スマートフォンの普及で、より身近に使われるようになった「Smart(スマート)」という言葉。「賢い」、「高性能」といった意味で使われているこの言葉は、私たちの生活をより便利に、豊かにするモノやコトの代名詞のようになっています。「スマートスピーカー」、「スマート家電」、「スマートホーム」などインターネットや人工知能などと連携することで、私たちの生活をサポートする仕組みや技術はますます進化しています。
この先、私たちの生活はどのように変化していくのでしょうか。今回、ハイテク企業の聖地、米国・シリコンバレーで、独自のスマートホームを展開する日本企業をご紹介しながら、より快適な暮らしを目指すスマートホームの最新事情を見ていくことにします。
- 便利さと電力管理で注目集めるスマートホーム
- 目に見えない部分でも暮らしの最適化に貢献
- 共通規格作りが進む米国のスマートホーム事情
- Do it for me型スマートホームとは?
- 進化のない「家」に可能性を見つけHOMMAを起業
- アプリで機能アップするスマホ、アップデートで進化する車…仕組みを家に使えないか?
- 全て社内で手掛けるオールインワン戦略でスマートホームを次々展開
- これがHOMMAが提案するスマートホームだ!
- 家全体がシームレスに機能することの心地良さを体験
- 面倒な設定不要でストレスフリーのスマートホーム
- やはりスマートホームで気になるのは電気代
- スマートホームの普及で予想される家選びの基準
便利さと電力管理で注目集めるスマートホーム
スマートホームとは、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などを活用した住宅のことです。テレビ、冷蔵庫、照明器具、エアコン、給湯器、ドアの鍵や車庫のシャッター、換気システムなどがインターネットにつながることで、これまで常に人が介在していないとできなかったことや、監視が必要だったことなどが自動化、半自動化され、私たちの生活にさらなるゆとりや快適さを提供してくれるようになります。
例えば、家を出ると自動で家の鍵がロックされ、消灯。昼にはスケジュール通りに給餌機からペットに餌が提供され、その様子を映し出すカメラを外出先からスマホで確認。スマートスピーカーに照明器具や給湯器が連動していれば、帰宅して座ったままでスピーカーに「照明を落として、ゆるいジャズをかけて。お風呂にお湯を入れて」と音声指示を出すだけで、それを実現してくれるといった具合です。
目に見えない部分でも暮らしの最適化に貢献
スマートホームというと、このような分かりやすい機能がクローズアップされやすいですが、実は目に見えにくい部分でも私たちの暮らしを最適化してくれることが期待されています。その1つが家で使う電力の管理です。気候変動への関心が高まる中、全米民生技術協会(CTA)が主催する世界最大のテクノロジー見本市「CES」(開催地:米国・ラスベガス)の会場でも、工場などはもちろん、家庭で使う電力をスマートに最適化する提案がいくつも見られました。
例えば、太陽光発電の装置や蓄電池などをスマートホームに連携することにより、家庭で使う電力を一括管理できるようになります。これにより、ネットに接続されている設備や器具の電力を最適化し、メンテナンスの時期や不具合の発生を教えてくれるほか、災害時の非常用電源の確保にも威力を発揮します。日本では、このようなエネルギーを主軸にした住宅は、「スマートハウス」と呼びます。
共通規格作りが進む米国のスマートホーム事情
さて、このようなスマートホームの一般家庭への導入はまだ先の話のことでしょうか?
実はそんなことはありません。クリーンエネルギーへの積極的な切り替えで知られている米国・カリフォルニア州では、気象変動による山火事など災害の増加や政府の積極的な補助もあり、近年、発電・蓄電装置や、さらにEVも連携したスマートホームへの移行が加速しています。
また、米国では次々とスマート家電が登場していますが、2022年10月には、アマゾン、グーグル、アップルなどが中心となったスマートホームのための共通規格「Matter(マター、以下マター)」がリリースされました。この規格が採用されることで、メーカーの垣根を超えてスマート家電が相互に連携できるようになり、消費者は従来のようにメーカーごとに個別のアプリを操作したり、ハブを設置しなくても、全てを1つのアプリやスピーカーで一元管理できるようになります。
スマートホームの最大の懸念事項である「スマート家電からホームネットワークに侵入されてしまう」といったセキュリティに関しては、マター指定の認証局が許可した製品しかネットワークに接続できないため信頼性と安全性が向上するといわれています。
既にサムスン、LG、ハイアール、IKEA、インテル、テスラ、ダイソンなど世界で400を超える企業が参画しており、消費者は幅広い選択肢から自由にスマート家電が選べるため、家庭のスマートホーム化は加速しそうです。
Do it for me型スマートホームとは?
このように「スマートホーム」を取り巻く環境が整備され、仕組みが一般に浸透するにつれて、スマート家電を1つ1つ買い揃え、つないでいくという「Do it yourself(DIY、自分でやる)」型から、「Do it for me(誰か代わりにやって)」型、つまり、入居時に、スマートホームテクノロジーが既に組み込まれている住宅を望む人も増えてきています。
確かに、スマート家電を知るたびに「こんなこともできるの!?」とワクワクするものの、設置や設定の手間はもちろん、サイズや色は家に合う?セキュリティは?先々のメンテナンスやアップデートは大丈夫?などと考えなければならないことがたくさんあり、面倒になってしまうのも正直なところです。第一、配線などを大きくいじらずに現状の家に付け足す形でスマート化しようとする場合は、まだまだできることに限界がでてきます。
最初から住む人のニーズを先回りして叶えてくれる、しかも「おしゃれな家」があれば・・・。このような需要を汲み取った日本企業が、今、先進テクノロジーの集まるカリフォルニア州シリコンバレーで成長しています。
進化のない「家」に可能性を見つけHOMMAを起業
それが、日本人起業家、本間毅氏が2016年にシリコンバレーで創業したスマートホーム事業のスタートアップ「HOMMA Group株式会社(以下、HOMMA)」です。本間氏は、学生時代に起業したテック系スタートアップ、ソニー、楽天勤務を経て、2016年にシリコンバレーにてHOMMAを創業しました。
これまでテクノロジーやエンターテイメント業界のビジネス戦略に関わってきた本間氏がスマートホーム事業を興したのは「シリコンバレーを代表するアップルやテスラといった企業が、コミュニケーションデバイスや車に革命をもたらしているのに、家は何十年も前からほとんど進化していないことに疑問と可能性を感じたから」といいます。
アプリで機能アップするスマホ、アップデートで進化する車…仕組みを家に使えないか?
本間氏によると、日本ではほんの数ヶ月で新築の家が建つこともあり、少子高齢化が進む中でも新築住宅の供給割合は減っておらず、新築住宅の流通割合は5割以上を占めているとのことです。これに対して、米国では、新しく家を建てるには、建築許可が出てから完成まで2〜3年かかることもあります。このため、人口増加が続き住宅需要は高いものの、新築住宅の割合はわずか1割強にとどまっているといいます。テクノロジーに囲まれたシリコンバレーでさえも、「家自体の進化はスローペースでしか進んで来ませんでした」。
そこで本間氏は、”アプリと連動して進化していくスマートフォン”、”運転者のニーズを汲んで、どんどんアップデートされていくテスラの車”のように、家という「入れ物(ハード)」と、快適さや楽しみを付加できる(ソフト)を一緒に、つまりスマートホームを「ハードとソフトを垂直統合した形で提供してはどうか」と考えるようになったといいます。
全て社内で手掛けるオールインワン戦略でスマートホームを次々展開
このアイデアを実現するためにHOMMAでは、これまでのスマートホームのように、不動産、建築デザイン、テクノロジーなど個別の事業者が複数集まって造っていくのではなく、全ての分野を社内で手掛けることにしました。ソフトウェアプラットフォームも自社開発することで、設計の段階から、より完成度の高い独自のスマートホームを作り上げていく戦略を採用したのです。
起業以来、HOMMAは、築53年の中古住宅にあらゆるスマートホーム機器の実装を試みたスマートホーム住宅「HOMMA ZERO」(2018年、カリフォルニア州ヘイワード)、2020年にカリフォルニア州ベニシアの新築プロトタイプ住宅「HOMMA HAUS Waterside (HOMMA ONE)」、2022年に初の州外プロジェクトである「HOMMA HAUS Mount Tabor(ホンマハウス マウントテーバー)」と次々にスマートホームのプロジェクトを手掛けてきました。
2020年竣工のHOMMA ONEは、コロナ禍による働き方の変化や、空間の使い方などに対応する技術を取り入れ、200万ドル(日本円で当時約2億1,000万円)で販売したところ、すぐに購入が決まり「カリフォルニア州ベニシア市の住宅最高価格を14年ぶりに更新した」と日米で注目を集めました。
これがHOMMAが提案するスマートホームだ!
今回ご紹介するHOMMA HAUS Mount Tabor(https://www.hom.ma/mt-tabor)があるのは、カリフォルニア州の北に隣接するオレゴン州最大の都市、ポートランド。中心を横切る大通り、バーンサイド通りに面しており、ダウンタウンまでは約6km、車なら10分ちょっと、自転車で30分ほどの距離です。築100年を超える一戸建ても多い住宅街ですが、徒歩や自転車で回れる範囲内に、公共交通機関や飲食店、ショッピングセンター、クリニック、公園などもあり、車を持たない都市型のサステナブルな生活を望む人々に喜ばれそうです。
HOMMA HAUS Mount Taborは、「アーバンプレミアムコンパクト」をコンセプトに掲げた、6つの建屋に18戸が入るタウンハウス型集合賃貸住宅で、スマートホームテクノロジーに精通している人もいない人も共に快適に暮らせるようにデザインされています。立地の良さ、コミュニティ内コートヤード、狭さを感じさせない機能的で美しいモダンデザインに、スマートホーム機能がビルトインで付加されていることが特徴です。
家全体がシームレスに機能することの心地良さを体験
では、実際どのような仕組みになっているのでしょうか?
HOMMA HAUS Mount Taborの最も分かりやすいわかりやすい特徴的な機能は、調光・調色が可能な全館の自動照明制御システムです。100m2ほどの住宅には、60個程度のセンサーやライトが設置されていて、人の動きを感知し、動きに合わせてデバイスが快適な空間を演出してくれます。
暗くなるにつれて照明が青白い色から暖かい色に変わったり、1階から2階のベッドルームに移動したら、1階のライトが自動で消灯したりします。さらに夜中に水を飲みに降りたらキッチンの照明が眩しくない柔らかな色で点灯するといった具合です。実際に体験してみると照明の自動化はあまりに自然で、そのテクノロジーに驚くというよりも、考えることが1つ減る、という感じです。
日々の生活の中で、スイッチに触れる必要はほとんどないとのことですが、居住者がその時の気分や好みで最適なシーンを演出できるように、各所にリモコンとして持ち運びも可能なボタンが配置されています。例えば、洗面台の「化粧アクティビティ」ボタンを押すと、洗面台や室内の照明が最大光量で白く点灯します。
リビングの「リラックスアクティビティ」ボタンは、夕食後の穏やかな空間を一瞬で演出します。就寝時にベッドルームの「就寝アクティビティ」ボタンを押せば、就寝中はその部屋のセンサーが無効になって、目を覚ましてアクティビティをキャンセルするまで、消灯状態を保ってくれます。ボタンをオフ状態にすれば、ライティングは全自動状態に戻り、環境に合わせたライティングがシームレスに再開されます。もちろんアプリからもライトの調節や設定を変更することも可能です。
スマート家電1つ1つをつぎはぎで接続したのではなく、家全体がシームレスに機能する上に、それが美しくモダンなデザインに溶け込んでいることも魅力です。ただ本間氏は、居住者にカスタマイズの余地を残しているそうで、それは「人が家に合わせるのではなく、家が人に合わせるべきだ」という考え方からだそうです。
面倒な設定不要でストレスフリーのスマートホーム
HOMMA HAUSでは、先述の照明以外にも、設計時にあらかじめスマートロック、エアコンなどのスマートホーム機器とそれらをシームレスに支えるHOMMA独自の統合型プラットフォーム「Cornerstone AI™ 」を組み込んでいます。このため居住者はマニュアルを覚えたり、設定や面倒な操作もすることなく、ストレスフリーでスマートホームとしての機能を享受できます。
また、万が一不具合が発生した場合も自社の遠隔管理システムにより素早く原因を突き止め、サポートしてくれるため安心です。さらに、入居後も随時ソフトウェアが更新されるため、スマートフォンやテスラ車のように、常に家がアップデートされていくことも大きな特徴です。例えば、玄関のオートロックの時間が設定できる機能は、HOMMA HAUS Mount Taborに人々が入居した後に追加されました。
やはりスマートホームで気になるのは電気代
家自体は”スマートホームだ!”という派手派手しい自己主張をするようなものではありません。今回私が体験した際にも感じたのですが、あまりにも全てが自然に機能しているため、居住者たちは、いちいち感動するというより便利さにすぐに慣れてしまうようです。住人から「他の家を訪問した時に、点灯、消灯、温度調整をしている生活を見て、『もうスマート化されていない家には戻りたくない』と感じる」という声が挙がるというのも納得です。
このようにIT化された家の場合、どうしても気になるのが「電気代」ですが、電気代の低さに驚く居住者も多いそうです。こちら1戸の家賃は月額3,000ドルで周辺の相場に比べると、デザイン、テクノロジーのプレミアムがついているので10%ほど高くなっています。ただ、電気の消し忘れや最もエネルギーを使うエアコンの起動を回避することで、同じサイズの他の住居に比べてエネルギー効率が約11%良く、家賃の差額は電気代でほぼ相殺されることになります。
スマートホームの普及で予想される家選びの基準
現在HOMMAは、一般消費者向けの最先端住宅の開発に加え、ディベロッパー向けにスマートホームを前提とした建築設計、デバイスなどの設置設定サービス、データ活用といったBtoBのライセンス事業も展開しています。本間氏は「ディベロッパーがより利益率の高いビジネスだと考えるようになれば、ビルトインのスマートホームは加速的に増えます。いずれ消費者が家を選ぶ際に、『まだスマート化されていないなんて、住めない』という時代を迎えます」と予想しています。
新しい試みを次々に打ち出すHOMMAでは、今年の11月にポートランドに完成予定の23階建て高層マンション「ウィラメットタワー(http://www.alamomanhattan.com/portfolio/block-41 )」の2フロア(30室)でスマートデバイスの実装、センサーによる照明管理、空調の自動化、デバイスの一元管理などスマート化という居住者のニーズやスマート化による付加価値を実証するプロジェクトが進行中です。
日本でも家電などをスマホで遠隔操作できる戸建て住宅、賃貸住宅も増えてきました。今後ITのさらなる進化により、サービスの質やセキュリティも向上してくるに違いありません。新しい家を建てる際に、スマートホームが当たり前に選択肢の1つになる日もそう遠いことではないのかもしれません。
HOMMA Group:https://www.hom.ma/