大阪・平野区に『パンとお話 Appleの発音』という謎めきつつ意味深、そして、チャーミングな店名のお店があります。店主の青木俊介さんと作家のつき山いくよさん夫妻は、近隣にあるお店とともに楽しい活動を展開されています。
15年の歴史を積み重ねてきた『パンとお話 Appleの発音』のお店のことを振り返りつつ、街のこと、活動についてお聞きしました。
『パンとお話 Appleの発音』パンだけではない平野での活動
―出張販売から数えて営業は15年になるのですね。
つき山いくよさん(以下:つき山さん):「早かったような気もしますけど、やっぱり最初の頃のことを考えたら、やっぱ結構長い時間だったなと思います」
―15年間ずっと平野にいると思われていましたか?
青木俊介さん(以下:青木さん):「全然思っていませんでした。以前SNSに書いたんですけど、覚悟というか続けていくかどうかも最初の頃は決めてなかったですね。出張販売でやっている頃は、駄目だったらやめようみたいな気持ちもありました」
―その気持ちが徐々に続けていくうちに変化してきたのですね?
青木さん:「平野の方に助けてもらいながらお店がしっかりと成り立ってきたときに、続けられたらいいなっていう気持ちにちょっとずつなっていきました」
つき山さん:「お店をされてる方はみんな優しいから、いろんな業者さんを紹介してくれて」
―そもそもお店の場所が平野になったのには理由があったんでしょうか?
つき山さん:「本当にたまたまなんです。知り合いの物件で作業場として探していたので、立地というよりも広くて家賃的に手頃な物件ということで」
青木さん:「一度、移転しようとしたこともあります。探したんですが、1周してここに戻ってきて。広さがもう少しあったらいいなと思ったり、人通りももう少し多いところなどを他の場所を見て回ったんですが、どこも家賃がめちゃくちゃ高いし、あれこれ考えたら急に心細くなってきて、いろんな方に相談してみたところ、ここのポテンシャルを最大限引き出せるところまでやってみよう、ということになりました。」
―なるほど。でもAppleの発音は、単にパンが商品ということではなく、そのパンにまつわるお話も一緒になっているわけですよね。だから、ネーミングもチャーミングで「御守り」や「青い2度目の満月」や「箱レター」など中身がすぐにはわからないものになっていて、たまたまコロナ禍と重なって通販で販売されていたかと思うのですが、そのいろいろなことをやるバイタリティと言いますか、エネルギーがすごいなと思います。短編ではありますが、お話とパンをセットにして送るサービスは、楽しい反面大変そうだなと。
青木さん:「以前は自分が書きたいときにお話を考えて、という感じだったので、自分に甘えてしまう部分も結構ありました。今回、2年間、予約受付をして発送というのを続けてみて、締め切りがきちんとある、その環境の中で見えたことがたくさんあったと思います。それに、編集をしてくださっている山村光春さんに“お話”ができたら都度送るのですが、その度に意見をくださるんです。この歳になると勉強するってなかなかないんですが、そのやりとりがとても勉強になりました。自分だけでやっていたら定期的に完成させることが難しかったかもしれませんが、キャッチボールをしながらだったので、自分にできることが増えている実感もあり楽しかったです」
つき山さん:「『パンとお話ってなんですか?』ってもう15年言われ続けて、この(パンと印刷物)セットを送ることを2年やってみて、その集積として、「パンのお話の本の展覧会」でやっと一致したってなったんですよ。(それぞれのパンに物語があるという)説明じゃなく、送られてきたパンとお話を見て、食べてもらって、展覧会場ではそのパンを焼いてる匂いとか音も含めてできたことで、やっと屋号と中身が一致したなと。そして、そのお話をまたここや別の場所で誰かが朗読してくれたり。今回のプロジェクトは、1人じゃできないっていうか、他者が関わってくれて、こうやったらもっとおもしろいかなって考えたりする方が豊かというか。あと、2023年末からは毎月ではなくなったのですが、何かパワーアップしていくというふうにみんなで考えたときに、どうなったらパワーアップした感じがするかって意見を出し合いました。それだったらちょっとお話を長くするとか、テーマを毎回一つにしぼって、そのテーマに関連するパンをいれる。そんなことを考えて、今回から形が変わっています」
青木さん:「長くなったことで書くのは大変ですけど、なんか伝えたいことがちゃんと伝えられるようになりました」
平野での店のつながりと版画展での企画
―それを作ることで、お店のことやパンとお話のことがより明確になったわけですね。ちなみに、最近では近隣のお店や施設との交流が盛んになっている印象もあります。
つき山さん:「2023年の冬に、Appleの発音でギャラリーあしたの箱さんの企画の『版画展 かめばかむほど』という展覧会を行ったんですが、その時、喫茶店の『ミナヅキ珈琲』、そして、『アトリエひこ』にもお声がけして、関連展示をすることになりました。といっても計画的にやったというよりも、つながりの中から流れでやることになったというか、特に、『ミナヅキ珈琲』さんとは店主同士で普段から遊びに行ったり、飲みに行ったりしている関係があって。
元々ミナヅキさんはお店ができる前から訪ねてきてくださっていました。だから、自然とつながったという感じです。『アトリエひこ』さんは、知的障害のある人たちが作品作りなどをしているアトリエで、普段開放されている場所ではないのですが、版画の展示をAppleの発音でやろう、ということを話した時に、ひこさんにもプレス機があるから、『うちでも何かできたら』って言ってくださって、それで話がわーっと進んで。その後、ミナヅキさんにも声をかけたという流れです。でも、昔から前を通るたびにいつか中に入ってみたいと漠然と思っていたので、こういった機会に皆さんに知ってもらえてよかったなと思います」
―来させていただきましたが、良い展示でした。
つき山さん:「定休日も違いますし、みんなが無理をせずできる範囲でやれたのがよかったと思います。お客さんがこの道を歩いて楽しんでもらうぐらいで。特別にすごい企画をして、みんなをつなげようとかではなく、自然発生的な感じで、出会うきっかけになればと」
―おっしゃる通り道中何か探しつつ、そこまで歩くということをすると気になるお店もありました。Appleの発音だけでは見つけられなかった平野のスポットが見つけられました。実際お店も増えてるようですね。
つき山さん:「増えていますよ。『多福』さんや『あひる珈琲』さん、遠方から女子たちが『CALM GARDEN』に来ているみたいですし」
―そうですか、広がりができてきているんですね。では最後に2024年の予定を教えてください。
つき山さん:「引き続きパンとお話の通販はやるのですが、4月5日から予定している展示もあって、イベントのないときは前日までの予約で貸し切りのお茶タイムができます。この場所ならではのおもしろいことを考えて、計画できたらと思っています」
青木さん:「パン作りって、なんかちょっと理科の実験のようでワクワクするところがあったんです。最近それを思い出す出来事があって、だから2024年は、もう一度、いろんな配合などを試したり、実験をまたやってみたいと考えています」
「パンとお話 Appleの発音」
大阪市平野区流町1-9-14
06-6701-7169
月・日曜休
8:30-18:00(売り切れ次第終了)
お庭の見えるイートインスペースは前日までの予約制で貸し切りのお茶の時間が可能です。(3名まで)イベントやワークショップなどは応相談
「パンとお話 Appleの発音」がある平野駅
今回お話を伺った「パンとお話 Appleの発音」は、Osaka Metro平野駅から徒歩約5分にあるパン屋さん。周辺は昔ながらの住宅地が広がっています。
平野と一口に言っても、東は八尾空港の近くまで広がり、北は生野区や東大阪市とも隣接し、雰囲気が異なります。そして、実は大阪市内で最も人口の多い区で面積は第3位となっています。居住地の中に、神社・仏閣があり昔から居住されている方が多いことでも知られています。
公共施設の中でも、男女共同参画社会をめざす『クレオ大阪南(男女共同参画センター南部館)』、出会う・学ぶ・創る、をテーマにした手作り工芸の『大阪市立クラフトパーク』などが特徴的です。
◆本記事の担当者
取材・文:松村貴樹