街の要素の大切な1つである、お店の存在。みなさんは、お気に入りの店や「この店があるからこそ、この街に惹かれる」という場所はありますか?
お店の持つ魅力は単純に、「美味しいもの」や「お気に入りのもの」に出会えることだけではありません。そのお店に惹かれる人が集まることで、街にコミュニティを生み、 その街ならではの特徴が生まれているのではないでしょうか。

本企画「店から広がる街の姿」は、ある街にあるお店を通して、お店や店主さんの視点を起点に広がっている街の姿を覗く試みです。ここで商いをしているからこそわかる人びとの様子や街自体の魅力について、店主の方々に尋ねてみましょう。大阪府の物件を探す

大阪駅から徒歩圏内ながら、味わい深いレトロな雰囲気が漂い、古着屋やカフェ、ギャラリーなどネオカルチャーの発信地で知られる中崎町。駅から淀川の方に真っ直ぐ歩いて行くと「Coffee Books Gallery iTohen」の姿が見えてきます。鹿児島出身の鯵坂兼充(あじさかかねみつ)さんが20年前に始めたというこのお店は、どのような思いで始まったのでしょうか。

ーここはどのようなお店なのでしょうか?

鯵坂さん:「基本的には絵や彫刻など、さまざまな展示を行うアートギャラリーと、書店、コーヒーと軽食を楽しめるカフェの3つの機能を持つ場所ですね」

ーどういった理由でこの場所をはじめたのでしょうか?

鯵坂さん:「当時、美術学校の教師として働いていたとき、卒業生が作品を表現する場所が大阪にはなかったんです。アートを諦めて就職したり、落ち込んでいく姿を見て、サポートできる場所を作ろうと思ったのがきっかけでした。はじめはものすごく大変でしたけどね(笑)」

ーその頃のエピソードをお聞きしてもいいでしょうか。

鯵坂さん:「始めるのに2000万円借金をして、全然仕事もないのに元教え子3人を雇ってたので、給料も払わないといけない。それなのに1日の売上が500円とか。美術作家の展示の手伝い、看板の取り付けとか、この場所を続けるために仕事を選ばずになんでもやりました」

1ヶ月に1回のペースで作家の展示を行うギャラリースペース。さまざまなワークショップも開催される

鯵坂さん:「一時期は店を閉めることも考えていたんですが、いろんなワークショップを開催したり、元教え子や知り合いのアーティストたちがこの場所を使ってくれて、口コミでだんだんと認知されるようになっていきました」

ーアーティストのサポートとして始めた場所に、書店やカフェの役割を付けたのはなぜですか?

鯵坂さん:「アートって敷居が高いイメージがあるじゃないですか。そのイメージをにごしたかったんです」

ーにごす、とは?

鯵坂さん:「書店や喫茶店は誰でも行きますよね。だから、お店の入り口はふらっと誰でも入れる書店。ちょっと落ち着いて中を見渡せるカフェ。それで興味を持ってもらって、奥のギャラリーを見に行く造りにしたかったんです」

入り口に書店、その奥にカフェという造りはお店を始めたときから変わらない

ーギャラリーへの入り口として作ったんですね。

鯵坂さん:「先史時代に洞窟に絵を描いたように、何かを表現するのは人の本能だし、意識を持てば誰もがアーティストなんです。やればやるほど、アートには何か人を救える部分があるような気がしています」

ー鯵坂さんがこの場所でお店を始めたのはどうしてでしょうか?

鯵坂さん:「僕は鹿児島から上京してきたので、大阪の土地はまるで知らなかったんですよ。美術学校があって、唯一なじみあるエリアは梅田くらい。なので、梅田近辺で探していたときに、ここは当時70年やっている食堂とか下手な手書きの看板があったり、妙に地元感があったんですよね」

ーローカルな街の雰囲気が肌に合ったんですね。

鯵坂さん:「肩肘を張らずに生活できるし、根無草の僕でもここなら落ち着けるなって思ったのが決め手でしたね」

ー長くこの街の景色を見てこられて、変化はどうですか?

鯵坂さん:「ほぼ変わってないですね。この辺りは戦争の空襲の被害がなかった場所なので、昔からの人が多く住んでいて雰囲気が落ち着いてる。建物だって当時のものが現役で立ってるでしょ?」

開けっぱなしの勝手口には、お昼寝している猫。「この景色こそ、(中崎町)本庄の風景ですよ」と鯵坂さん

鯵坂さん:「店の斜向かいにある『スクニッツォ・ダ・シゲオ』は、イタリアで修業してきた職人が一人でやっているピザ屋さん。美味しくて、たまに行くんです。ロゴは僕がデザインさせてもらったんですよ」

取材時はお休み。店名はイタリア語のスラングで“いたずら小僧”という意味だと説明してくれた。ロゴの下には、尾柳佳枝さんによる作品が

鯵坂さん:「さっきのピザ屋さんもそうだけど、週末だけオープンするお花屋さんだったり、ケーキ屋さんに食堂……と、この辺りって一人でお店をやってる人が多いんですよ」

ー個人店が多い街なんですね。

鯵坂さん:「中崎町の駅から少し離れると家賃が高くないから、個人でも店を出しやすいエリアなんですよね。僕のお店にもよく遊びに来てくれるし、僕も遊びに行くし。関係性の風通しが心地良いですね」

鯵坂さん:「お店の前にあるバス停のベンチは、僕が昔、勝手に作ったんですよ。そうしたら近所の人が椅子をどんどん置いていって。今じゃちょっとした休憩スペースみたいになってます(笑)」

ー住民が作った憩いの場、素敵ですね。

鯵坂さん:「この場所に来たときはゴミが多かったけど、これ見よがしに掃除をしていたら、そのうちに近隣の人がお花を植えだしたり。人って、他者の行動に誘導されるのでおもしろいですよね」

ーすぐそばに都会があるエリアなのに、ローカル感があるエピソードですね。

鯵坂さん:「町工場や鉄工所がたくさん残っていたり。すごく落ち着いていておもしろい場所ですよ。街に人を呼ぶには『ここって一体なんやねん?』っていう場所があった方がいいかなって思うんです。それを続けてきた結果、20年という年月が経ちました」

◆今回取材したお店

「Coffee Books Gallery iTohen」

住所:大阪府大阪市北区本庄西2-14-18

電話:06-6292-2812

営業時間:11:00~18時00

営業日:土日月のみ

インスタグラム:@ito_hen2019

今回紹介した中崎町・本庄エリアは、Osaka Metro谷町線中崎町駅が最寄り。オフィスや商業施設が立ち並ぶ東梅田駅から1駅という、中心地に隣接した地域です。また、乗り換えで阪急や阪神、JRへの接続も便利。歩けば梅田へも15分程度で訪れることができます。

古着屋やカフェが立ち並び賑やかな中崎町ですが、一歩奥へと進むと「Coffee Books Gallery iTohen」のある落ち着いた雰囲気の住宅街・本庄の姿が。駅から徒歩10分程度の範囲なので、少し静かに暮らしたいという人は、この本庄エリアがおすすめですよ。ぜひ物件を探してみてくださいね。

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◆本記事の担当者

取材・文:関戸ナオヒロ 写真:納谷ロマン

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公開日: