地方移住に興味があっても「いきなり知らない土地に飛び込むのは不安」と感じる方は多いのではないでしょうか。終の棲家になる可能性もあるからこそ、心から満足のいく移住を行いたいですよね。
そこでこの記事では「二段階移住」について紹介します。二段階移住とは、最終移住地を決めるまでに何ステップか挟むことで、失敗のリスクを回避できる堅実な移住手法です。実際に、二段階移住を経験した私が、メリット・デメリットやQ&Aなどを、実体験を含めながらお伝えしていきます。
「移住に興味はあるけれど慎重になって踏み切れない」「移住をずっと考えているけれど実現までのハードルが高い」というようなことを感じている方の背中を押す内容になっていると思いますので、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。
二段階移住とは
まずは二段階移住の基本事項を紹介します。二段階移住という言葉を初めて聞いた方でもわかるように、定義や有効な理由について触れていきます。
二段階移住の定義
二段階移住とは、まずは比較的都市部の市町村に移住・滞在(一段階目)し、そこを拠点に県内をめぐって自分に合った場所を見つけて、最終的な移住地(二段階目)を決める仕組みです。
「二段階移住」という言葉は、もとは高知県で使われ始め、別名「すてっぷ移住」と呼ばれています。現在では高知県以外でも移住の手法として広く認知されるようになり、失敗を回避する移住手法として一般的に用いられる言葉となりました。
例えば私の場合は、神奈川県藤沢市出身で職場は東京都港区にありました。その後、結婚をきっかけに茨城県内のとある市へと移住(一段階目)し、現在は茨城県行方市(二段階目)で生活しています。
最初の移住地はJR常磐線や特急列車の停車駅で、駅前にはマンションや商店街もあり、車がなくても問題ない環境でした。その際に現在の住まいと出会い、最終的な移住地を見つけた流れです。
二段階移住が有効な理由
総務省の調査結果によると、2022年度中に各都道府県および市町村の移住相談窓口などで受け付けた「移住相談件数」は、2015年以降過去最多を記録したそうです。相談件数は全体で約37万300件(窓口:約30万5,000件、イベント:約6万5,300件)にのぼりました。
相談件数が増加した要因として、コロナ禍を契機とした全国的な地方移住への関心の高まりや、テレワークの普及等による「転職なき移住」への可能性を挙げています。
このように地方移住への関心が増加する一方で、移住の失敗談もちらほらと耳にするようになってきました。テレビ番組やインターネット上でも、地方移住の難しさが話題となることも珍しくありません。
確かに一度の移住で定住地を決めるのは、非常に難しいことだと思います。なぜなら、思い描いていた理想と現実にギャップが発生するのは、ごく自然なことだからです。
その点、二段階移住は定住地を決定するまでに時間があるため「少し違ったかも」と感じたときにいくらでもやり直しができます。当初は賃貸物件に住んでいれば、まとまった初期費用もかかりません。金銭的・精神的にも余裕が持てて、移住計画の変更がしやすいです。
二段階移住した私の体験談
ここでは具体的に私の二段階移住に関する体験談をお伝えします。「いきなり田舎暮らしを始めるのは不安」と感じている方は、以下に紹介するような段階的な移住があることも知ってもらえたら嬉しいです。
二段階移住のきっかけ
私は神奈川県藤沢市出身です。実家の近くには江ノ島の海があり、自然の豊かな環境でした。田舎暮らしとまではいかないので、生活に不便さを感じたことはありませんでした。職場も東京都港区にあったため、結婚までは田舎暮らしのことをよく知りませんでした。
しかし茨城県出身の夫と結婚したことをきっかけに、田舎暮らしへの第一歩を踏み出します。最初は東京まで電車で乗り換えをせずに行ける地域の駅前マンションでの生活を開始。免許は持っていましたが、当時は自分の車を持っていなかったので、徒歩でスーパーへの買い物や金融機関めぐりなどを済ませていました。
移住一段階目のマンション暮らしが1年経った頃、夫と「もう少しどっぷりと田舎暮らしをしたいね」と話し合いました。そこでマンション生活をしながら、平屋の古民家を探すことに。ざっくりとエリアは決めていましたが、観光を兼ねて県内をいろいろと見て回りました。
結果的にはマンション生活は丸2年で終了し、そのあいだに県内散策・物件探し・物件契約などを行い、古民家への移住を完了しました。二段階目の暮らしは、一段階目よりも満足しています。
二段階移住をしてよかったこと
二段階移住をしてよかったことはいろいろとありますが、一段階目で県内のことを幅広く知ることができたのは大きかったです。仮住まいのマンションを拠点に県内を北から南まで夫婦であちこちとめぐっていたので、自治体名はもちろん、方言・人柄・景色・食文化・歴史文化・観光スポット・運転のクセなどをいろいろと知ることができました。
また、少しずつ「田舎」に慣れていけたこともよかったです。一段階目の住まいは地方の中では便利な場所だったとはいえ、都会とは暮らしが違いました。例えばこれまで使っていた金融機関の支店がなかったり、物価の違いに驚いたり(野菜は安いが、プロパンガスと水道代の高さにはびっくり)。
このように、二段階移住は「県に慣れる期間」として最適だったように思います。
二段階移住のメリット・デメリット
ここでは二段階移住のメリットとデメリットを紹介します。二段階移住の手法を最大限に活かすために、ぜひ目を通してみてください。
二段階移住の5つのメリット
メリット(1)最終移住地をゆっくり決められる
二段階移住は、まずは比較的都市部の市町村に移住・滞在します(一段階目)。そこを拠点に県内をめぐり、自分に合った最終的な移住地を見つけます(二段階目)。
「いつまでに決断しないといけない」といった制約がないため、仕事や子育ての都合を優先し、自分に必要なタイミングで移住を行えます。県民として暮らしつつ、時間に余裕を持って十分な調査をもとに最終移住地を決められます。
メリット(2)仕事が見つかりやすい
田舎でも、比較的都市部の市町村には求人が多いです。農村エリアではできないオフィスワークなどの募集が出ていることもあり、仕事が見つかりやすい印象があります。
一段階目の移住でキャリアを数年詰んで、慣れてきた頃に二段階目の移住に移ることも十分可能です。「職場まで通える距離で最終移住地を決める」といった考え方もできます。ゼロから起業も可能ですが、安定するまでは収入に波があるため、給与収入があると安心です。
メリット(3)最終移住地の住民に受け入れられやすい
移住者はうきうきした気分でいっぱいかと思いますが、近所に移住者がやってくる近隣住民(受け入れる側)は不安でいっぱいです。
私たちも二段階目の移住の際に、近所では「どんな人が来るのか」と噂話が広まっていたと後から聞かされました。その点、挨拶のときに同じ県内から来たことを伝えると、皆さんかなり表情が明るくなります。出身地は違っても何年か県内で生活しているだけで、印象は大きく変わります。
メリット(4)友人・知人が増える
一段階目と二段階目、それぞれ人と出会うチャンスがあるので、知人が増えます。私の場合、一段階目のときに職業訓練校や短期の職場に通っていたこともあり、幅広い年齢層の知人ができました。二段階目では近所付き合いも盛んになり、最初はゼロからのスタートだった人脈も、今では寂しくない程度の気の合う知人が近くにいます。
また、県内のいろいろなエリアに知人がいると、飲食店の情報や特産品の交換などができるところも楽しいです。
メリット(5)エリアやライフスタイルが合わなければやり直せる
一段階目の移住で違和感があったら、やり直せます。移住を検討する「都道府県」自体を見直せますし、再び東京などの都市部へ戻ることもできます。
物件も賃貸住宅を利用すれば退去手続きをするだけで済み、購入した場合よりも不動産手続きが簡単です。一段階目はいわば「お試し」のため、満足できなければやり直しがきくところが大きなメリットです。
二段階移住の3つのデメリット
デメリット(1)最終移住までに時間がかかる
二段階を経て最終移住地を決定するため、時間がかかります。私は最終移住までに2年を要しました。2年間でゆっくり次の候補地を見つけられたよさもありますが、その分時間を使ってしまったのも事実です。
私の場合、この期間に最終移住地で使えそうな資格取得を頑張って役立ったので、スキルアップに費やすのもいいと思います。
デメリット(2)一度の移住より費用がかかる
二段階移住は2回の引越しが必要です。引越し会社に支払う費用が倍になるのはもちろんですが、引越しの手間も増えます。
私の場合は、1回目で格安の引越し会社を見つけられたため、2回目も同じところにお願いしました。引越し会社によっては高額の見積もりが送られてきたこともあるため、選定は慎重に行うことをおすすめします。また、知人が大きな車を持っている場合は協力してもらうのもいいと思います。
デメリット(3)補助金を活用する際は注意が必要
都市部から地方へ移住すると、補助金の対象になることが多いです。しかし、一段階目の移住先で補助金をもらう際は注意してください。なぜなら、補助金をもらう要件に「定住の意思があること」といった文言が含まれている場合があるからです。
最初から定住する気持ちがないのであれば補助金の対象外となりますので、その点は留意しておく必要があります。最悪の場合、返還を求められてしまうため、補助金を活用する際は要項を十分確認するようにしましょう。
二段階移住の経験者が答えるQ&A
ここではQ&A形式で質問に答えていきます。素朴な疑問をピックアップしたので、ぜひ参考にしてみてください。
Q(1)最初から二段階移住を考えていたの?
今振り返ると私たちが行ってきたことは二段階移住そのものなのですが、当時計画的に絶対にそうしようと決めていたわけではなかったと思います。
自然な流れで最初は賃貸マンションに住み、時間をかけて県内の各エリアを幅広く訪問し、その後、マンション暮らしがあまりフィットしないことに気が付き、二段階目の移住を検討した感じです。まとめると「結果的には二段階移住をしたけれど、当初は考えていなかった」というのが答えになります。
Q(2)一段階目と二段階目ってそんなに違う?
違います。特に私は一段階目が「マンション暮らし」で、二段階目が「古民家暮らし」なので、地域の違いというよりも住まいの違いが大きいかもしれません。古民家暮らしは最初慣れずにとても苦労しました。特に虫は悩みの種でした。
また、庭と家が広くなったことで手入れが多くなったことにも驚いたのをよく覚えています。今となってはいい思い出ですが、古民家に慣れるまでに時間がかかったので、地域だけでなくどのような住まいを選ぶのかも、よく検討した方がいいと思います。
Q(3)二段階移住はどんな人におすすめ?
「絶対に移住したい地域がある」と自信を持って言えない人におすすめです。漠然と田舎暮らしがしたいと思っている人や、移住したい都道府県はあるけれど具体的な市町村までは決まっていない人は、二段階移住を検討する価値があると思います。
私の知人で、大学の卒業論文のためにとある自治体を調査していた人がいて、卒業後はそこにピンポイントで移住しました。例えばこの人のように特定の地域に強い思い入れがなければ、誰でも二段階移住は有効と考えます。
二段階移住を検討してみよう
ここでは二段階移住におすすめの物件を紹介します。
おすすめのゆる田舎の物件
まずは田舎でも比較的都市部のゆるい田舎で、一段階目の移住を検討してみてください。一段階目のエリアを拠点にして、二段階目の候補地をじっくりと探っていくのがおすすめです。
空き家バンク
移住したいエリアの空き家バンクを調査してみましょう。空き家バンクは市町村ごとの運営のため、いくつかの自治体をピックアップし、比較してみてください。
二段階移住で堅実な移住を実現しよう
二段階移住とは、まずは比較的都市部のエリアに滞在し、その期間に最終的な移住地をゆっくりと探す堅実な移住手法です。最初は高知県で提唱されていた言葉ですが、最近では一般的に使用されるようになりました。
私も今は茨城県の人口3万人程度の田舎町で暮らしていますが、この町へ移住する前の2年間は県内の別のエリアにあるマンションで暮らしていました。マンション生活をしながら、県内のことを網羅的にゆっくりと知ることができたのは非常によかったです。そのおかげで、最終移住地で生活している今、とても満足しています。
移住に興味がある方は、ぜひ二段階移住を検討してみてください。