大阪市城東区にある蒲生四丁目駅周辺は、住宅街を歩いていると、突如現れるステキなカフェや雑貨屋さんに心が躍るエリアです。通称「がもよん」と呼ばれ、隣接する京橋駅などの繁華街とは異なり、下町風情や古くからの町並みを生かし、古民家を再生したお店と人の暮らしが息づいています。
旅好きな川上誠二さん・若葉さんご夫妻がはじめた『yim coffee & crafts(イム コーヒーアンドクラフツ)』も、古い長屋を改装したカフェと雑貨のお店です。1階は自家焙煎のコーヒーに合うスイーツやサンドイッチが味わえ、2階のショップではアジア各国の美しい手仕事雑貨に出合えます。
川上さんご夫妻にお店をはじめた経緯やアジアの手仕事のこと、蒲生四丁目での暮らしについてお話を伺いました。
縁もゆかりもない蒲生四丁目に旅感覚でピョンとお引越し
―誠二さん、若葉さんはどちらのご出身なんですか?
川上若葉さん(以下:若葉さん):「私は北摂の千里丘で、夫は京都なので、二人とも蒲生四丁目は縁もゆかりも全くないんです」
―なぜ蒲生四丁目にお店を?
川上誠二さん(以下:誠二さん):「お店をはじめるにあたって、蒲生四丁目だけではなく、大阪市内の広い範囲でいろいろ物件を見ていたんです。他には桃谷とか、阿波座とか5ヶ所くらい。その中で決め手になったのは、ここが3階建てだったので、カフェ、物販、焙煎それぞれのスペースが分けられるのがいいなとなって。あとは建物のサイズ感とか、周りの環境の雰囲気も大きかったです」
―探されていたエリアをお聞きすると下町の雰囲気が残る場所がよかったんですね。お店をはじめるのはいつ頃から計画されていたんですか?
誠二さん:「蒲生四丁目に引っ越す前は四条烏丸に住んでいて、僕が京都にあるインバウンド向けのホテルで働いていたのですが、コロナを機に退職することになったんです。いつかお店ができたらという話は以前からしていたので、2020年の春ごろから本格的に話が進みました」
若葉さん:「1年くらいかけてゆっくり物件を探して、契約したのが2021年4月。内装の工事をはじめたのが8月だったので、私たちがのんびりすぎて大家さんも心配されていました(笑)。今、2歳半の息子がいるのですが、10月にオープンした時は出産2ヶ月前だったので、子どもの成長とともにお店も成長している感じです」
―京都の四条烏丸に住んでいて、縁もゆかりもない蒲生四丁目へ引越すのにためらいはなかったですか?
若葉さん:「旅が好きなので、あまり考えずに旅感覚でピョンと来ちゃうタイプで(笑)。新しい土地へ行くのはワクワクしますね。今お話しながら、自分の中では引越しも旅に行く感覚に近いんだなって気づきました!」
―そのフットワークの軽さ、うらやましいです! 考えれば考えるほど動けなくなるし、住めば都ですもんね。これまでどんな国に行かれたことがあるんですか?
若葉さん:「私の実家がタイとラオスの輸入衣料品店をやっていたので、5歳から毎年タイとラオスには里帰りするような感覚で行っていて。大学もタイ語を専攻して、卒業後はタイで2年、ラオスで3年くらい暮らしながら、実家の仕事を手伝っていました」
誠二さん:「僕は大学生の頃からバックパッカーでいろんな国を旅していたのですが、はじめて行った国は偶然にもタイなんです。ワーキングホリデーでニュージーランドに行ったり、前職では出張で中国や台湾に行く機会が多かったので、二人とも海外に行ったり、住んだりしながら生活をしてきました」
若葉さん:「それもあってお店のコンセプトは『旅気分になれる』なんです。カフェに置いてある本のセレクトも自分たちでしているのですが、読むと旅に出たくなるようなものを選んでいます」
二人の好みが詰まった甘さがやさしいベイクドチーズケーキ
―お店の中でそれぞれの担当はあるんですか?
誠二さん:「今は新大阪にあるリニューアルしたばかりのホテルで働いているので、休みの日にお店に立つこともあるのですが、僕がコーヒーの焙煎を担当。妻が接客をしながらコーヒーを淹れたり、スイーツなどをつくってくれています」
若葉さん:「ベイクドチーズケーキのレシピは、夫が考えて私がつくっているので共同制作ですね。二人とも甘いものが苦手なので甘さは控えめで、上にパルメザンチーズをかけています。コーヒーも減農薬やフェアトレードのものをちょっとずつ仕入れて、浅煎り、中浅煎り、深煎り、デカフェなどから選べるようにしています。チーズケーキはどのコーヒーを合わせてもらっても相性がいいのです」
―味見させていただきましたが、甘さ控えめでワインにも合いそうなチーズケーキですね。オリジナルでレシピを考えられるって、誠二さんはどこかで調理経験が?
誠二さん:「料理は素人なんですけど、以前飲食店で働いていたり、ホテルで朝食をつくっていた経験があったので、少しだけできるんです。ランチタイムに提供している季節のスープはホテルで提供していたレシピを参考にアレンジしてつくりました」
―焙煎をどこかで学ばれたんですか?
誠二さん:「コーヒー屋さんで働いた経験はなく、焙煎機を買って見よう見まねではじめました。いろんな豆を仕入れて、火加減や空気の量を調整しながら、少量ずつ焙煎しているので、いつ来てもフレッシュな味わいを楽しんでもらえたと思っています」
―他にはどんなメニューがあるんですか?
若葉さん:「ツナメルトサンドには、自家製のツナを使っています。マグロを買ってきて、オリーブオイルとフレッシュハーブ、お塩を入れてコトコト煮込むので、その時々で少し味が違うかもしれないんですけど、安心して身体に入れてもらえるものをお出しできるよう心がけています」
若葉さんが出合った美しい手仕事への思い
―2階の雑貨や衣料品のセレクトは若葉さんが?
若葉さん:「小さい頃からタイやラオスの雑貨や衣料品は身近な存在だったので、自分が今まで関わってきた中でも、特に好きなものをセレクトしています。3年間住んだラオスにはJICAのボランティアで行っていたのですが、商品開発や販路開拓など、ものづくりのお手伝いをしていたので、そのときのご縁の商品も置いています」
―小さい頃からアジアの雑貨や洋服が好きだったんですか?
若葉さん:「普段着る服が藍染めのものばっかりだったので、私だけ体操服に色移りして水色だったんです。当時はそれがめちゃくちゃイヤで(笑)。成長する中で好きにはなっていったのですが、現地の人と一緒に生活をして、より惹かれていった感じです」
―商品を見ると他では見たことがないものばかりなので、若葉さん独自のルートで仕入れているんですか?
若葉さん:「そうですね。私が現地で買ってきたものが多いのですが、現地に住む友だちに送ってもらったり、友だちが日本に帰って来るときに持ってきてもらったり。日本人の友だちがデザインをしたものを現地の人にオーダーしてつくっているものなども仕入れています」
―メッシュのポーチはどこの国のものなんですか?
若葉さん:「これが日本人の友だちがデザインをして、ラオスのカム族につくってもらっているものです。現地では捕った魚を入れるカゴとして使われているものなのですが、日本で普段づかいしやすいようにポーチやバッグにしています。鮮やかな色は全部草木染めなんです。葛の撚糸(ねんし)を手で編んでいるので繊細に見えますが、丈夫なのでたくさん荷物を入れられます」
―下の段に置いてある動物や人が鮮やかに刺繍されているポーチもステキです。
若葉さん:「ラオスのモン族の刺繍で、これは私が10代の頃に出合ったものです。最近は首都ビエンチャンの市場では、ミシン刺繍のものが売られているのを見かけます。後継者が少なくなっているのですが、せっかくこんなに綺麗なものがあるので、微力ながらも続けてもらえたらという思いで置かせてもらっています」
―タオルはやさしい肌ざわりですね。
若葉さん:「ラオスのタイ・ルー族の友だちが在来種のアジア綿という種類を種から育てて収穫し、草木染めをして糸を紡いで手織りでつくられているものです。洗うとモチモチとしたやわらかい質感になるので吸収力もよく、長く使っていただけます。日本人のアイデアを加えたキッチンでも使いやすいループ付きのものもあり、ギフトにもおすすめです」
―雑貨一つひとつに、若葉さんの人生や思いが詰まっていますね。
若葉さん:「置いているものはすべてつくり手さんの顔が見えているものばかりです。現地で出会ったものもそうなのですが、お客さんとして来てくださって仲良くなった森一美さんという写真家さんのフォトカードも置かせてもらっています。お店をはじめたことで、こうした出会いが広がっていくのもうれしいんです」
蒲生四丁目は子育てにやさしい町
―蒲生四丁目で暮らしてみて、住み心地はどうですか?
若葉さん:「住みはじめて2年くらいですけど、下町の感じが残っていて、みなさん温かいです。私たちみたいなよそ者がいきなりお店を開けても温かく迎え入れてくれています。子どもと一緒に道を歩いていても微笑みかけてくれたり、子どもが叫んでいるのも普通に受け入れてくれるのでホッとします」
誠二さん:「城東区は子どもが多いみたいで、子育て環境が整っている印象です。病院も多くて、小児科、耳鼻科、歯科などもすぐ近くにあり、私たちは車を持っていないので自転車でどこでも行けるのはすごく助かります。電車もあって、バスもあって、自転車で梅田まで行けるので、生活がすごく便利ですね」
―お客さんはどんな方が来られますか?
若葉さん:「近所のリピーターの方が半分以上ですね。全く知らない土地で、知り合いが増えていくのはお店をやっていてうれしいことの一つです。子ども用のコップとか椅子は置いていないのですが、お子さん連れで来てくださる方も多くて、子どもが泣いたりしてもやさしく受け入れてくれるお客さまばかりなのがありがたいです」
―今後予定している新しい試みは?
若葉さん:「3階は今は焙煎所なんですけど、ネイリストをしている保育園のママ友が独立をすることになったので、3階でこの9月からネイルサロンをしてもらうことになったんです。1階に焙煎機をおろしてくるのでちょっと印象が変わるかもしれません」
―それは楽しみですね! 3階でネイルをした後、1階でお茶をして帰れるって素敵な1日ですよね。
若葉さん:「私も楽しみです。子どもがつながってできたご縁なので、それもうれしいなって。あとは、蒲生四丁目だけでなく、もっといろんなイベントに足を延ばして出店したいと思っています」
―最後に、次の旅のご予定は?
若葉さん:「予定ではなく、あくまで目標なんですけど(笑)。来年の1・2月に休みがとれるので、私と息子が先にチェンマイへ行って、1週間お休みがとれる夫を迎え入れようと計画しています。チェンマイは学生の頃に住んでいて、知り合いもいるんです。子どもが小さいので食事のことなど心配はありますが、行ったらどうにかなるかなって!」
◆今回取材したお店
「yim coffee & crafts」
住所:大阪府大阪市城東区蒲生3丁目14-16
電話:なし
営業時間:11:30~17:00(LO16:00)
定休日:日・月曜日(不定休あり)
下町風情の残る人が温かい街、蒲生四丁目
Osaka Metro蒲生四丁目駅は、長堀鶴見緑地線と今里筋線の2路線が乗り入れる駅です。蒲生四丁目駅がある大阪市城東区が、大阪市では西区の次に人口密度が高いエリアなのは、交通アクセスのよさ、治安、自然の豊富さ、暮らしやすさがあることを物語っています。周辺に多く残る古民家を飲食店に再生することで、街の活性化を図り、下町風情を残しながらも、新たな個性派店が続々と誕生しているので、買い物や外食が楽しいエリアです。
平均家賃相場は5.45万円と、大阪の中心部に近いエリアの中でも比較的物価が安く人気。今回紹介した「yim coffee & crafts」のような、通いたくなるお店を見つけることで、日々の暮らしがより豊かになりそうです。
蒲生四丁目の賃貸物件を探す
◆本記事の担当者
取材・文:西川有紀 写真:三宅愛子