駅前からその街を知るべく街を歩き、巡り合った人に街について聞いてみたり、酒場で店主と話してみたりして、街に住む人、そしてその街の良さを探る本連載。第6回は、箕面駅を降りて歩きます。紅葉で有名な箕面。最近では、少し距離はありますが北大阪急行の延伸で新駅「箕面萱野」駅もでき、住環境においても注目の街です。
阪急箕面線の終点は、自然豊かな山あいに広がる住宅街
今回やってきたのは阪急箕面線の終点である「箕面」駅です。箕面駅の歴史は古く、現在の阪急線の前身である「箕面有馬電気軌道」の終点として1910年に開設されました。
そもそも、箕面線という路線自体、昔から紅葉の美しい景勝地として知られていた箕面山の山麓に広がる「箕面公園」へ向かう観光路線としての役割が大きく、駅舎が建てられた場所も箕面公園にアクセスしやすい位置になっているそうです。駅の開業当時は国内でも有数の規模を誇る動物園「箕面動物園」(1916年閉園)が開園し、アミューズメントエリアとして大きな発展を遂げました。
現在は動物園もなく、当時のようなリゾート地的な雰囲気ではなくなっていますが、箕面公園は紅葉の名所として人気で、箕面大滝へと続く通称“滝道”は、シーズンになると多くの人でにぎわいます。
私自身、何度も箕面大滝を見に箕面駅を訪れたことがあります。今回、久々にホームに降り立ったのですが、電車の外に出た時点で空気が澄んでいるのが感じられました。取材当日は朝から冷え込んでいて、お昼過ぎには雪がちらついていました。
商店街沿いの酒屋さんでまずは乾杯を
先述した通り、箕面駅のすぐ北側からは箕面大滝や658年の創建とされる古刹・瀧安寺などに至る道が始まり、観光に来たとしたらそちらへ向かうところなのですが、今回は駅周辺の商店や住宅地の様子を眺めて歩きたいと思います。
駅前のロータリーから南へ歩くと、「みのお本通り商店街」のゲートが見えます。100メートルほどの長さの小さな商店街ですが、喫茶店や飲食店、衣料品店などが軒を連ねています。その通り沿いに「Beer Shop UMEHARA」というお店を見つけ、軒先の黒板に「店飲み大歓迎!!」とあったので入ってみることにしました。
店主の梅原丈史さんにお話を伺うと、このお店はクラフトビールや輸入ビールを中心に扱うショップとして8年前にオープンしたそうです。丈史さんの祖父の代からこの地で酒屋を営んでこられたとのこと。かつては滝道の入り口に「梅原酒店」という酒屋があったそうで、「両親がそこで角打ちをしていたんです。大きなテーブルで知らない人と一緒に飲むような店で」と教えてくださるのを聞いて、私もかつてその「梅原酒店」に一度だけ飲みに行ったことがあったのを思い出しました。今はその店はなくなり、跡地は駐車場になっているそうですが、丈史さんがその意志を引き継ぎ、この店内でも手軽な価格でお酒が味わえるようになっています(お店にはかつての「梅原酒店」にかかっていた立派な木製の看板が飾られています)。
ただ、この店の立ち飲みカウンターはあくまでクラフトビールや輸入ビールを味見し、気に入ったものを買ってもらうためのもの。冷蔵庫にストックされた数多くのビールの中からお気に入りを見つけられる店なのです。
箕面ビールと台湾のブルワリー「TAIHU BREWING」がコラボした「朋友」というビール、そして丈史さんおすすめの樽生ギネスビールをいただき、心地いい時間を過ごしました。
途中、パートタイム的にお店を手伝っているという方がやって来たのですが、いつも取材に同行してくれている編集担当・Mさんと旧知の仲だというので驚きました。その人は、イラストレーターとしても活動しているMasayuki Maetaさんという方で、生まれも育ちも箕面なのだとか。箕面の印象について伺うとこんな答えが返ってきました。
「箕面はめっちゃ暮らしやすいです。電車で30分で大阪市内まで行けて、ちょうどいい距離感なんです。だから住んでいる人がずっと出ていかないんですよ。夜は星が綺麗だったり、川に蛍がいたり、それを見ながらお酒を飲んだり。季節ごとに景色も変わるので、滝まで犬を連れて散歩するのも楽しいです。おじいちゃんおばあちゃんの多い街ですけど、コロナ禍以降、リモートワークが主体になってからは家族連れが引越してきて、子どもも増えています。街としてのポテンシャル自体は高いと思うんです。でも観光面がまだまだ弱いなと感じています。紅葉のシーズンはすごいんですけど、そこだけに集中しているんです。あと、昨年(2024年)に(北大阪急行の)箕面萱野駅が新しくできたんで、最近は人の流れがそっちに行っている感じがありますね」
地元の変化を見てきた一人として、Masayuki Maetaさんは商店街をもっと盛り上げていきたいそうです。「この商店街も昔はもっと人がおったんですけどね。お年寄りが多いんで、お店が空いたところに病院が増えるんですよ。それ自体はいいんですけど、夜間に開いてるお店が少ないから明かりが灯らないんです。もうちょっとこの辺をなんとかしたいなと思っています。世代の近い人同士で何かイベントを企画したいと思っています。商店街の入り口に新しい商業施設もできる予定ですし、人の流れが変わってくるといいんですけどね」と語ってくれました。
ちなみに、この「Beer Shop UMEHARA」からほど近い場所にある人気カレー店「北摂スパイス研究所」のスタッフもお友達だそうで、店内でイベントを開催する予定もあるとか。
箕面温泉スパーガーデンから市街地を眺めてもう一軒
お店を出てさらに南へ歩くと「ミスタードーナツ」が見えてきました。なんとなく外観が他のお店と違う雰囲気だなと思ってよく近づいてみると、この「ミスタードーナツ 箕面ショップ」こそ、全国的なチェーンとなった“ミスド”の1号店なのだとか。
店内には創業当時の写真なども残っており、さながら資料館のようでした。また、この箕面ショップ限定のドーナツも販売されており、1971年の開店当初の商品を再現したもののようでした。「ホームカット」というドーナツを買って食べてみると、プレーンで優しい味わいがとても自分の好みに合いました。
府道43号豊中亀岡線は車通りが多く、道沿いには飲食店の大型店舗やコンビニが並んでいます。そうした大きな道路沿いに商店が集中し、大通りを外れたエリアには閑静な住宅街が広がっているという印象です。大きな池のある芦原公園では寒い日にもかかわらず子どもたちが元気に遊んでいて、この周辺は子どもたちにとってものびのびと暮らせる環境なのかもしれないなと思いました。
住宅街を気ままに歩き、気づけば駅の方へ戻ってきました。せっかくだから北側へも少し歩こうと、滝道の緩やかな坂を少しのぼり、箕面温泉スパーガーデンへ向かいます。この箕面温泉スパーガーデンは、かつて箕面動物園があった場所に建つ温泉宿泊施設で、私も何度も利用したことがあります。2025年3月末から大規模な改修工事に入るそうで、最後にその様子を見ておこうと思いました。
入り口はエレベーターでかなり高くまで上った位置にあり、そこからの眺望が素晴らしいのです。残念ながら温泉に入っていく時間はなかったのですが、遠く大阪の市街地を見晴らすことができてよかったです(施設の利用なく展望だけしたい場合はフロントで100円を支払う必要があります)。約一年半後を予定しているというリニューアルオープンを楽しみにしています。
滝道にある古書店「ひなたブック」で古本を何冊か購入し、最後にもう一軒と、再びみのお本通り商店街へ。「Beer Shop UMEHARA」にショップカードが置かれていて気になった2階のバー「Bar GAMA」へ行ってみることにしました。
カウンター7席と大きなソファ掛けのテーブル席があるコンパクトなお店で、それゆえに温かな居心地のよさを感じるお店でした。また、いただいた料理がどれも絶品で、「鶏ももスパイス自家製ホワイトソース」は、柔らかなお肉にうまみがしっかり閉じ込められ、酸味の利いた自家製のホワイトソースの味わいと相まって「うまっ!」と声を出さずにはいられません(ホワイトソースがあまりに美味しくて、使い切らずに大事にとっておいて他のおつまみにつけて食べました。行儀が悪くてすみません)。スパイシーな味付けがお酒のおつまみにもぴったりな「具沢山ナチョス」もとても美味しく、ご常連さんにおすすめしてもらった自家製サングリアと合わせていただくと至福の組み合わせになりました。
「GAMA」という屋号は、マスターの苗字「蒲(がま)」から取られたもの。生まれも育ちも箕面だというマスターの蒲 太郎さんは、かつて箕面にあった「Bar O'very」の店長を務めた後、一念発起して東京へ。しかしお仕事は思うようにいかず、数年後、再び箕面に戻ってきたのだとか。「みんなに応援されて行ったんですけど、覚悟が足らなくて挫折してしまって。こっちのみんなに内緒で帰ってこようと思ったんですけど、一週間ぐらいしたら『箕面に太郎がおるらしい』って広まっていて(笑)友達に『飲み行くぞ!そんな挫折なんて、ええネタや』と笑い飛ばしてもらって、むっちゃ恥ずかしかったんですけどね。でも、一緒に飲んでいた先輩が『ヤドカリスタイルで友達がやってる店を貸してもらえるから夜やってみろ』と言ってくれて、そこで2年間やらせてもらって、独立したのがここなんです。それから11年になります」と、このお店ができるまでの経緯を聞かせてくれました。
先ほど「Beer Shop UMEHARA」で伺ったお話と同じく、商店街がもっと活気づいていくことを蒲さんも望んでいるそうです。
「この商店街に新しく飲食店ができることがなかなかないのが寂しいですけど、この界隈でやっているお店はみんな仲がいいです。『次、あそこに行ってみたら?』ってお互いおすすめし合ってます」と、箕面で育ち、ほかの街で仕事をしたりして再び地元に戻ってきた方々がつながりながら、この街に新しい魅力を生み出していってくれるのだろうと思えた夜でした。
とにかく生活のしやすさが容易に想像できる箕面
阪急の箕面駅といえば、石橋阪大前駅で下車し箕面線に乗り換えて3駅。乗り換えの面倒さを考えられる方も多いと聞きますが、石橋阪大前駅ではそれぞれのホームもすぐ近くにあり、そこまでの不便さはありません。また、梅田までも30分圏内の距離にして、自然の豊かさに恵まれて、これほどまでの好条件はなかなかないのでは?と感じます。さて、そんな箕面の家賃相場はというと、LIFULL HOME'Sによれば、1Kだと4.34万円。2DKは9.27万円、2LDKであれば11.45万円。さらに、3LDKは12.78万円です(2025年3月時点)。単身向けよりもファミリータイプが多い箕面。子育てにはもってこいな環境かもしれません。
スズキナオさんによる人気連載が書籍化! 加筆修正を大幅に行ない、「大阪環状線」1周の降りて歩いて飲んでみるが楽しめます。