言わずと知れた、五・七・五・七・七の言葉の芸術、短歌。近年、SNSとの相性の良さやテレビ番組での特集を受けて、ますます多くの人を魅了しているといいます。
そんな短歌を中心に古書と新刊を取りそろえ、取材中も歌人さんやサークル活動で短歌に励む大学生など多くの作り手が真剣に本を選ぶ姿が印象的だった、大阪・中崎町の「葉ね文庫」。
店主の池上規公子さんに、お店のこと、短歌のこと、中崎町の街のことについてお話を伺いました。大阪府の物件を探す

―短歌、俳句、現代詩などを中心に取りそろえながらも、いわゆる専門書店的な重たさがない、独特の立ち位置がとても魅力的です。「葉ね文庫」さん開店の経緯を教えてください。

池上さん:「私自身、これまでずっとウェブマーケティングの仕事をしていました。かなり忙しかったので、終電まで仕事、なんてことも珍しくなくて。でもある時、ふと『一日中仕事ばかりの日々が続いていく人生って損してるんちゃうかな?』と思ったんです」

―そこで本屋さんを、となったんですか?

池上さん:「業種の縛りをなくして次の道を考えたとき、すぐに本屋が浮かびました。いろいろ調べて『やれるぞ!』という気になってからはもうとにかく早く始めたくて(笑)」

葉ね文庫は土足厳禁!カーペットを踏みしめて本を選ぼう

―2014年の開店とのことですが、当時から出版を取り巻く状況は厳しかったと思います。書店でやっていくことに不安はなかったんですか?

池上さん:「会社に所属しながらであれば大丈夫かなと思っていましたね。今も週に3日間は会社で働いています」

―二足の草鞋ということですね!短歌中心の品揃えですが、池上さんご自身ずっと短歌畑にいらしたんでしょうか?

池上さん:「全然です(笑)。短歌をちゃんと読んだのは大人になってからで、出合いも偶然というか」

―どんなきっかけだったんでしょう?

池上さん:「毎日何かしら本を持っているんですけど、たまたま忘れてきてしまった日がありました。電車の乗り換えの3分間でパッと駅の書店で買ったのが、歌人の枡野浩一さんが書いた小説『ショートソング』やったんです。大学生が短歌にハマって上手になっていくというストーリーなんですけど、物語がちゃんとリードしてくれる本だったので“短歌についての小説”と身構えることなく読了して、短歌の面白さに気づきました」

―枡野浩一さんがきっかけだったんですね!

池上さん:「その後も枡野さんが作品を募っていたので試しに書いて送ってみたらラジオで読んでもらえて、『ヤッター!』って。それで調子に乗ったんですね(笑)。もっと色んなひとの作品を読みたいなとやっているうちに、自分は書くよりも読むほうが好きだと気づいて。次第に自分では作らなくなるんですけど、より一層ハマっていきました」

―今でこそ書店の目立つところに短歌が置かれていることも多いですが、ほんとにここ最近のことですよね。

池上さん:「そうなんです。書店にあまり並ばない、並んでいてもすごく狭い範囲でした。なので私もわざわざ出版社から取り寄せて読んでいましたね。一方で、Twitter上では『短歌タグ』なるものがあるくらいたくさんの書き手さんがいることも知っていたので、短歌に特化したら好きな人が来てくれるかもとも思いました。最初は少しだけのつもりが蓋を開けたらどんどん増えていって、俳句や詩にも興味が出てきて今に至るという感じです(笑)」

―場所を中崎町に決めたのには理由があったんですか?

池上さん:「結婚を機に神戸から大阪に出てきたんですけど、中崎町には来たことがありませんでした。当時、この『サクラビル』の3階に『Books DANTALION』というZINE専門の書店があって、そこに伺ったのが最初です」

―そのときの中崎町はどんな印象でしたか?

池上さん:「なんて面白い街なんやと(笑)。ぐるぐる散歩をしているうちに、こんな街で働きたいなとか思ったり。それでいざ『葉ね文庫』を始めようとなったときになんと『サクラビル』の1階が空いていたんです!」

―図らずも池上さんが中崎町に来るきっかけになった『Books DANTALION』さんと同じビルに入居されたんですね!すごい偶然!

池上さん:「一般的には扱いづらいジャンルの本を販売するので場所が大事やなと思っていて、中崎町であれば遠くからでも比較的来やすいですし、梅田からも近いので旅行のついでに寄ってもらえるかなっていうのもあって決めました」

―雰囲気としてはどんな街ですか?

池上さん:「梅田の隣やのに落ち着いています。あと戦争の被害が比較的少なかったので昔からの家が残っていて、その一方で若い方が新しいお店を始めることも多く、古さと新しさが交ざった独特の街ですね。細い路地で探検気分になるからか、お客さんも好奇心旺盛な方が多い気がします。私自身も、好奇心を満たしてくれる街だと思っています」

―ご来店されるお客さんが皆さん、池上さんと親しげなのがとても印象的です。お客さんとは意識してコミュニケーションを取るようにされているんですか?

池上さん:「コミュニケーションはあまり気にかけていませんが、何度かお会いしているうちにお話しするようになった、という感じです。また、お客さんのなかには短歌を書かれている方が多くて、書き手同士が集まるとおのずと会話が生まれるので、それを聞いて勉強したり、楽しませてもらっています」

―なるほど!だからこそかはわかりませんが、お店の様子を見たとき、お客さんが真剣に本を選びに来ているのが伝わってきて素晴らしい本屋さんだと思いました。展示スペースやお客さんが自由に書ける短冊、サロン的な話しやすい雰囲気がありながらも、あくまでも全部“本ありき”でちゃんと本を目指してきているというか……。

店内奥の展示スペースの通称は「葉ねのかべ」!コロナ禍以降は4ヶ月に一度の頻度で内容が変わる

短歌に限らず文章を自由に書ける短冊

「ハネ」が表現された手書きの壁紙

池上さん:「めちゃくちゃ嬉しいです。ほんとにそのとおりで、舵取りを間違えると『本はさておき、出会いの場』みたいになってしまうと思っているので、気をつけています。今の状態に保てているのは、お客さんが勉強熱心というか、作るためのヒントを模索している方が多く来店してくださっているというのも大きいですね」

―とはいえ、常連さんだけに閉じているわけでもないように見えます。

池上さん:「平日の夜は常連さんの時間帯になりがちですが、土曜はこのビルに遊びに来た人がついでにのぞいていってくれることも多いですよ。少し前まではみんな『これ、何の本?』という感じだったのに、最近は短歌の本だと気づかれるので、短歌もずいぶん浸透してきたなと(笑)」

―取材の度にお願いされていると思うんですけど、おすすめの本を教えてください!

池上さん:「じゃあ、入門書と作品を1冊ずつ!入門書のおすすめは榊原紘さん著『推し短歌入門』です。キャッチーなタイトルの本ですけど、入門の名に違わず押さえるべきポイントをビシっと押さえていて、ゴリゴリに短歌をやっている大学生もとても参考になると言っていました。ずっと本を読む気分じゃないと言っていたお客さんも冒頭だけ読んで買っていってくれたんですよ」

―短歌の歴史からくる取っつきにくさが「推し短歌」と言われることで中和される気がします(笑)。2冊目は?

池上さん:「作品集としておすすめなのが、長谷川麟さんの『延長戦』です。ひとりの青年の視点で、日常や家族、その時その時の心情が描かれています。短歌は読んだことがないけど小説は好き、というお客さんが選ばれることが多いかもしれません。私もとても好きな一冊で、ああ、この感覚を知っている、でもこんなふうに立ち止まってみることがなかった、と自分のなかにあるものと本とを行ったり来たりしながら読みました。景色・ひと・会話、詳しいことは書かれていないけど、その一瞬のその場の空気が伝わってくる、そんな感覚をぜひ楽しんでみていただけたらなと思います」

―これまであまり親しんでこなかっただけに、とても新鮮で面白いです!

池上さん:「今回ご紹介した以外にも、いろいろなタイプの短歌があるので、お時間のあるときにゆっくりお立ち寄りいただければ嬉しいです!」

◆今回取材したお店

「葉ね文庫」

住所:大阪府大阪市北区中崎西1丁目6-36サクラビル1F

電話:090-9271-3708

メール:info@hanebunko.com

営業時間:火:15:00~21:30 / 木:19:00~21:30 / 土:11:00~21:30

定休日:月・水・金・日(HP、SNSを要確認)

X:@tobiyaman

HP:https://hanebunko.com

取材・文 石川宝 写真 貞雄大

「葉ね文庫」は最寄りのOsaka Metro谷町線中崎町駅から徒歩3分ほど。古着屋さんや雑貨屋さんが集積する「サクラビル」の1階です。中崎町は古い家々と新しい感性が交ざり合った独特の松。サブカル心をくすぐる町の雰囲気を、池上さんは東京の高円寺に譬えてくれました。

平均家賃は6.79万円。地下鉄の路線は谷町線の1本のみではあるものの、梅田まで徒歩圏内という立地はあまりにも魅力的。同じく徒歩圏内には広々とした「扇町公園」があるのでお子さんとも思いっきり外で遊べそうです。インドアで過ごす際は、「葉ね文庫」で本を買うのを忘れずに。

大阪府の物件を探す

更新日: / 公開日:2026.02.27