対応が迫られるインフラ老朽化
日本のインフラ施設は戦後の高度経済成長期において集中的に整備されてきた経緯があり、今後、さまざまなインフラが一挙に老朽化することが懸念されている。道路橋、トンネル、河川、下水道、港湾等は高度経済成長期に整備されたものが多く、今後20年で建設後50年以上経過する施設が加速度的に増える見込みだ。国土交通省によると、2023年3月時点と2033年3月時点における建設後50年以上経過する主な施設の割合は以下のようになっている。
道路橋
2023年3月:約39% 2033年3月:約63%
トンネル
2023年3月:約27% 2033年3月:約42%
河川管理施設
2023年3月:約42% 2033年3月:約62%
下水道管渠(かんきょ)
2023年3月:約8% 2033年3月:約21%
港湾岸壁
2023年3月:約32% 2033年3月:約58%
出典:国土交通省「社会資本の維持管理に関する取組」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000578735.pdf
今後、10年間においては道路橋と河川管理施設、港湾岸壁で建設後50年以上経過する施設が5割を超える見込みとなっている。一斉に老朽化施設が増えれば、一気に多くの施設で修繕や更新を迫られることが懸念されている。また、インフラ施設の老朽化の程度は、必ずしも建設年数だけで一律に決まるものではなく、立地環境や維持管理の状況等によっても影響を受けている。
インフラ施設の健全性調査の結果は?
2014年度に実施された点検においては、橋梁とトンネルにおける健全性の結果は以下のようになっている。
橋梁
健全 48%
予防保全段階 39%
早期措置段階 13%
緊急措置段階 0.03%
トンネル
健全 3%
予防保全段階 60%
早期措置段階 36%
緊急措置段階 1%
出典:国土交通省「各施設の点検結果(国土交通省管理)」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_03_01_01.html
予防保全段階とは、構造物の機能に支障が生じていないが、予防保全の観点から措置を講ずることが望ましい状態のことである。早期措置段階とは、構造物の機能に支障が生じる可能性があり、早期に措置を講ずべき状態を指す。緊急措置段階とは、構造物の機能に支障が生じている、または生じる可能性が著しく高く、緊急に措置を講ずべき状態のことである。
橋梁とトンネルを比較すると、予防保全や早期措置をすべき段階の施設は2014年度時点においてトンネルの方が圧倒的に多い。2033年3月において建設後50年以上経過する施設は、道路橋が約63%、トンネルが約42%であったが、修繕対応の緊急性はトンネルも高いといえる。
インフラを維持するために必要な費用は?
国土交通省では、インフラを維持していくために必要な将来の予算についても推計結果を公表している。将来、インフラの老朽化に対する必要な費用は以下の通りである。
2023年度 :約5.5~6.0兆円
2028年度 :約5.8~6.4兆円
2038年度 :約6.0~6.6兆円
2048年度 :約5.9~6.5兆円
出典:国土交通省「将来推計」
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/02research/02_01_01.html
老朽化インフラに対する費用は、今後、無尽蔵に増えていくわけではない。2038年度の最大「6.6兆円」をピークにして、2048年度には最大「6.5兆円」となっており、必要費用は減少していく見込みとなっている。減少する理由としては、対策の方針を「事後保全」から「予防保全」へ切り替えていることが挙げられる。
事後保全とは、施設の機能や性能に不具合が生じてから修繕等の対策を講じることである。それに対して、予防保全とは、施設の機能や性能に不具合が発生する前に修繕等の対策を講じることを指す。
国土交通省では、予防保全を行わなかったときの必要費用も試算している。予防保全を行わずに事後保全を中心に行っていくと、2048年度の必要費用は約10.9~12.3兆円にも達してしまうということだ。予防保全を行っていけば、2048年度は約5.9~6.5兆円で済むとされ、事後保全を中心に行ったときよりも▲47%も費用を抑えることができる。
予防保全によって寿命を延ばすことは、不動産の建物でも取り入れられている一般的な考え方とも合致する。例えばマンションでは定期的に外壁塗装等が行われるが、外壁塗装は単に色を塗り替えているだけではなく建物の寿命を延ばすための予防保全とされている。今後は、インフラ施設に関しても、不動産で見られる大規模修繕のような定期的な予防保全が実施されていく見込みだ。
インフラ老朽化による事故
2022年12月は、インフラの老朽化に関して1つの節目の年となっている。
理由としては、約10年前の2013年が「社会資本メンテナンス元年」と位置付けられているからだ。
社会資本メンテナンス元年とされた2013年1月には、「社会資本の老朽化対策会議」という国土交通大臣を議長とする組織が発足している。
社会資本の老朽化対策会議が発足したのは、2012年12月2日に生じた山梨県の中央自動車道で起きた笹子トンネル事故が理由となっている。笹子トンネル事故とは、老朽化したトンネルの天井板が崩落し9人が亡くなった事故である。2013年以降、日本は10年間にわたり老朽化インフラの点検を実施し、予防保全にも着手し始めてきた。
施設の法定点検に関しては、2013~2014年にかけて政令や省令等によって義務化された。例えば、橋梁やトンネル、港湾施設に関しては5年に1度、公営住宅や庁舎に関しては3年に1度、河川管理施設やダム、砂防、公園については毎年法定点検を行うようになっている。
既に2016年度には、5年に1度しか法定点検がない橋梁でも54%、トンネルでも47%の施設の点検が実施済みだ。また、この10年間で点検の技術も進歩している。点検は目視だけでなく、ドローンによる点検や画像解析等も取り入れ始めている。今後は、点検で得られた膨大なビッグデータを基にAI(人工知能)によって異常を検知していくシステムの構築も期待されている状況だ。
インフラ老朽化の課題
インフラ老朽化の問題に関しては、大きく「施設の長寿命化」と「小規模な地方自治体における対応」の2点が挙げられる。
施設の長寿命化に関しては、予防保全の方が予算削減効果は大きいため、国としては予防保全を中心に実施し施設の長寿命化を図る方針としている。予防保全を確実に行うには、まずは実行可能な予防保全の計画を策定していくことが必要となる。
国は2013年11月に「国土交通省インフラ長寿命化計画」を決定し、具体的な取組みを確定または見える化し、メンテナンスサイクルの構築に向けた道筋を提示した。各インフラの管理者は、「国土交通省インフラ長寿命化計画」をベースに2020年を目標にメンテナンスサイクルの核となる個別施設計画を策定している。国土交通省によると、2020年度における個別施設計画の策定率は、どの施設もほぼ100%に近い水準となっている。
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/maintenance/03activity/03_01.html
もう一つの課題は、小規模な地方自治体における対応である。小規模な地方自治体は、財源や人的資源の制約が大きいことから、早期または緊急に措置が必要な老朽化インフラが多く存在している。
国土交通省による対策状況
老朽化インフラへの対策は、10年間にわたる調査や各施設の長寿命化計画の策定を終え、いよいよ実施段階に入ろうとしている。ここで問題となってくるのが、小規模な地方自治体における計画推進体制の構築だ。
国としては2022年9月に「地域インフラ群再生戦略マネジメント」という考え方を取り入れ、計画を実行していく方針を示している。地域インフラ群再生戦略マネジメントとは、老朽化したインフラ整備を1つの市長村に任せるのではなく、複数の市町村によって対応するという仕組みだ。
人口や交通、インフラの数や状況等の地方特性を踏まえ、インフラを「群」として捉え、その群に含まれる圏域の市町村がまとまって老朽化インフラの整備にあたるとしている。主体は市町村であるが、国や都道府県も一堂に会して検討を進める見込みであり、国や都道府県も積極的に関与していくことが期待されている。地域インフラ群再生戦略マネジメントにあたっては、「DX(デジタルトランスフォーメーション)によるインフラメンテナンス分野のデジタル国土管理の実現」といった計画も盛り込まれている。
デジタルデータを活用し、メンテナンスの高度化を図れるよう、データの標準化も推進される予定にもなっている。生産性を向上する観点も盛り込まれており、少子高齢化を前提とした対策案となっているのが最近の国の計画の傾向でもある。
インフラ老朽化問題はすぐに解決できるものではないが、対策は着実に進んできており、ようやく難題を少しずつ克服していける段階に差し掛かったといえるだろう。
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