ライターという職業は「何か得意分野を持っていると強い」とよくいわれますが、私の場合はそれが「住宅・住宅設備」の分野です。クライアントの半数以上が、住宅や建材、住宅設備のメーカー様です。
その中でも大手ハウスメーカー様の情報誌は、もう最初に手がけてから15年ほど経つでしょうか。メインのコンテンツが実際に住まいを建てたお施主様の「お宅拝見」記事であるため、年間10邸以上のお住まいを訪問しています。他のクライアントから依頼される同様の取材も含めると、これまでに200邸以上は確実に取材しているでしょう。
今回はそんな私が、これまでの経験を通して感じたことや、そこから見えてきた「満足度の高い注文住宅」についてお伝えしていきます!
注文住宅を実際に建てた人の言葉には、役立つヒントがいっぱい!
20数年間、聞き続けても飽きない住まいづくりの話
私が制作している情報誌では毎号、編集会議をひらいて1つのテーマを設定しています。あるときは家事がラクな住まい、あるときはペットと暮らす住まい…。各号のテーマに基づいて、全国の支店から実例候補を推薦していただき、図面を見たりヒアリングしたりしながら掲載実例を絞り込んでいきます。
日本全国どこの実例に決まるかわからないので、毎回ワクワクしています。これまで、北は北海道から南は鹿児島県まで取材に走り、44都道府県を訪れました。
取材当日、カメラマンが空間を撮影するのと並行して、私はお施主様にじっくりとインタビューをします。住まいづくりでこだわったポイントやプランニング中のエピソード、実際の暮らし心地など、これでもかと深掘りして記事のネタを集めるのです。
もともと私は間取りやインテリアに興味があり、ライターになりたての頃から住関連の案件を積極的に受けていました。お宅拝見取材は20数年やっているものの、まったく飽きることがありません。それほど、住まいづくりは奥深いのです。
共通の正解はない。でも「わが家の正解」はあるはず
もう10年以上前のこと、中国地方のとある新居におじゃましました。山や田んぼに囲まれた自然豊かな環境なのですが、ひとつ気になる点も。近くに線路が通っているのです。
普通なら線路側には窓を設けませんが、そのお宅では大きな掃き出し窓が連続していました。「プライバシーを気にするよりも、開放的に暮らしたい。ウチは電車に向かって手を振ってやる!ぐらいの家族なので」とご主人。3人のお子さんがワーワー、ぴょんぴょんと手を振る姿を撮影したことが忘れられません。
当然ながら注文住宅の場合は、お施主様が100人いれば100通りの住まいになります。暮らし方も価値観も違う中で、コレ!といえる1つの正解はなくても、「わが家にとっての正解」はあると思います。住まいづくりは考えることや選ぶことが本当にたくさんあって大変ですが、多くの情報をヒントにしながら、自分たちにベストな答えを導き出してみませんか。
幸い、いまの時代はネットで簡単に情報を集めることができ、この記事もそのひとつです。次の段落からは、お施主様の満足度が高い住まいにはどんな傾向があるか、どんな工夫が取り入れられているかをまとめてみたので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
実例をもとに教えます! 「満足度の高い注文住宅」
<満足度の高い注文住宅>間取り編
間取り編(1)大空間のLDK
取材の場で「住まいに対してどんな要望を出されましたか?」と聞くと、真っ先に挙がる答えが「LDKを広く」ということです。大空間のLDKなら、みんなが別々のことをしていても互いの気配がわかり、家族としての一体感が保たれます。立地環境にもよりますが、大きな窓を設けて外の自然環境を取り込めば、いっそう心地よく過ごせます。
間取り編(2)家事動線が短い
水まわりを集約して、料理の場と洗濯の場を近づけると家事がスムーズに進みます。とくに労力のかかる洗濯は、共働きで夜に洗濯して室内干しをするご家庭が増えたため、広いランドリールームをつくるケースが多数。近くにファミリークローゼットも設けたお宅では、「乾いた洗濯物はハンガーのまま移動させるだけ。洗濯物はたたみません!」という羨ましい声も聞きました。
間取り編(3)プラスαの空間がある
書斎や趣味の部屋など、好きなことを楽しむためのスペースがあれば暮らしがぐっと豊かになります。直近の取材では、玄関脇にご主人自慢の釣り竿の収納庫がありました。奥行きわずか数センチのスペースですが、「念願が叶った!」とご主人は大満足のご様子でした。
<満足度の高い注文住宅>インテリア編
インテリア編(1)遊び心や見せ場がある
中部地方のあるお宅では、奥様がお好きな北欧テイストを基本としてインテリアをコーディネートし、LDKの壁を1面だけブルーグレーに塗装されました。しかも、ご夫婦と設計者とコーディネーター、みんなで塗料を買いに行って色を選び、一緒に半日かけて塗ったのです。そのお宅を象徴するかのようなアクセントウォールになり、「最高の思い出になりました」と奥様もおっしゃっていました。
どこか1カ所だけでも遊び心を取り入れると、「らしさ」が感じられる住まいになります。広い面積で冒険するのはちょっと…という場合は、トイレのような小空間で遊んでみてはいかがでしょうか。
別のお宅では、奥様とご主人のインテリアの好みが違っていたため、基本のインテリアはニュートラルにまとめ、1階のトイレはご主人、2階のトイレは奥様担当に。それぞれが好きなクロスを貼るなどして、思いきり自分らしさを楽しんでいらっしゃいました。
インテリア編(2)プロの手も借りている
たいていの場合、住まいづくりでは各邸にインテリアコーディネーターが付きます。叶えたいインテリアのイメージやテイストがはっきりしている場合は、できるだけ理想に近い空間写真をSNSや雑誌などで集め、コーディネーターさんと共有しましょう。インテリアに成功している人はみんな「伝え上手」です。
自分にはセンスがない、好きなイメージもよくわからない…という人は、コーディネーターさんに丸投げしてしまうのも手です。家具まで選んでもらったというある奥様は、「自分じゃ絶対に実現できない空間にしてくださいました」と感動。担当されたコーディネーターさんは「私が住みたいわ」と笑っていらっしゃいました。
インテリアは、どんなにセンスのある人でも迷うことがあります。先にご紹介したブルーグレーの塗り壁を実現された奥様は、基本のクロスをホワイトではなくグレージュ系にしたいという希望があったものの、暗くなるのでは…と悩んでおられました。コーディネーターさんが「大丈夫」と背中を押したことで決断でき、大正解だったとのことです。
<満足度の高い注文住宅>設備編
設備編(1)こだわりのキッチン
設備の中で、キッチンはいちばん力が入るポイント。デザインは各自の好みによりますが、機能面で「採用してよかった」という声が多いのは、触れなくてもセンサーで水が出るタッチレス水栓、食洗機、ビルトインガスオーブンなど。やはり毎日使うキッチンなので、多機能に越したことはないようです。
また、レイアウトは、キッチンとダイニングテーブルを横並びにするケースが増えてきました。小さなお子様がいるご家庭では、「会社から保育園にお迎えに行って帰ってきたら、とりあえず子どもを隣のダイニングに座らせて、野菜スティックをかじらせておきます。ダーッと料理して、できたそばから横にスライド!」というお母さんも。少しでも時短したい、共働きの場合にはとくにおすすめです。
設備編(2)玄関に手洗い場を設置
ウイルス対策として、玄関脇に手洗い場を設けるケースが急増中です。家族だけが使う洗面室には、キャビネット型のいわゆる「洗面化粧台」を採用するお宅も多いのですが、ゲストも使う玄関脇の手洗い場はカウンターを造作し、好みのボウルやタイルでオリジナルに演出するケースがほとんど。「好き」を集めた手洗いコーナーは愛着がわくようで、インタビュー中もお気に入りの場所としてよく挙がります。 設備編(3)スマートハウス スマートハウスとは、最新のIT技術などを駆使して、家庭内のエネルギー消費量を最適にコントロールする住宅のこと。太陽光発電システムや蓄電池などを用いて電気の自給自足率を高めたり、エネルギー消費量を「見える化」することで消費電力を抑えたりすることができます。「晴れた日には、発電してるな!ってうれしくなるんですよ」と、採用されたお宅でご主人がおっしゃっていたのが印象的でした。
<満足度の高い注文住宅>予算編
予算の使いどころにメリハリがある
最後にお金の話です。つまるところ住まいづくりは、要望と予算とのせめぎ合い。際限なく予算があれば要望はすべて叶いますが、なかなかそうもいかない…ということで、住まいづくりに成功した人は皆、メリハリのあるお金の使い方をしています。
これまでに取材した実例で、いちばんのお金のかけどころはやっぱり「LDK」。暮らしの中心となる空間であり、応接間を設けることが少ない現代の住宅ではゲストを迎えることもあるからでしょう。たとえば、LDKの床には無垢フローリングや挽板(ひきいた:天然木を厚めにスライスしたもの)フローリングを使う、下がり天井に間接照明を仕込んで夜のムードも演出する、TVの後ろの壁にタイルを貼ってアクセントにする、といったところでコストをかける人が多いです。
代わりに、子ども部屋や主寝室といった家族しか使わない空間は、突板(つきいた:天然木を薄くスライスしたもの)フローリングを採用するなどしてコストを抑える工夫が見られます。寝室にはこだわる人も多いのですが、子ども部屋は広さも4畳半くらいの最低限にして、内装も白いクロスでシンプルに仕上げるケースが大半です。その方が子ども自身で好きにアレンジできますし、子ども部屋は寝るだけの場所と割り切れば、広くて心地よいリビングに自然と家族が集まるというメリットもあります。
他にもコスト面で「コレを実現したかったから、ココとココで削りました」というお話はよく聞きます。大きなこだわりを実現できれば、小さな妥協を積み重ねても満足度はそれほど落ちません。
注文住宅で理想の住まいを実現するためには?
すべてはコレに尽きる! 「要望を洗い出して」「優先順位を明確に」
ここまで、取材現場で聞いたいろんな声をご紹介してきました。取り入れたい工夫はありましたか?
これらを参考に、住まいづくりに向けて次に行うべきは、家族みんなの要望をいったん全部洗い出すということです。レッツ家族会議!
今の暮らしで不便・不満に思っていることは何か、新しい住まいではどんな暮らしがしたいのか。ひとまず予算は考えずに、どんどん話し合い、書き出してみましょう。
そのうえで「これは絶対に譲れない」ということから、「予算が厳しくなりそうならやめてもいい」ということまで優先順位を明確にしておくと、実際にプランニングが進んでからも迷いが少なくなります。
とはいえ、家族会議をうまく進められるかな、抜け落ちる項目があるかも…と不安な人もいるのでは。そんな人こそ、プロの手を借りましょう! 住まいづくりについて相談できる窓口に行けば、専門家が順を追って条件整理をサポートしてくれますよ。
完成物件を買ってリフォームするのもおすすめ
1から10まで住まいづくりを考えるのは大変すぎる。注文住宅は予算が厳しい。そんな人は、新築の建売住宅を手に入れ、こだわりたい場所だけリフォームするのも手です。
リフォームする範囲にもよりますが、一般的に注文住宅と建売住宅は1千万円程度の価格差があるとされているため、予算は抑えられる可能性大です。
さらに予算を低く抑えたい場合は、中古住宅を買ってリフォーム・リノベーションすることを考えてみては。既存の使い込んだ柱や建具などを生かして、新築には出せない味わいが楽しめることもメリットです。
住まいをつくることは、暮らしの気分をつくること
お宅拝見取材を重ねてきて感じたことが、もうひとつあります。それは、住まいが変わると、毎日の暮らしの気分はこんなにも変わるんだなぁ、ということです。
「家にいるのが気持ちいいから、あまり外に出かけたいと思わなくなったんです」
「ゆとりをもって子育てできるようになりました」
「いつも家に帰るたびに、いい家だなぁって思います」
「料理するのがイヤじゃなくなりました」
「早起きするようになりました」
すべてお施主様から聞いた言葉です。自分はどんな暮らしがしたいんだろう、自分の好きなものって何だろう、そんなことを考え抜いて、選び抜いてできあがる住まいは、すごい力を持っているんですね。
次はどの街で、どんなお住まい、どんなご家族に出会えるのか、今からワクワクしています。私はやっぱり、お住まい拝見取材が大好きです。