大阪市の西に広がる此花区に位置し、阪神なんば線が通る千鳥橋駅。駅の北側には緑が広がる巨大な公園、南側には地元の人で賑わうアーケードの商店街と、穏やかな大阪の下町な雰囲気が感じられます。

そんな千鳥橋駅から下町情緒を感じながら徒歩6分。見えてくるのは、空に伸びる煙突と赤いテントが目印の「千鳥温泉」。昔ながらの町の銭湯な場所ですが、東側の壁には巨大なウォールアートがあったり、音楽イベントも開催とユニークな取り組みが。その仕掛け人は店主の桂秀明さん。廃業の可能性もあった銭湯を継承し、この街に新たな景色を生み出しつつあるようです。千鳥橋駅の物件を探す

——昔ながらの素敵な雰囲気がある「千鳥温泉」ですが、もともとは閉業する予定だったとお聞きして。まずはそのあたりのお話をお聞きしてもいいでしょうか。

桂さん:「銭湯ができたのが1952年なので、もう70年以上前になります。僕が店主になって銭湯を受け継いだのが6年前。もとは普通のサラリーマンとして働いていたんですよ」

——どうして銭湯を継ぐことになったんでしょう?

桂さん:「この辺りは梅香っていうエリアなんですけど、私の地元なんです。昔から町の銭湯が好きで、会社員時代には同じ銭湯好きの人たちといっしょにまち歩きの銭湯ツアーを企画したりしてたんですよ」

男湯と女湯。小さな豆タイルで描かれた富士山のタイル絵が出迎えてくれる

——ツアーの企画まで!とにかく銭湯が好きだったんですね。

桂さん:「そしたらある日、引き継ぐ人が見つからなくてこの銭湯が閉業しちゃうかもしれないっていう話を聞いて。その少し前にも近所の別の銭湯が無くなっていたので、“自分が”引き継ぐとかいう思いはなしに、町から銭湯がなくなっちゃうのが嫌やなっていう気持ちで大家さんに話を聞きにいったんです」

——銭湯の後継者不足の問題は、銭湯好きとしてはなおさら感じるところがありますよね。それにしてもすごい決断力ですよね。

桂さん:「ちょっと踏み込んで家賃や水道代とか聞いてみたら、その時の自分の給料と同じくらいにはなんとなくありそうな計算やったんです。それから、もし自分が銭湯をやったらどうなるんねやろって考えだして。特に出世してる訳でもなかったんで、このまま会社員でいるよりかは面白くなるかなって思って、引き継ぐことにしたんです」

浴場外にあるサウナ室。「千鳥温泉」では無料で利用できる(但し女湯ではバスタオルの着用が必要です。持参していない場合は要レンタル)

——「千鳥温泉」といえば外壁に描かれた迫力のあるウォールアートも印象的ですが、これは桂さんが引き継いでからのものですか?

桂さん:「そうですね。街にミューラル(壁画)をプロデュースしている『WALL SHARE』という会社から『千鳥温泉の壁に描かせてくれないか』と連絡をいただいたんです。大家さんも全然ええよってことで、壁一面に描いてもらいました」

取材時にはバロセロナを拠点にするグラフィティーライターのYubiaによるペイントの真っ最中。完成した作品は、ぜひ現地にて

——ウォールアートを施した銭湯ってなかなか珍しいですよね。先ほど見学させていただいた浴場に設置されている鏡広告も印象的でした。

桂さん:「もともと使っていた鏡は古いものだったので曇りがひどく、お客さんから指摘されることも多くて。新しいものに変えたいけど引き継いだばかりでお金がなくて、悩んでいるときに、昔ながらの鏡広告をすればええんちゃうかって思ったんです」

すべて字書き職人によって制作される。鏡広告はいまも募集中とのこと

——レトロな見た目だけど、内容はどれも最新っていうのが面白いですね。ついつい見て回ってしまいそう。

桂さん:「知り合いの本屋さんに声をかけて鏡広告を作ってもらい、それがSNSで話題になって、全ての鏡を貼り替えることができるようになったんです。鏡広告は今も募集しているので、またしばらくしたら新しい広告と入れ替わる予定です」

──最新版の鏡広告にウォールアート。どちらもとてもユニークな取り組みですよね。

桂さん:「あとは、「千鳥温泉」ではサイクリストも安心できるように自転車スタンドを店内に設置しているんですよ」

左は湯上がりの休憩エリアで、奥にあるのが自作の竹製のスタンド。ロードバイク用のスタンドも完備。裏屋号「自転車湯」の所以だ

桂さん:「私自身が自転車好きで銭湯に自転車で行くこともあるんですけど、盗難がすごく心配でゆっくり落ち着けないときもあって。なので、店内で自転車を預かるようにしているんです」

——サイクリストにとっては、すごくありがたいサービスですよね。どの取り組みも、ほかの銭湯には無いもので面白いですね。

漫画「じゃりん子チエ」とコラボしたTシャツも販売。千鳥温泉には、桂さんの“好き”がたっぷりと詰め込まれている

——いろいろとリニューアルをしてきたわけですが、お客さんはどんな人が多いですか?

桂さん:「やっぱり町の銭湯なので、お客さんの大半は地元の年配のお客さん。サウナブームの追い風もあって若い子も少しずつ増えてきています。ただ、全体のお客さんの数でいうと減ってしまっていて…」

——それはどうしてでしょうか?

桂さん:「夫婦で経営をしているから、毎日の営業後に風呂掃除をするのが体力的にしんどくて。閉店時間を早くして、深夜までの営業をやめた影響が大きいんですよ」

桂さん:「スタッフを雇いたいけど、給料を支払う余裕もない。そこで、SNSで『掃除を手伝ってくれたら千鳥温泉は入り放題。住み込み部屋付き』っていう条件で風呂掃除のスタッフを募集したんです」

——給料の代わりにお風呂が入り放題。なかなか珍しい求人募集ですね。

桂さん:「だいたい一時間の掃除を月に10回手伝ってくれたら1ヶ月銭湯に入り放題。今は20代の若い子たちを中心に60代まで、総勢13人のスタッフでシフトを組んで手伝ってもらっています。音楽活動をしているスタッフが休業日にここを会場にしてライブをすることもあるんですよ。スタッフは今も随時募集しています」

六畳一間の住み込み部屋。部屋のなかには大きな換気扇のダクトが伸びる

——若いエネルギーとカルチャーが「千鳥温泉」に溶け込んで、新しい町の姿を作っていく。そんな雰囲気を感じるお話ですね。

桂さん:「このあたりって昔ながらの古い建物がそのまま残っていて、他のエリアにはないような魅力があるんです。落ち着いた町並みだけど、突然ウォールアートが現れたり、音楽イベントが開催されたり、ノラ猫がウロウロしていたりと、働いているスタッフを含めて若い子が集まるようになれば、この町がもっと面白くなっていくと思うんですよね」

◆今回取材したお店

「千鳥温泉」

住所:大阪府大阪市此花区梅香2-12-20

電話:06-6463-3888

営業時間:14:30~22:30

定休日:火曜休

X (旧Twitter) :@jitenshayu https://twitter.com/jitenshayu

Instagram:@jitenshayu

今回ご紹介した「千鳥温泉」の最寄駅は、千鳥橋駅。阪神なんば線が通り、なんばや梅田には約15分、尼崎には約10分で出られる環境です。「千鳥温泉」の近くには、個性的なZINEや本が集まる書店「シカク」や、元たばこ屋を改装し現在はカフェ営業をしている「モトタバコヤ」など、さまざまな人が集う場が点在しています。

また、都市公園と水と緑を一体的に整備をする「正蓮寺川総合整備事業」が進められており、駅近くには広大な「正蓮寺川公園」があります。さらに、家賃平均は5.84万円で、3LDKなど広々とした間取りも家賃相場は9.72万円。市内であるにもかかわらず、比較的安価なためファミリー世代も新居を探しやすいのではないでしょうか。

駅前の四貫島商店街で毎日のお買い物をしたり、休日に正蓮寺川公園で遊んだ後は「千鳥温泉」で汗を流すなど、まちを存分に過ごせる味わえる暮らし方ができそうです。ぜひ引越し先の候補に考えてみてくださいね。

◆本記事の担当者

取材・文:関戸直弘 写真:山元裕人

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