「港町」や「異国情緒あふれるまち」など、独特なイメージのあるまち・神戸。そんな神戸のステレオタイプなイメージは、実は一部だけで、小さな商店街や長屋など、下町情緒あふれるまちの姿も、まだまだたくさん残っています。

時に坂道が多く、時に山道のような。そして時には歴史が垣間見える通りを通って、歩けば歩くほど、そのまちならではの魅力に出合えるまち歩き。一見普通の住宅街でもまちを知る喜びが詰まっています。

そんな神戸の小さなまちを“勝手に”散策し、“勝手に”魅力を掘り出すまちあるきイベントが、「勝手にまち探訪」。塩屋のまちでさまざまな遊びを生む「シオヤプロジェクト」が主催しているイベントです。坂と車の入れないような小径が繰り広げられる塩屋を歩く、「勝手に高低差学会」から活動は始まり、その後舞台を塩屋の外に飛び出した「勝手にまち探訪」がスタート。現在58回目を迎え、「同じ道を二度通らない、一筆書きのまちあるき」をモットーに、ほぼ毎月小さなまちをみんなで7時間歩き探訪しています。

今回は「勝手にまち探訪」に参加し、今回はJR鷹取駅からすぐ西を南北に細く長く広がる長田区の長楽エリアを中心にまちを練り歩いてみました。一見何の変哲もない住宅地ですが、自らおもしろい風景を見つけ、みんなで「あーだこーだ」言いながら歩いてみると、初めて訪れるまちも一気に近しい存在になってくるような。
それでは、行ってみましょう!神戸市の物件を探す

まずは朝10時に、JR鷹取駅へ集合!今日は約20名の方が参加しています。中には初期の頃から毎回欠かさずに参加しているという方も。20代から70代まで、幅広い世代がここ鷹取駅に集まりました。

「勝手にまち探訪」には、毎回そのまちを案内してくれる「案内人」が登場します。今回長楽を紹介してくださるのは、建築士やまちづくりコンサルタントとして活動する、角野史和さん。鷹取は歴史のあるまちということで、まずは背景を教えてくれました。

鷹取はかつて蒸気機関車の製造工場で栄えていたまち。明治33年に現在の駅の北側に工場が作られました。年配の世代の方は、鷹取駅から蒸気機関車で修学旅行に行った人もいるそう。ちなみに今回は駅の南側を散策します。

駅に向かう地下道には蒸気機関車を意識したようなデザインも施されています。

駅前も、蒸気機関車のデザイン! 電車好きには堪らない、鉄道アピールにあふれるJR鷹取駅でした。

この「勝手にまち探訪」は、いわゆるまち歩きイベントのように名所を回るというよりは、まちにある不思議な建物や道、景色などなど、気になるものをいろいろ見つけ出すのが醍醐味。さっそく駅から少し歩いたところで、みんなが立ち止まって眺めていたのがこちら。

マンションの一角に、一つだけ緑で溢れた部屋が。「台湾にありそうな景色!!」と盛り上がる参加者。鷹取を歩きながら、景色に異国を見出した瞬間でした。

カーブを描く駅前の通りは、歩き出すのに気持ちいい景色です。

駅前にある建物からも、蒸気機関車のまちだった背景がうかがえます。

この建物、細長くて側面が少しカーブになっているのがわかりますか?これは以前あった石油工場に向かう国鉄の引き込み線の名残。その軌道跡上に立っていて、ゆるやかに曲がっているそうです。これも鷹取らしい風景!

鷹取駅から歩いていくと、小さな一戸建てが立ち並んでいました。その中に不思議なおうちを発見。

よくよく見てみると、2階の屋根の上に後付けされたような3階が。「増築したんだろうか?」「3階についているドアは何用?」など、疑問がいっぱい。

こちらの建物は、ブルーでいろいろなところが塗られた、手作り感あふれる雰囲気が気になる…階段につながっているかのような小さなバルコニーの位置も絶妙で、興味をそそられます。

駅から歩いて15分ほどのところには、広い公園が。近隣の保育園児たちがお散歩に来ていました。

お寺の前を通りかかると、そこには、お寺バージョンに変身した「飛び出し坊や」が!ちなみにその横には大事なことを案内する立て看板があるのですが、赤字で書かれた一番重要なことが陽にあたって消えています…みなさんも、何かを外に掲示する時はお気をつけて!

歩くうちに、お隣の須磨区へ入ってきていました。神戸市営南須磨住宅を通り抜けると、そこには遊具が。ウサギやカメはよく見かけますが、ここでは蟹も登場! 海が近い須磨らしさを感じますね。

このあたりを歩いていると、よく溝などのカバーにゴムシートが使われているのを見るという声が。実はこの付近、靴のソールを加工している工場が多いそう。余った素材が街中でいろいろと活用されており、たまに靴型に抜かれたものに出合えることもあります。

次第に工場が増えてきて、景色が変わってきました。「関西ノート株式会社」の前を通りかかると、みなさん「おぉ〜、こんなところにあったんだ!」と。

なんでも神戸の小学生は、昔からこちらの学習帳を使っているそう。神戸各地の風景がモノトーン印刷された表紙はお馴染みということで、参加者の方から口々に懐かしむ声があがります。

その周りには、廃品などのリサイクル工場もあります。最近はベトナムの方も多く、こちらはベトナムの会社

住宅街に差しかかると、舗装された小さな道がところどころに広がっています。1995年に起きた阪神・淡路大震災のあとに整備された道で、それぞれ花の名前がついています。こちらは「くちなし通り」。

震災当時、ボランティアの人が寝泊まりしていたプレハブ。当時参加していた人たちによって描かれたイラストごと今も残る、長田の風景の一つ。

いろいろな国籍の方が住んでいるのも長田区の特徴。まち中にあるゴミ分別の掲示板からもその様子がうかがえます。日本語・英語・中国語・韓国語・ベトナム語で書かれた掲示板に、共にまちで暮らす人々に想いを馳せる瞬間でした。

その先に現れたのは「カトリックたかとり教会」。ここは教会だけではなく、「たかとりコミュニティセンター」や「FMわぃわぃ」などいろいろな施設が同居する場所。

阪神・淡路大震災の際、この地域ではほとんどの建物が崩壊し、火災で焼失しました。教会を含めこの周辺も、一面焼け野原になったといいます。そんな中、ここ「たかとり教会」に救援基地が誕生。地域の方々やボランティアの方が復興支援の活動をする際の、拠点となったのです。今も敷地内には、当時の救援基地の手作りMAPが残っています

以前は海賊放送だった「FMわぃわぃ」は、震災後の不安定な状況の中、在日朝鮮人に向けてラジオを通して呼びかけ、情報を発信するのが始まりだったそう。中南米の方やベトナムの方など、さまざまな国の方が暮らす地域性に合わせるうち、自然と多言語放送のラジオとして発展。「被災外国人のためのやさしい日本語番組」を放送するなど、まちで暮らす外国人たちのサポートをしてきました。

教会の中の飾りも、多言語でメッセージが書かれており、この地域らしさを感じます。

案内してくださった「FMわぃわぃ」の金千秋さん

震災直後ここには、建築家の坂茂さんが高さ5メートルの紙管58本を使った『ペーパードーム』が建てられました。現在もその当時の建物を意識して内観が設計されています。

「たかとり教会」は、この形から「フジツボ」という裏の呼び名もあるそう。確かにまるで「フジツボ」のような形!

「たかとり教会」を後にし、まちを歩いていると神社の石垣にも、震災を思わせる名残が。石垣が黒くなっているのは、ここまで火が迫ったことがわかります。

次第に古い長屋が増えてきました。それぞれの家主が家から“はみ出させながら”植物を飾り育てているのが興味深いです。

道端で井戸まで出現。昔はここで地域の人が水を汲んでいたのかも?

今度は「巷で話題になっていた!」というマンションに出合いました。いったい何が話題だったのかというと…?

最近、マンションの1階にコイン式シャワーが設置されたそう。「ここが、噂の!?」とみんなで中をのぞきます。なんと住人以外でも使用可能という、開かれたシャワーなのだとか。

住宅街を歩き続けると、神戸の老舗メーカー「伍魚福」の自動販売機が!お酒のツマミになるようないろいろな珍味が、いつでも近所で買えるとは便利!

さらに近くには「伍魚福 研究所」という建物があり、今回は特別に中を見学させてもらえることになりました。

なんと中はスーパーのような商品棚やバーカウンターが!外観の様子からはわからない研究所に、みんなワクワクと胸を膨らませます。普段こちらは取引先に向けたプレゼンルームなどとして使われているそうです。「伍魚福」の社長さんが出迎えてくださり、企業の歩みを教えてくださいました。

「伍魚福」の人気メニュー「クリームチーズ生ハム包み」や「マンゴー&クリームチーズ」の美味しさといったら!これは神戸土産としても良さそうです。「新神戸駅の売店でも売っていて、いつも新幹線に乗る時に必ず買う」という人も。

いただいたおつまみを片手に(笑)、まだまだ私たちのまち歩きは続きます。

外階段が美しい昔ながらのアパートを発見。

左右から中央に合流する階段は、どこか演劇の舞台を思わせる造り。下の道がカーブを描いているのも独特ないい景色。この地域は築年数が長そうな建物が多く、今の建物ではあまり見かけない階段の造りや、照明、飾りなどを見つけるたびに嬉しくなってしまいます。

頭上には、以前はクリーニング店だった名残の「クリーニング吉田屋」の文字が。文字を斜めに配置したデザインもかわいい!

ブドウのような凸凹のある照明もキュート

通りかかった鶏卵屋さんでは、いろいろな種類の新鮮な卵が。ちょっぴりお買い物タイムです。

路地を進んでいくと現れたのは、趣のあるかっこいい建築物。県立の神戸総合衛生学院の建物なのだそう。この度移転するとのことで、この風格ある姿は見納めです。天井の不思議な造りに「壊す前に一度見学して上を見てみたい」とみんな惚れ惚れ。

側面には丸い穴。用途は特段なさそうですが、つくり手の遊び心が見え隠れし、影も美しいです。昔の建築は、ちいさな仕掛けがたくさんあります。

そろそろ日も暮れてきて最後にたどり着いたビルは…

最後の目的地である、巨人ビルに到着。

もともとは靴の工場として使われていたそうですが、現在は撮影スタジオやゲーム音の制作会社などが入居し、パワーアップ中。

会社やスタジオをちょっぴり見学した後、屋上へお邪魔しました。今日のまち歩きはここにて、終了。約7時間、合計2万3000歩のまち歩き(自分調べ)。歩ききって、全員大満足です。

屋上からは今日歩いた長楽のまちが一望できた

最後は集合した鷹取駅のお隣、新長田駅前で解散。みなさん、おつかれさまでした!

蒸気機関車のまちという歴史から始まって、住宅街の不思議な家々の発見や、老舗メーカーの研究所訪問など、長楽の「気になる」をたくさん満喫した探訪。何もなさそうなまちだからこそ、見つける楽しさがある「勝手にまち探訪」を大満喫です。自分の住んでいるまちや引越し先のまちの顔を知るために、自分ひとりでやってみても楽しいかもしれません。次回もお楽しみに。

今回「勝手にまち探訪」で歩いた長楽エリアは、JR神戸線の鷹取駅のすぐ近く。鷹取駅は三ノ宮駅まで約10分と神戸の中心地にとても近いですが、まちのちょっとした歴史や下町情緒を感じられる暮らしやすい場所です。「たかとり教会」や「たかとりコミュニティセンター」など、さまざまな国の人がともに協働しながら暮らしているまちでもあり、そういう場が自分のまちにあることは、暮らしやすさにつながるでしょう。

家賃平均は5,1万円と近隣の駅の平均より安く、1ルームの相場は4.72万円。一人暮らしの学生などにもおすすめです。まずはまちを歩いて、鷹取の魅力を体感してみてはいかがでしょうか。

◆本記事の担当者

取材・文:小島知世

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