京都・西陣を代表する名銭湯「船岡温泉」の目の前にある「八雲食堂」。そこでの会話を注意深く聞けば、京都の言葉のみならず、地方の方言、標準語、そして外国語まで交じり合っていることに気づきます。
地域住民、旅行者を問わず、誰もが肩を並べて楽しめる場所として愛される同店は、ゲストハウス「月光荘」として18年、宿泊機能を残しつつ、飲食営業を主とした「泊まれる飲み屋」になってからも10年を数えます。それでもまだようやくスタートラインだと語る店主の上村さん。これまでの歩みと西陣という地域についてお話を伺いました。京都府の物件を探す

—すっかり西陣に浸透している印象ですが、最初は沖縄だったんですね。

上村さん:「まず2000年に沖縄でゲストハウス『月光荘』が始まって、京都は2店舗目なんですよ。いまはそれぞれ独立して運営しています。ここは2005年に『月光荘』としてオープンして、建物の1階が『八雲食堂』になったのは2013年です」

—京都のなかでもこの地域にしたのには理由があるんですか?

上村さん:「友だちのイベントで京都に呼ばれたとき、偶然にもこのエリアに宿泊しました。『船岡温泉』でゆっくりした帰りにこの物件を見つけて、一帯の落ち着いた雰囲気、周辺に感じの良い個人店が多いことが気に入ったので、ここでやりたいと思いました」

—ゲストハウス時代のことを教えてください。

上村さん:「1階も客室で、いま入口になっているところは座敷でした。冬はそこに炬燵を置いて宿泊している方と鍋をしたり、一緒にご飯を食べながらお酒を飲んだりしていました。ご近所で仲の良い人たちも遊びに来ていたので、いまと近い感じではありましたね。交流がメインなのは変わっていません」

—いまのように居酒屋さんとしての側面を強めたのはなぜですか?

上村さん:「いくら外に見えやすいところで宴会をしていても、宿という形式だと宿泊のお客さん以外はやっぱり入りづらいじゃないですか。旅行に来た人と地域に住んでいる人がもっと混じり合って話している光景が見たかったんです」

カウンターは交流のための特等席

—たしかに居酒屋さんだと気兼ねなく入れますよね。「八雲食堂」になってからはどんなお客さんが来られますか?

上村さん:「宿泊のお客さん、船岡温泉帰りの地域の方、学生さん。年齢から住んでいる場所までさまざまです。面白いのはうち以外のゲストハウスからお客さんが来てくれることですね」

—まさに目指した場所になっているんですね。初めからそうでしたか?

上村さん:「もちろん最初は苦労しましたよ(笑)。京都の中でも特に西陣はコミュニティ意識の強い地域なので、僕らみたいに外から来た人への警戒心があったというか。まあ、外で三線を弾いたりしていたので、警戒されても仕方ない部分も多かったんですけど(笑)。何年も続けていくうちに徐々に理解してもらったのだと思います。『月光荘』を18年間、『八雲食堂』を10年間やっていますけど、まだ新しい部類ですよ。ようやくスタートラインかな」

—町の歴史の重みを感じます。

上村さん:「でも明らかに地域自体の風通しも良くなってきたと思いますよ。僕らがここに来た当時は本当に地元の人しか歩いていなかったですから。それが段々と国内外問わず旅行者の方、京都市内の若者が増え始めました。他県から移住してくる人もすごく多いですしね」

広々とした座敷は団体同士が知り合うきっかけになる

—地域自体が変わる中で『八雲食堂』の取り組みが受け入れられていった側面もあるのですね。実際、ここではどんなコミュニケーションがなされているんでしょうか?

上村さん:「席の隣り合った人同士で自然に会話が生まれています。旅行者の方は京都のおすすめの場所を地の人に聞いたり、逆に京都の人は県外で起きている面白いことを聞いたり。15時から営業しているので、早い時間に飲んでいる人同士がここで意気投合して、一緒に出かけていくようなこともありました(笑)」

—食事のメニューも豊富です。おすすめは何でしょうか?

上村さん:「一番人気なのは唐揚げですが、岩倉にある畑で育てた野菜や手作りのお豆腐はここでしか食べられないという意味でおすすめです」

黒板には時季によって変わる農園直送メニューが

スピードメニューながら毎日の丁寧な仕事が光るお料理

—お野菜も自分で育てているんですね!

上村さん:「もともとやってみたかったんです。新型コロナウイルスが流行して時間ができたので2年前から始めました」

—どんなお野菜を育てているんですか?

上村さん:「季節によって変わるんですけど、常時10から20種類くらい育てています。9月のいまはちょうど入れ替わりの時期で少ないのですが、ナス、ゴーヤ、里芋、菊芋、オクラ、落花生、モロヘイヤ、ツルムラサキ。これからは白菜、人参、大根、ビーツがきますね。特に黒板のメニューは時季に合わせてガラッと変わります」

—畑はお仲間と管理されているんですか?

上村さん:「コロナになってからいままで、畑、料理、宿のことは全部僕ひとりでやっています(笑)」

—店内の広さ、メニュー数の多さからして信じられません!

上村さん:「メニューはやっていくうちに増えていきました。修業や専門的な勉強はしていないので、言ってしまえば趣味の延長です。自分でお店をやっているし、作れるものは自分で作ろうみたいな。それが醍醐味じゃないですか。大工仕事も好きなので内装も日々いじっていますよ」

—純粋に何かを作ることが好きなんですか?

上村さん:「そうですね。それに尽きると思います。野菜、料理、内装、大きな意味では場づくりも同じで、好きだからやっているという意識です」

—上村さんのご姿勢こそ、人が集まる理由のひとつかもしれませんね。最後に今後の展望を教えてください。

上村さん:「いろんな人が集まるこの場所を長く続けていきたいです。加えて同じような場所を増やせるように動けたらいいなとも思っています。泊まれる飲み屋が各地に増えたらもっと町が楽しくなるんじゃないかな」

◆今回取材したお店

「八雲食堂」

住所:京都府京都市北区紫野南舟岡町73−18

電話:080-6924-8131

営業時間:15:00~24:00

定休日:不定休

「八雲食堂」の最寄り駅は、地下鉄烏丸線・鞍馬口駅。とはいえ、徒歩20分の距離なので、移動はバスや自転車がおすすめです。鞍馬口駅の平均家賃は4.71万円と比較的安価です。

本文中にもあるように、この近くに暮らしたら、雰囲気のある個人店が多く立ち並ぶ「八雲食堂」付近まで自転車で赴き、喫茶店でのんびりした帰りに、船岡温泉で入浴。お風呂上がりの一杯を「八雲食堂」でという流れがおすすめです。

取材・文 石川 宝 写真 貞雄大

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更新日: / 公開日:2026.02.27