御堂筋沿いの難波神社のすぐ裏手、「colombo cornershop」は看板に違わず通りの角に立地します。まるで海外にいると錯覚するような小粋な佇まいの店内には、建築、デザイン、写真、ファッション、美術など、様々なジャンルで、たとえタイトルは知らねど思わず手に取りたくなるビジュアルブックがずらり。
約20年間、店頭に立ち続ける店主の綿瀬貴泰さんに、お店の歴史と南船場の町についてお話を伺いました。大阪府の物件を探す
隠れ家から南船場のランドマークへ

―美術、カルチャー系の老舗古書店というイメージすらありますが、お店を始められたのはいつだったんですか?
綿瀬さん:「2000年です。最初は東心斎橋の鰻谷にあるビルの4階で営業していました。当時のバンド仲間が古着屋をしていて、その隣のフロアが空いていたから『なんかやるか』くらいのテンションで始めました(笑)。僕も古着が好きだったんですけど被ってしまうから本と雑貨かなって」


―ゆるい始まり方だったんですね(笑)。
綿瀬さん:「そうそう(笑)。家賃も安くて友だちが隣にいるからっていう理由です。ずっと続けようとも思っていなかったですし、そもそも本屋で働いたこともありませんでした」
―それまでは何のお仕事をされていたんですか?
綿瀬さん:「証券会社でサラリーマンをしていました。まとまった日数で海外へ行きたかったのですが、堅い会社だったので『2週間休みます』とも言えず。入社時点でわかっていたんですけどね。結局辞めて、とりあえず10日くらいアメリカに行きました。フラフラするなかで立ち寄った古本屋にデザインに関する本や絵本がたくさん売っていたので、好きだったカメラや時計と一緒に買って帰りました」
―旅行先でのお買い物が、結果的にお店を始めるうえでの仕入れになったということですか?
綿瀬さん:「そういうことになりますね。とにかく深く考えていたわけじゃないです(笑)」

―現在の南船場には、いつ、どんな経緯で移ったのでしょう?
綿瀬さん:「2003年の雑誌で南船場のお店として紹介されているので、少なくともそのときにはこっちにいたということになります。もう少し東心斎橋で長くやっていたつもりだったんだけど動かぬ証拠があるので(笑)。単純に手狭になったので、いまの建物の3階を雑貨屋、4階を古本屋として借りました」
―雑貨屋さんとしてもフロアを持っていたんですね。
綿瀬さん:「でも本が好きな人ってアンテナを張っているので、どこかで聞きつけて来てくれるんです。するとお客さんがつながって集まり始めて、気づいたら古本がメインになっていました。特定のお客さんばかりとまでは言わないですけど、常連さんが多く、4階という立地もあって、メディアで紹介されるときは『隠れ家的な』と書かれていました。隠れているつもりもなかったし、むしろいろんな人に向けてやっていると思っていたんですけど(笑)。そのあと2008年に現在の1階に移りました」
お客さんから教えてもらうこと

―1階に移られて何か変化はありましたか?
綿瀬さん:「まず人が来るようになった(笑)。上の階のときは不得意なりに工夫してお店の存在を発信していたんですけど、ただ開けているだけで覗いてくれるお客さんが自然と増えました。お店の空気がオープンになったというか。逆に毎日いろんな人と接すると一日休んだだけで誰かひとりは心配してくれるので、休もうにも休めなくなりました(笑)。1階になってからは週に一日の定休日とお正月以外で休んだことがないんですよ」
―すごい!でもそうすると海外に仕入れに行くこともできなくなってしまったのではないですか?
綿瀬さん:「そうなんです。上のときは3ヶ月に一回くらい休んで海外へ仕入れに行っていましたが、いまは買い取りがメインです。持ち込み、出張買取、あとこの地域にはデザイン系、建築系の事務所が多いので移転などのタイミングでまとめて買い取らせてもらっています」
―買い取りがメインだと地域性という目線で古本屋さんを楽しむことができますよね。一方で綿瀬さんご自身のご趣味も反映されていますよね?
綿瀬さん:「そうなんですが、前よりは薄まったと思います。最初の頃は店主の好きなものだけを置いているお店だと捉えられていたと思うし、自分でもその意識はあったんですけど、いまは限定しないで幅広くやっています」


―その変化には理由があったんですか?
綿瀬さん:「買い取りだと当然僕自身よくわからない本も入ってきます。でも試しに置いてみると実はお客さんが探していた本だったり、あとは詳しいお客さんが逆に僕に説明してくれることもあるので自分のなかに取り込んでいくこともできると気づいたのが大きいです」
―お客さんから教えてもらうって軽やかでいいですね。ここでのコミュニケーションも接客というよりもっとフランクな印象です。こんなにお客さんと話す書店も珍しいと思うのですが……(笑)。
綿瀬さん:「せっかく来てもらっているので何かしら紹介したいなと。静かに見たそうなお客さん以外には意識して積極的に話しかけていますね。探している本や趣味を聞いて合いそうなタイトルを薦めています。でも考えみると、お客さんからいろんな情報を教えてもらえるから話しかけているっていう側面もあるかもしれない。新しい情報を追うのをやめてしまったので、本のことだけじゃなくて、仕事の話でもなんでも単純に聞きたいんです(笑)」
―お客さんとしてはどんな方が多いですか?
綿瀬さん:「ほんとにいろんな方が来ますよ。年齢もバラバラですし。最近は他県から中学生が来ることもあって、おじいちゃん目線で話しますよ(笑)」

―デザインやファッション、美術系のビジュアルブックが多く目につきますが、その手のお仕事をしている方も多いですか?
綿瀬さん:「来てくれますけどメインではないですね。マニアックなお客さん向けにやっているつもりもないですし。でもそういうお客さんが来ないような薄っぺらい内容にはしたくないとも思っていて、詳しい人が反応してくれる本をふつうのお客さんに紹介するという意識で営業しています」
変化する地域の変わらないお店

―コーヒーは最初に開店したときから出されているんですか?
綿瀬さん:「1階に移って来てからです。本屋ってなにも買わなくてもいい場所ですけど、気を遣ってくれるお客さんも少なからずいるから、もっと気軽に寄ってほしいなと思って始めました。コーヒーだけ頼んでくれるお客さんも多いですよ」
―いまやコーヒースタンド併設の書店は珍しくないですけど、2008年だとかなり早かったんじゃないですか?
綿瀬さん:「日本ではまだ少なかったけど、海外をフラフラしているとよく見かけましたね。本を探すのに疲れたらコーヒー飲めるのがいいなと。逆に当時既に日本で流行っていたらやっていなかっただろうな(笑)」


―お豆はどのお店のものを使われているんですか?
綿瀬さん:「東大阪の瓢簞山にある『マウンテン』のお豆です。当時、お客さんから教えてもらいました。でもあくまでも本屋としての時間を優先したいので、信頼できるお店のコーヒー豆を使うくらいのこだわり方でいいと思っています」
―テイクアウトの窓があって、前の歩道にベンチがある感じってすごく海外っぽいなと思ったのですが……。
綿瀬さん:「いやいや、僕のなかではジャパン、大阪を表現していますよ(笑)」

―お店の在り方や綿瀬さんの考え方ってベタベタしていないというか、都会的で、お店のあるエリアとも合っている気がします。約20年間営業されている、この南船場について教えていただいてもいいですか?
綿瀬さん:「2003年に移って来たときはいまよりオフィス街としてのカラーが強かったですが、ちょうどアパレルのお店ができ始めたタイミングだったので、もしかしたらショッピングエリアっぽくなるのかなって感じでした。2008年に一階に来てからはいよいよショッピングエリアとして色んなお店が増えてきて、同時に隣の新町にタワーマンションが建ち始めたので生活している人とも距離が近くなった印象です」
―わざわざ来るだけでなく、生活の延長で立ち寄る町にもなったんですね。
綿瀬さん:「うちにはショッピングの流れで寄ってくれるお客さんも多いけど、日常の散歩みたいな感じで来てくれるお客さんも段々増えました。それはうれしいなと思っています」
―お店同士のコミュニティはありますか?。
綿瀬さん:「それぞれ独立してやっているお店のほうが多いんじゃないかな。うちもコミュニティに積極的に入り込んでいこうって感じではやってないしね」
―それにはなにか理由があるんですか?
綿瀬さん:「単純に僕がそういうの得意じゃないから(笑)。お客さんと話すっていう対個人は好きなんだけどね。でも大阪の別のエリアや京都のお店のようにコミュニティを作って、そこに根づいていくことを否定したいわけでも、嫌いなわけでもないですよ。自分のできることを手の届く範囲でやっているだけというか。広げたらコントロールできないし、このままでいいと思っています」

―では最後に今後の展望を教えてください。
綿瀬さん:「特にないんですけど、強いて言えばとにかく続けていくことですね。これまでもそういう気持ちでやっていたし、これからもできることを毎日やっていくだけだと思っています。きっと本に埋もれて死ぬんだろうな(笑)」
「colombo cornershop」は地下鉄本町駅から徒歩5分の場所にあります。デザインや建築関係の事務所やアパレルショップ、美容室が多く立ち並ぶ感度の高いエリア。とはいえ限られた人のための町ではなく、取材させていただいた綿瀬さんによれば一人暮らしの若者も多くお住まいとのこと。休日は「colombo cornershop」で綿瀬さんとの会話を楽しんでからショッピングに繰り出すなんて、カルチャー好きにとってはこれ以上ない過ごし方ではないでしょうか。
平均家賃は7.56万円。御堂筋線、四つ橋線、中央線の三路線を利用することができるので交通の便は抜群です。
取材・文 石川宝 写真 貞雄大
大阪府の物件を探す更新日: / 公開日:2026.02.27










