大阪の八尾市で暮らす、石川県出身の中山智憲さん。「園園」という屋号で作庭を生業にされています。庭師を志したのは20代後半。
それまでは、まったく異なる職種をされていたとのことですが、なぜ石川県出身の中山さんが大阪の東大阪、八尾という土地で庭師になることになったのか、移住したきっかけや地域での暮らしぶり、街の住み心地とともに伺ってみました。
石川県から東大阪へ移住。人懐っこい住人の気質がいい
――本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、石川県から大阪に来られたのはどういうきっかけでしょうか。
中山:「はい。東大阪にある近畿大学に通うために、大阪に来ました」
――大学進学がきっかけだったんですね。
中山:「それまでずっと陸上競技をしてきて。スポーツ推薦で大学に入って、卒業後もプロとして陸上競技を続けて行きたかったのですが、基本的にはアマチュアスポーツの世界なので、 プロとして残れる枠に入るのが難しく、就職を考えた時に、やはり体を動かせる職業がと考えたときに警察官という道を選びまして、卒業後は大阪府警で働いていました」
――えっ? そうだったんですね。庭師という職業からは全く想像できない経歴ですね。その職歴も気になるのですが、石川から出てこられた時にお住まいだったのは、東大阪だったのでしょうか?
中山:「そうですね。大阪のことはそれまで何も知らなかったんですが、大学の近くということで、東大阪にまずは住みました」
――現在、大阪に住まれて何年になりますか。
中山:「17年くらいになります」
――最初の頃の気持ちというのは思い出せないかもしれませんが、東大阪や八尾というエリアはどのような印象でしたでしょう。
中山:「そうですね。僕はすごく好きな場所なんです。都会の中にある下町の感じが、自分に合っているというか。現在の仕事柄、関西のいろんな場所へ行かせてもらうんですけど、他と比べても親しみやすい街だなと思います。人との距離感などが特にそう言えますね。僕はスーパーとかでもすごく話しかけられるんですよ。例えば自分の好きな食パンをカゴに入れるために取ろうと思ったら、手をバーンっておばあちゃんにつかまれて、『こっちが100円安いから騙されたらあかんで』と別のパンを示唆されたり、強引にと言いますか(笑)」
――すごいエピソードですね。それってちょっと嫌に思うことが多そうな気がしますが。
中山:「(手を)持つってどういうことやねん! みたいな話なんですけど、僕には逆に親しみやすいなっていう感じで受け入れられたんだと思います。地元の石川とは全く違うんですけど」
――ですよね。石川県の皆さんはもっと静かなイメージです。
中山:「話すのも、(会話の)ラリーとかも遅いです。大阪の人は、他人の領域にめっちゃ入ってくるところとか、全然違います」
――大阪人の特徴などでよく言われる感じですね。余計なお世話が、むちゃくちゃ多いというか。
中山:「身長が190cmくらいあるので、スーパーなどでは結構な確率で『なんぼあんねん、身長?』とか言われます(笑)。今は娘が生まれて、抱っこしてることが多いので、娘について聞かれたり絡んでくださったりするので、そこらへんが楽しいというか、おもしろくて好きやなと思ってるところなんです」
大阪府警で爆発物処理を経験し、庭師へ
――相当肌に合っていたんですね。話は戻りますが、大阪府警時代も東大阪にお住まいだったのですか?
中山:「隣町の八尾にも住んでいたんですが、警察学校時代は交野に住んでいまして、機動隊に所属していた頃はりんくうタウンに住んでいました」
――いろんな部署に所属されていたんですね?
中山:「そうですね。交番勤務後、パトカーに乗ったり、私服警官の頃もありましたし、爆発物対策部隊にいたこともあります」
――益々、興味深い経歴ですが、ちょっと先にいかせていただきます。そこからどうして庭師になって八尾で仕事をすることになったのでしょうか?
中山:「大阪府警に入ったものの、すぐに長く続けられる職業ではないと思いました。とはいえ何事も3年は続けないとわからないと思い3年続けて、それでも続けられる仕事ではないなと思ったので転職をしたわけです」
――なるほど。3年続けてみての判断だったのですね。それでなぜ庭師に?
中山:「知り合いに造園のデザイナーの方がいて、その方の紹介で庭師の仕事を教えてもらい、興味が湧いて庭師の方に弟子入りすることになりまして。その方とずっと一緒にやっていけると思っていたら、『海外を放浪したいから解散』ってことになりました。そんな時に、別の八尾の造園の方から声がかかりました」
――それは渡りに船ですね。
中山:「そうですね。それから5年半ほどその造園会社で働いて、独立という流れです」
庭師としての東大阪、八尾住まい
――その頃は八尾で暮らされていたんでしょうか?
中山:「八尾に住んだり、東大阪に住んだりしていまして、現在は瓢箪山(東大阪)に住んでいて、八尾に新居を建てています」
――そうでしたか! いつ完成ですか?
中山:「6月くらいには八尾に引越すことになります」
――なぜ、八尾に新居を建てようと?
中山:「東大阪も八尾も同じくらいいいんですが、どちらかといえば八尾の方が肌に合うというか。今の仕事、造園ですが、庭を作るのである意味デザイナーとも言えると思っているんです。その観点で街を観ると、ストレスがないというか。いい意味でデザインがないんですよね、街に。妻も、グラフィックデザイナーをしているので、買ってきた商品のパッケージなどを見て、気になったりすることが多いようなんですが、街の中にデザインが介入していないので、何かを言う余地がなくて心地よいんです」
――職業病のようなことが街にいても出ないと言うことですね。
中山:「そうです、そうです」
――仕事とプライベートのモードが切り替えられる?
中山:「いい意味でスイッチが切れる感じはします」
――そこまで行くと、最初は大学が近いからという理由で住み始めた町ですが、今では導かれてきたんじゃないかと思うくらいですね。話は変わりますが、お子さんは?
中山:「今、9ヶ月です」
――子育てをするにはいかがでしょうか?
中山:「自転車や徒歩圏内になんでもそろっていますし、図書館もあるし、見ている限りでは、子育ても良さそうだなとは僕は思っているんですけど。それに、現在の瓢箪山からだと難波まで20〜30分程度かかりますが、八尾だと天王寺まで約10分、市内まで全然遠くないです」
――失礼ながら、もう少しかかるかなとも思っていました。八尾は大阪の中でも造園業の街としては知られていますし、交通の利便性も良いとなると文句はないですね。
中山:「お住まいの方々も僕らが個人業してるのもあるとは思いますが、職人さん方が多くやりやすいですね」
――というと?
中山:「閑静な住宅街だと、朝が早いと気になると思います。でも、周りもスタートが早いので、お互い様なんですね。店も6時半ぐらいから開くので、その時間に合わせて荷物積むんですけど、 その準備の音が結構ちらほら聞こえてきます。だから音を出してもお互いに許容しているといいますか。その寛大さは、現在の仕事をする上でありがたいなと思います。どうしても荷物積むと、『ガシャ』って音がするんで…」
――それは確かに気を使いますよね。でも周りの理解があると全然違います。だから、同じ業界の人が集まったりするんですね。今、ようやく理解できました。最後に八尾のお気に入りの場所を教えてもらえますでしょうか?
中山:「玉串川と長瀬川の桜ですね。有名な桜のスポットなのですが、長瀬川は眺めもよくてとてもいい場所なんです。ランニングの時にも走ったりしていますよ」
職人に優しく、人懐っこい街での人情あふれる暮らし
東大阪市の南に位置し、奈良との県境にあるのが、今回お話を聞いた中山さんが肌に合う街という八尾市。八尾市への公共交通機関でのアクセスといえば、近鉄電車で近鉄八尾駅に向かうか、話にも出たJR線の八尾駅。
いずれも八尾駅と付くものの、近鉄の八尾駅は、JRと比べると東大阪市寄りにあり、駅前は商業施設などが立ち並びます。比べてJR側は、住宅街といった印象です。
そんな住宅街の家賃相場(ワンルーム・1K・1DK)を見てみると、5.33万円とお手頃な相場です。天王寺まで10分の距離と考えると、この値段はお値打ちなのでは? 天王寺界隈が職場、または学校が近い場合、八尾で暮らすのも良いのかもしれません。
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記事:姫桃子