地域公共交通の課題
全国には、相応の人が利用しているにもかかわらず、採算性の合わない鉄道路線が存在する。
長年にわたる沿線の人口減少に加え、高速道路等の代替移動インフラが整備されたことで、利用者が減少し続け、存続の危機に瀕しているローカル路線も少なくない。さらに、コロナ禍におけるライフスタイルの変化が生じた結果、大都市圏の鉄道収益も急激に悪化している。
国土交通省が公表している「近年廃止された鉄軌道路線(令和4年2月3日現在)」によると、2000年以降に廃止された路線は45路線(1,157.9km)ある。
https://www.mlit.go.jp/common/001344605.pdf
特に、2014年以降の傾向として、JRの廃線が増えてきたという特徴が挙げられる。2013年以前の廃線はほとんどが私鉄であったが、2014年以降は廃線のほとんどにJRが名前を連ねている。
2014年以降は、JR北海道が5路線、JR東日本が3路線、JR西日本が1路線となっており、特にJR北海道の廃線状況が目立つ。JRが他の私鉄と異なる点は、営業距離が長い路線が多いということが挙げられる。例えば、2021年4月に廃線になったJR北海道の日高線(鵡川~様似)は116.0km、2018年4月に廃線になったJR西日本の三江線(江津~三次)は108.1kmとなっている。
近年は、私鉄よりも経営母体が大きいJRまでもが相次いで廃線しており、地域公共交通の持続可能性が社会問題化している。
JRの赤字路線の収支
ここでは、JR東日本を例に赤字路線の収支を紹介していく。JR東日本によると、2021年度における赤字路線は66路線となっている。
平均通過人員2,000人/日未満の線区ごとの収支データ 2021年度
https://www.jreast.co.jp/company/corporate/balanceofpayments/pdf/2021.pdf
このうち、赤字額が大きい順から5路線を示すと、以下の通りである。
路線(区間)ごとの赤字額
1位:羽越本線(村上~鶴岡) ▲4,998百万円
2位:奥羽本線(東能代~大館) ▲3,105百万円
3位:羽越本線(酒田~羽後本荘) ▲2,778百万円
4位:奥羽本線(大館~弘前) ▲2,422百万円
5位:津軽線(青森~中小国) ▲1,986百万円
JR東日本の管轄内において、赤字額が大きい路線は東北地方に多い傾向がある。
また、首都圏においても赤字路線は存在する。例えば、千葉県にある外房線(勝浦~安房鴨川)や久留里線(木更津~久留里・久留里~上総亀山)は赤字路線となっている。首都圏においても中心部から離れると赤字となってしまう路線もあるため、鉄道事業を黒字で経営していくことはいかに難しいかがわかる。
一方で、JR東日本では、赤字路線が66路線もあるものの、2014年以降に廃線した路線は、2014年4月の岩泉線(茂市~岩泉)と、2020年4月の大船渡線(気仙沼~盛)と気仙沼線(柳津~気仙沼)の3路線にとどまっている。廃線が少ない理由は、JR東日本が首都圏の路線や新幹線で得ている収益で赤字路線を補填しているからである。このように黒字路線で赤字路線を補填する構造を内部補助と呼ぶが、他のJR各社も内部補助によって赤字路線を存続させている状況が長年続いている。
しかしながら、ここ数年はコロナ禍において生活様式が変わったことで、都市部においても鉄道の利用者が減少してきたため、内部補助も難しくなってきている。ローカル線の存続危機は以前から存在したが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に内部補助の限界が顕在化したことで、地域公共交通の存続が急速に危うくなり始めている。
国交省のこれまでの取組み
国土交通省では、2022年に「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」および「アフターコロナに向けた地域交通のリ・デザイン有識者検討会」という2つの検討会を立ち上げ、地方の公共交通の在り方について議論を重ねている。それぞれの検討会の目的は、以下のようになっている。
【鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会の目的】
人口減少社会の中で、デジタル田園都市国家構想の実現にも資する将来に向けた利便性と持続可能性の高い地域モビリティへの再構築に向けて、鉄道事業者と沿線地域が危機認識を共有し、相互に協力・協働しながら、輸送サービスの刷新に取り組むことを可能とする政策のあり方を検討する。
【アフターコロナに向けた地域交通のリ・デザイン有識者検討会の目的】
急速に進展するデジタル技術等の実装を進めつつ、①官と民で、②交通事業者相互間で、③他分野とも、「共創」を推進し、地域交通を持続可能な形で「リ・デザイン」するための具体的方策を探る。
鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会は、2022年2月14日に第1回が始まり、2022年7月25日に第5回を終え、同日に提言書をまとめている。
また、アフターコロナに向けた地域交通のリ・デザイン有識者検討会は、2022年3月31日に第1回が始まり、2022年6月7日に第5回を終え、2022年8月26日に提言書をまとめている。
国土交通省では、2つの検討会からの提言を受け、2022年10月7日より「地域公共交通部会」を開催し、3回の協議を経て2023年2月28日に中間とりまとめ案を公表している。これらの国土交通省の一連の動きは、次節で紹介する地域公共交通活性化法を改正する流れへとつながっている。
地域公共交通活性化法の改正案とは
2023年2月10日に、国土交通省は地域公共交通活性化法(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律)等の一部を改正する法律案について閣議決定をしたことを公表している。本記事の執筆時点(2023年3月)ではまだ閣議決定であるため、国会を通過しておらず正式な法律とはなっていないが、閣議決定として公表されている内容を紹介したい。
地域公共交通活性化法とは、地域公共交通の活性化および再生を一体的かつ効率的に推進するために2007年に定められた法律である。当初の地域公共交通活性化法(改正前)では、都道府県や市町村が主体的になって公共交通事業者と協力し、地域公共交通の活性化や再生に取り組むとする努力義務が課せられている。改正前の法律は、国にも一定の努力義務は課されていたものの、主体となるのはあくまでも地方自治体(都道府県や市町村)と鉄道事業者(公共交通事業者)であった。
閣議決定された改正案の主旨は、簡単にいうと「国の積極的な関与を強める」という内容となっている。従来の自治体と鉄道事業者の2社の協議では、自治体側が路線の存続を希望し、鉄道事業者側が赤字路線の廃線を希望するケースが多かったため、議論が存続か廃線かの二者択一に陥りがちであった。両者の隔たりは大きく、円滑な議論が進みにくいということが課題となっていた。
そこで、改正案では、新たに国に「関係者相互間の連携と協働の促進」を行う努力義務が課されている。具体的には、国は自治体または鉄道事業者からの要請に基づき、「再構築協議会」を創設し、協議会において協議が整うように国が積極的に関与することとなっている。
また、閣議決定段階の内容では、国がインフラ整備に取り組む自治体について、社会資本整備総合交付金等により支援することも盛り込まれている。国による予算面での支援はインフラや車両整備だけでなく、鉄道・運輸機構への出融資や固定資産税の特例措置にも及んでいる。
今後期待されること
地域公共交通活性化法が改正されれば、地域公共交通の存続維持活動に国が積極的に関わるようになり、代替交通手段も含めて地域公共交通は何らかの形で存続できる可能性は高くなるものと思料される。
一方で、赤字路線の解消は一朝一夕にできるものではないことから、成果はすぐには現れない可能性もある。もともと、1987年2月にJRへと民営化される前の国鉄時代にも、赤字路線は存在していた。旧国鉄時代の赤字問題が36年越しに再び国に戻ってきたという見方もでき、ずっと解決できない難題として残っている。
ただし、今の日本には全国でさまざまな鉄道維持策の実績がある点が36年前とは異なる。代表的なものには、東日本大震災で甚大な被害を受けた気仙沼線や大船渡線で行われているBRT(バス・ラピッド・トランジット)がある。BRTとは、線路敷にバス専用道を作り、速達性と定時性を確保し、輸送能力の増大が可能となる新たなバスシステムのことだ。
また、富山市では、中心市街地の花屋で花束を買うと路面電車が無料になるという取組みも行われている。交通の振興だけでなくシティプロモーションも兼ねた取組みとなっており、鉄道事業の維持と賑わいの創出が連動している点が面白い。
国内にはさまざまな成功例が積み上がっていることから、36年前とは異なる視点で難題がクリアされることを期待したい。
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