小名浜道路とは

「都心から福島へ移住したい」、そう考えたとき、移動時間や交通利便性は、暮らしの可能性を左右する大きな要素となる。

今回、紹介する小名浜道路は、福島県南東部の港湾都市・いわき市小名浜と常磐自動車道を結ぶ延長8.3kmの自動車専用道路である。2025年8月7日(木)午後3時の開通を予定しており、首都圏から小名浜港までのアクセスが向上する見込みだ。

この記事では、小名浜道路の概要や整備の背景に加え、開通後に期待される移動時間の短縮、物流・観光・災害対応などへの波及効果、そして福島県いわき市小名浜という街の移住地・二地域居住地としてのポテンシャルについて、分かりやすく紹介していく。

福島県内の高速道路網と小名浜道路の位置 ※出典:福島県(2024年度)「小名浜道路とは?令和6年度(2024年度)パンフレット」福島県内の高速道路網と小名浜道路の位置 ※出典:福島県(2024年度)「小名浜道路とは?令和6年度(2024年度)パンフレット」

今回の開通に伴い、常磐自動車道には新たに「いわき小名浜IC」が設置される。お盆の帰省期間や企業の夏休み期間が本格化する直前の開通であり、交通利便性が高まることが期待される。また、首都圏からのアクセスという点で見ると、新設される「いわき小名浜IC」は、常磐道の起点である三郷JCT(ジャンクション)から約161kmに位置する。これは常磐自動車道を北上し、福島県に入って2つ目のICとなる。

福島県内の高速道路網と小名浜道路の位置 ※出典:福島県(2024年度)「小名浜道路とは?令和6年度(2024年度)パンフレット」常磐自動車道と小名浜道路の位置 ※出典:福島県(2024年度)「小名浜道路とは?令和6年度(2024年度)パンフレット」
福島県内の高速道路網と小名浜道路の位置 ※出典:福島県(2024年度)「小名浜道路とは?令和6年度(2024年度)パンフレット」小名浜道路(いわき市山田町地内) ※出典:福島県公式ホームページhttps://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41380a/iwakikensetsu-topics.html

小名浜道路開通による時間短縮効果

小名浜地区は、福島県いわき市の南部に位置し、人口約8万人(2025年7月1日現在。*いわき市現住人口調査)を有する。1966年にいわき市が誕生する以前は「磐城市」と称し、その中心である小名浜は、江戸時代は天領地としての長い歴史を持ち、漁業や海運で栄え、明治に入ってからは国の重要な港湾として発展してきた。

現在、小名浜港の周辺には、関東・東北地方に電力を供給する火力発電所が多数立地し、東日本エリアのエネルギー供給を支える拠点港としての役割を担う。加えて、港の背後地では工業団地が形成されており、いわき市は東北地方で仙台市に次ぐ1兆円超の「製造品出荷額等」を誇るなど、有数の工業都市でもある。

小名浜道路が整備された背景には、港湾機能と産業・物流機能との連携強化がある。従来、常磐自動車道から小名浜港へアクセスするには、「いわき湯本IC」または「いわき勿来IC」で高速道路を下り、一般道を利用する必要があった。前者の経路では約29分、後者では約30分を要していた。

しかし、小名浜道路の整備により、このアクセス時間は約13~14分へと大幅に短縮される。これにより、例えば三郷JCTからの総所要時間は、従来の約2時間7分から約1時間50分となり、心理的な節目の一つとされる「2時間」を切ることになる。これは、首都圏からのアクセス性が改善されることを意味する。

小名浜港 ※2025年7月撮影小名浜港 ※2025年7月撮影
小名浜港 ※2025年7月撮影小名浜道路の終点(いわき泉IC出口) ※2025年7月撮影

小名浜道路がもたらす効果

小名浜道路の開通は、物流・産業・防災の各分野において、多岐にわたる効果をもたらす。その理由として主なものとしては次の3つが考えられる。

① 物流・産業の効率化
常磐自動車道から小名浜港までの所要時間が短縮されることは、物流や観光、製造品を輸出入する事業者にとって直接的なメリットとなる。一回の走行ではわずかな差であっても、年間を通してみれば、大きな時間と燃料コストの削減につながり、生産性が向上する。

② 防災機能の強化
災害時において、緊急物資の受入港である小名浜港と、緊急輸送路である高速道路ネットワークが直結することの意義は大きい。これにより、大規模災害時における円滑な緊急輸送体制が確立される。この効果は、いわき市民だけでなく、内陸部の郡山市など、福島県全体の防災力向上や安全・安心の確保に寄与する。

③ 広域ネットワークにおける拠点性の向上
小名浜は、東京と仙台のほぼ中間に位置し、広域的な物流ネットワークの中で重要な拠点といえる。東日本高速道路株式会社の公表資料によると、2025年3月に全線開通10周年を迎えた常磐道は、経済波及効果を約3兆円と試算している他、開通に伴い、東京―仙台間の自動車交通の約4割を担っていることが明らかにされた(下図参照)。
この常磐道と小名浜港が直結することで、物流面での利便性は大きく向上する。特に、災害の激甚化・頻発化が進むなかで、企業が生産・物流拠点を複数持つことでリスクを分散する動きが進みつつある。そうした視点からも、福島県沿岸部や茨城県北部の立地的な優位性は、今後さらに高まっていくと考えられる。

東京↔︎仙台方面の経路分担率の比較(2014年、2023年、2022年冬季)※出典:東日本高速道路株式会社(2025年3月19日)「常磐自動車道 全線開通10周年!〜整備効果を取りまとめました〜」東京↔︎仙台方面の経路分担率の比較(2014年、2023年、2022年冬季)※出典:東日本高速道路株式会社(2025年3月19日)「常磐自動車道 全線開通10周年!〜整備効果を取りまとめました〜」

小名浜道路がつなぐ先は福島県内最大級の観光エリア

小名浜道路がもたらすもう一つの大きな効果は、福島県内でも有数の観光エリアである小名浜港周辺へのアクセス向上である。

福島県の観光客入込状況調査によると、小名浜港周辺の主要観光施設(「いわき・ら・ら・ミュウ」や「環境水族館アクアマリンふくしま」など)には、年間約200万人が来訪する。特に夏休み期間や秋の連休期間は他の期間に比べて来訪者数が多い傾向にあるため、早速大きな恩恵となることが期待される。

加えて、いわき市内には年間約140万人以上が訪れる「スパリゾートハワイアンズ」も立地する。小名浜道路の開通は、これらの拠点間を結びつけ、市全体の観光周遊性を高める上でも重要な役割を果たすことが期待される。さらに広域的にみれば、茨城県北部は、『七つの子』などで知られる詩人の野口雨情や、『茶の本』の著者である思想家の岡倉天心ゆかりの地であり、観光資源が豊富な当該地域を含めた一体的な観光戦略・ビジネスにもつながるかもしれない。

環境水族館アクアマリンふくしま(小名浜港内) ※2025年7月撮影環境水族館アクアマリンふくしま(小名浜港内) ※2025年7月撮影
環境水族館アクアマリンふくしま(小名浜港内) ※2025年7月撮影三崎公園より小名浜港方面を望む ※2025年7月撮影

小名浜の気候と移住先としての魅力

移住や二地域居住の視点から、小名浜を含む、茨城県北部からいわき市北部にかけての沿岸地域は、「夏涼しく、冬温暖」という気候的な特性についてお伝えしたい。

下表は、昨夏(2024年8月)と今冬(2025年1月)における主要都市の平均気温と比較したものである。このデータは、福島市や水戸市、東京などと比較して、いわき市小名浜や日立市は、夏は過ごしやすく、冬の冷え込みも穏やかであることを示している。この沿岸部の街のエリアは西側を阿武隈高地、東側が太平洋に接しているため平野や内陸部とは異なる気候となっている。

このようにみると、豊かな観光資源と穏やかな自然環境に加え、小名浜道路の整備によって首都圏との物理的・心理的な距離が縮まるのではないだろうか。結果として、二拠点居住や週末移住といった新しいライフスタイルとの親和性も、より一層高まる可能性もある。

左図:4車線化・追加IC・スマートICの整備状況を一部加工 ※出典:東日本高速道路株式会社(2025年3月19日)「常磐自動車道 全線開通10周年!〜整備効果を取りまとめました〜」、右表:いわき小名浜等の平均気温等 ※出典:気象庁統計データを加工して作成左図:4車線化・追加IC・スマートICの整備状況を一部加工 ※出典:東日本高速道路株式会社(2025年3月19日)「常磐自動車道 全線開通10周年!〜整備効果を取りまとめました〜」、右表:いわき小名浜等の平均気温等 ※出典:気象庁統計データを加工して作成

小名浜周辺の将来性

小名浜港2号埠頭より「イオンモールいわき小名浜」を望む ※2025年7月撮影小名浜港2号埠頭より「イオンモールいわき小名浜」を望む ※2025年7月撮影

小名浜道路が結ぶ小名浜港は、工業のみならず、観光エリアとしても多くの施設が集積している。加えて、港の背後地には古くからの市街地が広がり、港町らしい魅力的な個人店舗も数多く存在する。近年では、サッカーJ2リーグに所属するいわきFCの新スタジアム計画も進行しており、文化・交流拠点としての地域の価値はさらに高まることも期待される。

より俯瞰的に捉えると、いわき・小名浜の地理的条件には高い将来性が見込まれる。現在、常磐自動車道の福島県沿岸部は暫定2車線区間が残るが、一部区間では4車線化工事が進行中である。東京―仙台間の移動において、東北自動車道に比べて降雪・積雪が少なく、急勾配や急カーブも少ない常磐自動車道は、安全・安定的な輸送ネットワークの軸として、高いポテンシャルを有している。

例えば、東北自動車道の起点である川口JCTから仙台宮城ICまでは、距離にして約330kmあるが、常磐自動車道の起点である三郷JCTから仙台東ICまでは約320kmとなっている。暫定2車線区間の4車線化進めば、東北道よりも距離が短く、かつ安全上優位なため長距離移動を担う物流車両はより常磐自動車側を利用することとなる。そうなると物流施設や工場立地の観点から、仙台市やいわき市、日立市といった人口を多く抱えている地域が再注目される可能性が高まる。

また、この事実は、これまで開発の余地が大きかった原発事故により復興に時間を要している双葉エリア、宮城県沿岸南部にかけてのエリアが、新たな開発適地となりうることを示唆している。

原発事故以降、復興の途上にある福島県沿岸部だが、小名浜を含むいわきエリアは、都市基盤の再構築を着実に進め、新しい成長のステージへと歩みを進めている。今回の小名浜道路の開通は、こうした地域のポテンシャルをさらにもう一段階上げるための重要な都市基盤となるのではないだろうか。