南海高野線・北野田駅からバスに揺られ約15分。住宅街が並ぶ大通り沿いに、異彩を放ったコンクリートの建物が突如現れます。それこそが2024年で創業44年になるという老舗喫茶『City Light』。ただの喫茶店と侮るなかれ、こだわりの音響システムで空間全体に心地よく響くジャズ、ビーフシチューやポークカツレツなど洋食店に引けを取らないラインナップ、センスの良さがうかがえる調度品に一度行ったらきっとまた訪れたくなるのです。
そんな隠れた名店の成り立ちとこれまでについて、店主にお話をお伺いしました。
バンドデビューを経て喫茶店開業。店主は名アーティスト
―1980年に創業とのことですが、この場所でオープンするに至った経緯を教えてください。
店主:「タイガースとかスパイダースとか沢田研二とか、いわゆるグループ・サウンズが流行っていた60年代後半から70年代に、僕は大阪芸術大学に通っていて学内の5人でバンドを組んでいました。そのバンドでスカウトされて東京のプロダクションに入って、一応ドーナツ盤(7インチレコード)も3〜4枚出したんやけど、3年契約でそのまま続けてもヒットしなかったから大阪に帰ってきたんです。その後4〜5年の間、親戚の呉服屋さんで働いていました。その仕事をしている時に反物を持って外回りをするなかで、レストランも喫茶店もなくて、競合がいないこの辺りで感じのいい喫茶レストランができたらいいんちゃうかなと思ったのがきっかけです」
―今みたいに住宅街や工場がある風景ではなかったんですね。それは1980年頃の話ですか?
店主:「1978年くらいかな。父親がここの土地を買ったということもあって、親は呉服屋をするものと思っていたので、まず親を説得して、そこから1年ほど心斎橋の『和蘭図(らんず)』という喫茶専門店で修業しました。もう今はないけれど、心斎橋の長堀渡ってすぐのところにあったんです。今ある喫茶のメニューは全部その店にあったものを僕がアレンジして出しています」
―喫茶店のメニューだけでなく、レストランに寄った本格的なメニューも豊富ですよね。
店主:「オープン当初はまだ喫茶が主で、カレーやピラフ、スパゲッティくらいしかなかったんやけど、この近くに木材団地っていう材木屋さんが集まっている団地があって、そこで働いている人が昼にきてくれたりしていて、これでは(メニューが)足らんと思ってね。たまたま知り合いに腕のいいコックさんがいて、2〜3年目くらいにその人に今あるビーフシチューとかのメニューを全部考えてもらいました」
―ビーフシチュー、すっごく美味しそうです。
店主:「普通シチューといえば人参とじゃがいもと肉ですけど、うちのは全然違いますからね。(スマートフォンで仕込み中の写真を見せてくれる)これこれ」
―かなり大きい肉の塊ですね。
店主:「これは日本産のええ肉です。少なくともビーフシチューだけは国産のええお肉を使おうと思って。百貨店に卸している肉屋さんがうちのお客さんにいるからその人に頼んでいます。鍋で野菜と肉を一緒に煮込んで、最後オーブン入れてさらに煮込むんです。お肉を取り出して残ったスープをデミソースにしています」
―料理はどちらも作ってらっしゃる?
店主:「料理は奥さん担当で、僕は接客とミュージック担当(笑)」
―ちなみに、バンドでは何のパートを担当されていたんですか?
店主:「僕はベースとボーカル。これはCDに焼き直したやつやけど、宮田自転車って自転車屋のコマーシャルソングになったのがこの『すばらしき世界』って曲。ちょっとかけてみようか」
―これマスターの声ですか? 山下達郎さんみたいにいいお声ですね。
店主:「店始めてからのことになるんだけど、ある夜、ラジオ番組を聴いていたら山下達郎さんが『若い頃フィ・フィ・ザ・フリー好きでおっかけしてました』って話してくれていて、東京では『ライブハウス新宿ACB HALL 』や『ラ・セーヌ』に出てましたから、その時にライブに来てくれていたんでしょうね。村井邦彦さんという『翼をください』などを作曲した方がいるんですが、その方がアルファレコードっていう音楽レーベルを立ち上げたときの第一弾のアーティストが僕らなんです。あんまりこの店では人に言ってないんやけどね」
―「アルファレコード」といえば、ユーミンやYMOなどのアーティストを輩出した名レーベルですよね。まさかこんなスターにお会いできるなんて光栄です。看板にJAZZって書いている理由をお伺いしてもいいですか?
店主:「なんせ音楽聴きながらできる仕事がしたかった。喫茶店するならロックよりジャズやし、当時ジャズも好きになってきてたから。なので看板にもJAZZとつけました」
創業時から変わらない心地の良さとセンスの理由
―外観もですし、什器や内装もセンスがどれも本当に素敵です。
店主:「これはその当時業界では有名だった吉尾浩次さんというインテリアデザイナーの方に設計からお願いしました。『インテリアデザインオフィス ノブ』(吉尾さんのデザインオフィス)に来ていた子がロゴをデザインしてくれて。City Lightという店名もその子が『僕、実は喫茶店するならCity Lightいう店にしたいなと思ってて』と言っていたのを、それ僕にくださいってもらったんです(笑)。うちは20時まで営業してるんやけど、この辺りは幹線から一つ離れてるのもあって電気消したら真っ暗で。だからCity Lightってこういうことかなって」
―まさに街の灯りですね。看板もロードサイド感が出ていて雰囲気があるなと思います。
店主:「昔は店の前の道が国道309号線だったんです。PLに遊園地や大きいプールがあって、週末は行きも帰りもすごい渋滞でね。今は1本向こうの道に移ったので静かで過ごしやすくなりましたけど、オープン当初はすごかったですよ」
―このコンクリート打ちっぱなしの外観は今でももちろんですが、当時はもっとモダンなイメージで目立ったのではないですか?
店主:「そうかもしれない。今でこそ安藤忠雄さんとか有名やけど、当時はまだ出てなかったからね。吉尾さんに『何か注文ないですか?』って聞かれたときに家に置いていたALTECのスピーカーに合う店にしてほしいって言いました。お店を始める1〜2年前に買って、ずっと8畳の狭いところに置いてたんです。近くで見るとすごく大きいんですよ、それを家に測りにきてもらって、なんせこのスピーカーに合う店にしてくれ、あとはなにも言わんからと。それと、お店って普通10〜20年で壁紙や内装を変えたりするけれど、できるだけランニングコストというか途中の経費がかからないようにしてほしいって言って、あとは全部お任せしてこんな感じになりました」
―光が明るく差し込む窓の感じもいいですよね。天井も高くて開放的です。
店主:「外からみたら狭く見えるのか、初めてきたお客さんに「ここ広いね」って言ってもらうことも多いです」
―ご一緒に働かれているのは、娘さんでしょうか?
奥さま:「もう8〜9年はバイトにきてくれているのでよく親子?って聞かれるんですが違うんです。2人ともこの近くでね。1人の子は結婚する前にこの近所に住んでて、子どもができて落ち着いたからまたバイトに戻ってきてくれて。みんなわかってくれてるからすごい楽です」
―すごく働きやすいということですね。この辺りの暮らしはいかがですか?
スタッフ:「コンビニも近くにあるし、駅周辺はいろいろ揃っていますし車があれば便利ですね。」
―お客さんはどのような方が多いでしょうか?
店主:「この辺で働いている方が多いです。最近はちらほらと若い子やカップルさんも来てくれるようになりました。スパゲティグラタン・ビーフカツサンド・カツカレー・ドリアなんかをよく頼んでいただくんですが、うちはビーフシチューが美味しいので、ぜひ一度食べてみてほしいですね」
◆今回取材したお店
「City Light」
住所:大阪府堺市美原区平尾2428-1
電話:072-362-1980
営業時間:9:00-20:00
定休日:火曜日
駅周辺の施設も充実。自然と生活が共存する町・北野田
今回ご紹介した「City Light」は堺市の富田林市寄りに位置します。最寄り駅は南海電鉄高野線北野田駅。急行列車停車駅で、難波までのアクセスは約20分。スーパーやドラッグストア、100均、病院、文化施設などが駅周辺に揃っているため生活面で困ることはありません。
家賃相場は5.46万円。車を少し走らせれば自然公園や大型モール、業務用スーパーもあるため、都会の喧騒から少し離れて自然豊かな土地で暮らしたいといったファミリー層にもおすすめです。休日に「City Light」で心地よい音楽と開放的な空間に身を委ね、ゆっくり過ごすという選択肢が北野田では手に入りそうです。