第2回「牧落」駅散策 ～ 阪急宝塚線・箕面線をスズキナオが降りて歩いて飲んでみる

一つの沿線を軸に、ライターのスズキナオさんと街をぶらぶらと散策して、気になるお店に立ち寄ってみる連載企画「スズキナオが降りて歩いて飲んでみる」、今回は阪急宝塚線・箕面線 シリーズの2駅目「牧落（まきおち）」駅です。
2024年の暑い夏がようやく終わり、秋の兆しが出てきた10月。土地勘の全くない駅で、どんなことが起こるのか。早速行ってみました。

スズキナオさんによる人気連載が書籍化！ 加筆修正を大幅に行ない、「大阪環状線」１周の降りて歩いて飲んでみるが楽しめます。

箕面市の主要施設が集まる閑静な住宅街

そして、そんな近さであることを忘れてしまうほどに駅前は閑静な住宅街となっており、北摂の山々が近く感じられるせいか、空気もちょっと違うように思えます。箕面大滝で知られる箕面駅へも徒歩で20分ほど（ちなみに一つ手前の桜井駅へも徒歩15分ほど）の距離です。

駅の西側も東側も静かな雰囲気なので「さてどっちへ歩こうか」と、少し迷ったのですが、まずは東側を散策してみることに。駅から出てすぐの道路沿いに「ジビエ料理 マタギ」というお店の看板が見え、近づいてみたところ、中からお店の方が出てきてチラシを渡してくれました。お店の営業開始時間は18時とのこと。まだ時間があったので、お店にはまた後で来ることにして、この辺りのおすすめスポットをお聞きしてみました。

すると、世界的にも評価の高いブリュワリーである「箕面ビール」の直営店「warehouse」が近くにあって、そこでは美味しいビールが飲めるものの、なんと取材日がちょうど定休日だというお返事が。ただ、その近くに美味しいドーナツ屋さんがあるというので、そこへ向かってみることにします。

瀟洒な邸宅の並ぶ道を北東方面へ歩くと、ふいに畑が現れたり、車通りの少ない道で遊んで子どもたちがいたり、のどかな住環境だなと感じました。中央線という名の大通りに出ると箕面市役所の建物が見えました。市役所があることからもわかる通り、牧落は箕面市の中心地でもあるようです。通り沿いには飲食店、チェーン店などもあって、駅前よりもにぎやかな雰囲気でした。

遠方からも客足の絶えないドーナツ店へ

中央線を右に折れ、これも大通りである府道43号線沿いを南へと歩くと、さきほど教わった「DONUTS DEPT（ドーナツデプト）」というお店の前に到着しました。昼下がりという遅めの時間だったのもあってか、すでに売り切れてしまっているメニューばかりでした。かなりの人気店のようです。

豆乳とおからを使って作られているという「プレーンドーナツ」はまだあったので、それを買わせていただき、シンプルながら奥行きのある風味に目を細めていると、店主の中尾紀子さんが声をかけてくれました。取材の主旨を説明し、お店のことや牧落周辺についてお話を伺いたい旨をお伝えすると、「そこら辺は話すと長くなるんですよ（笑）よかったら、店の椅子に座っていってください。あ、そこのファミマ、箕面ビールの品ぞろえがすごくいいんで、買ってきてそれを飲みながらでも」とのこと。なんとありがたい話でしょうか。

早速、教わった通り、お店から歩いて数分の距離にある「ファミリーマート 箕面牧落三丁目店」へ。箕面ビールのお膝元だからか、たしかに品ぞろえがよく、定番ラインナップ以外にも、箕面ビールがイギリスの「DONZOKO BREWING」とコラボレーションして作ったビール「DONMAI」や、「おさるIPA」などが販売されていました。それを購入して「DONUTS DEPT」へ戻ります。

改めて伺うと、店主の中尾さんは14年前に隣の桜井駅でお店を開き、立ち退きのために2年後に今の場所へと店舗を移したのだそうです。それから12年。たまたまいい物件が見つかったからということで縁ができた牧落について、「ほんまいい街！うちみたいな店を受け入れてくれるんですもん（笑）」と中尾さんは言います。店舗がある場所は府道43号線沿いですが、北側には中央線が、南側には国道171号線が通っていて、車で来店するのに都合がいいため、近隣だけでなく、遠方からも買いに来るお客さんが多いそうです。

お客さんと会話するのが何よりの楽しみだという中尾さんはフットワークも軽く、毎年開催される箕面ビールの感謝祭や大阪近辺で開催されるイベントなどにも出店しているとのこと。店内でも不定期で「スナック紀子」という飲みイベントを開催しているそうで、それもきっと楽しそうだなと思いました。美味しい箕面ビールを飲みつつ中尾さんのお話を聞くことができ、とてもいい時間でした。

フレッシュな味わいのジビエ料理を堪能

夕暮れの空の下を歩き、最初に通りかかった「ジビエ料理 マタギ」へ再び向かいます。店主の畠山美代子さんが気さくに迎えてくれました。カウンター席で箕面ビールを飲みつつ味わったのが「鹿のくんせい」。噛めば噛むほど口の中に旨味が広がっていく、最高のおつまみです。箕面の豆腐店から仕入れているというお通しの生湯葉もとても美味しかったです。

畠山さんがこのお店を開いたのは3年前。78歳での新規開店だったそうです。もともと畠山さんは新大阪周辺に3店舗のジビエ料理店を展開し、30年ほど営業をしてきたと言います。年齢もあって、その店を閉めることにし、娘さんの嫁ぎ先であった牧落へと越してきたとのこと。

そうしているうちに今の店舗となっている物件が見つかり、マイペースにやれる範囲で営業をしているそう。産地直送の肉類は、処置の巧みさによってどれも臭みを感じないフレッシュな味わいのままに届くのだといいます。お酒のアテにぴったりな一品料理の他、事前に予約が必要な鍋料理や焼肉も提供されています。

畠山さんに牧落の印象を伺うと、「たくさん人通りがある場所ではないけど、生活するのにはいいですよ。スーパーもあって買い物にも便利ですし」と教えてくれました。このお店も、ふらっと立ち寄るお客さんよりは、予約して来店される方が中心だそうです。

今日はこれから、猪、鹿、鴨の三種を盛り合わせた焼肉の予約が入っているそうで、それをうらやましく思いつつ、「今度また必ず予約して来ます！」と、忙しくなる前に店を出ます。

降り立つ前は、何があるのか想像もつかなかった牧落駅。街に漂うのんびりした空気がすっかり好きになりました。

＜今回訪れたお店＞

DONUTS DEPT
大阪府箕面市牧落1-19-19
10:00〜18:00（売り切れ次第終了）
火曜休
072-720-1072

ジビエ料理 マタギ
大阪府箕面市百楽荘1-1-10
18:00〜22:00
日・月曜休
072-725-5085