毎年秋に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」、通称「イケフェス大阪」は、大阪市内の現役で使われている100を超える建築を、無料で一斉に公開する日本最大級の建築フェスティバル。開催期間の2日間に、全国から建築マニアが数万人は集まるというこの一大イベントの事務局長を務めるのが、大阪生まれ大阪育ち、現在も大阪在住の建築家・高岡伸一さんです。
レトロな魅力が人気の名建築から、大阪市民に親しまれてきた公共建築、新しい風景をつくる現代建築まで、大阪の「生きた」建築を知り尽くした高岡さんと一緒に、まちあるきを楽しみます。
第2回は中之島の東エリアから難波橋を抜けて北浜へ。では、行ってみましょう!大阪府の物件を探す

大阪府立中之島図書館外観

阪府立中之島図書館も左右対称ですね。

高岡さん:「日本銀行大阪支店とほぼ同じ、1904年に建てられました。上から見ると十字形をしていて中心にドームがあります。中に入ると大階段からドーム内側を見上げることができますよ。両側の建築は大正時代に増築されました。重要文化財です」

―ずっと図書館として使われているんですね。「大阪圖書館」というレリーフがあります。

高岡さん:「そうですね。現役の図書館で誰でも入ることができます。ここはずっと大阪府立図書館なのですが、住友家からの寄付で建てられました。建物自体も、当初の蔵書も、両方とも住友家が寄付したんです。なので、設計は住友家お抱えの建築家・野口孫市が担当しています。建設費用を出すというよりは、図書館自体を住友家が造って、完成したものを大阪府に渡しました」

―個人の資産家が公共の建物を寄付するって、すごいですね。当時はよくあることだったんでしょうか。

高岡さん:「かつてはよくありましたね。この先の中央公会堂も寄付金がもとになっていますし、大阪城天守閣もそうですね。大阪の主要な公共建築は寄付で建てられたものがいくつもあります。文化的芸術的な支援を企業が行って街の文化度を上げていく、という活動をメセナと呼ぶのですがその先がけです」

―図書館と背中合わせに立っている大阪市中央公会堂は、青空に映える赤煉瓦建築ですね。中之島というとこの建物を思い浮かべる人も多いですよね。

高岡さん:「すごくきれいですね。ちょっときれいすぎるように見えるのは、1999年〜2002年まで3年半かけて耐震補強と免震改修工事を行ったからです。取り壊して建て替える案が出たのを、保存運動が起こって残ることになりました。残して使い続けるために機能的なことも更新されているし、正面の一番上の像も、戦時中に金属供出でなくなってしまったのを復元して再設置しました。内部の意匠や装飾もできるだけ修復・復元されています。もともとの設計には、‟赤煉瓦といえば“の辰野金吾が関わっています。日本銀行より後、東京駅の少し前なので赤煉瓦の時期ですね。辰野金吾は、飾りを載せたりして屋根で遊ぶのが好きだったようで、装飾要素の多いディテールが見応えある設計をたくさんしています」

―だんだんこの時代の建築様式の流れがわかってきた気がします。最初に話されていたように、空が広くて歩いていて気持ちがよくて、それぞれの建物を遠くからも近くからもじっくり堪能できますね。

高岡さん:「前に広場があるし、離れた場所から全体が見えるのがいいですよね。ここも大阪市の公共施設なので、誰でも利用することができます。会場の使用料もとても安いので大変人気なんです。入学式や卒業式、企業の記念式典などに使われていますね。一年前から予約ができるので、日柄のよい日は争奪戦です」

難波橋(ライオン橋)

高岡さん:「中央公会堂から東へ向かう中之島通りは、今整備が進んでいます。遊歩道が広がって、さらに散歩やサイクリングがしやすくなるはずです。遊歩道の突き当たりがバラ園と中之島公園で、その手前にライオン橋という愛称で呼ばれる難波橋があります。南と北のそれぞれ左右にいるライオンが目印です」

―向こうまでずっと続いていますね。途中に階段があって、中之島に下りられるようになっていますね。

高岡さん:「昔は、名前の通りの難波橋筋に架かっていましたが、1912年に移動して今の姿になりました。1975年に補修工事があって、一部は復元もされました。

この階段がいいですよね。左右対称のデザインでこれだけでもひとつの建物のようにも見えます。階段で公園に下りられるから橋が公園の一部にもなっていて、ちょっと座ってバラ園を眺めたりもできて、より親しみが増していると思います」

―使われている、というのが親しみのポイントなんですね。

高岡さん:「活用って、大切ですよね。余談ですけれど、ライオン橋を渡った北浜の川沿いのお店は、川に向かってずらっとテラス席を出していますよね。2009年に始まった「北浜テラス」と呼ばれるまちづくり活動で、行政の土地に民間がテラスを設置することが認められているんです」

―それも川のまちであることの強みですね。古い建物を残していくことと同時に、新しいまちづくりも行われていて、相乗効果で人気のエリアになっているんですね。

大阪証券取引所ビル

―最後は、北浜の大阪証券取引所ビルです。これまでの建物とは少し雰囲気が違いますね。

高岡さん:「元の建築の完成が1935年なので、昭和の建物ですね。元の、と言ったのは、この建築は低層部を外壁保存しているんです。正面とエントランスホールだけ残して、後ろ側は全部壊して新しいビルに建て替えています」

―そういう保存の方法もあるんですね。証券取引所ということは商業の中心だったのでしょうか。

高岡さん:「大大阪時代、という言葉があるのですが、大阪は大正から昭和にかけてものすごく発展していったんです。東京よりも大都市でした。中之島にあるのはそれよりも少し前の、大阪が大大阪になろうとがんばっていた時代の建物です。都市を近代化するために、まず市役所とか銀行とか図書館とか、海外の近代都市が備えている機能的なものを行政主導で建てていって、それがまちの発展を後押ししました。証券取引所は、発展した大阪経済の中心、象徴として建ったんですね。だからその時代の空気感を残すためにも、印象的な外観が保存されたんです。外壁保存としては、大阪の中ではかなり早い事例です。前に立っている銅像は、NHKの朝ドラにも登場した五代友厚です。大阪経済の発展に努めた重要人物ですね」

―歴史的な背景がわかるとまちも建物もよりおもしろく感じられます。高岡さんは、昔からこうしてまちあるきをしていたんですか?

高岡さん:「20代の頃は、建築の仕事はしてはいましたが新しい現代建築に目が行っていました。中之島のあたりも含めて古い建物に興味をもって関わるようになったのは、30歳前後からです。そこからだんだん大阪の古い建築とまちの歴史に詳しくなっていきました。イケフェスが始まったのが2013年なので、次回の2023年でちょうど10回目ですね。2日間ではとても見きれない数の建築物を公開して、建物のオーナーさんなどが見どころを解説していますから、リピーターも多いですし、イケフェスをきっかけにまちあるきが好きになりました、と言ってくれる人も増えています。大阪のまちの魅力をどんどん発信していきたいですね」

大阪府立中之島図書館

所在地:北区中之島1-2-10

建設年:本館 1904年、左右翼棟 1922年

設計:住友本店臨時建築部(野口孫市、日高 胖)

大阪市中央公会堂

所在地:北区中之島1-1-27

建設年:1918年

設計:岡田信一郎(原案設計)、辰野片岡建築事務所(実施設計)

大阪証券取引所ビル

所在地:中央区北浜1-8-16

建設年:1期 1935年、2期 2004年

設計:1期 長谷部竹腰建築事務所、2期 三菱地所設計・日建設計設計監理JV

難波橋(ライオン橋)

完成年:1912年(改修 1975年)

■案内人

高岡伸一(たかおかしんいち)さん

1970年、大阪生まれ。高岡伸一建築設計事務所主宰、近畿大学建築学部建築学科准教授、大阪市生きた建築ミュージアム推進有識者会議委員。大阪を中心に、近代建築や戦後建築の再評価・利活用について研究・実践を行う。2008年、戦後ビルの魅力を発信する集団「BMC(ビルマニアカフェ)」を結成。2013年より「大阪市生きた建築ミュージアム事業」に参画、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(通称 イケフェス大阪)」実行委員会事務局長を務める。主な著書および共著に『新・大阪モダン建築』(2019年、青幻舎)、『生きた建築大阪』(1(2015年) 2(2018年)、いずれも140B)、『大大阪モダン建築』(2016年、青幻舎)、『いいビルの写真集』(2012 年、パイインターナショナル)、など。

Twitter:@shinichitakaoka

大阪市生きた建築ミュージアム:https://ikenchiku.jp/

◆本記事の担当者

取材・文:古屋歴 写真:米田真也

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公開日: