事業」が案として浮上している点が挙げられる。
賃貸住宅は一般的に資産家が経営することが多いため、富の再配分という観点から国が補助する対象に馴染まず、従来は補助金制度が創設されることが少なかった分野である。
今回、経済産業省が賃貸オーナーに対して省エネ型給湯器の補助制度を提案してきたことは、相当に突っ込んだ予算案を打ち立てたものと思われる。
税金の使い方として妥当性があるのかという点は議論の余地があるが、既存の賃貸住宅の給湯器を省エネ型に変更することはCO2の削減には大きな効果がある。
賃貸住宅は1棟当たりの戸数が多いことから、各戸の給湯器の交換が進むと既存住宅の省エネ化のスピードは一気に上がるものと期待される。
国会でどのような議論が行われ、制度が実現するかどうかは注目したいところである。








