大阪湾をぐるりと囲み大阪・神戸を結ぶ大阪湾岸道路

阪神高速道路は、大阪市や神戸市を中心とした大阪・兵庫エリアに路線網を持つ都市高速道路だ。1964年の1号環状線土佐堀―湊町間の開通を皮切りに拡大を続け、今や関西の経済活動や暮らしに欠かせない道路となっている。

その中に、阪神高速4号湾岸線と5号湾岸線はある。2つの湾岸線が接続し、りんくうJCT(4号湾岸線・大阪府泉佐野市)から六甲アイランド北出入口(5号湾岸線・神戸市東灘区)までが開通したのは1994年のこと。それ以降、大阪湾をぐるりと抱くように大阪と神戸を結んできた湾岸線だが、そもそもこの路線は、現在終点の六甲アイランドよりさらに西、神戸淡路鳴門道 垂水JCT(神戸市垂水区)までの延長約80kmが、大阪湾岸道路として都市計画決定されている。つまり全線整備は未完了であり、途中で止まったままなのだ。

2016年にその一部が事業化し、現在、2038年度の開通に向けて延伸工事が進められている。今回延伸されるのは、大阪湾岸道路西伸部約20.9kmのうち、六甲アイランド北から仮称・駒栄ランプ(神戸市長田区)までの14.5km。

湾岸線を、さらに西へ延伸させる意味や効果はどういったものだろうか。

阪神高速 湾岸舞洲料金所阪神高速 湾岸舞洲料金所

大阪湾岸道路西伸部の整備で期待される効果

効果①:移動時間の短縮

大阪湾には、大阪港や神戸港を合わせて阪神港と称する国際戦略港湾がある。さらに、24時間運用の関西国際空港のほか、2006年には神戸空港が開港。同空港では2025年に国際チャーター便の運用開始が決定しており、また国際定期便も2030年をめどに運航開始の計画が進んでいて、国際物流の重要拠点となっている。当然これらを結ぶ道路は大動脈として重要な役割を担う。

現在その役割は、湾岸線の北を並行するように通る阪神高速3号神戸線(阿波座JCT・大阪市西区―月見山出入口・神戸市須磨区)が担っている。しかし3号神戸線は、渋滞による損失時間が全国の都市高速道路でワーストランキング1位というありがたくない座についている。特に神戸市内の渋滞は深刻で、平日のラッシュ時は常のこと、連休や行楽シーズンともなればさらに悪化する。

渋滞解消には代替となる別ルートが欲しいところだが、神戸は山と海に挟まれるがゆえに南北に土地が狭いという、悩ましい事情を抱える。平地が限られているため、東西に延びる幹線道路をいくつも通すことが難しいのは容易に想像がつくだろう。同路線に車両が集中してしまうのはそんな事情も絡む。

大阪と神戸を結ぶ3号神戸線の渋滞解消は悲願だが、湾岸線の延伸によって渋滞を解消し、阪神港や関西空港などの物流拠点への移動時間を短縮。物流の効率化を図ろうというのだ。
神戸市によると、利用車の所要時間短縮が見込まれることで、産業の生産額が年間で約237億円増が見込まれる。また税収は年間で約50億円増が期待できるとしている。

効果②:代替路の確保

神戸は1995年に阪神・淡路大震災に見舞われた。このとき、3号神戸線、5号湾岸線も大きな被害を受けている。倒壊した高速道路の先端に、観光バスが車体の前方を乗り出した状態で、間一髪で落下を免れとどまっていた光景を覚えている人も多いだろう。これは3号神戸線で起きたものである。

災害時、道路は救援・支援物資の輸送、緊急の復旧工事、再建への復興工事に欠かせない。しかしその道路自体が被害に遭うこともあるため、代替道路を複数確保することは不可欠なのである。

さらに、2021年度には3号神戸線の兵庫県内で、車線規制を行った交通事故が410件発生している。3号神戸線が通行不能となった場合、現在は一般道に交通が集中しているが、湾岸線の延伸で代替路を確保することで、これを緩和する。

六甲山と海に囲まれ南北に狭い神戸市街六甲山と海に囲まれ南北に狭い神戸市街

効果③:地域の活性化

神戸空港は六甲アイランドの西隣にある人工島、ポートアイランド沖(神戸市中央区)にできたため、湾岸線が通っていない。大阪湾岸道路西伸部の整備では、六甲アイランドとポートアイランドが結ばれることへの期待も大きい。2つの人口島は、海上に並んで存在するが、直接つなぐ道路がないために近くて遠い場所だったのだ。

また、ポートアイランドには最先端の医療拠点である神戸医療産業都市がある。利便性の向上で、これらへのさらなる企業進出による地域経済の活性化が期待される。

このように、神戸港の物流機能強化、大阪湾にある関西三空港の連携強化など、関西経済の活性化のほか、この事業そのものの経済波及効果も約1兆4,300億円、税収増効果は約1,170億円とされる。


常態化する渋滞、限られた幹線道路の数。神戸は関西を代表する大都市にもかかわらず、道路事情が脆弱である点は否めない。湾岸線の延伸となる大阪湾岸道路西伸部の整備は、これらの課題の解消を見込むものなのだ。

六甲山と海に囲まれ南北に狭い神戸市街六甲アイランド(右)とポートアイランド(左)。ポートアイランドの沖には神戸空港も

工事の目玉は2つの長大橋

工事の目玉は、なんといっても長大橋だ。長大橋とは、橋長100m以上の橋を指す。今回の大阪湾岸道路延伸工事では2つの長大橋が建設され、そのうちの一つは世界最大級の橋となる予定だ。2つの長大橋はそれぞれ、六甲アイランドとポートアイランド(神戸市中央区)の間の新港・灘浜航路、ポートアイランドと和田岬(神戸市兵庫区)の間の神戸西航路に架けられる。

安全性、耐久性、点検や補修のしやすさ、大型化するコンテナ船やクルーズ船なども安全に航行できる配慮はもちろんのこと、神戸らしい山と海が調和する景観も重視され、構造には斜張橋が採用された。

主塔間に渡すケーブルがたわんだ形状の吊り橋と異なり、斜張橋は主塔間を斜めに直線的にケーブルを直結させる。2023年8月に発表された新港・灘浜航路に架かる海上部長大橋は、4主塔の連続斜張橋で橋長2,739mと、世界でも最大級規模の斜張橋になるという。神戸西航路には1主塔斜張橋が架かり、道路はこれらを経て本事業の終点、仮称・駒栄ランプに至る。

阪神高速湾岸線延伸と湾岸線路線図(出典:国土交通省近畿地方整備局浪速国道事務所)阪神高速湾岸線延伸と湾岸線路線図(出典:国土交通省近畿地方整備局浪速国道事務所)
阪神高速湾岸線延伸と湾岸線路線図(出典:国土交通省近畿地方整備局浪速国道事務所)2つの長大橋を含む延伸部の断面図(出典:国土交通省近畿地方整備局浪速国道事務所)

関西経済の復興と、活気ある神戸の復活に期待

大阪湾岸道路の延伸は、本来であればもっと早くに着手されていたのだろう。5号湾岸線が開通した翌年に阪神・淡路大震災が起きていることから、以降は新設される道路よりも震災復興に全力を注がれたであろうことは想像にかたくない。

大阪港と神戸港を合わせた阪神港は、国際競争力の強化のために、国からスーパー中枢港湾の指定を受ける貿易港である。国土交通省が発表する国内の港湾別貿易ランキングでは、4位に神戸港、5位に大阪港が入る。さらに、関西国際空港と神戸空港も大阪湾岸にあるとなれば、これらを抱える大阪湾岸の道路交通インフラを整えることは急がれるべき課題だ。延伸部は神戸市内であるが、大阪湾は関西全体の経済に関わる大動脈なのだから。

2023月10月、神戸市の人口はついに150万人を割った。1868年に開港した神戸港は、明治には横浜港を抜いて貿易額が日本一になるなど、神戸は貿易で発展してきた街だ。早くから海外の文化を取り入れ、街の魅力を育んできた。人口減少は神戸に限った話ではないものの、大都市である神戸のこの事態は看過できないのではないだろうか。

高度経済成長期には、狭い土地への対処として、山を削って宅地開発を行い、さらにその際に出た土砂で人工島をつくる大事業を行った。「山、海へ行く」と呼ばれたこのビジネスモデルは「株式会社神戸市」とも称され、日本のウォーターフロント事業の先駆けともいえる。

そうして誕生したポートアイランドと六甲アイランドを結ぶ、世界最大級規模の斜張橋。利便性が上がり、物流・人流の活性化が図られることと合わせて、新しい景観が生まれることで観光客を呼び込む力にもなることが期待される。

2つの人工島を生んだ活気あふれる神戸の姿に戻ることで、観光のみならず住みたい街としての人気上昇へも期待値が上がる。
大阪湾岸道路の完成形である神戸淡路鳴門道 垂水JCTまでの延伸を含め、早急な完成が待たれるところだ。

港町として発展してきた神戸市港町として発展してきた神戸市