全人口の6分の1が暮らす豪雪地帯。レジャーでの雪崩被害は絶えず

2023年1月中旬、外国人スキーヤーに人気の北海道・ニセコ地域にある羊蹄山で、雪崩が発生した。地元紙によると、スキー場外を滑るバックカントリースキーをしていた30代のドイツ人女性が窒息して死亡。強風や吹き溜まりといった原因が取りざたされている中で、雪崩を正しく理解したガイドを地域で育成することなどがより求められそうだ。

雪崩は、豪雪地帯に暮らす人や冬のレジャーを楽しむ人にとって身近な問題だ。国指定の危険箇所は全国で2万ヶ所以上に上り、集落のほか、スキー場や観光地でも発生する。地形や雪質・気象など起きやすい条件はさまざまで、集団でのスキーなど人の行動が引き金になることもある。こうした基礎知識や対処方法、予防策、最新の研究などを考える「雪崩災害防止セミナー」(主催:全国地すべりがけ崩れ対策協議会)が2022年12月、青森市内の会場とオンラインで行われた。その内容をお伝えする。

冒頭、青森県県土整備部長の宮本健也さんは「国土面積の半分以上が豪雪地帯として指定されている。豪雪地では、常に雪崩のリスクと隣り合わせだ」とあいさつした。

国内の「豪雪地帯」の分布図(国土交通省ホームページより)国内の「豪雪地帯」の分布図(国土交通省ホームページより)

続いて国土交通省水管理・国土保全局砂防部長の三上幸三さんは「全国の人口の6分の1にあたる2,000万人が豪雪地帯で生活を営んでいる。近年は集落雪崩の被害は少なくなっているものの、スキーや冬山登山といったレジャー中に巻き込まれて亡くなるなど被害は後を絶たない」と述べた。

国内の「豪雪地帯」の分布図(国土交通省ホームページより)スキー場に掲げられた「立ち入り禁止」の標示
国内の「豪雪地帯」の分布図(国土交通省ホームページより)道路沿いにある「雪崩注意」の看板

マイナス20度~10度に注意。「山雪型」と「里雪型」の違い

弘前大学大学院・理工学研究科の石田祐宣准教授(気象学)は、気温と湿度の関係から、雪の結晶が作られるプロセスを解説。マイナス10度~マイナス20度で水蒸気が多く湿っている状態では、平べったい複雑な結晶が形成されやすいため「非常に崩れやすい、もろい性質の雪が降る。積雪中に含まれると、雪崩を発生させる原因になりやすい」と指摘した。

次に、雪をもたらす気象として、「山雪型」と、平地でも大雪になる「里雪型」に分けて説明した。

「山雪型」は、冬型の「西高東低」型気圧配置になることが要因。強い偏西風と日本海の暖流によって、日本海側の山岳域などに多くの雪を降らす。吹雪くことで窪地では吹き溜まりが、崖のような地形ではせり出した雪庇(せっぴ)がそれぞれ発生しやすく、それらが崩れることにより雪崩につながりやすい。もろい性質のあられが降ることでも、雪崩は起こりやすくなるという。

一方の「里雪型」は、暖気と寒気の温度差がエネルギー源となる温帯低気圧が引き起こす。温暖前線と寒冷前線で発達する雲の特徴が異なるため、先にもろい性質の雪が降り、続いて強度の高い雪がまとまって降る。このため、崩れやすい層の上に強固な層が重なる形となり、崩れやすい層「弱層」を境目に、雪崩が起こる可能性がある。

雪崩発生の危険箇所として国に指定されたのは全国で2万ヶ所以上に上り、集落のほか、スキー場や観光地でも発生する。雪崩の基礎知識や対処方法、予防策、最新の研究などを考える「雪崩災害防止セミナー」が開催されたのでその内容をお伝えする。石田准教授が示した、平地でも大雪になる「里雪型」をもたらす低気圧の説明資料

「全層」と「表層」に分かれる雪崩。要因と注意点は?

雪崩には、土壌がすべり面となる「全層雪崩」と、ある層よりも上側のみが崩れる「表層雪崩」がある。石田准教授によると「全層」は春先に雪解け水が積雪と土壌の境界にたまるなどして、「表層」は厳冬期に急な大雪があったり、崩れやすい「弱層」があったりする場合に起きる。30~45度の斜面で、植生が少なく摩擦の少ない斜面で発生しやすい。「全層雪崩は自動車並みのスピードで、表層雪崩は時速100km以上になることもあり、真上で起きたら逃げ切れない」と危険性を示した。

全層雪崩は、気温上昇や雨によって、雪の性質が変化したり、水が地面に到達したりすることがきっかけという。斜面を転げるボール状の「スノーボール」、尾根などから張り出した「雪庇」、ひっかき傷のような裂け目「クラック」など、前兆現象があることが多い。

石田准教授によると、表層雪崩を招く「弱層」を作る1つの原因に、霜がある。降りたての新雪は締まっているが、時間の経過で積雪内を水蒸気が移動して霜が付き、「霜ざらめ雪」に変わることがある。霜は30日以上もその状態を保ち、積雪の中で隠れている可能性があるという。もう1つの原因は「里雪型」の降雪をもたらすような低気圧の通過によるもので、もろい雪、強固な雪の順番で降って層を作ることで崩れやすくなる。

表層雪崩はスキーヤーが横切ることでも起こるという。また、自身が青森県の八甲田山で表層雪崩を調査した経験に触れ、「窪地に吹き溜まりができて耐え切れずに発生していた。弱層がなくても、一度に大量の雪が降ると危険」と伝えた。

温暖化の影響も解説した。日本のペースは世界平均より速く、温度上昇で空気が含むことのできる水蒸気量が増えるため、山岳域で「ドカ雪」が増える可能性がある。気温上昇により雪が雨に変わることで、全体の降雪量は減ったとしても、大雪の高頻度化で雪崩にも要注意という。

石田准教授が示した、「全層雪崩」と「表層雪崩」の分類イメージ石田准教授が示した、「全層雪崩」と「表層雪崩」の分類イメージ

地域を問わない、局地的な大雪のリスク。現場調査はドローンの活用を

国立研究開発法人の研究者からは、最新の知見などが紹介された。

「防災科学技術研究所」雪氷防災研究センターの中村一樹さんによると、地震や豪雨災害よりも雪害による死者数が多くなり、自然災害の中で最大となる年もある。また温暖化など気候変動を念頭に「直近の6シーズンで、24時間に降った雪の深さが過去最高だった地点が全国で60ヶ所あった。局地的な大雪はどこにでも生じ得る。雪崩も起きやすくなるので注意が必要だ」と話した。

中村さんが示した、雪害被害の多さを表したデータ中村さんが示した、雪害被害の多さを表したデータ
中村さんが示した、雪害被害の多さを表したデータ中村さんが示した、局地的な大雪の高頻度化を表したデータ

「土木研究所」雪崩・地すべり研究センター所長の吉栁岳志さんは、国の雪崩対策事業で被害防止のための施設が建造されて30年以上が経過しているため、「経年劣化だけでなく倒木や土砂の流出などの恐れがあり、しっかり点検・対応していかないといけないタイミングにある」と注意を呼び掛けた。

最新の雪崩調査についても紹介。従来のような現場踏査では危険が伴い、接近が難しく、必ずしも正確かつ迅速に把握できないとして、ドローンを活用して三次元データを作成することを勧めた。「積雪期に山間部に入って調査するのは難しい、できないという印象があるかもしれないが、ドローンによる図面作成もコストを抑えてできるようになった。斜面の状況などをしっかり把握して、災害防止に万全を尽くしてほしい」と提案した。

中村さんが示した、雪害被害の多さを表したデータ吉栁さんが示した、ドローンを使った現地調査の様子
中村さんが示した、雪害被害の多さを表したデータ吉栁さんが示した、ドローン撮影の写真から作成された三次元モデル

滑走中の事故が増加。10分以内の救出で窒息死の防止を

公益社団法人「日本山岳・スポーツクライミング協会」常務理事で山岳救助歴が約40年という町田幸男さんは、雪崩事故の現状や対策について講演した。1991年~2022年の雪崩死者数の推移をもとに、平均すると年間で約6件、約9人が亡くなっていると示した。その内訳は、「山岳」が85%、「スキー場」が6%、「作業現場」が7%、「道路施設」が2%だった。山岳における雪崩死者は「レクリエーション」が83%、「業務」が16%だった。

レクリエーションのうち49%を「登山」が占め、「スキー」は35%、「スノーボード」は11%。山岳レクリエーションの死者の割合は近年、登山系が減少傾向にあり、バックカントリースキーなどの滑走者の割合が高まっている。町田さんは「バックカントリーを熱心にやっている、一定の経験がある30~40代が多く亡くなっている」と説明した。

山岳レクリエーションによる死亡事故では、「登山」が減少する一方でスキーなど「滑走」の割合が増えている山岳レクリエーションによる死亡事故では、「登山」が減少する一方でスキーなど「滑走」の割合が増えている

町田さんは海外のデータを引き、「雪の中に長時間埋まることから死因は低体温だとよく言われるが、圧倒的に窒息が多い」と指摘。日本国内には十分なデータはないが、スイスとカナダともに窒息がほとんどだとして、木や岩への激突、崖からの転落といった「致命的な外傷」が続き、「低体温」は数%に過ぎないという。

日本の気候帯に照らすと、呼吸空間の確保目標時間は10分以内だという。町田さんは「10分たつと生存可能性は80%だが、10~15分の間に掘り出さないとほとんど助からない」と一刻も早い救出をするよう訴えた。

死亡事故につながった雪崩では60%以上が複数人で巻き込まれているとして、「いかにグループでのリスクマネジメントができるかが勝負」と強調。また雪崩ビーコン(電波送受信機)の使用方法など実際の救助手順を示しながら、「その場にいる人間が、いかに効率的に同じ知識や情報を持って動けるかが、生存率を上げることにつながる」と話した。

山岳レクリエーションによる死亡事故では、「登山」が減少する一方でスキーなど「滑走」の割合が増えている雪崩に遭い、埋没してからの生存率を示したグラフ

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