総合計画読本と、市民参加の発表会を企画
阪神間の中核市、兵庫県尼崎市。大阪市の隣に位置する人口45万の都市である。尼崎市では、2023年度から第6次総合計画がスタートするにあたり、市民に向けた総合計画の発表会を開催した。
ところで、「総合計画」という言葉を聞いたことはあるだろうか。
総合計画とは、地方自治体が策定するすべての計画の基本であり、行政運営の総合的な指針となる計画のこと。基本構想、基本計画、実施計画の3層からなることが多く、かつては地方自治法によって基本構想の策定が義務付けられていた。2011年に法律が改正され、基本構想の策定義務がなくなった現在も、多くの自治体で地域づくりの道筋として総合計画が作られている。しかし、それだけ重要な計画にもかかわらず、私たち市民がその内容を知る機会は少ないのではないだろうか。
そこで尼崎市では、第6次総合計画がスタートするにあたり、まず、その内容を読本というかたちで一冊にまとめた。フルカラーで20ページにわたるその中身は、写真やイラストもふんだんに使用され、いわゆる行政用語ではない誰もが分かりやすい言葉で綴られている。
さらに大きなトピックは、やはり「総合計画発表会」を開催したことだろう。発表会は、総合計画に盛り込まれた尼崎の将来目標や、行政が行動するための基本的な指針を市民と共有することを大きな目的としたリアルイベントだ。
地方自治体における行政運営の最上位計画といえる総合計画を市民目線で発信する尼崎市。そこには、どのような目論見があるのだろうか。
市民のまちづくり活動が紹介された発表会
総合計画読本のタイトルは「アマガサキット」。ネーミングは、きっと尼崎はこうなりますよ。という市民に対する将来への約束からだ。また、尼崎のいいところもよくないところもすべて共有して、将来の目標を描いていくために利用する「キット(KIT)」の意味も込めた。総合計画の内容を13の施策として分かりやすくまとめてあり、前述のとおり写真やイラストも多く使用され、見て楽しい本だ。
さて、発表会は、2023年3月25日にJR尼崎駅に近い小田北生涯学習プラザ1階ホールで開催され、開始時間を前におよそ100近い座席がほぼ埋まるという盛況の下で始まった。冒頭、司会者から「アマガサキット」の紹介があり、「まちづくりの活動をされている方々にその活動内容や今後の目標などをお話しいただき、新しい気付きや、まちづくりのきっかけづくり、そして、皆さんのつながりづくりとなるよう、発表会を開催しました」と開催趣旨が説明された。続いて行政とは別の立場でまちづくり活動を続けている市民・団体が、具体的な活動内容や、これからの目標などを紹介した。
トップは、「あままままるしぇ」実行委員の坂本さん。「あままままるしぇ」は地域のママ・プレママたちが立ち上げたマルシェイベントを主催する団体だ。地域のつながりづくりの場として、人のつながりを通じたまちづくりを目指す。
次に下坂部小学校・杉本校長が登壇した。コミュニティ・スクールの紹介だ。下坂部小学校では、地域と保護者と学校が力を合わせ、子どもたちの学びや育ちを支える活動を行っている。郷土学習として「近松門左衛門」を学び、尼崎の魅力を深く知る取組みが紹介された。
その他にも、日常のごみ拾いを通じて地域のごみ問題の解決を目指す「チーム飛色」の女性2人。地域のつながりづくりを目指す学生のチームが3組。地域と学校が連携して、市民や地域で働く人を対象に尼崎をもっと知るためのセミナーを開催する「みんなのサマーセミナー」実行員会の皆さんの紹介と続いた。
まちづくりは行政だけのものではない。変わる総合計画
前出の読本「アマガサキット」の最初の見開きページにはこう書かれている。
「まちづくりは、市民、事業者、市役所みんなが主役です」
このイベントの開催を主導した都市政策課 松浦さんは、「まちづくりは、市役所だけでできるものではない。市民や事業者の一人一人が、将来の尼崎のありたい姿を考え、そこに向かって、一緒にまちづくりを進めていきましょうと、市民のまちづくりのハードルを下げたい」と語る。
発表会で市民の活動を紹介したのも、もちろんアマガサキットに書かれた13の施策の理念に沿うものである。
多くの自治体が策定する総合計画だが、住民の認知度は低い。また、近年では総合計画そのものの意義や役割も変化してきている。
かつて総合計画は、予算を公共施設やインフラの整備に使うために作成された。経済が右肩上がりの時代は、人口の増加を目標に掲げ、予算を新規の施策・事業に割り当てるための根拠とすることや、開発事業等の許認可を得ることを目的に、それらを総合計画に盛り込むことで時代の大きな役割を担った。
しかし今、その意義はもはや失われていると言ってもいい。現在では、具体的な行政計画というより、理想のまちづくりへ市民の参加を呼び込む計画とでもいえるのではないだろうか。行政と市民が一体となってまちづくりを進めるための指針。その先にある理想の街への共感を呼び込むためのロードマップとしての役割が大きい。
総合計画を知ってもらうため、発信が重要に
まちづくりの主体は行政だけではない、総合計画の意味合いや役割も変わりつつあると書いてきた。では、多くの市民を巻き込んだ形で、多くの市民の願うまちづくりを実現するために、行政には何が必要なのか。
行政には潤沢な予算があるわけではないし、人口減少社会においては、今後もその増加は簡単に見込めない。限られた予算のなか、できる事業や施策は限られてくる。住民ニーズに合わせて行政が「あれもこれも」できる時代ではないのだ。
「新しい時代の総合計画に必要なのは、住民や事業者などと共通した目的に向かう方向性です。そしてなにより、尼崎の将来目標や行政が行動するための基本的な指針を市民と共有すること。そのためにはまず、理解を促す発信が重要です」と松浦さんは語る。
選択的に行われるこれからの事業や施策に明確な目標を掲げること。また、理解を得てスムーズに行政運営を進めるために、策定した計画を市役所の書類棚の一番奥深くに据え置くことではなく、これを広く市民に伝えること。発信力が鍵となるというのだ。
「尼崎市では、アマガサキットや発表会だけではなく、今後も学校現場でのイベントや、チラシ配布などを通じて、総合計画を市民に認知してもらうための活動を続けたいと考えています」(松浦さん)
皆さんが住む地域の地方自治体にも、総合計画があるかもしれない。街はどのような姿を目指しているのか、そのためにどのような取組みが行われるのか、一度調べてみてはいかがだろうか。総合計画を知ることは、市民である私たちがまちづくりに参加する第一歩かもしれない。
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