TOP データラインアップ [調査研究レポート]Sensuous City [官能都市] 2025 身体で経験する都市 あるいは都市のナラティブ

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2015年に発表した直後から、独創的な都市評価指標で大きな話題を呼んだ『Sensuous City [官能都市] 』を、10年ぶりに改定します。
この10年、全国に広がったタワーマンション型市街地再開発事業によって、都市の中心部はその姿を大きく変えました。それと同時に多くの都市で、官民連携のプロジェクトによって公園や道路や水辺などの公共空間の整備が進められました。一方、コロナ禍の経験と、コロナ禍中に一気に進展したさまざまなネットサービスは、私たちのライフスタイルを大きく変えました。
このような都市生活の環境変化を踏まえ、評価指標のアクティビティ項目をチューニングした2025年版の「センシュアス・シティ・ランキング」を作成しました。そして、ウエルビーイングやシビックプライドなど、都市の目標となる概念との関係性を明らかにすることで、都市がセンシュアスであることの意義を検証しています。
2025.09.24
明らかにいま都市は、ターニングポイントを迎えている。都市中心部は市街地再開発で出来た超高層ビル化されたオフィスやマンションが林立し、郊外は巨大ショッピングセンターとチェーンストアが立ち並ぶロードサイドの“ファスト風土”。平成から令和にかけて都市と郊外の風景をつくりだした力は、人口減少や社会経済環境の変化のなかで行き詰まりをみせている。国土交通省の「成熟社会の共感都市再生ビジョン」で提出された「画一化することなく固有の魅力を一層高めていく」という方向性は、具体的な制度や施策へ落とし込まれる前に、潮目が変わったという認識を広く宣言しているのだ。
平成から令和にかけて都市と郊外の風景をつくりだした力とは、ひとことで言えば合理性である。建築・工学的な合理性と経済的な合理性が、健全という政治的な“正しさ”のお墨付きを得て、システマチックにそれらの風景をつくり都市を均質化してきたのである。だから、都市の固有の魅力を高めていくと宣言する都市政策の方針転換は、都市再生のエンジンを合理性(普遍性)だけでなく、これまでの合理性とは異なる別の公準とのハイブリッドにする、という宣言でもあるのだ。
合理性とは異なる別の公準とはなにか。それを考えるためには、いま一度、合理主義的な開発がつくりだしてきた都市の風景を思い出す必要がある。
再開発の複合施設やショッピングモールは、東京だろうが地方だろうが、その地の消費力に合わせて別け隔てなく均質な消費空間と経験を提供する。たとえばスターバックスは全国どこでもスターバックスらしいしゃれた空間で、青山のお店に行っても、大阪ミナミのお店に行っても、九州でも東北でも四国でも、スタッフは標準語で対応してくれる。マクドナルドは全国どのお店で食べても変わらぬマクドナルドの味を提供する。ユニクロは立地によって異なるのは店の規模と商品点数だけである。再開発ビルの商業施設は、経営母体が違っても、空間の質もお店の顔ぶれもどこも似たりよったりなので、目に見える景色も、流れている音楽も、味も匂いも、接客も、なんなら客層も全国均一だ。東京郊外のショッピングモールと田舎のショッピングモールで都会的な洗練度が違う、なんていうことはほとんどない。最近の再開発ビルで増えている緑の多いちょっといい感じのオープンスペースや、横丁を模した飲食フロアも、最初のうちは目新しかったがもはや食傷気味だ。そこで滞在し過ごす経験とどこか別の施設で過ごす経験の間に、その場所ならでは記憶の違いはない。後で思い出そうとしてスマホの写真を見返しても、ほとんどの場合、日付と位置情報を確認しなければどこがどこだか分からない。
均質化していく都市では、ここだけの・ここならではの場所と結びついた記憶に刻まれる経験に乏しい。そのように身体的経験が均質化していく場所では、逆に利用する側の人間の存在も、デモグラフィックな属性と購買力でデータ化され、匿名なサンプルとして均質に管理されている。その場所がその場所である必然性がないように、ここでは私が私である必要はない。
合理性を公準にして均質化されてきた都市において失われてきたのは、物理的な風景や建物だけでなく、身体的な経験や記憶の多様性と私という個性、そこから生まれる私にとっての「場所の意味」である。おそらく、歴史を通して蓄積してきたものも含めて、それの最大公約数的なものが都市の固有の魅力であり、合理性とは異なる別の公準である。
文:LIFULL HOME'S 総研所長 島原万丈
報告書全体(45.8MB)
[巻頭エッセイ]センシュアス・シティを歩く
[序論]なぜいま、再び、センシュアス・シティなのか(6.3MB)
島原万丈(LIFULL HOME'S 総研所長)
都市・身体・物語 ― 空間の現象学からティム・インゴルドのタスクスケープ論へ―(1.9MB)
渡會 知子(横浜市立大学都市社会文化研究科准教授)
均質化した街の「顔」:都市に個性は必要なのか?(3.4MB)
清水千弘(一橋大学大学院ソーシャル・データサイエンス研究科教授)
[調査データ分析①]官能都市調査2025(14.9MB)
橋口理文・吉永 奈央子(株式会社ディ・プラス)
[調査データ分析②]官能(センシュアス)から見る都市のウェルビーイング(7.3MB)
有馬雄祐(九州大学大学院人間環境学研究院助教)
[寄稿1]成熟社会の共感都市再生(6.7MB)
山田 大輔(前・国土交通省都市局まちづくり推進課官民連携推進室長/現・柏市役所副市長)
[インタビュー]都市計画の未来:「Sensuous」と「迂回」の視点から(2.9MB)
吉江 俊(『〈迂回する〉経済の都市論』著者)
[取材レポート1]センシュアス・シティのつくりかた(4.0MB)
渋谷 雄大(LIFULL HOME'S PRESS編集部)
[取材レポート2]まちの魅力を支える中小事業者たち 居場所を、風景を守る― 事業承継の"今と課題"(4.2MB)
中川寛子(株式会社東京情報堂・ライター)
[寄稿2]みんながデベロッパーになる時代(2.7MB)
林 厚見(株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター)
Make The City Sensuous(6.9MB)
島原万丈(LIFULL HOME'S 総研所長)
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