スマホで手軽に不動産投資ができる時代がやってきた
スマホで手軽に不動産投資ができる時代がやってきたと書くと、「本当に?」と思うかもしれない。2020年5月1日に施行された改正金融商品取引法において、「電子記録移転権利」としてST(Security Token)が追加された。これにより不動産の「デジタル証券化」が可能となり、スマートフォンなどで不動産投資ができるようになったのである。
さて、この不動産デジタル証券(ST)とは一体どういうものなのだろうか。不動産STの現状と将来性について、Hash DasH株式会社取締役の三好美佐子さんにお話を伺った。
不動産STとは?
まず、STとは何か説明しよう。
STとは、ブロックチェーンを活用し電子的に発行された有価証券のことをいう。2021年4月、株式会社SBI証券が同社の「社債」をSTとして投資家に募集したのが国内第1号である。デジタル証券化できるものはいろいろあるが、そのなかでも不動産をデジタル証券化して株式のように自由に売買できるようにする仕組みが「不動産ST」である。STの仕組みを使えば、どんな不動産も小口化が可能となり、不動産投資が株を買うように手軽にできるようになるのだ。
「不動産STは、今までプロや超富裕層しか投資できなかった不動産物件を、ブロックチェーンで管理することによって、一般の人でも投資しやすくした革新的なインフラです」(三好さん)
また、STを活用して資金調達することをSTO「Security Token Offering(セキュリティトークンオファリング)」と呼び、IPO(株式の上場)やICO(ブロックチェーンを使って資金調達する方法)、クラウドファンディングとは違う、新しい資金調達方法として注目されている。
不動産STのメリット・デメリット
不動産STにはどのようなメリットがあるのか、三好さんに聞いた。
メリット① 手軽に不動産投資ができる
投資目的で不動産を取得するには、不動産運用の知識が必要となるほか、契約書への捺印、銀行ローンの締結など、手間と時間がかかる。しかしながら不動産STは、
・プロが選んだ不動産運用に適している物件のなかから選ぶことができる
・スマートフォンやパソコンなどのオンライン上で手続きができる
・小口化されているので、高額な不動産でも少額で投資することができる
という特徴により、手軽な不動産投資を実現する。
メリット② 取引の安全性が高い
ブロックチェーンを利用することで、データ改ざんのリスクが低く、取引の安全性が高い。また、不動産STを扱う証券会社は金融庁の管轄下にあるので、運用状況の開示が義務付けられており、インターネット上で「有価証券報告書」を確認することができるほか、「会計監査」や「鑑定」が定期的に入るなど、第三者のチェック機能がある。
メリット③ 不動産を分割して保有できる
本来であれば分割できない不動産を、小口化して保有することができるので、生前贈与などの相続税対策にも向いている。
続いて、不動産STのデメリットを聞いた。
デメリット① まだ商品ラインナップが少ない
不動産STはスタートしたばかりで選べる商品ラインナップはまだ少なく、今までにない新しい金融商品であることから様子を見ている人も多いと思われる。イメージとしてはオンライン証券での株式売買に似ているが、現在株式を対面で取引している人にとっては難しく感じるかもしれない。
デメリット② 管理費用が高め
STの取扱いをしている証券会社は金融庁の管轄下にあり、安心感はあるのだが、定期的に会計監査や鑑定評価を受け、さらに法律家のチェックも必要なので、管理費用が少し高めになる。
暗号資産のブロックチェーンとの違い
暗号資産(仮想通貨)とブロックチェーンは同時に語られることも多く、暗号資産のハッキング事件などから、ブロックチェーン自体に悪いイメージを持っている人もいるかもしれない。そもそもブロックチェーンとは、取引履歴を改ざんされない形でネットワークの参加者全員で共有する仕組みのことで、その技術を活用したのが暗号資産だ。そして、暗号資産では誰でも参加できるパブリックチェーン型と呼ばれるブロックチェーンを使っているが、現在不動産STで利用されているのは、限られた人だけがアクセスできるクローズド型のブロックチェーンであり、暗号資産を取引するブロックチェーンのように世界中の人とつながっているわけではない。証券会社内だけの取引になっており、複数の証券会社だけがアクセスできるコンソーシアム型と呼ばれるもので、ある意味安全性は高いと考えられる。最もセキュリティの高いタイプが、1つの証券会社が単独で管理するプライベート型であり、例えばHash DasHが採用している。
不動産小口投資商品のREITやクラウドファンディングとの違い
不動産の小口投資といえば、REITやクラウドファンディングなどもあるが、不動産STとはどう違うのだろうか。その違いを整理してみる。
REITとの大きな違いは、投資対象
REITは複数の物件に投資する法人の株式に投資をしている。つまり、REITの場合は投資対象の不動産選びは運用会社に任せているので、自分がどんな不動産に投資をしているのかわからない。一方、不動産STの場合は1つの不動産物件に投資することになり、どの不動産に投資をしているのかがわかる。「不動産STは投資している不動産がわかる手触り感を大事にしています」(三好さん)というように、REITと比べてよりリアルな不動産投資に近いといえるだろう。
また、REITの価格は株式市場で常に動いており、金利の上昇・下降や大口投資家の売買など、需給により変動する。しかし、不動産STの価格は不動産鑑定の評価に基づいているので、価格は比較的安定しいる。また、売買のしやすさについてはREITも不動産ST同様に証券会社を通じて取引が可能であり、不動産小口化商品のなかでは流動性が高い。
クラウドファンディングとの大きな違いは、流動性と規模
クラウドファンディングの場合は、特定の不動産を保有するので不動産STとよく似ているが、匿名組合という商法上の制度を使っているので、随時売買できる仕組みがない。一方不動産STは、証券会社が買い取る方法なので、売却しやすいという違いがある。また、クラウドファンディングは金額の上限が決まっており、投資する場合は1案件当たり50万円まで、資金調達する場合は1案件当たり1億円までとなっている。
多くのクラウドファンディングは、運営会社が不動産物件にそのまま投資して所有するが、不動産STは、信託受益権化した不動産に投資する形になる。また、多くのクラウドファンディングはファンド運営者が不動産登記上の所有者になるため、運営者が倒産すると物件が債権者から差し押さえられる可能性があるが、不動産STは登記名義が信託会社になるので、営業者が倒産しても物件が差し押さえられることはない。つまり、不動産STは「倒産隔離」がされている(倒産隔離されているクラウドファンディングもある)。
不動産STにはどのようなものがあるのか?
三好さんによると、不動産STの案件は大体30億円前後のものが多く、半分をローンで組んで、残り半分を募集するようなものが多い。投資金額は1口1,000万円というものもあるが、50万円~100万円くらいが主流。運用期間は4~5年で、利回りは3~4%台のものが多いという。具体的には、住宅はもちろんのこと、物流の倉庫や学生向けの住宅、また、草津の温泉宿というユニークなものもある。どちらかというと安定した不動産投資になるので、案件に応援したくなる魅力があることも大事だと三好さんは言う。これも不動産STのいいところかもしれない。
「当社では、健康長寿のまちづくりに参加している高齢者施設のSTOを行っています」(三好さん)と言うように、SDGsや地方創生などの社会の課題に不動産STの手法を活用することも可能である。今後は、1口10万円くらいのもっと手軽に投資できるものや、ローンを組まないリスクの低いものも開発されているようなので、どんな案件が出てくるのかとても楽しみである。
不動産STの将来性について
国内最初のSTであるSBI証券のデジタル社債発行の後、発行されたデジタル証券の多くが不動産STである。
株式のようにスマートフォンやパソコンの画面で購入・売却ができる不動産STの利便性は、不動産投資の初心者にちょうどいいのではないだろうかと筆者は考える。また、ICOやIPO、REIT、クラウドファンディングに次ぐ新しい資金調達手段として、資金調達する側の期待値も高い。今後不動産STは、新しい不動産投資の形として定着し、投資の裾野を広げていくと考えられる。
現在STは、大手の証券会社が月に1~2本程度のペースで販売しているが、商品性の多様化や法律の整備、インフラ構築などが今後進むことで、市場規模は拡大していくだろう。365日24時間の取引や同日の決済処理が可能となり、世界中の投資家と自由に売買できる時代がすぐ近くにやってきているのである。今まで不動産投資をしたくても、資金や手続きの煩雑さで諦めていた人は、不動産STを検討してみるといいだろう。
取材協力:Hash DasH株式会社
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