今回は、連載「大阪環状線を降りて歩いて飲んでみる」の最後の駅。大阪環状線19駅目のフィナーレに相応しく、大阪のターミナル駅である「天王寺」駅です(次回からは阪急宝塚線からの箕面方面に向かいます)。キタともミナミとも違う天王寺周辺なのですが、すごい発見がありましたよ。 ぜひ、これを読んで皆さんも天王寺周辺を散策してみてください。
スズキナオさんによる人気連載が書籍化! 加筆修正を大幅に行ない、「大阪環状線」1周の降りて歩いて飲んでみるが楽しめます。
大阪市の南部を代表するターミナル駅
JR大阪環状線の各駅をめぐってきた当連載も今回で19駅目、ついにこれで全駅達成となります! 駅の並び順と関係なく、毎回なんとなく「次は〇○駅にしようかな」と決めて散策してきたのですが、最後に残ったのは天王寺駅でした。
JRの天王寺駅には大阪環状線のほか、関西本線と阪和線が乗り入れ、奈良方面や和歌山方面へとつながっています。また、大阪メトロの御堂筋線、谷町線も通っていますし、すぐ近くの大阪阿部野橋駅から近鉄電車に乗り換えることも可能。“チン電”の愛称で親しまれる路面電車、阪堺電車の停留所もあります。
大阪市南部で最も大きなターミナル駅であり、超高層ビルの「あべのハルカス」や、駅ビルの「天王寺ミオ」、複合ショッピング施設「あべのキューズモール」などが立ち並ぶ、梅田や難波に継ぐ繁華街です。大阪府堺市出身の友人に、「小さい頃は買い物するにも遊ぶにもまず天王寺に出ていた」と聞いたことがあります。
駅のすぐ北西側には天王寺公園が広がり、真っすぐ北側には駅名の由来にもなった四天王寺があります。また、駅周辺こそショッピング施設や飲食店が密集している印象ですが、駅の東側や南側には住宅街が広がります。
天王寺公園の芝生広場「てんしば」と阪和商店街を眺めて
まず、天王寺駅の公園口からすぐ見える位置に広がる天王寺公園へ歩いてみます。天王寺公園へは「あべちか」という地下街を通って行くこともできます。公園の広大な敷地には天王寺動物園や、現在は大規模な改修工事中で、2025年3月にリニューアルオープン予定の大阪市立美術館もあります。
公園の南側は2015年に大規模な開発が行われ、「てんしば」と呼ばれる芝生スペースになりました。広場の周囲にはカフェ・レストランやコンビニなども並び、頻繁にイベントも開催されているので休日などは多くの人でにぎわっています。
個人的に、公園にあまり商業施設が増え過ぎて無料で過ごせるスペースが減ってしまうのは寂しいと感じるのですが、広い芝生は好きなので「てんしば」へはたまに来ます。気候の穏やかな時など、駅からすぐの場所でピクニック気分を味わえるのは便利です。
また、てんしばエリアこそ開発によってだいぶ整然とした印象ですが、美術館付近や、北側の茶臼山(大坂冬の陣、夏の陣の舞台にもなった場所です)まで足を延ばすと、まだのどかな雰囲気が残っているように感じます。
取材当日は夏の日差しが強く、てんしばの雰囲気だけ眺めてすぐ引き返し、公園の東にある阪和商店街のアーケードへ向かいました。昭和初期の雰囲気を今もそのまま残す商店街で、通り沿いには個人規模の飲食店が立ち並んでいます。有名店も多く、穴場のグルメスポット“裏天王寺”としても知られる一角です。
天王寺駅を通り抜けた南側、阿倍野方面へ歩く
JR天王寺駅の構内を通り抜けるようにして南側へと歩きます。飲食店が並ぶ路地に「あべのたこやき やまちゃん本店」の建物が見え、たこ焼きの出来上がりを待つお客さんの姿が見えます。大阪市内を中心に、東京にも支店を構える人気店です。
今から20年以上も前ですが、学生時代、関西出身の友人に大阪を案内してもらったことがあり、そのツアーの行程の中で、この本店にも連れてきてもらった記憶があります。「ベスト」と名付けられた、ソースやマヨネーズなど何もつけずにいただくのが一番おすすめの食べ方で、東京出身の自分としては衝撃的な美味しさでした。
そんなことを懐かしく思い出し、「あべのたこやき やまちゃん2号店」のイートインスペースでたこ焼きを食べて行くことにしました。いろいろとあるたこ焼きの味付けの中から3種類が盛り合わせになった「渾身の三種盛り」をもらいつつ、編集部・Mさんと生ビールで乾杯します。やまちゃんのたこ焼き、中身がふわっとしていてやはり最高です。今まで食べたことのなかった「ごま油塩」も気に入りました。キャンペーン中とのことで、オリジナルのタオルもいただけてうれしかったです。
お店を出てさらに南側へ歩くと、徐々に住宅街らしい雰囲気になっていきます。昔ながらの住宅とマンションとが混在するエリアを進み、私がかつて取材でお世話になった職人さんの工房があった跡地を眺めました。そこは、受注した広告などに手書きで文字を入れる「字書き職人」の松井さんという方の工房で、残念ながらすでにその松井さんは亡くなってしまっていて、今は建物が残るだけになっています。しかし、そこからあべの筋の大通りに出ると、通り沿いに「ラーメン白樺」というラーメン店があり、今もその看板に松井さんの立派な文字を見ることができます。
通りを挟んだ向こうにあるショッピングビル「あべのベルタ」をついでにのぞいて行くことにしました。あべのベルタは1987年に開業した17階建てのビルで、地下フロアや地上1~3階にスーパーやドラッグストア、飲食店などが入っています。また、地下はそのまま、大阪メトロ谷町線・阿倍野駅と直結しています。
私はこのビルの、少し年季を感じる雰囲気が大好きで、近くに来ると立ち寄るようにしています。地下に入っている豆腐店「まるしん豆冨店」の濃厚な豆乳を飲み、「書肆七味」という古書店を眺めます。「書肆七味」は、本棚の各コーナーを個人や古書店が借りて自分のセレクトした本を販売する棚貸しスタイルの書店で、コーナーごとに並んでいる本の方向性が違って楽しいのです。
そこで本を買い、あべのベルタのどこか懐かしい雰囲気を堪能して再び外へ出ます。
“阿倍野の小さなヴェネツィア”でスパークリングワインを
もう一度あべの筋を渡って東側へ。路地で見つけた「BACARO」という小さなバルに入ってみることにしました。このお店は2022年の年末にオープンしたそうで、イタリア出身のダラ・モラ・アレッサンドラさんが店主として切り盛りしています。常連さんには「アレさん」と呼ばれていて「これ、それ、あれのアレ。阪神タイガースのアレ。覚えやすいでしょ」とのこと。
「BACARO(バカロ)」とは、ヴェネツィアにあるローカルな雰囲気の立ち飲み店を意味する言葉で、「チッケッティ」と呼ばれる惣菜をつまみながらワインを味わうのが現地のスタイルだそう。アレさんが頑張って内装も現地のお店に近づけたのだそうです。生ビールのかわりに、樽生スパークリングが飲めるのがこの店の売りだと聞き、それをいただくことにします。
日本語に興味を持ち、5年半ほど前に日本に来たというアレさん。日本のどの街で暮らすか迷った際「東京も有名だし、もともと地元が海に近かったから横浜もいいかなと思ったけど、大阪の雰囲気がイタリアに近いって聞いて」と、それで大阪を選んだのだそうです。
「でもそれは間違いなかった。大阪、イタリア人にすごく合う」と、我々がオーダーした生ハムをスライスしてくれながらアレさんは言います。「料理も美味しいし、一番大きいのは物価が安いことですね。住みやすい。阿倍野は路地にお店も増えてきたし、でも天王寺よりちょっと静か」と、大阪の印象も、阿倍野の印象も良いそうで、それをなんだかうれしく思います。
私が着ていたTシャツを見て「それ、つげ義春ですか?『無能の人』?」と気づいてくれたアレさんは日本のアニメや漫画がお好きだそうで、「これ、初恋の人!」とベジータのタトゥーを見せてくれました。
気さくなアレさんとの会話を楽しみながらのんびり飲んで行ける店で、すごくいい出会いでした。「また来ます」と外へ出て、店の前にあるアレさんの等身大パネルと一緒に記念撮影をしました。ちなみにこのパネル、アレさんが故郷のイタリアに2週間ほど帰った際、その間は別の方に任せていたお店に常連さんが来ても寂しくないようにと作ったものだそう。
大阪環状線の駅のどれかをふと選んで歩くだけで、いつも思いがけない体験ができたこの連載。それはきっと大阪の街が、その土地ごとの歴史や個性を持っているからなんだろうなと、改めて強く思いながら帰路につきました。
<今回訪れたお店>
イタリアの小皿店 BACARO
大阪市阿倍野区阿倍野筋3-8-15
17:00 - 1:00
不定休
天王寺周辺、あべの方面には、まだまだ知らない楽しめるスポットが満載、ということを改めて知った天王寺散策。あべの方面には、入り組んだ道の奥に多数の一戸建てをはじめマンションもありました。
そんな天王寺駅周辺の家賃相場は、LIFULL HOME'Sによるとファミリータイプの2LDKで15.42万円、3LDKとなれば17.06万円と玉造同様に大阪市内でも高め。ワンルームや1Kは、まだまだ5万円台もあり、一人暮らしで街中暮らしを求めるのであれば、選択肢の一つとしてよさそうです。