京都西陣は円町。京都二大獄舎の一角の地を担ったのは昔のことで、現在は歴史を感じる建物が立ち並ぶとても閑静な住宅地です。
そんな円町に住む人々の生活に欠かせないのが銭湯。何軒もの銭湯が密集する銭湯激戦区である同エリアにおいて、2019年に「ゆとなみ社」が継業し、新しい銭湯カルチャーを発信しているのが「源湯」です。
映画「四畳半タイムマシンブルース」でモデルとされたことで話題を集めましたが、それだけでなく、地域に住むお年寄り、学生、子どもからもかけがえのない場所として愛されているといいます。
「源湯」の魅力について2023年6月から店長を務める中村勇貴さんに取材を敢行!と思いきや、朝から設備トラブルがあったようで……?
「ゆとなみ社」による4軒目の継業銭湯
―朝から設備トラブルが発生されたとのことで、お忙しいところすみません!どんなトラブルだったんですか?
中村さん:「突然、給水センサーの調子が悪くなって給水が止まらなくなってしまいました。その結果、釜の火が消えてしまうというトラブルです」
―このまま取材させていただいて大丈夫ですか?
中村さん:「大丈夫です!ひとまずセンサーを叩いて対処しました(笑)。ゲームのカセットに息をかけるみたいなアナログな対処法ですが、まだはっきりと原因がわかっているわけではないので毎度こうして乗り切っています(笑)。ごくたまにあることなんですよ」
―よかったです(笑)。改めて、「源湯」さんは「銭湯を日本から消さない」をモットーとするゆとなみ社さんが2019年に継業した銭湯ですが、どんな経緯があってのことだったのですか?
中村さん:「継業する前は家族経営の銭湯だったんですけど、色々と事情があって、廃業時にもともと親交のあったうちの代表・湊に声がかかったようです」
―なるほど!建物自体にもとても歴史を感じます。
入社と同時に大抜擢!?中村店長の多忙な日々
中村さん:「1928年頃の創業なのでもうすぐ100年ですね。でも僕自身がゆとなみ社に所属してここの店長をし始めたのは半年前のことなんですよ」
―そうなんですか!
中村さん:「湊が『サウナの梅湯』を継業して1年経った頃くらいから手伝ってはいたんですけどね」
―もともとお知り合いだったということですか?
中村さん:「いえ。僕が京都のゲストハウスでマネージャーをやっていたときに、同僚が『サウナの梅湯』を手伝っていたんです。そのスタッフから『風呂屋の暖簾が余っているけどいるか?』と聞かれて、もらいに行ったときに湊と知り合いました」
―なかなかイレギュラーな出会いだったんですね(笑)。
中村さん:「『掃除10回手伝ったらあげる』と。ネットで買った方が安いんじゃないかと思いながらも手伝いましたよ(笑)」
―そこからゆとなみ社さんに入社することになったのはどうしてだったんですか?
中村さん:「前職を辞めたタイミングで湊が声をかけてくれたんです。一緒に食事に行ったときに店舗のマネージャーをやってほしいと言われました。辞めて2日後にはここにいるみたいなスピード感でした。いきなり店長ですし(笑)」
―では銭湯数が減っている現状に危機感を覚えて、のような理由からではないと。
中村さん:「そうですね。多分、遊び感覚で友だちと自転車で銭湯に行っていた最後の世代だと思うんですよ。小学生のときは地元の滋賀県でやっていましたし、京都に越してきてバイクに乗るようになってからはツーリングのあとに近くの銭湯に入っていました。ゆとなみ社に入ったのは縁やタイミングによるところが大きいと思いますが、僕にとって銭湯は日常に普通にあるものという感覚でずっと付き合ってきた場所です」
―実際に店長をやられてどうですか?
中村さん:「やっぱり大変ですね。今日みたいにイレギュラーなことが起きて、その対応で手いっぱいになってしまうこともあります。また、もともと住居として使われていたスペースを休憩所に使っているので、管理する面積がとても広いんです。掃除をしたり、レイアウトを考えたりと、やることがたくさんあります」
お風呂と同じくらい温かい。地域のお客さんのこと
―休憩所は居住スペースの名残なんですね!休日に友人の実家で過ごしているような落ち着いた気持ちになります。
中村さん:「置いてある炬燵や漫画はお客さんから貰ったものです。僕も読んでほしい漫画を家から持ってきました」
―お客さんとコミュニケーションが取れるような仕掛けがいくつもあるなとお見受けします。
中村さん:「相互コミュニケーションなんて大袈裟なものではありませんが、こちらからも声を返せるようにしています。たとえば梅湯のお風呂場に『梅湯新聞』があるようにうちにも『源湯ジャーナル』がありますが、休憩所で自由に投函してもらっているお悩み相談に毎月2通答えるかたちで作っています。お風呂場で読んでもらえますし、継業当時から原本も保管しているので過去のものを見返すこともできます」
―お客さんはどんな方が多いですか?
中村さん:「夕方くらいまでは毎日来る近所のおじいちゃん、おばあちゃん、それ以降はこの辺りの学生さんという感じです。基本的には近所の方ですね。特に昼間に来てくれるおばあちゃんたちとは話しているだけでこっちが元気になります」
―地元の銭湯と言われて最初にイメージするような雰囲気でとても素敵です。どんな会話をされるんですか?
中村さん:「『最近寒いね』とか、あと皆さん地元の人なので『最近あの人来てへんね』とか、そういった何ともない会話です。たまにジュースをもらったりもしますけど(笑)。気持ちの面だけでなく、運営の部分でもうちは本当にお客さん込みで成り立っているなと思います」
―どういった点でそう思われるのですか?
中村さん:「客数からするともうひとりスタッフを雇って番台ふたり体制にしてもいいくらいなのですが、いまはひとり体制でやっています。それは常連さんが進んで脱衣所の掃除をしてくれたり、協力してくれるからです。マナーが悪くて注意したこともほとんどありません」
―成熟したお客さんが多いのですね。一方で、入ってすぐのところに手作りの小物があったり、休憩室の自由帳に絵が描いてあったり、小さい子どもの来店も多いような印象を受けました。
中村さん:「実際多いですね。家族と連れ立ってというのはもちろんですが、時々、小学生3人とかで来て、お風呂に入って、休憩室でダラダラ過ごして帰っていきます。そういうのはもっとやってほしいです(笑)」
―逆に観光の方は少ないんですか?
中村さん:「たくさん来られるわけではないです。でもうちが『四畳半タイムマシンブルース』という映画に出てくる“銭湯オアシス”のモデルになったこともあって、映画の聖地巡礼で来られる方はいまでもいらっしゃいます」
―ここまでのお話でこの辺りに住まわれている方々の雰囲気が透けてわかるような気がしました。
中村さん:「年配の方が多く住まわれているのですが、皆さん本当に優しいです。町としても、京都のほかのエリアと比べてゆっくりとした時間が流れていると思います。うちの周りは住宅地ですが、古い建物が残っていてとても気に入っています」
―道中もとても静かでしたし、西大路通沿いに出れば飲食店などもあって暮らしやすそうですね。ゆとなみ社さん系列の銭湯の中で言えば、「源湯」さんはどんな特徴がありますか?
中村さん:「いくつかあって、まず雰囲気的なところで言えばやっぱりアットホームなところです。それは地元の方の生活に入り込めているところが大きいと思います。銭湯はあまり行かないけど源湯だけには行くとか、『銭湯が好き』じゃなくて『源湯が好き』と言ってくれる常連さんもいますしね」
―「源湯」さん側にもお客さん側にも邪気がないというか、肩の力が抜けていますよね。それでいて当たり前のようにお客さんが楽しめる仕掛けを考えられたり、色んな方が利用される場として気を配れたり、とても素敵です。
中村さん:「常連さんがここでプロポーズしたこともありますよ(笑)。成功しましたし、なかなかほかの銭湯で見られる光景ではないですよね」
―聞いたことありません(笑)!愛されていることがよくわかるエピソードですね。
「源湯派」を増やせ!銭湯激戦区での次なる一手
中村さん:「あと特徴的なのは、2階に4軒のテナントが入ってくれているところです。ご近所のカレー屋『アムリタ』さんがウェブ関係の仕事もしているので事務所として借りてくれていて、フリーマーケットのような雑多なお店『あきよし堂』さん、ギャラリーの『さんずい』さん、つい最近だと写真をされている方が『ときいろ写真館』という屋号でテナントに入居してくださりました。2階への階段は少し傾いていて時空が歪んでいますが(笑)」
―ほんとですね(笑)。建物の歴史を感じます。お風呂場についてはどうですか?
中村さん:「僕が気に入っているところでもあるんですけど、空間の使い方が贅沢なんです。カランの数に対してすごく広めにスペースが取られていて、ゆったりと使うことができます。それとこの銭湯は昔から温度が高めなのが伝統らしいので、変えずにお湯は熱く設定しています」
―サウナ設備はちょうど故障中なのですか?
中村さん:「いえ、僕らが継業するときからもともと壊れていて、建物自体の老朽化が進んでいるのでサウナを直そうとすると建物からすべて直さないといけません。だから直さないという判断をしているのですが、逆にサウナがないのが良いって言ってくれるお客さんもいて驚いています」
―それはどうしてでしょう?
中村さん:「サウナ目当てのお客さんが来ないからだそうです。僕自身はそういうお客さんがいても良いと思っているのですが、とにかく使えないからこその需要があるということに気づきました。そんなことをネタにして、うちでオリジナルのスウェットも作ってみたり(笑)。基本的にグッズは『梅湯』のスタッフや知り合いのデザイナーにお願いしたりして、うちのオリジナルで作っています」
―素晴らしい空間でとても良いお話を伺えました。最後に今後の展望を教えてください!
中村さん:「もっと学生が来てくれる銭湯にしたいです。実はこの辺りは銭湯激戦区で、山城温泉さん、松葉湯さん、衣笠温泉さんなど、うち以外にも良い銭湯があります。多分学生のなかで『○○派』というのがあるので、なるべく『源湯派』を増やしていきたいですね。月曜日の来店が比較的少ないので、みんな授業が終わったら来てね(笑)。もちろん毎日じゃなくても、疲れたときとかに帰って来てくれるような銭湯にしたいです」
◆今回取材した施設
「源湯」
住所:京都府京都市上京区北町580-6
電話:080-3832-4126
営業時間:14:00~25:00
定休日:火曜
HP:https://yutonamisha.com(ゆとなみ社)
Instagram:@minamoto_yu
X:@minamotoyu_kt
歴史と学生の熱気を感じられる閑静な住宅街・円町
「源湯」はJR山陰本線・円町駅と嵐電北野線・北野白梅町駅から共に徒歩10分程度の場所に立地します。中村さんが住民の年齢層は比較的高めだということを教えてくれましたが、一方で近隣に立命館大学と花園大学があるので若者も多い町と言えそうです。
円町駅の平均家賃は5.15万円とリーズナブル。近隣には「天神さん」でお馴染みの北野天満宮や大将軍神社など、歴史的な寺院や史跡を身近に感じることができます。昼間から史跡巡りをしてから「源湯」でひとっ風呂なんて最高ではないでしょうか。25時まで営業しているので忙しい方にも嬉しいですね。
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取材・文:石川宝 写真:和田悠馬