毎年秋に開催される「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」通称「イケフェス大阪」は、大阪市内の現役で使われている100を超える建築を、無料で一斉に公開する日本最大級の建築フェスティバル。開催期間の2日間に、全国から建築マニアが数万人は集まるというこの一大イベントの事務局長を務めるのが、大阪生まれ大阪育ち、現在も大阪在住の建築家 高岡伸一さん。
レトロな魅力が人気の名建築から、大阪市民に親しまれてきた公共建築、新しい風景をつくる現代建築まで、大阪の「生きた」建築を知り尽くした高岡さんと一緒に、まちあるきを楽しみます。第5回は、心斎橋から日本橋エリアを歩きます。大阪府の物件を探す
再建築・継承されたヴォーリズの名建築


―大丸百貨店は数年前に全面的に建て替えをしたと聞きましたが、古い建物のままのようにも見えます。
高岡さん:「2019年に建築物としては完全に新しい建物になりました。もともとは、1933年に地下鉄御堂筋線の開通にあわせて完成した建物です。最初は心斎橋筋に面した側が正面でしたが、1922年から段階的に増築していって、御堂筋ができるということで御堂筋側にも土地を買い足して建て増しをしました。当時としてはすごく画期的だったのですが、地下鉄心斎橋駅の改札を出たらそのまま地下道で建物に入れるようになっています」
―具体的にどこが変わったのでしょう。ガラスの手すりの上、少しセットバックしている部分があたらしいのでしょうか。
高岡さん:「そうですね。地上からガラスの下までは保存外壁です。外壁を残して内側を解体してから本体を建て直して、古い外壁と新しい構造を、地震の揺れに対応できるようにつないでいます。内装も特徴的な装飾は一度全部外して、あたらしくなった建物の中に再配置されています。以前のインテリアとは違いますが、入ったときの雰囲気というか印象はあまり変わっていないように思います」
―だいぶボリュームアップしたんですね。
高岡さん:「さらに、左側(北側)の建物は別の百貨店だったのを大丸が買い取って、間を道路をまたいだ通路でつないで二つの建物を一体化しています。道路を建物の一部がまたぐ、というのは普通は許可されないのですが、ここでは歴史的な建物の外壁を保存などすることで、特別な許可を得て実現しました。建て替えが発表されたときは貴重なヴォーリズ建築を損ねてしまうのか、という反対の声がかなり出たのですが、完成した後では、結果的にはこれでよかったという声が多いですね。このやり方が本当に歴史的な建物の保存なのかという議論は続いていますし、厳密には文化財の保存ではないのかもしれません。しかし、百貨店としては売り場面積を増やさないといけない、しかし同時に、街のためにも文化的な価値は保つべき、という両方の課題をうまく解決できたよい例だと思います」
―御堂筋はいま大がかりな工事をしていますね。
高岡さん:「車道を両側1車線ずつ減らして歩道を広げる工事をしています。世界的な都市デザインの流れがそうなのですが、車の交通量を抑えて、グランドレベルでの街のにぎわいをどうつくるか、ということを行政と近隣の商業施設と街が一緒に考えています。広場のように自由なスペースが増えれば歩きやすくなるし、百貨店に立ち寄る人も増えますよね」

立体的なアルミモチーフに赤い看板が映える

―赤い看板があるので中華料理店とわかりますが、すっきりとしながらも目立つファサードですね。
高岡さん:「中華料理店としての創業は1953年、この建物が建ったのが1964年です。1980年にまったく同じデザインで右側の1/3が増築されていますが、ぜんぜんわからないですよね。村野藤吾デザインの、六角形のアルミダイキャストによる造形です。こういうごちゃごちゃした場所なので、完全にファサードのインパクトで勝負したのだと思います」
―増築のつぎ目はまったくわからないですね。15年以上経って増築するのに同じパーツでつくり足したということは、オーナーがこのデザインを気に入っていたんでしょうね。
高岡さん:「そうかもしれないですね。既製品でこういう部材はないでしょうから。中華料理店として人気があるので、店のイメージを変えないようにしたかったのかもしれないですね。中の階段も村野さんらしいデザインで見応えがあります」
村野藤吾を応援したオーナーの本社ビル


高岡さん:「この建物も、先ほどの大成閣と同じ村野藤吾の設計で、完成も同じ1964年です。デザインはまったく違いますが、パターンの反復を使っているところや、ファサードのインパクトなど、設計の思考や方向性が似ていると思いませんか」
―そんな感じがします。個性的で目を引くところも同じですね。
高岡さん:「浪花組というのは、1922年創業の左官業で、多くの有名建築の左官工事に関わってきた歴史のある会社で、ここはその本社ビルです。立体的なモチーフの表面に貼られているのは黒い平瓦で、海鼠壁の工法で仕上げられています。交差部分の銅板には、きれいに緑青がついていますね」
―築60年になる建物をいまでも大切に使っているんですね。
高岡さん:「この本社ビルを建てた3代目社長は、村野藤吾に東京や名古屋の支社ビルを依頼していますし、自邸も村野さんの設計です。さらには浪花組が運営していた心斎橋と戎橋の名店『プランタン』も村野建築で建てているんです。大阪には建築家を長く応援する経営者がかつてはたくさんいたんですよ」
そのおかげで小さいものから大きなものまで、名建築がまだいくつも残っているんですね。歩けば歩くほど大阪のまちは発見があります。
<今回巡った建築物はこちら>
大丸心斎橋店本館(旧称 大丸百貨店大阪店)
所在地:大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
建設年:1933年、改修・保存・復元工事完了 2019年
設計:ウィリアム・メレル・ヴォーリズ、改修 日建設計・竹中工務店
大成閣
所在地:大阪市中央区東心斎橋1-18-12
建設年:1964年、増築 1980年
設計:村野・森建築事務所(村野藤吾)
浪花組本社ビル
所在地:大阪市中央区東心斎橋2-3-27
建設年:1964年
設計:村野・森建築事務所(村野藤吾)
■案内人
高岡伸一(たかおかしんいち)さん
1970年、大阪生まれ。高岡伸一建築設計事務所主宰、近畿大学建築学部建築学科准教授、大阪市生きた建築ミュージアム推進有識者会議委員。大阪を中心に、近代建築や戦後建築の再評価・利活用について研究・実践を行う。2008年、戦後ビルの魅力を発信する集団「BMC(ビルマニアカフェ)」を結成。2013年より「大阪市生きた建築ミュージアム事業」に参画、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪(通称 イケフェス大阪)」実行委員会事務局長を務める。主な著書および共著に『新・大阪モダン建築』(2019年、青幻舎)、『生きた建築大阪』(1(2015年) 2(2018年)、いずれも140B)、『大大阪モダン建築』(2016年、青幻舎)、『いいビルの写真集』(2012 年、パイインターナショナル)、など。
Twitter:https://twitter.com/shinichitakaoka
大阪市生きた建築ミュージアム:https://ikenchiku.jp/
◆本記事の担当者
取材・文:古屋歴 写真:沖本明
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