皆さんは「ミングル」という言葉、聞いたことがありますか?人気スープ作家、有賀薫さんが提案するキッチンの新しいスタイル、それがミングルです。「どのように新しいのか」、「どうしてミングルを作ろうと思ったのか」。そんな疑問をたずさえて、有賀さんのお宅に訪問。実際の使い勝手や魅力を伺ってきました。
すぐにミングルを導入できなくても、キッチン周りのライフスタイルを見直したり、工夫を加えるヒントがたくさん!参考にしてみてくださいね。
ミングルはキッチンから飛び出した「次世代のキッチン」
多くの人にとって、ミングルは聞き慣れない言葉ではないでしょうか。
ミングルはキッチンの進化系とも言える、新しいスタイルです。私たちが想像するキッチンというのは、シンクや調理台はもちろんのこと、食器棚、ガスや電気を使った調理器具などがずらりと並んでいるというイメージですが、何とミングルは“ダイニング”の中心にあります。
形としては、テーブルと、その真ん中に埋め込まれた電磁調理器、小さめのシンクと食器洗い機が合体したものになります。もちろん、有賀さんのお宅にはれっきとしたキッチンはあるのですが、それとは別に新しくあつらえたものです。ミングルとは、キッチンから飛び出した「次世代のキッチン」のことなのです。
“みんなでぐるぐる”回って使えるからミングル
親しみやすい響きのミングルですが、その名前の由来は英語のmingleで、「2つ以上のものを《各要素が区別できる程度に》混ぜる、一緒にする(研究社新英和中辞典より)」から来ているとのことです。最近ではシェアハウスなどのみんなで使うキッチンを指すこともある言葉だそうです。
有賀さんによると、「設計をお願いするときに、名前も含めて提案をお願いしたら、この名前が出てきたのです。なんだか“みんなでぐるぐる”って感じの響きがすっかり気に入って、それに決定しました」とのこと。たしかに、ちょっとワクワクする印象です。
作りたかったのは「自然と家事に参加できる」キッチン
そもそも、有賀さんはなぜミングルを作ろうと思ったのでしょうか。
有賀さんのお宅は、以前は息子さんも一緒に生活をしていたのですが、現在では基本的にご夫婦2人暮らしです。さまざまなスープを紹介するスープ作家という仕事柄、料理をする機会は多いのですが、キッチンに立ちながらも少しモヤモヤしていたところがあったそうです。
そのモヤモヤの理由は「主婦やお母さんに限らず、料理をしたり、後片付けをする人がキッチンに1人ポツンとこもっているのはどうなのか」ということでした。とはいえ、何人もキッチンに入って手伝ってくれてもそれはそれでやりづらい。「もっと自然にみんなが料理や片付けに参加できたらいいなと考えていたのです」。
「大切にしたのは回遊性といういか、みんなの役割が自然に入れ替わったりできて、参加できること。イメージしたのはキャンプのキッチンでした」という有賀さん。ただ「外では、みんな当たり前に楽しく参加してくれるのに、うちに帰ってくるとそうはいかない。それが家の中に持ち込めたら」と悩んだ末、それを実現できるスタイルとして行き着いたのがミングルの発想でした。
ミングルの機能性と使い勝手
実現に動き出した有賀さんは、前例のないスタイルを一緒に一から取り組んでもらえる設計事務所に相談。複数の事務所のうち「ミングル」の名前を提案してくれた事務所にお願いすることになりました。
ミングルがどのようなものかは、冒頭で少しご説明しましたが、もう少し詳しくご紹介していきましょう。
一辺95cmの正方形テーブルに使いやすさを凝縮
有賀さんのミングルは、もともとダイニングテーブルがあった場所に作られました。サイズは、一辺が95cmの正方形のテーブルの一角に円形の小さめのシンクがついている形です。テーブルの中央には電磁調理器が埋め込まれています。シンクの下には食器洗い機、天板のほかの側面には引き出しがあって、調理器具やカトラリーが入っています。
天板の素材は好きな形にできて、調理機を埋め込んだりするのに便利なセメントのようなもの。染みになったりしないか心配したそうですが、よく考慮されていて問題なく、使いやすいそうです。「実はこのシンプルなスタイル、夫が原型を考えてくれたのです。本当に最初から深くかかわってくれました」。
実際、日々使っている感想を有賀さんに聞いたところ「いろいろ冒険だった部分もありますが、思い切って作ってよかったと思います。ほらこれ、見れば誰でも使い方わかるでしょう?」と。引き出しを開けながら「夫も、わざわざ“手伝って”とお願いしなくても自然とカトラリーなど出してくれますしね」。
元のキッチンとの使い分けで相乗効果も
料理家という仕事柄、元のキッチンは残してあり大掛かりな試作や撮影はそちらでやっている有賀さん。
「ミングルは私のように料理をヘビーにする人にとっては不十分な場合もあります。でも、一人暮らしや、共働きのカップルで平日はそれほど料理をしないという人なら、レンジや炊飯器、買ってきたお総菜などの併用で十分な食生活を送れると思うのです。ライフスタイルが多様になった今、料理をなるべくコンパクトにやりたい人たちのためのキッチンがあってもいいのではないでしょうか」と、ミングルのメリットを話してくれました。
実際使ってみて想像以上に便利だったというのがフラットで広い天板。元々のキッチンは、ガスコンロとシンクの間の作業スペースはあまり広くなく、素材をザーッと広げてするような、例えばパン生地をこねるなどの作業はやりにくかったそうですが、ミングルだとそういう面での使い勝手がとても良いそうです。
それぞれの家のスタイルがあっていい!
先に「有賀さんのミングル」と書いたのは、有賀さんには「結果的にうちのはこの形になりましたが、これがミングルの基本形ということではなく、使う人それぞれに合わせた形でいい」という思いがあるからです。「家族の人数も、年齢も、人生のステージもみんな違いますから、これはあくまで一例です」と話す有賀さん。
ここまでご紹介してきましたように、夫婦二人の食事なら、配膳いうほどではないものの、カトラリーを出したりというちょっとした準備から、調理、後片付けまでミングルで完結してしまいます。使う食器もそれほど多くはならないし、洗い物は機械任せで食後もゆったり過ごせます。天板も調理機が一体となってフラットなので、サッと拭くだけですぐにキレイになります。
楽しいイメージを膨らませられるのがミングル
ご夫婦はもちろん、息子さんが帰ったとき、友人を招いたとき、料理本の打ち合わせや撮影をするためのスタッフなどと料理をすること、食べることに関わる人がみんなで取り囲むのがミングル。そんな風に、いろいろな人がそれぞれの形で、気持ちよく、楽しく料理したり食べたりするシーンのイメージを膨らませられるのが、決まりのないミングルの魅力です。
ミングルで味わう“居心地の良さ”と“楽しさ”
有賀さんのお宅のミングルが完成した後に、友人とともに食事に招いていただきました。
ミングルの効果もあって、私たちも「キッチンに入って手伝ったら邪魔かな?」などと気遣うこともなく、いっしょに鍋物の支度をしたり、蒸し器を使って野菜やおまんじゅうを蒸したり、ワイワイガヤガヤ居心地よく楽しく過ごせました。まさに、有賀さんがミングルに思いを託した「みんなの役割が自然に入れ替わったりできて、参加できること」が実践できているなと感じました。大きなダイニングテーブルも必要なく、部屋も広々使え、本当に食卓についた人全員が参加者で「みんなでぐるぐる」楽しめる新しいスタイル。
「一日中仕事が忙しく、晩ごはんも作りたくないという日は、冷蔵庫をのぞいて残り物をちゃちゃっと焼くだけで一品できてしまう。あとはワインでも開ければオッケーというときがあってもいいでしょう?」。ミングルの調理器の前で、有賀さんはそう話しながらソーセージと野菜を焼いてくれました。
私自身は、現在は一人暮らしで、30分ほどの距離の実家に週に何度か通う生活です。近い将来、実家に戻って母と生活することになりそうな現状。実際、高齢になった母には、できればガス火はあまり使ってほしくない……そんな母と二人の暮らしにはどんな形がいいかな?ミングルを前にといろいろ想像をめぐらしてしまいました。
日常にミングルのエッセンスを
みなさんも、ご自宅のキッチンやダイニングに、「使う人がみんな楽しく使えて食べられる」というミングルのエッセンス を取り入れてみてはいかがですか?
すぐに「自分のミングル」を作ることはむずかしくても、レイアウトを変えてみるとか、テーブル下に小さなワゴンを置いて、カトラリーをお気に入りの箱やカゴに入れたり、いつも使うお皿や台ふきんなどを収納して、誰でもすぐに使えるようにしておくなどの小さな工夫で、もっとみんなで気軽に料理や食事が楽しめるかもしれません。