いまやワインスタンドという形でも身近な存在になりつつあり、ちょっとやそっとの合わせ方では驚かなくなってきたナチュラル・ワイン。そんななかでも「そうきたか!」と言わせるのは、大衆的なイメージがあり、かつ大阪の代名詞であるお好み焼きをナチュラル・ワインと掛け合わせた東天満の「にこらしか」。
一見するとキャッチーな合わせ方の背景にある美意識と哲学、そして街の雰囲気について、店主の若江宏太さんにお話を伺いました。大阪府の物件を探す

―ナチュラル・ワインとお好み焼きの組み合わせがとても新鮮です。どのように発想されたのですか?

若江さん:「もともとはフレンチのビストロでサービスソムリエをしていたんですけど、フレンチやイタリアンだけでなくもっと色んな場面でワインを飲めたらいいなと思っていました。でもソムリエとして働くなかで繋がった、料理の世界の方々の仕事を見ていると、中途半端に洋食や和食や中華はできない。ひとつのことを何十年も突き詰めてやり続けている方ばかりなので。だから自分がここからスタートして追い抜けるものと、大阪という場所を考えたときにお好み焼きにいきつきました。大阪だとお好み焼きは日常だし、むしろ駄菓子にも近い感覚ですが、食事としてちゃんと作れば勝負できるなって」

鰹節と青のりはお客さんが席でトッピングするスタイル

―ワインが先にあったうえでお好み焼きを発想されたんですね。ワインの世界にはどのように入ったんですか?

若江さん:「薬学部の学生を少し長くやっていたんですけど、正直、薬剤師への情熱があまりなくて(笑)。たまたまレストラン色の強いお店でアルバイトのバーテンダーをやっていて、勉強として色んなお店に食べに行くようになったなかで、知人に『ル・クロ』というフレンチを教えてもらったんです。食べに伺ったときに当時店長だった関本大学さんと知り合い、その後関本さんが独立されて始めた『バール・ア・ヴァン・ダイガク』という東心斎橋のお店で初めてナチュラル・ワインと出合いました。こんなの飲んだことないって衝撃を受けましたね。数年後、関本さんの2店舗目となる『ル・ヌー・パピヨン』というビストロのオープンスタッフにお声がけいただいたことがワインの世界で働くことになったきっかけです」

―以前、「ダシ」という言葉でナチュラル・ワインとお好み焼きの相性についてお話しされていました。お好み焼きはわかる気がするのですが、ワインにおける「ダシ」とは何でしょうか?

若江さん:「ここで扱っているナチュラル・ワインのほとんどは最後にフィルターをかけず瓶詰されたものです。『ノンフィルター』と言われていますが、そうすると澱が入りやすい。大きい澱だとじゃりじゃりと下に溜まるんですけど、細かい澱だと全体が濁ったようなワインになることが多いんです。その濁りの部分が複雑な味を表現してくれて、アミノ酸などのうまみ成分をより強く感じることにつながります。ここが『ダシ』の部分ですね」

―なるほど。ソースには赤ワインという固定観念がありますが、そんなこともないんですか?

若江さん:「僕自身は厳密に『これはこれ』という合わせ方をしていなくて、大体なんでも合うようなワインをセレクトしています。『ダシ』の話にも繋がるんですけど、ナチュラル・ワインの味わいってクリアではなくてぼんやりと複雑なんです。ソースやお好み焼き自体にも酸があるので白ワインとも合うと思いますし、そこはあまり難しく考えないようにしています。逆に合わせを決めきってしまうとワインを変えられなくなるということもありますね。あとソースは無添加のものを使っているんですけど単体だとあまりにも酸味が強かったので、少しだけ白みそを入れて酸味を抑えたり僕好みの味に調整した結果、ワインと合わせやすくなりました」

―お好み焼きはどこかで修業されたんですか?

若江さん:「堀江の『たまちゃん』というお店で修業しました。そこは牛すじとこんにゃくの入った長田スタイルのお店で、こんにゃくがすごく効いていたのでうちもそうしています。うちでこだわっているのは生地の固さです。色んなお店で食べ比べてみると、べちょっとしたのとパンケーキみたいにバチっとなっているのがあって、それらの間になるように試行錯誤しました」

あまりにも美しいお好み焼きは、20分ほどかけて丁寧に焼かれる

―それで、ナチュラル・ワインとお好み焼きのお店として2014年に心斎橋でオープンされたんですね。最初に心斎橋を選んだのはなぜなのでしょうか?

若江さん:「僕のなかでスタートは絶対心斎橋でって思っていたんですよ。昔お世話になった先輩がやっているかっこいいお店が当時はたくさんあったので。オープンの時期はちょうど福島に飲食店が増え始めた頃だったので流行りの地域でとも思ったんですけど、でもやっぱり縁のあるところでやろうと」

―そこで5年弱やられてから2018年に移転されたのは何か理由があったんですか?

若江さん:「いくつか理由があります。ひとつは物件の面積のことで、カウンターだけの小さなお店だったのでワインを保管するのに具合が悪いというのがありました。もうひとつは街の雰囲気ですね。オープンしたころに街の様子が変わってきて、あまり大人の街じゃなくなっていったというか。若者の集まるクラブが近くにあったり、インバウンドも始まって、僕のやりたいことがやりづらいし、打ち出し方も難しかったんです。そこで、ワインを通して繋がったイタリアンやフレンチの方々に相談してみたら、大川の北側のエリアは雰囲気も落ち着いているし、お店のコンセプトを理解したうえで時間を過ごしてくれるお客さんも来やすいんじゃないかと。それから1年くらいこの辺りで物件を探して、自分一人でできるサイズのところが見つかったので移転しました」

―実際、東天満に移転されてみてどうですか?

若江さん:「とてもやりやすいです。天満宮さんがあったので日本酒を扱っているお店さんが多かったんですけど、最近は徐々にナチュラル・ワインのお店も増えてきました。はしご酒をしてワイワイするのではなく、わざわざ行きたくなるようなお店があって、そこでゆっくり過ごしたい大人のお客さんが来るエリアだと思います。うちとしてもそういうお客さんに来てほしいと思っているので。あとは京阪が通っているので京都から来てくださるお客さんも多いですね」

―お客さんは常連の方の方が多いんですか?

若江さん:「そうですね。それか、事前にうちのことを人伝やメディアなどで知ってくださっていたお客さんが多いです。いずれにしてもワインに感度よく反応されるお客さんですね。知らずにふらっと来られるお客さんもいないわけではないですが、うちは『誰でも来てください』というお店ではないので入口で説明します」

―なんてお声がけされるんですか?

若江さん:「『ワインを飲まれるお客様のみのご案内ですけどよろしいですか?』って。それはメニューにもお願いとして書いています。というのも、経営的なところも含めて、席を埋めることよりも、理解のあるお客さんにゆっくりと過ごしてもらうことを優先しているからです。なので3杯以上は飲んでくださるお客さんに向けて営業しています。

どういう飲み方をしたいかでお店を選んでいただければいいと思うんですよ。ナチュラル・ワインを扱っているお店と一括りにされがちですが、ワインの種類、使っているグラス、温度、価格など全然違う。味も価格も飲みやすいキャッチーなワインを飲みたければそういうお店があるし、でもうちはワインに興味や関心があるお客さんに来てほしいと思っているので、価格設定も含めてそのような発信の仕方をしています」

ワイン以外では、クラフトビール3種と希少なクラフトジンも

―ワインとすごく真摯に向き合っていることが伝わってきます。ですが店名の「にこらしか」ってカクテルの名前ですよね?

若江さん:「ブランデーですね。アルバイトでバーテンダーをしているときによく飲んでいて、ネタとして『独立したら店名をにこらしかにする』って言っていたんです(笑)。お店の名前を決めるのって難しいので、由縁もあるしこれにしようって」

―提灯も印象的です。

若江さん:「いまのは二代目です。初代のときは、僕がコンタクトで髪の毛もセットして営業していたので、眼鏡なし、帽子なし、口ひげもセパレートで、サイズも一回り小さかったんですけど、さすがに傷んできてしまったので移転して少ししてから新調しました。『お好み焼き×ナチュラル・ワイン』って看板に大きく打ち出してしまうと、取り合わせがキャッチーなのでそこだけに反応するお客さんばかりが来てしまう。なのでこの提灯は、お店のコンセプトを知って場所を調べて来てくれる人の目印になればいいなと思って出しています」

—ワインはもちろん、お料理やお店の空気感にもこだわるからこそ、あえて敷居を設けているんですね。コンセプトや楽しみ方を理解して入店すれば、ワインやお好み焼きの奥深さを存分に味わいことができると思います。ぜひこの東天満で、高い美意識をワインとお料理で表現し続けていってほしいです。

◆今回取材したお店

「にこらしか」

住所:大阪府大阪市北区天満2丁目2-19 サン・ナカノビル101

電話:06-6226-8433

営業時間:18:00〜23:00

定休日:不定休

「にこらしか」は天満橋駅から徒歩5分ほど。天満橋駅は京阪本線、京阪電鉄中之島線、Osaka Metro谷町線の3路線が通っているので、交通の便はばっちりです。

ワンルームの家賃相場は6.19万円(LIFULL HOME'S 家賃相場より)。ビジネス街、官公庁街ということもあり、落ち着いた雰囲気のお店が多く、仕事のあとにしっとりと過ごす場所には困りません。新大阪駅にも比較的近いので、出張の多い方にもおすすめな街です。

◆本記事の担当者

取材・文:石川宝 写真:和田悠馬

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公開日: