最新の治水施設は、地下にあった!
都心のベッドタウンとして発展した春日部市周辺は、利根川・江戸川・荒川に囲まれた水の貯まりやすい皿のような地形。昔から住宅街の浸水被害に悩まされてきました。
2002年から部分的に稼働し、2006年に完成した「首都圏外郭放水路」は、このエリアを洪水被害から守るためにつくられました。
この施設の仕組みをシンプルに言うと、大雨等で川が一定の水位を超えると、街に溢れる代わりに第1~第5まである地下に掘られた大きな穴に川の水が入り、それぞれの穴を繋いだトンネルを通って、一番大きな穴に水が集められ、江戸川に安全に流される仕組みです。

どこを見てもすごい景色! 地下の異空間見学
首都圏外郭放水路見学会の申込みは、日によっては予約開始から5分で埋まってしまうほどの人気。今回は、川から溢れた洪水が江戸川に放流されるまでの流れに沿って、取材だから入れた場所を含めてレポートします。
地下に掘られた穴は「立坑(たてこう)」と呼ばれ、第5~第1まであります。第5立坑は大落古利根川・第4は幸松川・第3は倉松川と中川・第2は第18号水路と呼ばれる複数の河川から、それぞれ一定水位を超えた水が貯められます。第5~2立坑の水は、地下トンネルを通って第1立坑に貯められ、「調圧水槽」に流れます。
第5~1立坑を結ぶトンネルは全長6.3キロメートルもあり、国道16号線の真下、地下50メートルを通っています。第1立坑が一番低くなるように勾配がついていて、それぞれの河川から流れた水は、自然に第1立坑に流れるようになっています。


地下で繰り広げられる、水との戦い
各河川から溢れず第5~2立坑に流れ込んだ水は、第1立坑に貯められ、第1立坑から調圧水槽へ流れます。
「地下神殿」と呼ばれるのは、この調圧水槽の部分。たしかに調圧水槽内に入ると、今までに見たことのない異空間が広がっていて、あまりの非日常感に厳かな気持ちになります。地下22メートルの位置にある巨大コンクリート施設に立つ機会はあまり無いもの。見学会が人気なのも納得です。

調圧水槽の役割は、流れてきた水の勢いを弱めて、江戸川にスムーズに水を流すこと。長さ177メートル・幅78メートル・高さ18メートルの巨大水槽で、水の浮力で水槽が持ち上がらないように、1本500トンの柱が59本立っています。すべてが想像を超えるスケール、まさに圧巻の建造物でした。



調圧水槽の地上は、なんとサッカー場。
地下で起きている水との戦いとは似つかない、のんびりした空気が漂っています。

江戸川へ排水するために、航空機のエンジンで水に流れをつくる
調圧水槽は江戸川よりも約14メートル下の部分にあるため、汲み上げる必要があります。さらに、汲み上げた水を江戸川へ排水する揚力と遠心力が必要です。そこで、調圧水槽の水を汲み上げて、江戸川へ押し出す流れをつくるために、水は排水機場に入ります。
排水機場には排水ポンプが4つあり、1つのポンプの排水量は毎秒50m3。4つのポンプの合計200m3は、おおよそ25メートルプール1杯分なので、1秒間にプール1杯分が江戸川に排出される能力があるということ。
そんなに江戸川に流して大丈夫なの? と思いますが、排水する水量は、操作室で管理されています。さらに、大雨で江戸川に流せない場合は放水路全体に水を貯めておくことも可能で、総貯水容量は約67万m3(およそサンシャインビル1杯分)です。
4機のポンプで汲み上げられて流れのついた水は、排水樋管という施設を通って、江戸川へ排水されます。


これからも続く、水との戦い
首都圏外郭放水路に実際に水が入るのは、近年4年間の平均で年間約8回。1980年代と比べると、首都圏外郭放水路のできた2000年代は水害被害が約10分の1まで減りました。これは、首都圏外郭放水路だけでなく、堤防を高くする・護岸の補強をする・上流にダムをつくる・遊水地を増やすなど、総合的な治水事業によるものです。
「地下神殿」のイメージが強い首都圏外郭放水路ですが、その仕組みと使われている最新技術を知ると、徳川家康時代から続いている治水はここまで進んでいるのかと驚きます。川ごとに穴を掘って、地下50メートルのトンネルで繋いで広い川まで流そうだなんて…! 首都圏外郭放水路は、まさに「縁の下の力持ち」でした。

日本全国を縦横無尽に走る川は、私たちに水辺のある豊かな暮らしをもたらしてくれる一方で、天候次第で脅威にもなります。
まずは、各家庭でハザードマップを確認し、水害に備えることからはじめましょう。
【国土交通省 首都圏外郭放水路】
埼玉県春日部市上金崎720
東武野田線(東武アーバンパークライン)南桜井駅北口から徒歩約40分(約3km)
見学会:月~金曜日(※月曜日は団体のみ)10時~/13時~/15時~、土曜日は月に1度・不定期で開催
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