1982年11月、中之島公園内に開館した素焼きタイルが美しい「大阪市立東洋陶磁美術館」。「大阪市中央公会堂」や「中之島図書館」など、大阪を代表するレトロ建築と調和した落ち着いた美術館は、「安宅コレクション」の韓国・中国陶磁と「李秉昌(イ・ビョンチャン)コレクション」の韓国陶磁を中心に、世界でも類を見ない質と量の館蔵品を誇っています。
約2年間の改修工事を経て、2024年4月にリニューアルし、高さ約7メートルのガラスに囲まれたエントランスが設置されたほか、新たに展示環境も整い、これまで以上に東洋陶磁作品の魅力を堪能できるようになりました。リニューアルをしてどのような進化を遂げたのか、美術館の原田立子さんに話を聞きました。
国宝を360度堪能! 作品の魅力を伝える最新の展示環境
―『東洋陶磁美術館』はどのように開館したのですか。
原田立子さん(以下、原田さん):「メインになっている『安宅コレクション』は、かつて日本の十大商社の一角をしめていた安宅産業が、会社の事業の一環として収集した約1,000点もの東洋陶磁のコレクションです。世界的にも評価が高く、国宝2件と重要文化財13件が含まれます。安宅産業の経営破綻によってコレクション散逸の危機を迎えますが、住友グループが買い取り、大阪市に寄贈されたことを記念して1982年11月に『大阪市立東洋陶磁美術館』は開館しました。その他、『李秉昌(イ・ビョンチャン)コレクション』の韓国陶磁、濱田庄司作品などの寄贈や、日本陶磁の収集など、東洋陶磁のコレクションとして世界第一級の質と量を誇っています」
―リニューアル前と美術館の印象は変わりましたか?
原田さん:「印象は随分変わりました。以前の建物はガラスのエントランス部分がなかったので、美術館とわかっていただけないこともあって。陶磁器好きなコアな方以外は入りにくい雰囲気もあったのですが、美術館の“顔”ともいえるエントランスホールが新たに増築されたことで親しみやすくなり、若い層のお客さまも増えました」
―今日もガラスのエントランスが目に入って、到着したという気持ちになりました。エントランス以外で、リニューアルして変わったことは?
原田さん:「一つは最新のLED照明を導入したことです。陶磁器の鑑賞には、作品本来の色合いや質感を引き出す光が必要不可欠なのですが、当館では、展示ケース内のLED照明にもこだわり、自然の光にもっとも近い紫励起LED照明を導入しています」
―照明で作品の色や質感の伝わり方が変わると言いますが、やわらかい光の印象を受けました。展示環境で変わったことはほかにもありますか?
原田さん:「国宝の一つ《油滴天目茶碗》の形などを再現した、超高精度の3Dレプリカによる茶碗型コントローラーを使って、3DCG化した国宝を自在に動かせる体験型デジタルコンテンツを新たに導入したことです。レプリカは本物よりも少し重くなってはいるのですが、質感なども本物そっくりに表現されていますし、展示作品では見ることのできない畳付きも鑑賞いただけます」
―本物さながらのレプリカに触れるだけでも貴重な体験ですが、画面と連動して360度いろんな角度から国宝を鑑賞できるのは、知識や情報だけでは得ることのできない感動がありますね。
原田さん:「国宝に実際に触れることはできませんが、茶碗のリアルなつくりや釉薬や文様の細部、光の当たり具合で変化する色彩などを感じていただけるので皆さんに喜んでいただいています」
東洋陶磁の魅力に引き込まれるおすすめの展示室
―おすすめの展示室はどこですか?
原田さん:「開館当初からある自然採光の展示です。展示ケースの中に天窓から自然光をとりこんだ世界唯一の自然採光展示室になります。陶磁器本来の色合いと質感を鑑賞することができ、主に青磁の作品を展示することが多いです。実は、秋の午前中の光で見る青磁が一番美しいといわれているんですよ」
―まさに今日撮影させていただいた時間が一番きれいに見えるタイミングだったんですね!
原田さん:「淡い青磁の色が浮かび上がってきますよね。自然採光展示室は1時間いるだけでも光が変わるので見え方が変わりますし、各展示室もそうなのですが、あえて小さくつくっているので集中して鑑賞いただけると思います。作品の前には肘をついてじっくり見ていただけるようカウンターが付いているので、身を乗り出して見られるのも魅力の一つです」
―《飛青磁花生》の淡い青色はただ美しいだけではなく、趣がありますね。ほかにもおすすめの展示室はありますか?
「当館オリジナル仕様の回転台付き展示ケースを3ヶ所に設置しています。展示品がゆっくりと回転して全面をご覧いただけるようになっているのですが、中でも私が一番好きな作品が《青花蓮池魚藻文壺》です」
―どういうところが好きなんですか?
原田さん:「1周じっくり鑑賞していると、魚の表情がコミカルでかわいいですし、植物は繊細に表現されていて見惚れてしまいます」
―私も拝見させていただきましたが、池の中をのぞいているような気分になりました。肘置きあるので、1周じっくり堪能したい作品ですね。
原田さん「ゆっくり鑑賞いただいた後は、エントランスの隣に新しくできたカフェ『café KITONARI』でお茶や食事をしていただくのもおすすめです。館蔵品をモチーフにしたメニューもあって、先ほどご紹介した国宝《飛青磁花生》の抹茶ラテやフィナンシェ、パスタやカレーなどのお食事もご用意しています。カフェはガラス張りなので、店内からは『大阪市中央公会堂』も見える絶好のロケーションです」
―作品を鑑賞した後は、おなかも空きますよね。今回『東洋陶磁美術館』の作品を拝見させていただいて、器好きにはたまらない魅力的な作品がそろっていると感じました。
原田さん:「東洋陶磁と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、いろんなタイプの陶磁器を展示しているので、器が好きな方なら興味が広がる素晴らしい技術に感動いただけると思います」
◆今回取材した施設
「大阪市立東洋陶磁美術館」
住所:大阪府大阪市北区中之島1-1-26
電話:06-6223-0055
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月28日~1月4日)、展示替え期間
オフィス街のオアシス・なにわ橋
なにわ橋駅は京阪電鉄中之島線の駅です。なにわ橋駅は、建築家の安藤忠雄氏が設計した駅で、湾曲している壁のガラスブロックにはLED照明が内蔵されており、光の強弱が濃淡のグラデーションを生み出しています。中之島公園内に位置し、今回紹介した「大阪市立東洋陶磁美術館」や「大阪市中央公会堂」「中之島図書館」「アートエリアB1」など、芸術と文化の発信を担う施設がそろっています。
なにわ橋駅から梅田駅まで約15分(乗り換え1回)、なんば駅まで19分(乗り換え1回)と都心へのアクセスもよく、東側の難波橋を渡ると京阪本線・Osaka Metro堺筋線の北浜駅があり、乗り換えることができます。周辺にはスーパーが充実しているので普段の買い物も便利。老舗のイタリアンやおしゃれなカフェもあり、外食に困ることはありません。
休日はバラの花が美しい中之島公園やレトロ建築を愛でながら散歩ができ、幸せ感度が高まる暮らしが送れそうです。
◆本記事の担当者
取材・文:西川有紀 写真:三宅愛子