給湯器不足の背景
2021年の秋ごろより住宅業界では給湯器の不足が騒がれ始めている。理由としては、新型コロナウイルスの影響により大手給湯器メーカーの生産量が減少しているためだ。給湯器が減産に至ってしまったのは、給湯器に含まれるハーネスと呼ばれる部品の調達が困難になっていることが主な要因となっている。ハーネスとは、高温になる機器類に使用される耐熱電線のことである。
大手給湯器メーカーは、コスト競争力を高めるためにハーネスの1社購買を推進してきた。そのハーネスの工場がベトナムにあり、ベトナムの主要都市が新型コロナウイルスによりロックダウンされ工場が稼働できなかったことが直接的な原因となっている。
東南アジア諸国の工場がロックダウンで閉鎖されたことによる供給網への影響は、給湯器にとどまらず、自動車や温水洗浄便座等のさまざまな商品に影響を与えている。新型コロナウイルスはさまざまな商品を品不足に陥れているが、給湯器が特に深刻な状況になっているのは、給湯器が季節性商品であることが理由として挙げられる。
給湯器は毎年、12月や2~3月といった冬場に需要が伸びる商品となっている。冬場に需要が伸びるのは、「故障」と「住宅の新築物件」の増加が主な要因となる。給湯器は、雪国では冬に配管が凍結してしまうことで故障するケースが増える。給湯器が故障すれば、交換需要が伸びるため、冬場に給湯器の需要が高まる。
また、住宅に関しては2~3月に向けて竣工する新築物件が増える。2~3月は引越しシーズンであることから、住宅の売買や賃貸の需要が増えるため、新築物件の竣工もそのタイミングに合わせられることが多い。新築物件における給湯器の設置工事は竣工間際の最後の方に行われることが多いため、ちょうど2~3月あたりに建築現場で給湯器需要が伸びる。
よって、冬場は「故障」と「住宅の新築物件」が増えることから、2021年の12月頃から給湯器不足が深刻な状況となっているのだ。
国土交通省の対応
給湯器不足の状況を受けて、現在、国もさまざまな対応を行っている。まず、国土交通省は各都道府県に対し、「完了検査の円滑な実施」を呼び掛けている。完了検査とは、竣工時に行われる検査のことである。通常、建物は着工するにあたり、確認申請という図面審査を行う。確認申請によって、建築基準法や条例等に適合した建物と判断されれば、確認済証というものが発行され、着工が認められる。
ただし、確認済証を受けたとしても、着工してから確認申請とは異なる建物を建ててしまえば合法性を担保できない。そこで、竣工時に確認申請通りの建物が本当に建っているかを確認するのが完了検査になる。完了検査に合格すれば「検査済証」が発行され、合法的な建物が建っていることが認められるという流れだ。
国土交通省は、給湯器の他、トイレやシステムキッチン、ユニットバス、ドア等の建材・設備の部品の供給が滞っている状況を受け、各都道府県に完了検査の柔軟な対応を行うように要請している。給湯器等の供給が追い付かないと、給湯器等の設備が未設置の状態で完了検査が申請される物件が増えると予想される。
設備が未設置の状態で完了検査を受ければ、確認申請の図面とは異なる建物が建っていることになるため、本来であれば完了検査は通らない。しかしながら、このような軽微な変更で完了検査を不合格にしてしまうと、検査済証が発行されず、建築主(発注者)へ引き渡せない建物が続出することになる。
そこで、国土交通省では、「完了検査の円滑な実施について」において、以下のような要請を行っている。
住宅の建築工事の場合、確認済証の交付を受けた内容から一部の設備等がないことをもって、「住宅」として工事が完了していないといった扱いをすることのないよう、柔軟に対応してください。
出典:国土交通省「完了検査の円滑な実施について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001459885.pdf
そのため、諸般の事情により給湯器等が設置できない場合でも、完了検査が速やかに実施される運びとなっている。ただし、軽微な変更に該当しない場合は、原則として計画変更の手続きが必要であると注意喚起されているため、大きな変更がある場合には従来通り計画変更申請の手続きが必要となる。
経済産業省の要請
経済産業省では、一般社団法人日本ガス協会および一般社団法人日本ガス石油機器工業会からの要請を受け、東京五輪の選手村で使用されていた約1,400台の給湯器を貸し出す対応を行うこととなった。
詳しいことは明らかになっていないが、一般社団法人日本ガス協会および一般社団法人日本ガス石油機器工業会を通じて貸し出すことになっている。
一般社団法人日本ガス石油機器工業会によれば、対象となる給湯器の仕様は以下の通りだ。
【貸し出し予定の給湯器の概要】
・都市ガス用のみ
・ふろ追いだき機能、及び暖房機能を有しない給湯機能のみ
・一部の給排気方式のみ
・株式会社ノーリツ製のみ(運用の詳細についてはメーカーと調整中)
・(一社)日本ガス協会、(一社)日本ガス石油機器工業会への供給総数は約1,400台
その他、経済産業省では関係団体に以下のような要請を行っている。
【要請内容】
・利用者への影響を最小限とするべく、故障時の修理対応に万全を期すとともに、仮付けの給湯器の設置など適切な対応を行うこと。
・給湯器の供給遅延の早期解消に向けて、取引関係のある部素材供給事業者に加えて、これまで取引関係のない事業者からの調達も検討すること。
・海外向け給湯器の国内への振替を検討すること。
・今般の新型コロナウイルス感染症により、サプライチェーンの正常な稼働に支障をきたしたことを踏まえ、多面的なリスク対応を通じてのサプライチェーンの多元化・強靱化を進めること。
・経済産業省における給湯器の需給情報等の情報収集に協力すること。
「海外向け給湯器の国内への振替を検討すること」といった内容も要請されているため、給湯器の国外流出は少し減るのかもしれない。
給湯器の耐用年数
給湯器の会計上の法定耐用年数は6年であるが、実際には10~15年程度は問題なく使えることが一般的となっている。アパートや賃貸マンションでは、築10年目くらいに給湯器の交換時期を迎える。ちょうど大規模修繕として給湯器の交換を計画していた賃貸オーナーは、今回の給湯器不足に直面しているかもしれない。
賃貸物件の大規模修繕は、予防保全といって壊れる前に実施するのが通常である。予防保全とは、故障する前に予兆を捉え、適切な処置を施す修繕のことを指す。
予防保全の修繕では、例えば10戸のアパートなら10個分の給湯器を同時期に一気に交換することになる。本来給湯器は予防保全としてすべて交換すべきであるか、手に入らないようであれば交換時期は1~2年程度先延ばしするという対応も考えられる。
ただし、古い給湯器を放置すると故障していく可能性があるので、事後保全が発生する可能性があることは認識しておきたい。事後保全とは、事故や不具合が生じてから行う修繕のことである。
給湯器は、入居者が注意して使用することで故障が減らせる可能性は十分にある。
一般社団法人日本ガス協会では「冬季における給湯機器の故障予防対策等について」を公表している。
https://www.gas.or.jp/oshirase/20220106.pdf
管理会社を通じて入居者に予防対策を共有するのも対策の一つだろう。
今後の見通し
今後の見通しについては、冬場を乗り切れば給湯器不足の問題は一段落すると思われる。しかしながら、冬場を乗り切っても根本的な解決とはなっていないため、新型コロナウイルスの影響が長引けば、来年も同じことが生じかねない。
現在、大手給湯器メーカーでは、部品の供給網を複数の国に分散する動きを始めている。ただし、供給網の分散は簡単にはできないため、解決には時間がかかるものと予想される。
供給網を分散すればリスクヘッジにはなると思うが、効率性が下がるためコストアップ要因につながる。メーカーは、コストと品質、リスクヘッジの3つを考慮しながら新たな生産国を見つけなければならないことから、新たな体制の構築には時間がかかると思われる。
日本だけでは解決できない問題のため、当面は急場しのぎの対策を繰り返しながら対応し続けるのかもしれない。






