日本で古くから建築に使われてきた、歴史ある建材「塗り壁」。
現在では昔より使われることが少なくなりましたが、他にはない塗り壁の魅力は今でも多くの人を引きつけています。今も塗り壁にしたいというこだわりを持っている方は多くいらっしゃいます。
私が住宅会社のインテリアコーディネーターとして働いていたときにも、内装にこだわる方には塗り壁をおすすめすることがありました。その魅力を知ると、きっと取り入れてみたくなりますよ。
今回は、そんな「塗り壁」の魅力をご紹介したいと思います。
- 塗り壁とは?
- 塗り壁の歴史
- 塗り壁の素材と特徴
- 土壁の特徴
- 砂壁の特徴
- 漆喰壁の特徴
- 珪藻土壁の特徴
- プラスター壁の特徴
- 塗り壁の魅力とは?
- 人にも環境にもやさしい自然素材
- 空気をきれいにしてくれる作用
- お部屋の快適さを保つ調湿性・断熱性
- 普通の壁紙にはない質感と手触り
- 塗り壁を利用するときの注意点とは
- 壁紙よりも値段は高い
- 汚れやシミがつきやすい
- 表面が欠けたり剥がれたりすることがある
- 素材によっても違う! 塗り壁のお手入れ方法
- まずは目立たないところで試してみよう
- 消しゴムやメラミンスポンジを使おう
- 珪藻土・漆喰は水拭きが可能
- 砂壁・土壁はハタキで
- 塗り壁を楽しめる住まい
- 新築やリフォームをするなら自分で決められる
- 賃貸でもDIY可物件なら塗り壁を楽しめる
- 機能的な塗り壁を使って、個性的でおしゃれなお部屋にしよう
塗り壁とは?
塗り壁は、主に竹組などの土台の上に、土や漆喰などの材料を左官職人が塗って作る壁のこと。土、草、水などの自然素材を原料とする、環境にも人間にも優しい壁材です。
塗り壁というと、外壁に使用されているものをイメージされる方もいるかもしれません。確かに外壁材としても塗り壁は優れています。ですが、今回は内装材として室内壁に使用する塗り壁について取り上げます。
室内壁では、一般的にはビニールクロスや塗装による仕上げが多いですよね。塗り壁はそれらと比べると、費用も手間もかかります。ですが、その分高機能で、一般的なビニールクロスとは違った質感や風合いを楽しめます。
また、ビニールクロスや塗装などは化学物質が多く含まれており、アレルギーやアトピーの原因となることもあります。自然素材を使った塗り壁は、そういった心配もありません。
塗り壁の歴史
塗り壁は、昔から使われてきた自然素材の建材です。昔から、左官職人による手仕事で行われていました。
その職人技は、およそ1300年前の飛鳥時代から受け継がれてきたと言われています。飛鳥時代を代表する建造物に法隆寺がありますが、法隆寺にも塗り壁が使われています。
また塗り壁は、時代とともに求められる機能性に合わせて進化してきました。桃山時代には、鉄砲の伝来によりさらなる強度や耐久性が求められ、江戸時代になると、度重なる火災から防火性が求められるようになりました。
また、現代では、防火性や耐久性に加え調湿、殺菌作用などを塗り壁に求めることが多くなっています。
塗り壁の素材と特徴
土壁の特徴
その名の通り、仕上げに「土」が使われた塗り壁。使用する土の成分や混合によって色合いや手触りが変わります。
ざらっとした、いかにも土を使っているような手触りになりますが、磨くことでつるっとした仕上げにすることもできます。
砂壁の特徴
砂壁は色砂を糊で練って塗ったもの。土壁より粒子が荒く、ざらざらとした手触りになります。
土壁と同じく使用する砂の色によって仕上がりが変わり、着色した砂やガラス粉、また貝殻や金属粉などを混ぜることもあります。そのため、材料やその混合によって表情が全く異なる、意匠性の高い塗り壁といえるでしょう。
ただし、表面からポロポロと砂が落ちてしまうことがあるのがデメリット。こまめな掃除や、適切なお手入れが必要です。
漆喰壁の特徴
硬く丈夫で、耐久性が高いため、外壁にも使用される漆喰壁。漆喰の耐用年数は100年とも言われており、空気中の二酸化炭素と結合し徐々に硬くなっていく性質があるため、年数が進むほど耐久性が上がります。
漆喰とは、消石灰(水酸化カルシウム)に、つなぎとなる糊、ひび割れを防ぐ麻スサ(繊維くず)などを加えて水で練り上げたもの。白くなめらかな、美しい仕上がりが特徴で、優れた調湿、殺菌作用があります
珪藻土壁の特徴
珪藻土とは、海や湖の植物プランクトンの死骸が化石となって堆積して形成された土のこと。近年注目されている多機能素材です。多孔質で、調湿性や断熱性、耐火性に優れています。
珪藻土は、よくバスマットやコースターなどに使われています。多孔質で、水分をよく吸収する性質があるためです。建材としての珪藻土は、さまざまな色に着色されたものが売られています。加工しやすいため、DIY素材としても人気です。
プラスター壁の特徴
プラスターとは、主に石膏(硫酸カルシウム)や苦灰石(ドロマイト)などの鉱物質の粉末を水で練ったもの。美しい白さが特徴で、西洋漆喰とも呼ばれています。
材質としては漆喰よりも硬く、乾燥収縮が少ないため、亀裂が生じにくいというメリットがあります。
塗り壁の魅力とは?
人にも環境にもやさしい自然素材
塗り壁の魅力は、材料が自然素材のみだということです。昔から、土や草、水といった身の回りにある自然の材料のみを使って作られてきました。
新築の家に見られるシックハウス症候群は、建材に含まれる化学物質によって引き起こされます。その点、塗り壁には化学物質が含まれていないため、シックハウス症候群の対策にもなります。
塗り壁は施工時に有害物質を出さないだけでなく、解体時にも有害な産業廃棄物をほとんど出しません。自然から生まれ、自然に還っていく塗り壁は、人にも環境にもやさしい優れた建材なのです。
空気をきれいにしてくれる作用
塗り壁には部屋の空気をきれいにしてくれる機能があり、室内を快適に保つことができます。その理由は、塗り壁の持つ調湿作用と有害物質を吸着する作用。
調湿作用には、湿気を防ぐことで、ダニやカビの繁殖を防ぐという効果があります。結果として、アレルゲン物質の抑制になります。
また、塗り壁自体から有害物質を出さない上に、さらに他の建材から出る有害物質を吸着するという作用も。中でも、多孔質である珪藻土は吸着作用が高く、注目されています。
さらに、臭いを吸着する作用もあるため、ペットを飼っている方にもおすすめです。お部屋の空気を、きれいに保ってくれるのが塗り壁の魅力です。
お部屋の快適さを保つ調湿性・断熱性
お部屋の快適さを保つという面でも、調湿作用が役立ちます。
塗り壁は、湿度が高いときは湿気を吸収し、湿度が低いときは湿気を放出する働きがあります。そのため、室内が適度な湿度に保たれ、さらに結露の防止にもつながります。特に湿気の多い梅雨の時期などは、湿気を吸収してくれるため快適に過ごすことができます。
また、塗り壁は断熱性能にも優れた素材です。夏の暑い日差しからの熱を遮り熱気が入り込むのを防ぎ、さらに調湿作用によりお部屋の湿度を調整して、室内を快適な状態に保ちます。反対に冬は暖まった室内の空気の熱を逃しません。また、乾燥しがちな冬も塗り壁は室内の湿度を快適にキープ。
この断熱性と調湿性が、お部屋の快適さを保ってくれるのです。
普通の壁紙にはない質感と手触り
塗り壁の表面は、仕上げによってはざらざらとした質感や、磨きをかけて仕上げたものはすべすべとした質感になります。また、自然素材ならではのあたたかみを感じることができます。
塗り壁は、左官職人が手作業で作り上げていく壁です。そこには手作業ならではの味わい深さがあります。模様をつけて仕上げていくものでは、ひとつとして同じ模様はできません。水や土、砂などの自然素材と左官職人の職人技で作られる塗り壁の質感とあたたかみは、量産品の壁紙には出せないものです。
量産品のビニールクロスでも、塗り壁風の壁紙がたくさん出ています。さまざまな種類の塗り壁風壁紙があり、価格も低くて取り入れやすいため、そういった壁紙から選ぶのもいいでしょう。ですが、塗り壁の持つ性能や独特の質感と手触りは、やはり本物の塗り壁にしか出せません。
塗り壁を利用するときの注意点とは
壁紙よりも値段は高い
塗り壁の一番の注意点は、一般的な壁紙や塗装より費用がかかることです。左官職人が手作業で塗っていく塗り壁は、その手作業ならではの良さあがるものの、それがデメリットにもつながってしまいます。
まず手作業で塗っていくので、時間がかかってしまい、その分工期が長くなって人件費や施工費につながってしまいます。また、職人の経験や技術の違いにより、作業時間や仕上がりに差が出てしまうこともあります。
汚れやシミがつきやすい
塗り壁の持つ調湿作用は、シミがつきやすいというデメリットにもなってしまいます。
特に珪藻土は、バスマットやコースターにも使われているように水分をよく吸収します。そのため、コーヒーやお茶、ジュースなどをこぼすと、すぐに吸収してしまいそれがシミになってしまうことも。また、表面がざらざらしているため、ほこりもつきやすくなっています。
汚れやすさは環境によっても異なりますが、ハタキなどで壁の表面をこまめに掃除する必要があるかもしれません。
表面が欠けたり剥がれたりすることがある
塗り壁は土や砂を塗り重ねているため、ものをぶつけるなどの衝撃を与えたときに表面が欠けてしまうことがあります。一部だけならあまり気にならないかもしれませんが、大きな衝撃を与えると表面がひび割れ、剥がれてしまうことも。
ですが、小さな欠けなら補修も簡単です。ホームセンターなどで材料をそろえ、DIYで補修することもできますよ。
素材によっても違う! 塗り壁のお手入れ方法
まずは目立たないところで試してみよう
ここからは、塗り壁が汚れてしまったときのお手入れ方法をご紹介します。
ただし、塗り壁の種類によって適したお手入れ方法が違います。部分的にお手入れするとそこだけ色が変わってしまうこともあるかもしれません。ですので、塗り壁のお手入れをするときは、まずは目立たないところで試してみることをおすすめします。
消しゴムやメラミンスポンジを使おう
真っ白な塗り壁は特に、手垢などで黒っぽい汚れがついてしまうことがよくあります。そんなときは消しゴムを使いましょう。汚れた部分を軽くこすれば、軽い汚れならすぐに落とせます。
もしも消しゴムでも汚れが取れない場合は、メラミンスポンジを使いましょう。軽く水を含ませてこすります。あまり強くこすると、壁の表面が削れてしまうので注意が必要です。
メラミンスポンジはこするとスポンジ自体が削れて壁にカスが付くので、使ったあとはタオルなどできれいに拭き取るようにしましょう。
珪藻土・漆喰は水拭きが可能
塗り壁は素材によってもお手入れ方法が異なり、珪藻土や漆喰の壁などは水拭きすることができます。
汚れた部分には中性洗剤を使って水拭きしてください。洗剤でも落ちない場合は、漂白剤を使うこともできます。水で薄めた漂白剤で、表面を軽くこするようにしましょう。
コーヒーなどでできたシミにも効果がある場合があります。ただし、一部分だけに使うと他の部分と色が変わってしまうこともあるため注意が必要です。
砂壁・土壁はハタキで
砂壁や土壁は表面がザラザラとしており、特にほこりが付着しやすくなっています。ただし、砂壁や土壁は水ふきすると、表面が剥がれ落ちてしまったりシミになってしまうことがあります。そのため、ハタキを使ってほこりを落とすようにしましょう。
また、特に砂壁は砂がポロポロと落ちてしまうことがあるので、掃除機やほうきでこまめに掃除することも大切です。
塗り壁を楽しめる住まい
新築やリフォームをするなら自分で決められる
賃貸住宅では、あまり塗り壁のお部屋はないため塗り壁を楽しむのは難しいでしょう。
新築で家を建てるときなら、自分たちで1から内装を決めることができます。どの部分にどんな素材を使うか、どんな仕上げにするか、自分たちで決めて作り上げる家は愛着が持てそうですね。
また、リフォームする際に塗り壁を取り入れることもできます。ただし、既存の壁の状態や下地がどうなっているかによって対応が変わってきますので、リフォーム業者とよく打ち合わせを行う必要があるでしょう。
賃貸でもDIY可物件なら塗り壁を楽しめる
塗り壁が使われている家はなかなかありませんが、DIY可能物件なら塗り壁を楽しむことができる場合もあります。念のため、きちんと大家さんや管理会社に確認しましょう。
賃貸で塗り壁を楽しむ方法として、壁の前にもう一枚壁を作り、そこを塗り壁にするという方法があります。床や壁を傷つけることなく壁や棚が作れる、ディアウォールというDIY用商品を使えば、自分で壁を作ることができますよ。また、貼って剥がせる賃貸用の壁紙下地材もあります。
賃貸でのDIYは、原状復帰が基本。そのため手間はかかりますが、これらの方法を使えば賃貸住宅でも塗り壁を楽しむことができるでしょう。
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機能的な塗り壁を使って、個性的でおしゃれなお部屋にしよう
塗り壁というと、その独特な質感やデザイン性に目が向くかもしれません。ですが、それだけではない高い機能性を持った建材です。人にも環境にもいい塗り壁を取り入れてみるのはいかがでしょうか。
塗り壁は日本古来の建材ということもあり、和室などで使われているイメージが強いかもしれません。ですが、西洋や南欧でも古くから使われており、相性が良いことから洋室に塗り壁を取り入れる方も多いです。
アトピーやアレルギーがある方や自然素材に引かれる方、またインテリアにこだわりたいという方は、ぜひ塗り壁も検討してみてくださいね。