大阪府の中央に位置する八尾市は、大阪市と奈良県のベッドタウンとして発展した町です。
2000年代以降は大型ショッピングモールができますが、近鉄八尾駅周辺には今も商店街が多く残り、古き良きコミュニティを育む個性豊かなお店が残っています。駅から徒歩約8分、近鉄八尾北商店街にある『自家煎珈琲 香留壇』も地元の人が集う喫茶店です。看板メニューのハンバーガーは、専門店と肩を並べるクオリティとして知られ、ハンバーガー屋さんとして認識しているお客さんもいるほど!
店主の勝浦さんにお店をはじめた経緯や、ソースやマヨネーズまで自家製にこだわるハンバーガーのこと、八尾の好きなところについてお話を伺いました。
オーガニック豆にこだわった香り高い自家焙煎のコーヒー
―『香留壇』さんはお店をはじめて何年目ですか?
勝浦宏祐さん(以下:勝浦さん):「僕らは2代目になるので、トータルすると44年、代替わりをしてからは33年になります」
―先代はお父さまがお店を切り盛りされていたんですか?
勝浦さん:「僕のおじさんがやっていて、一緒にお店をやっている時期や、大阪市内で喫茶の修業をしていた経験があったので、僕が引き継ぐことになりました」
―代替わりを機に、新たにはじめたことは?
勝浦さん:「僕たちの代に替わって最初に変えたのがコーヒーを自家焙煎にしたことです。引き継ぐ前は豆問屋さんから焙煎したものを仕入れていたけれど、好みの焼き具合やブレンドになかなか対応してもらえなくて、それだったら自分たちでやろうということになって。焙煎機を購入し、知り合いに教えてもらいながら独学で腕を磨きました。それ以外はもともと提供していたモーニングや軽食のサンドイッチ、スパゲッティをしばらくやっていましたね。当時は釜揚げのスパゲッティが人気で、お客さんがたくさん来てくれていました」
―お店の看板メニューとしてハンバーガーを出すようになったのは、何かきっかけが?
勝浦さん:「今はマンションになっているのですが、店の前にニチイ(サティ)があって、平日でもお客さんがひっきりなしだったんです。今と比べると3倍くらい違うかな。ニチイが閉店し、駅前にショッピングモールができると、人の流れが変わってね。このままでは立ちいかなくなると思い、ありきたりじゃない看板メニューになるものを探していたときに、たまたま雑誌で見かけたのがグルメバーガーと言われるやつで、これだ!となりました。それが15年くらい前のことです」
―当時、グルメバーガーはまだまだ世間に浸透していないですよね。
勝浦さん:「東京では流行りはじめていたけれど、関西ではまだまだやったね。八尾でグルメバーガーをやるのは勇気がいったけど、おもしろそうのほうが勝って(笑)。やるならとことん本格的にやらなあかんと思って、本を読んで勉強し、研究を重ねて形を変えながら、今のスタイルに落ち着いた感じです」
地元のお店から仕入れる素材と自家製の素材でつくるグルメバーガー
―『香留壇』さんの他店とは異なるハンバーガーの特徴を教えてください。
勝浦さん:「まずはバンズですね。ハンバーガーといえばあっさりしているリーンなバーガーバンズが主流だったんです。独学なので、自分が美味しいと思うイメージでつくり上げていくときに、全体のバランスを考えて甘みのあるバンズにしたいという思いがあって。もともと取引している地元の人気パン店『ニューリーボーン』さんと何度も試行錯誤を重ねて、納得のいくオリジナルバンズが完成しました」
―味見させていただきましたが、パティがとってもジューシーです!
勝浦さん:「お肉も地元にある知り合いの精肉店から仕入れています。A4〜A5ランクの黒毛和牛の雌牛にこだわり、ジューシーさと肉肉しさのあるパティに仕上げています」
―地元のお店さんとのつながりを大切にされているんですね。
勝浦さん:「ハンバーガーに使っている野菜も、できる限り地元の農園さんから無農薬のものを仕入れて使っています。スィートレリッシュ(みじん切りにしたきゅうりのピクルス)も、地元で仕入れたきゅうりを使った自家製です」
―どの素材をとっても、勝浦さんの思いが感じられるものばかりです。
勝浦さん:「地元の食材をできるだけ使うことやストーリー性は意識しながらつくっていったかな。いろんなお店へ食べに行くなかで、長崎県のご当地グルメとして知られる佐世保バーガーは、甘めのマヨネーズを使っていたんです。全体のバランスを考えた時に合うと思い、酸味よりも甘みを感じるマヨネーズにしたくて、アップルビネガーを使って自家製でつくっています。子どもから年配の方まで、どの世代の人にも食べやすい味になっているので、アメリカンスタイルのグルメバーガーとは一味違うかもしれません」
―喫茶店でハンバーガーは珍しいですが、コーヒーとも相性はばっちりなのでありですね!
勝浦さん:「周りの人からはハンバーガー屋さんと認知されているけれど、自分では喫茶というスタイルにこだわってきました。喫茶店は地域の集いの場というイメージがあるので、そういう場所になりたいという思いが、お店をはじめた頃からずっと一番にあります」
―主軸は変えずに、メニューでお店が進化しているんですね。
勝浦さん:「今年から始めたかき氷も、ハンバーガー屋さんになかなか置かれへんけど、喫茶店やったらありだったり、喫茶というスタイルはいろんなメニューに挑戦できるのも楽しいですね。お客さんの大半は年配の方やったけど、ハンバーガーが入り口になってからは若い方も来てくれるようになったのがうれしいです」
自家製りんご酵母でつくるふわふわドーナツ
―もう一つの人気メニュー・ドーナツはどんな素材を使っているんですか?
勝浦さん:「国産小麦、きび砂糖、卵、無調整豆乳、揚げ油はこめ油と、安心して食べられるものを選んでいます。あとイーストは使わず、自家製のりんご酵母でつくっています」
―りんご酵母ってどうやってつくるんですか?
勝浦さん:「瓶の中にりんごと水と砂糖を入れて1週間寝かせて発酵させ、りんごを取り除いた酵母液を全粒粉と混ぜて元種にしています。通常ドーナツの発酵は2時間でできるところ、半日かけて生地を発酵させてつくっているので、ふわふわの食感なんです。子どものおやつにと、ドーナツをめがけて来てくれるお客さんもたくさんいます」
―これはもうパン屋さんのレベルですね! ハンバーガー然り、ここまで素材にこだわるようなったのは何かきっかけが?
勝浦さん:「実は子どもの頃に皮膚の病気になったことがあって、病院へ行っても外科的治療しかされなくて、本当に辛かったんです。それを見かねた両親が奈良にある病院へ連れて行ってくれて、そこで処方されたのが漢方薬でした。飲み始めて1年で完治という経験をしてから、食べるものにも気を使うようになりましたね。出来合いのものじゃなく、できるだけ手づくりのものにしたいという思いは、そういう経験からきていると思います」
―私たちは素材を選べないので、お店の方が丁寧に選ばれた素材でつくれたものを食べられるのは安心します。
勝浦さん:「1軒1軒の取り組みはわずかやけれど、そういうお店がもっと増えたらいいなと思います」
―この先、3代目に次のバトンを渡すご予定はあるんですか?
勝浦さん:「うちは子どもが娘やし、自分の代で終わるのがいいかなって思っています。でも最近になって、うちのハンバーガーの味を残したいという若い子がレシピを教えて欲しいと訪ねてきたんです。本気で言ってくれているのが伝わってきたので、自分の想いを紡いでもらえたらいいなって思っていますね」
―“残していきたい味”と言ってもらえることはすごいことです。
勝浦さん:「やってきたことは間違えていなかったと思えましたね。代替わりではなく、そういうバトンタッチもありかなって。訪ねてきてくれた子も地元の八尾でやりたいって言っているので、続けていける間はお店をやっていきたいし、自分に対してのいい刺激であり、いいプレッシャーにもなっています」
―最後に、八尾の町の好きなところを教えてください。
勝浦さん:「ローカルで泥臭い雰囲気かな。キラキラした都会的な派手さより地味なほうが好きなのは、八尾で生まれ育ったからかもしれません(笑)。おばあちゃんとお孫さんが一緒に店にきてくれたり、お客さんの子どもの成長が見られたり、八尾はアットホーム感があっていいですね。都会やったらスリッパで仕事なんかできへんし、肩肘を張らないでいいからこそ、本気で仕事に取り組めているのかも。個人的には、八尾はもっとローカルでいいかな。緑を増やして、自由にボール遊びや走り回れる公園が増えたらいいですね」
住所:大阪府八尾市北本町2-9-13
電話:072-996-0439
営業時間:11:00~18:00(LO17:30)
定休日:火曜日
肩肘張らないローカルな町・八尾
今回紹介した「自家焙煎珈琲 香留壇」の最寄り駅である近鉄八尾駅は、アクセスの良さが魅力です。布施駅まで約9分、鶴橋駅まで約15分で行くことができ、通勤や通学に便利。
大型商業施設のアリオン八尾をはじめ、スーパー、コンビニなどお買い物スポットが多数あり、駅の高架下を中心に飲食店が充実しているので外食にも困りません。
平均家賃相場は5.64万円と、八尾市内で最も利用者が多い駅であることから、市内では少し家賃が高めですが、大阪市内に比べると安く利便性の良さから人気のエリアです。「自家焙煎珈琲 香留壇」のような地元の人の温かな空気が漂う喫茶店は、近所にあると一息つける心のよりどころになるかもしれません。
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◆本記事の担当者
取材・文:西川有紀 写真:石橋充(BRIO)