盛んな都市の再開発。再開発ビルの現状は決して明るくない

全国で再開発の計画が目白押しだ。その多くが土地の高度利用や防災性の向上を謳い、既存市街地の一掃と、大規模なビルの建設を伴う。商業施設の床面積を増やし、集客力の高い施設の誘致を狙い、加えて近年は上層階に住宅を併設することで居住人口を増やすことも目的とする計画が多い。

都市における大規模商業施設の始まりは、明治時代に発祥した百貨店(デパート)である。その後、1969年には都市再開発法に基づいて市街地再開発事業の仕組みができ、1979年までの10年間では同事業完了地区の76%が商業用途となるなど、初期は商業施設が入居するビルの建設が相次いだ。1973年の大規模小売店舗法(大店法)での規制強化、2000年の大規模店舗立地法(大店立地法)での規制緩和などを経つつも、大規模な商業施設が増え続け、一方で従来の商店街が衰退する流れは、読者諸氏の共通認識だろう。

再開発の例。立石駅北口地区第一種市街地再開発事業(東京都葛飾区)/撮影:編集部再開発の例。立石駅北口地区第一種市街地再開発事業(東京都葛飾区)/撮影:編集部

かつて人口150万人を超え、都市開発の先進都市と言われた神戸の商業シーンも、例にもれず同様の歴史を歩んでいる。

山と海に挟まれた神戸市は、その立地を逆手にとり山を削って港を埋め立てたり、臨海部の工場地帯をウォーターフロントの市街地に転換したり、土木工事とコンクリート建造物による都市開発を進めた。そうして整備されたポートアイランド・六甲アイランドといった人工島や神戸ハーバーランドには、多くの大型商業施設が開業している。しかし2026年現在、それらの大型商業施設では核テナントが撤退するなど、往時の賑わいが消えたと筆者は感じている。また、阪神・淡路大震災からの復興の過程では再開発ビルに商業スペースを組み込むケースも多かったが、被災者の生活再建と耐震化率・耐火率100%を成し遂げた一方で、保留床の売却は進まず、神戸市が「ハード整備としての再建は果たせたが、商業としてのにぎわいに課題が残る」(新長田駅南地区震災復興第二種市街地再開発事業検証報告書)とするなど、神戸の大規模商業施設の現状は決して明るいものではない。

再開発の例。立石駅北口地区第一種市街地再開発事業(東京都葛飾区)/撮影:編集部六甲アイランドの「神戸ファッションプラザ」。2018年に核テナントが撤退後、2024年に「ROKKOiPARK」がオープンするまで商業フロアは6年間閉鎖していた

LIFULL HOME'S総研が発表した「官能都市」とは

そんななか、LIFULL HOME'S総研が興味深いレポートをまとめた。2025年9月に発表した『Sensuous City[官能都市] 2025』である。そこでは、商業施設とタワーマンションといった再開発は、曲がり角を迎えていると指摘。都市にサステナブルな活力と賑わいをもたらすためには、大規模な建造物といった画一的な再開発から脱すべきと断じる。そして、これから求められる街の魅力づくりのキーワードとして「官能都市(センシュアス・シティ)」を挙げている。官能都市とは、都市工学や経済合理性ではなく、人の「感じる・知覚する」「思う・考える」といった主観的なモノサシで都市を測ろうとするアプローチである。

今回、「官能都市」の考え方には共感する点が多いという、サブカル郷土史家の佐々木孝昌さんに、神戸での再開発について考えを聞いた。佐々木さんは神戸の近代史に詳しく、1980年以降、現在までの都市開発も目の当たりにしてきた。

開発先進都市・神戸の今

佐々木さんは神戸の今についてこう語る。

「震災復興という特殊事情はあるものの、商業ビルや高層マンションを中心とした再開発エリアは人が少なく、シャッターが下ろされた店舗も多いです」
バブル期に誕生した人工島のモールはもとより、昔からの市場や商店街からも賑わいが消えているという。

当時、高度経済成長やバブル経済といった経済状況が大規模な開発を後押しした背景はあるだろう。また、1995年の阪神・淡路大震災からの復興という側面もある。2002年の都市再生特別措置法成立以降は、大幅な規制緩和や金融支援、税制優遇等を行うことで、多くの再開発が推進されてきた。そうしたなか神戸市は、全国に先駆けたタワーマンション規制で脚光を浴びているが、それは住宅に限った規制で、大規模商業開発を規制するものではない。

現に神戸市には現在進行形の新たな大規模商業施設の建設計画が多くある。2027年12月には雲井通5丁目バスターミナルが開業予定で、オフィスやホテル等に加えて商業施設の入居が予定される。2029年にはJR三ノ宮新駅ビルが開業予定のほか、同年に完成予定の神戸市役所2号館にも商業施設が入る。果たしてこれらは、先述した大規模商業施設の二の舞にならないだろうか。

都市開発の先進都市と言われた神戸だが「商業としてのにぎわいに課題が残る」とされ、大規模商業施設の現状は決して明るいものではない。LIFULL HOME'S総研が発表した「官能都市」という考えを元に、サブカル郷土史家の佐々木孝昌さんに、神戸での再開発について考えを聞いた。三宮周辺で計画される大規模な再開発計画/画像:神戸市

サブカル郷土史家・佐々木孝昌さんが語る、これからの商業開発のあり方

LIFULL HOME'S総研のレポートでは、活気ある街の喧騒を心地よく感じることや商店街や飲食店から美味しそうな匂いが漂ってくることが都市の魅力につながり、そのような都市では生きがいや自分らしさといった「都市がもたらす幸福感」が高い水準を示すという。しかし「人々の営みを建物内に囲い込んでしまう大規模施設のある街では、街の活気や喧騒、匂いを感じる機会は制限される」と指摘する。

再開発によって建てられた大規模商業施設内の賑わいも、将来を約束されたものではない。当初話題を集めた核テナントも、業績や経済状況によって再開発ビルの高い賃料を払えなくなり撤退する可能性もある。では、これからの神戸の商業シーンづくりはどうのように進めればいいのだろうか。

「若い世代や就職氷河期世代などは起業欲を持っていると思います。自然発生的に商いを始める個人商店を増やし、行政はそれを支援する取り組みなんかがいいと思います。そういう⼈たちが集まり、商店街や繁華街ができれ ば地元に根差した商業モールができる。元来、商店街や市場は、自然条件や寺社の門前といった条件のもと、自然発生的に生まれたモノでしょう」(佐々木さん)

神戸市南京町。1868年の神戸港開港時に外国人居留地へ居住できなかった清国人が集住したことで発展した神戸市南京町。1868年の神戸港開港時に外国人居留地へ居住できなかった清国人が集住したことで発展した

今、神戸では若い人々によるまちづくりの取り組みも始まっているという。

「中央区の宇治川商店街とモダン寺(本願寺神⼾別院)を結ぶ東西の通りは、人気の飲食店が数店あったものの商店街の場末的な感じでした。しかし、10年余り前から若い世代による小洒落た飲食店がポツポツとでき始めたんです。そして最近では、モダン寺の向かいにある古いマンションの各階に飲食店が入りだして、人気のグルメビルへと成長しました。まさに、自然発生的に生まれつつある門前の賑わいです。
ほかにも、港に近い⼄仲通りは元々、海運業者が軒を連ねる通りでした。その昭和のレトロな雑居ビルをリノベーションによって再⽣し、若い⼈たちが感度の⾼い雑貨屋やカフェなどを開業していったことで、今では観光名所になっている成功事例もあります。モダン寺の門前通りも、まさに第二の乙仲通りになる予感がします」(佐々木さん)

佐々木さんは続ける。

「都市の賑わいは自然に発生するもの。行政のお膳立てで賑わいが長く続くものではありません。行政は、若い⼈の活⼒を⽣かし家主・地主も含めた住⺠の理解と参加によって“面白そうだからそこで何かやってみよう”と思える街づくりをサポートする。それが、長く続く賑わいのために必要じゃないかと思います」

神戸の近代史に詳しいサブカル郷土史家 佐々木孝昌さん神戸の近代史に詳しいサブカル郷土史家 佐々木孝昌さん

永続的な活力を生むために住民参加による開発を

前出のレポートで官能都市の因子として挙がる活気、喧騒、匂いといった人々の営みは、建築物というハード面の整備だけではかなわない。

佐々木さんは「人と人が触れ合う機会をなくしてしまう開発では、永続的な活力は生まれません。少なくともまちづくりの過程において、先ほどの例にもあるような、個性的なお店と住⺠の参加は不可⽋だと考えます」と語る。

『神戸はみだし近代歴史めぐり~写真で見るサブカル郷土史』(神戸新聞総合出版センター)佐々木孝昌著『神戸はみだし近代歴史めぐり~写真で見るサブカル郷土史』(神戸新聞総合出版センター)佐々木孝昌著

佐々木さんは近著『神戸はみだし近代歴史めぐり~写真で見るサブカル郷土史』(神戸新聞総合出版センター)で、早くから外国にも開かれた街として、その歴史が磨いてきた神戸の都市文化と歴史を、丹念な調査と貴重なビジュアルによって紹介している。

こうした景色、歴史遺産、自然、そしてサブカルチャーまで、紡がれてきたひとつひとつが街の資産である。ここで紹介される街の姿には、再開発ビルのような大規模・画一的なものはひとつもない。これからの神戸の商業開発、まちづくりの大きなヒントになるように感じた。全国に先駆けてタワマン規制に乗り出した神戸が、曲がり角を迎える商業開発においても、再び開発先進都市・神戸となることに期待したい。

都市開発の先進都市と言われた神戸だが「商業としてのにぎわいに課題が残る」とされ、大規模商業施設の現状は決して明るいものではない。LIFULL HOME'S総研が発表した「官能都市」という考えを元に、サブカル郷土史家の佐々木孝昌さんに、神戸での再開発について考えを聞いた。工事中の三ノ宮駅周辺。ちまたで「ガリバートンネル」と呼ばれ親しまれてきた地下道連絡口だが、神戸新聞の報道によると駅前再整備により「撤去されることになる」そうだ